表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『雷帝転生録 ~地味な元会社員、異世界の覇者となる~』  作者: なら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/34

第20話「雷の子と辺境の日々」

目を覚ますと、枕元に重みがあった。


銀白の毛並みが視界に入った。


(……いつの間にここまで上がった)


ライが丸くなって、こちらを見ていた。起きたことを確認したらしく、尻尾が一度だけ動いた。


「降りろ」


ライが動かなかった。


じっとこちらを見ていた。


「……好きにしろ」


起き上がった。ライがすぐ後ろについてきた。


廊下に出るとエリーゼが朝の訓練から戻るところだった。俺の後ろを見て、目を輝かせた。


「ライ、もうアシュくんについて歩いてるじゃん!」


ライがエリーゼを一瞥した。それからアシュレイの後ろに戻った。


「……まだ私の方には来てくれないんだ」


エリーゼが小声で言った。悔しそうだった。


────────────────────────────────


午前の見回りに出ると、ライがついてきた。


市場を通りかかったとき、最初に気づいたのは子供たちだった。


「なんか銀色の犬がいる!」


三人が駆け寄ってきた。ライが足を止めて、低く唸った。


子供たちが止まらなかった。


「かわいい!」「触っていい?」「耳がふわふわしてる!」


ライが困ったような顔でこちらを見た。


「……慣れろ」


ライが観念したように、子供たちに囲まれた。青白い光がおとなしく収まっていった。


市場の老婦人が笑いながら近づいてきた。


「若様、またお連れが増えましたね」


「……そうだな」


「不思議な子ですねえ。でもなんだか、若様によく似てますよ」


「……どのへんがだ」


「口数が少ないところですよ」


老婦人が笑った。


────────────────────────────────


水路の改修現場を確認していると、農民の男が近づいてきた。


「若様、土の乾き具合が全然違います。本当に助かっています」


短く頷いた。


「去年は野菜が余りすぎて、結局腐らせてしまいまして。もったいないことで」


男が苦笑しながら言った。


(腐らせた)


前世の記憶が、静かに動いた。


余った野菜を腐らせる——それは保存ができていないということだ。この世界にはどんな保存技術があるか。塩をまぶす程度だと以前聞いた。それでは長くは持たない。


(酢漬けと乾燥保存を組み合わせれば、冬場の食料問題が解決できる)


酢の作り方——果物を発酵させる。塩と酢を合わせた漬け床に野菜を漬ける。薄切りにして天日干しにした干し野菜。条件が整えば半年以上持つ。この世界の技術水準なら、十分に再現できるはずだ。


男がこちらを見ていた。


「……若様、また何か考えておられますか」


黙ったまま歩き始めた。


男が「へい」と言って頭を下げた。


────────────────────────────────


屋敷に戻って、イザベルを探した。


台所にいた。


「保存食を作りたい。厨房を使う」


イザベルが振り返った。


「もちろん! 私もやる!」


「手順がある。まず試作だ」


「教えて教えて!」


イザベルが前のめりになった。


エリーゼが台所の入口から顔を出した。


「私も!」


「……狭くなるぞ」


「大丈夫!」


大丈夫ではなかった。


俺が手順を説明しながら、イザベルとエリーゼが動いた。果物を煮詰めて酢を作る工程。塩と合わせた漬け床に野菜を入れる。薄切りにした根菜を天日干し用に並べる。


「これって、すごく長持ちするの?」


イザベルが漬け床を覗きながら聞いた。


「条件が整えば半年以上持つ」


「まあ!」


エリーゼが「冬でも野菜が食べられるってこと?」と言った。


「そういうことになる」


「すごい! アシュくん天才じゃん」


「……知識だ」


エリーゼが「どこで覚えたの?」と聞いた。


「本で読んだ」


エリーゼが「アシュくんって本当に色々読んでるんだね」と笑った。


厨房の入口でライが覗いていた。


「ライちゃんも見てる!」


イザベルが言った。ライが視線を外した。エリーゼが「かわいい!」と言った。


────────────────────────────────


試作品が完成した。


酢漬けの野菜。薄切りにした干し野菜。


イザベルが一口食べた。


「……おいしい! しかもこれ保存できるの?すごいわ」


「改良の余地はある。方向性は正しい」


エリーゼが「酸っぱくて好き!」と言いながら二口目を食べた。


ライを見た。


干し野菜は固い。酢漬けの野菜の中から、一番柔らかく漬かったものを一切れ選んで、差し出した。


ライが匂いを嗅いだ。


一口、食べた。


止まった。


もう一口、食べた。


(……食えるか)


イザベルが「まあ! アシュくん、ライちゃんにも食べさせてるの!」と声を上げた。


何も言わなかった。


エリーゼがこちらを見て、にやっとした。


台所の入口に、カルロスが立っていた。


いつの間にいたのか、わからなかった。


無言で近づいて、干し野菜を一つ取った。口に入れた。


しばらく黙っていた。


「……悪くない」


それだけ言って、執務室に消えた。


「あなたが褒めた!」


イザベルが声を上げた。


「褒めていない」


廊下から声だけが返ってきた。


────────────────────────────────


夜、実験区画に出た。


ライがついてきた。


星が出ていた。土の色が、少しずつ変わってきている。まだわかる程度ではない。でも——確かに変わっている。


保存食の試作。水路の改修。直接取引ルートの整備。農業改革。


全部、まだ途中だ。


でも——動いている。


ライが足元に座って、空を見上げていた。


「急ぐ必要はない。一つずつだ」


誰に言うでもなく、口から出た。


ライが尻尾を一度だけ動かした。


夜風が、静かに吹いた。


カクヨムで先行公開しています。


頑張って執筆していきますので面白い、続きが気になると思っていただけた方は応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