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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第十一章 旅の終わり 十一

十一章 旅の終わり 十一


 どうしようかな、お姉ちゃんがそこまでしてわたしの計画を止めにかかってくるとはな。ここまでは順調だったのに。戦場にはかなりの量のエネルギーが集まってたし、後は死神の王さえどうにか出来ればよかったんだけど。その王をどうにかの部分が達成困難になった。本気になった王を止めるのは無理だ。カンスケが術を封じているとはいえ、実力差があまりに大きすぎる。

「きみ、そんなバカげた計画考えてたんだ。最高だね」

「まあね」

「で、宇宙の意志はなんて?」

「承認してくれたよ。ただし向こう側の宇宙の都合で、接続出来るのはこの世界一つだけ。だから出来るだけ、この世界の中にたくさん魂を集めようと思ってたんだけどね」

「……それを、おれにやらせるつもりだったと」

 カンスケは目をぱちぱちさせて「まじかこいつ」って顔でわたしを見てくる。自分が死神の王になって、そんなことをやらされることになるとは、さすがのこいつも予想してなかったか。

「お前はここで死んで、その魂は次に死神の使命を与えられることになってた。宇宙の意志と打合せ済み。その補佐にノイとヴォンがいれば安心だなって思ってたの」

「ノアの箱舟みたいなことさせる気だったわけね。みんなでこの世界に乗って、大洪水(ほうかい)を生き延びるぞって感じか」

「お前にとってはそれでいいでしょ」

「おれにとっては、ね」

 カンスケはわたしの味方だ。なんにせよこの世界が崩壊を超えられるなら、こいつにも異論はないはず。ていうか、わたしの側についてくれそうな人が、カンスケしかいなくないか。園子もわたしについてきてくれるとは言ってるけど、そもそも計画自体には反対してたし。オクゼツはどうだ、カンスケが言えばこっちに……。いや無理だな、ムクと後々ケンカさせるようなことはやらせたくない。

「味方がお前しかいないって、状況終わってんだけど」

「偶然の重なりで、案外どうにかなるかもよ。七つの怒りは止まってるだけでまだ継続してる」

 さっきカンスケが使おうとしてたなにかか。マリアさんがみんなを集めては駄目だって、わたしに言ってたな。あの術が最後まで発動したら、なにが起きるんだろう。

「全部消えるよ。この世界の全てをエネルギーに変換して、もう一度やり直すことになる。積み木を崩して積み直すみたいに」

「……いいね、それだけのエネルギーがあれば、計画を発動出来る」

「させぬぞ」

 ガンジイがはっきりやらせないと言い放った。そりゃそうだ。黙ってこのまま見てるわけがない。

「でもね、レイレイちゃん。おれもきみの計画には反対なんだ」

 ……こいつもかよ。なんでだ、宇宙の意思が承認済みってことは、もうそれ以外に世界を崩壊から逃れさせる方法がないということなのに。

「おれにとっては、きみの計画に異議なし。それでしか世界を救えないことも理解してる。でもね、決戦前にも言ったけど、一人の人間に全ての罪を背負わせるようなやり方は、受け入れられない」

「じゃあ、なに?こういうこと?ガンジイもカンスケも、わたしの味方だから、わたしを止めようとしてる?」

 二人が無言でうなづいた。……矛盾した状況だな。みんながわたしの味方でいてくれる。だからみんながわたしの計画に反対してる。誰もわたしのやろうとしていることを、後押ししてくれない。死神の王ですら、結果的にはわたしの計画を止めようとしにきてる。わたしから無の力を消してしまおうと……。

