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転移者処理官の記録 猟犬と転移者study版  作者: タンナファクルー
第二章 観測者は盤面を読む
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第22話 初猟

ポケットの中の電池に指が触れる。


三発。


足りる。


距離。


視界。


残弾。


条件は成立している。


森本悠真は、ゆっくりと立つ。


膝に付いた土が落ちる。


手のひらにも土が付いている。


拭わない。


音を立てたくなかった。


視線はもう安藤蓮にはない。


男が消えた方向を見る。


木々の奥。


斜面の下。


葉の揺れが、まだ残っている。


一歩。


足を出す。


静かに。



距離は保つ。


近づかない。


尾根の高い側を進む。


男は斜面の下にいる。


森本は上から追う。


直接追えば、足跡が残る。


近づけば、音が出る。


だから、斜面を挟む。


木の間から見る。


見えたら止まる。


消えたら進む。


男の背中は、何度も木々の間に沈む。


枝の隙間から、また見つける。


腰。


肩。


革鎧の端。


剣の柄。


一部だけが見える。


それでも追える。


男の足取りは一定だった。


走らない。


止まらない。


振り返らない。


森本は呼吸を浅くする。


気付かれてはいない。


男は音を立てない。


踏む場所を選んでいる。


枝を折らない。


枯れ葉を大きく沈ませない。


斜面を横切る時も、足の置き方が変わらない。


気付いているのか。


森本は足を止める。


男は振り返らない。


そのまま進む。


気付かれていない。


森本も進む。



太陽の位置が変わっていく。


木の影が、さっきより長い。


地面の色が少し変わった。


明るかった斜面に、細い影が増えている。


森本は一度、ポケットの中の電池に触れた。


三発。


汗が指に付く。


手のひらが湿っている。


指先だけは乾かす。


ズボンの布に、そっとこすりつける。


男はまだ下にいる。


見失っては、また見つける。


その繰り返しで、一時間以上が過ぎた。


膝の裏が張っている。


ふくらはぎが固い。


喉も乾いている。


それでも足は止めない。


森本は、あの男の背中をずっと見ている。


なのに撃てていない。


枝が重なる。


幹が邪魔をする。


距離が伸びる。


角度が悪い。


線は出る。


だが、線の途中に木が入る。


腕を上げる。


線が枝に当たる。


少し横へ動く。


男が木の陰に入る。


また見えない。


撃てない。


男は振り返らない。


それなのに、射線が通る場所に長く残らない。


偶然か。


分かっているのか。


森本には判断ができない。


判断できないものが増えていく。



尾根沿いの道に出た。


斜面が徐々になだらかになっていった。


木々はある。


だが、密度が低くなっていた。


幹と幹の間に、斜めの空間がある。


上から下へ、視界が抜ける。


森本は止まる。


男の背中が見える。


遠くない。


近すぎもしない。


男は斜面の下を進んでいる。


少し先に、浅い窪地がある。


右に太い幹。


左に細い若木。


その間だけ、地面が開いている。


男はそこへ入った。


そして立ち止まった。


森本の喉が動く。


背中が空く。


胸への射線が通る。


撃てる。


同時に、疑問も浮かぶ。


なぜ止まった。


不自然だった。


道が切れているわけではない。


ただ、止まった。


男は振り返らない。


肩も動かない。


上を見ない。


気付いていない。


だが、男の右には太い幹がある。


左には若木がある。


足元は浅く沈んでいる。


一歩動けば、体は木の陰へ入る。


半歩下がれば、斜面の角度で胸が消える。


森本は奥歯を噛む。


考えすぎか。


撃たなければ、次はない。


これ以上待てば、また木の中へ入る。


いつ気付かれてもおかしくない。


ポケットから電池を一本出す。


残り二本が、ケースの中で触れる。


小さく鳴る。


森本は手を止める。


男は動かない。


森本は息を浅く吐く。


電池を指に挟む。


腕を伸ばす。


視界に線が出る。


線は細い。


枝の間を抜ける。


男の背中を通る。


胸へ届く。


森本は腕の角度を変える。


線が少し上がる。


肩へずれる。


戻す。


線が胸へ重なる。


固定される。


木々が揺れる。


細い枝が、線の途中を横切る。


森本は待つ。


枝が戻る。


線がまた通る。


男はまだ動かない。


背中を向けている。


成立している。


気付いているのか。


いないのか。


判断できない。


判断できないが、今撃つしかない。


森本は息を止めない。


指に力を入れる。

作者メモ


グレッグが初めて追われる話です。


スナイパー戦をやりたい、というのもありました。


転移者の中からも、状況を理解して捕食者として立ち上がる者を出したいと思っていました。


森本悠真は、強力な爪を持っています。

自分の能力を試し、使える距離を確かめ、弾になるものを選び、射線を探す。


まだ若いし、慣れていない、経験も足りないけど、慎重に初狩りを成功させようとしている。


相手はこの森の頂点捕食者です。


第二章のタイトルが観測者は盤面を読むなので、盤面を弾道で読む男を意識しました。

森本は、地形を射線で見ます。

その場所は、撃てるのか、撃てないのか。

線が通るか、木や枝で切れるか。


今回は、場所の描写を射線が通るか、通らないかを軸に書きました。

分かりやすいかは分かりませんが、森本が見ている世界は、弾道の通る場所と通らない場所で作ろうと。


参照映画は、前回も触れた暗殺者です。


スタローン主演でテンションがおかしいバンデラスが出てくる映画ですね。


あれは殺し屋映画ですが、同時に尾行映画でもあります。


バンデラスが演じる若い殺し屋が、スタローンをしつこく追う。墓地、ホテル、街中でストーカーのように追ってくる。


森本は、グレッグを追う。

見失い、また見つける。

狙撃戦である前に、尾行の話です。


もう一つ、暗殺者は、若いオスがアルファに挑戦する話です。

森本は、の性格はあの映画でのバンデラスとは違うので別に森本がアルファになりたいわけではないです。モチベーションも性格もまったく違います。

構造としては使えると思いました。


若い個体が、すでに森を支配している上位個体を追う。

自分の爪が通じるかを試す。


各話のタイトルは話を書いた後に2文字で表すならこれかなーと決めるのですが今回はすんなり決まりました。前回が巣を離れるだったので、今回は初めての狩だなと。

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