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転移者処理官の記録 猟犬と転移者study版  作者: タンナファクルー
第二章 観測者は盤面を読む
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第23話 縄張

木々が揺れる。


背中から胸へ。


射線は通っている。


電池は一直線に飛ぶ。


背中を抜けて、胸へ届く。


その瞬間、男の体が傾く。


振り返ったわけではない。


肩が前に出る。


胸の位置が射線から外れた。


電池は胸へ入らない。


肩当てに当たる。


甲高い音が森に響く。


電池は肩当ての表面を削り革を裂く。


内側の鉄板を歪ませながら肩当ての傾きに沿って、外側へ抜けていった。


裂けた革の下で、肩の肉が切れる。


男の肩が跳ねた。


一瞬だけ動きが止まる。


それでも、男は倒れない。


振り返らない。


男はそのまま木々の中へ入った。


消える。


森本悠真は動かなかった。


撃った指が、まだ伸びている。


すぐにポケットへ手を入れる。


電池に触れる。


二発。


一本を抜く。


指に挟む。


腕は下ろさない。


森を見る。


出てこない。


音もない。


葉だけが揺れている。


次の射線を出そうとする。


だが、定まらない。


幹。


枝。


斜面。


男の姿は見えない。


どこから出てくるか分からない。


森本は周囲を見る。


尾根を進んでいたはずだった。


高い場所から追っていたはずだった。


いつの間にか、斜面に近い場所まで下りている。


上から見下ろす角度が浅い。


木が増えている。途中で幹に当たる。


枝が低い。触れる。


斜面の起伏で、死角が出る。


ここは、森本の場所ではない。


見渡せない。


先に見つけられない。


さっきまで長く通っていた射線が、もう出ない。


男がどこにいるのかも分からない。


右か。


左か。


下か。


背後か。


出てきたところを撃つことはできるかもしれない。


先に見つけなければならない。


もし外したら。


当てても、止まらなかったら。


胸を外された。


肩に当てても止まらなかった。


なら、引きつけて撃つか。


森本はすぐに否定する。


近づければ、その前に切られる。


一発で止めなければならない。


残り二発。


まだある。


だが、足りない。


二発では足りない。


この場所では足りない。


森本は電池を握る。


判断は一瞬だった。


引く。


森本は体を低くした。


目を森から外さない。


静かに後ろへ下がる。


一歩。


また一歩。


振り返らない。


走らない。


音を立てない。


距離を取る。


尾根へ戻る。


上へ。


木々の薄い方へ。


射線が長く通る場所へ。


森は動かない。


男も出てこない。


それでも、森本は止まらなかった。


幹の影を抜ける。


斜面の角度が変わる。


足元の土が少し硬くなる。


木の間が開く。


上が見える。


尾根の形が戻る。


そこで初めて、森本は向きを変えた。


走る。


元来た道を。


東へ。


背後は見ない。


ここではもう撃たない。

作者メモ


今回は、当てることはできたけど仕留めきれなかった。

そして、自分の狩場ではないと判断して撤退する回です。


参照した映画の一つ目は『T-34』です。


これは次回話そうと思います。


二つ目は、一本の映画というより、数多くある「追い詰めたつもりが、相手のキルゾーンにいました」系の映画です。特にランボーですね。

今回は罠を仕掛けるわけではありません。

戦力差や武器の不利を、地形や視界や距離でひっくり返す展開好きなんですよね。


姿が見えない。どこから襲われるか分からない。場所ごと敵に回る。

そういう感じをやりたくて。

ランボーに「この山では俺が法律だ」という有名な台詞があります。

「この森ではグレッグが法律だ」がやりたかったんです。


森本が即座に撤退を選んだのはかなり悩んだと言うか、当初考えてませんでした。


映画で相手のキルゾーンに入る人って、基本的に引かないじゃないですか。

ランボーでも、イコライザーでも。

暴走特急に至っては、相手がセガールで、危険性も分かっているのに引かない。

もともとは森本にも、同じことをさせる予定でした。


森本というより、スナイパータイプのキャラを出すと決めた時点では、気づけば不利な場所にいて、グレッグにハメ殺されるという展開を考えていました。


ですが、いざ森本の性格を考えていくと、この状況で退却しないのが、不自然に思えてきました。

森本は、不確実性を嫌い条件を確認するキャラです。

勝てない場所だと分かったら、そこで粘る理由がない。


二発残っていても、足りないなら引く。


その時に思い出したのが、スター・ウォーズ エピソード3です。

オビ=ワンの「地の利を得たぞ」は有名な台詞ですが、英語だと「I have the high ground」、つまり「俺の方が高いところにいるぞ」なんですよね。

今回はその逆です。

高いところにいるつもりだった。

でも撃ったあとに思ったほど高くないと気づく。


「地の利を得ていないぞ」です。


なら、逃げるか、降参するしかない。降参できない。じゃあ逃げる。


今回は、森本が撃つ話であり、同時にここでは撃ってはいけないと理解する話でもあります。


問題は、死ぬはずだったキャラが生き残ってしまっ事。

生き残った以上、森本はこの先の盤面に残ります。

遠距離攻撃のキャラが相手の危険性を知った状態で、森の中に残る。全く予定にはなかった展開です。


さて困った。本当に困った。

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