「子よ、現実を受け入れるのだ」

「……嫌だよ」

「わたしもそうしたのだ。ならばお前にも出来るはずだ」

「嫌だ」

「己が一人の人間に過ぎないことを受け入れるのだ」

 自分の無力を受け入れろって?なんだよ、わたしはそれが嫌でここまで旅を続けてきたのに。

 くだらない言葉遊びだ。わたしは「無力」だ。そして「無の力」を与えられた。無の力を与えらえた無力。それがわたしだ。この力を使えなくなったら、ただの無力じゃないか。

「お前の放った矢は王を認めさせたのだ。それはお前自身の力だ。胸を張って仲間と共に生きていけばよいではないか」

「わたしがそれを受け入れられないって言ってるの」

「……まるで成長しておらぬ……」

 ガンジイの言葉には一切の怒りも呆れも無い。ただひたすら悲しみだけが響いてくる。なんでそんな言い方をするんだ……。

「この旅の始まりから、お前はなにも成長しておらぬ。お前は……」

「わたしは、自分を愛せないよ」

「こんなにも、お前は皆から愛されておるのにか」

「だから自分を愛せるようになるために、この計画を実行させたいって言ってるの」

「その手段が馬鹿げておるのだ。なぜ他の方法を見つけようとしないのだ」

「他の方法では、みんなを救えないから」

 この世界を崩壊から逃れさせるためには、他のやり方なんてない。宇宙の意思との対話でそれが確定している。別の方法なんて存在しないんだ。


 ……どういう状況なんだ、こりゃあよ。オレ達がノイを連れて王の所まで来たところまでは予定通りだ。王の鎧がどうやら二層まで破壊出来てるのも、まぁ予定通りだ。最後の一層はまだ砕けてねぇようだが、頑爺の奴はまだ無傷でそこにいるしな。それにボスも生きてる、最高じゃねぇか。てっきりもうボスには会えないと思ってた。王との戦いで死んじまうとボス自身が予想してたからな。

 だが、なんで場の空気がこんなに重たいんだ。こっち側にとってかなりいい状況のはずなのによ。マリアはもう消えちまったようだが、それにしたって死神相手に大健闘してるじゃねぇか。なのに、なんで……。

「おい、頑爺」

「……あぁ」

「あぁじゃねぇよ。お前なんで……」

「……」

「なんて酷い面(つら)してやがる」

 今にも泣きだしそうじゃねぇかよ。今まで生きてきて、こいつがこんなに感情を顔に出したことねぇだろ。ムクとミニちゃんが心配そうに顔を覗き込んでたが、どうやらこの状況を生み出してるのは死神じゃなくて、こっち側だというのが空気で分かった。

 レイレイだ。こいつ、なにをやらかした?頑爺とは対照的に、こいつの顔には迷いがねぇ。本気だ。本気でなにかを覚悟している目だ。使命の為に自分の命を投げ出そうとしている、戦士の目だ。

「おぉ、ノイよ。また会えて嬉しいぞ」

「……なんですかい、王様。これはなにが起きてるんです?」

「お前はな、消滅せずに済むのだ」

「……は?」

「お前だけではない、ヴォンもだ。それに喜べ、クラフォンとミューピレイも生き返る、皆が戻ってくるのだ」

「……なにを、言ってるんです……?」

「魔女が約束してくれたのだ。あの娘の無の力を消せば、皆を助けてくれるとな」

 後ろから王とノイが話してる内容が聞こえてきた。あの魔女が介入してきやがったのか。いや、それより問題は、と思っていたらノイが聞きたいことをすぐに質問してくれた。

「この世界を、消滅させる気ですかい」

「いいや、そんなことはせぬよ。この世界には可能性がある」

「……だったらなんで、あいつらはこんな葬式より酷ぇ空気になってるんです?」

 その通りだ。なんだよ、なにもかもが最高の方向に進んでるじゃねぇか。死神はこの世界の可能性を認めた。レイレイの無の力が消えれば、この世界も死神界もとりあえず消滅からは一旦逃れられる。死人は唯一マリアだけだが、あの人はどのみち魂の寿命が限界まできていたしな。それ以外は誰も死んでねぇ、皆が生き延びた。

「だってのに、ボス。なんでこんなに雰囲気が終わってるんすか?」

「ひとことで説明するのが難しいなぁ。あ、その前にオクゼツくん、また会えるなんて予想外。本当に嬉しいよ」

 ボスのまとっている空気が変わっている。……なんだか、覇気が消えている。マリアがなにかしたのか、ボスはどこか気の抜けた、よく言えば張りつめていた緊張感から解放されたような顔をしてる。

「……兄さん?」

「おう、お前達も合流出来たか」

 ボロボロになったヴォンを担いだ、ナナゴウとヤヨイも来た。この戦いに関わった中で、明とソノコ以外の全員がここに集合した。あの二人はアーマー壊れちまったからな、ここまで来るのは無理だろ。

 ノイと王がヴォンに肩を貸し、ナナゴウも素直に引き渡した。死神側はさっきと同じ話を始めている。こっちは話の続きをボスから聞きてぇところだな。

「ねぇ、なんか雰囲気終わってるし。どうなってんのこれ?」

「僕に聞かれても……」

「レイレイちゃんがね、一人で消えようとしてるんだよ」

 単純明快な結論で分かりやすいぜ。こいつ、無の力を使ってなにかしようとしてやがったな。それを誰にも言わずに隠してたが、どういうわけか露見しちまったわけか。

「この世界を崩壊から逃れさせる方法は一個だけ。レイレイちゃんが犠牲になって、永遠の無の中に囚われることだけなんだよね」

「……なー。そんなことしないって、じいちゃんから聞いてたぞー」

「ごめんね、それ嘘なんだ」

「嘘はよくないのよ~」

 崩壊を超える方法を見つけ出してやがったのか、こいつ。だが……なるほどな。そりゃあ頑爺がこんな面になるわけだ。

「どうするオクゼツくん?おれはね、レイレイちゃんの計画を止めたいんだ」

「ボスがそれでいいなら、異論はねぇっすよ」

「ヤヨイちゃんも異論なしでいいでしょ?」

「カンスケがそれでいいなら、別にいいけど。ナナゴウは聞くまでもないでしょ」

「当り前だよ。やめてくださいレイレイさん、ソノコさんが悲しみます」

「大変だね、レイレイちゃん。きみの計画に賛成してくれる人、これで誰もいなくなっちゃった」

 ……こいつ、本気で覚悟決めてやがるぞ。目が真剣なまま、一切の揺るぎがねぇ。厄介だな……。

 こいつは弱ぇ。力を与えられただけの弱者だ。だが追い詰められた弱者の方が、ときに強者よりよほど厄介な化物に変貌することがある。強ぇ奴は引き際をわきまえてる。諦める機を逃さねぇ強さがある。だが弱者は違う……。

 自分が弱いことを自覚してるもんだから、馬鹿みてぇに前に進もうとしちまうよな。昔のオレみてぇによ。


「ボス、すんません。やっぱりオレはレイレイの側につきます」

「……え?本気で言ってる?」

「昔のオレが、こうだったんで。止めても意味ねぇことは分かってます」

 レイレイの前に立ち、構える。今のオレならこいつら全員を相手にしても、それなりに善戦出来るはずだ。流石に勝つのは無理だろうがな。ガンジイは変化なし、驚いてるのはナナゴウとミニちゃん。怖ぇのはムクだ、ブチ切れた顔でこっち見てやがる。

「……わたしの計画に、賛成してくれるの?」

「大反対だ、馬鹿がよ」

「じゃあなんで……」

「納得出来るまで突き進んでみろよ。そんで悪夢にぶちのめされてみろ。自分が間違ってるのが理解出来るぜ」

 ガンジイが手斧を持った。きついな、そんな顔のてめぇとやり合うなんて最悪なんだがな。ガンジイはゆっくりとオレの前まで歩いて来て……そのままオレの横に並んだ。そして振り返り、皆と相対し手斧を構えた。

「ガンジイ……?」

「勘違いせぬことだ。私はお前の計画には決して賛同出来ぬ」

「……なんで……」

「ムク、ナナゴウよ。私のわがままを聞いてもらいたい。麗冷を王から守るのだ」

 ……こいつ、まじか。こいつがここまでなりふり構わねぇ行動に出るのか。

「じいちゃん?なに言ってんの?」

「こうでもしなければ、この子は止められぬ」

「逆ですよ、レイレイさんを止めたいならこのまま王に任せれば……。王の邪魔をすれば僕達みんな……」

 そこまで言ってナナゴウが気付いた。ムクも少し考えて理解したみてぇだ。そういうことだ、頑爺どころか全員にそうされたら、レイレイも正気じゃいられねぇよな。

「この子が自らの意思で止める決断を下さぬ限り、私は王と戦い続ける」

「じゃ、あたしもそうする。ミニちゃんは?」

「ぼくも戦うのよ~」

「そうですね、僕もそうします。ヤヨイもいいよね」

「馬鹿でしょあんたら。うちも異論なしだけど」

 結局全員が麗冷に背を向け、死神と戦う構えを取った。向こうは予想外の展開で三人共呆然としてやがる。そりゃあそうだ。ボスも苦笑い浮かべながら嬉しそうにしてるしな。

「どうしようね、レイレイちゃん。ドラマが始まっちゃったよ」

「……なにがドラマだよ」

「きみがこのままわがままを押し通すつもりなら、みんなきみのせいで死ぬよ。王様に殺される」

「……分かってるよ」

「王様は加減なんてもうしてくれないよ。最初から本気で来る。きみの無の力を消さないといけないんだからね。おれ達全員を殺してでも、そうするはずだよね」

「分かってるよ!!」

 レイレイは怒りをまき散らすように叫んだ。仲間の命と自分の意地、どっちが大切なんだ。お前にとって本当に貫くべきものはどっちなんだ。

「王様~、いいこと教えてあげるよ」

「……そなたら、余と戦うつもりなのか?」

「さっきおれが使おうとした術ね、実はまだ続いてるんだ」

「……ほう」

「ここに戦力が集結したことで、七つ目の力の発動はすでに始まってる。もう数分もしないうちに、この世界は全てエネルギーに分解されて消滅することになる。もちろんきみ達、死神ごとね」

「無意味な問いだがあえて聞こう。術を止める気はないのか?」

「止める気はないよ。でも止められるよ、条件を壊せばいい。『ここに戦力が集結』したから力は発動した。つまりさ」

「そなたらを皆殺しにすれば、強制的に止められると」

「もしくは、レイレイちゃんが無の力を手放すことを決めてくれれば、すぐに止めるけどね」

 ボスもえぐいことしてるな。火に油注いでる。レイレイ自身に決断させる以外の選択肢を与えねぇ気だ。自分の意思で、自分の力を手放す決断をさせるのか。仮にそうなったところで、こいつは絶対納得しないだろうがな。それにこの状況に納得出来てねぇのは、ノイとヴォンも同じみてぇだ。

「王様、駄目です。無礼を承知で言いますよ。あなたは今、死神の使命を放棄してる」

「なにが不満なのだ?お前もヴォンも。クラフォンとミューピレイが戻ってくるのだぞ」

「レイレイの無の力をここで奪ったら、もう崩壊を超える方法がないでしょうよ」

「自分達の使命は、宇宙の崩壊を乗り越える芽を見つけ出すこと。王の行動はそれと矛盾しておりますな」

「レイレイがやろうとしていることを、実行させるべきです。俺達が、消えちまうとしてもです」

「……やめてくれ。何故そのような残酷を余に突き付けるのだ」

 死神側もどうやらもめてるみてぇだな。こっちにとっては都合がいい。戦う相手が王一人だけになるならな。


 俺とヴォンで王様を止めないとならねぇ。駄目だ、この人は本来の目的を見失っちまってる。俺達死神の使命を、宇宙の意志から与えられた役割を放棄しちまってる。だが……。

「ヴォン、お前まだ動けるか?」

「……見ての通りだ」

 ヴォンはもうほとんど体が崩れちまってる。自分で歩くことも出来ねぇ状態だ。俺は体は動くがエネルギー切れだ、正直今にも意識が飛んじまいそうだ。それでも王様を改心させねぇと。この機を逃したら、この先崩壊を超える可能性は皆無だ。絶対ありえねぇ、これだけの異常事態が連続して起きることなんて、この先絶対に起こらねぇ。

「お前達は知らぬのだ、孤独の恐怖を」

「じゃあ一緒に消えましょうや。それなら寂しくないでしょう」

「余はお前達と共に居たいのだ」

「だからって、使命を放棄するのは駄目です。仮に生き残ったとして、宇宙の意志に消されちまいますよ」

「魔女が守ってくれるはずであろう。そうでなければ交換条件が成立せぬ」

「誰かの力にすがる王様なんて、見たくなかったですな」

 王様は銀の剣を構えた。説得失敗かよ、この人は本気で無の力を消しにかかるつもりだ。カンスケの野郎が余計なこと言いやがったせいで、ゆっくり対話で解決する時間もねぇ。あの野郎が使った術は、もうじきこの世界をエネルギーに分解しちまうらしい。やるしかねぇってことかよ。

 レイレイは無言だ。唯一幸いなのは、あいつの目はまだ負けを認めてねぇことだ。あいつはまだ計画を放棄してねぇ。だが迷いがある、仲間の命を見捨てられねぇ甘さが残っちまってる。

 意識がぶっ飛びそうなこの状況下で、くそ難しい問いを出してくれるなよ。どうするのが最善だ、レイレイの仲間を守るべきか、それとも手出しせずに見捨てるべきなのか。ガンジイだとかムクが王様に殺されたら、レイレイは怒りを引き金に無の力を発動させるかもしれねぇ。不本意だが見殺しにするべきなのか?

「暴走では駄目だ、それは単なる消滅を意味している」

「おぉ、そうか。確かに、そうだわな」

 ヴォンが的確な助言を出してくれた。必要なのは無の力の制御であり、暴走じゃねぇ。つまりガンジイ達を見殺しには出来ねぇってことだ。……だがそれだと、仲間を死なせたくねぇからって、あいつは無の力を放棄しちまうんじゃねぇか?

「……あの娘の決断に、全てがかかっている」

「まーじか。じゃあ、あれか。俺とお前は、あれだな……」

「頭と一緒に口も回らなくなっているぞ。あの娘が決断するまでの時間を稼ぐ。……自分等はもう、託すしかないのだ」

 レイレイがどうするかで全てが決まる。心中お察し出来ねぇや。世界の命運と、仲間の命運を天秤にかけ、自分一人で決断しろってかい。そんなもん責任だとか重圧なんて言葉じゃ表せねぇわな。

「おいレイレイ、お前なんとしてでも計画を実行しろよ!俺とヴォンも王様と戦う、時間を稼ぐからな!」

 レイレイが決断を下すまでの時間稼ぎ。このろくに動かねぇ体をどうにか引きずって、少しでも王様の暴挙から奴等を守る。それが俺とヴォンに出来る最善か。

「なぜ、そうまで余を苦しめようとするのだ……」

「俺もヴォンも、王様が大好きなんで」

「だったら黙って見ていればよかろう……」

「無理ですね、俺達は全力で抗いますんで、そのつもりで」

 こっちのやることはまとまった。で、向こうも準備は万端といったところか。レイレイの肩にこの戦いの結末が委ねられることになったが、まぁどんな結末を迎えたにせよ、もうそれを受け入れるしかないわな。

「子よ、まだ我を貫くか」

「……うるさいなぁ、もう……!!」

「そうか、ならば致し方あるまい」

 奴等の中から、ガンジイが一歩前に出て咆哮した。それが、本当の最後の戦い、その開戦の合図になった。

「来い!!」


「……始まってしまったわ」

「うわ、魔女じゃん。あんたが現れたってことは……」

「ソノコ、準備はしておいてちょうだい」

「……うん」

 私がそれを言いに来る前に、ソノコはすでに準備を始めていた。メイの方もサポートの用意を進行中ね。なにが起きているのか、二人ともとっくに感づいていたようね。死神の王と、それ以外の全戦士の戦いが始まっている。

 ソノコとメイはその決戦の外側にいるけれど、レイレイという一人の人間に対して最大の貢献をすることになるのでしょうね。あの子がどちらの選択をしたにせよ。

「ちょっと、このアーマー二人用なんだけど。あんたがいると狭いよ」

「我慢してちょうだい。計器の操作には支障ないでしょう?」

「アイはやっぱり、計画を諦めてないんだね」

「アイ?……あぁ、レイレイの昔の名前だったっけ」

 私はあえて、選択をあの子自身に委ねた。私ならあの場の全員を眠らせておくでも、気絶させるでも簡単に出来るし、その間に死神の王に無の力を消しておいてと言うことも出来た。その逆にあの子が計画を発動する為のエネルギーを、即座に用意してあげることも出来た。でも、そのどちらもしなかった。

「あの子の欲求はあまりに強いわ。もはや非常識となるほどにね」

「……アイが納得出来る答えじゃないと、駄目なんだね」

「それに付き合おうとしているあなたも、相当な非常識よ」

 私はソノコに手を貸していない。何度も力を貸そうとしたが、この子はそれを頑なに拒んだ。それに自分の力で、あの子のそばに寄り添い続ける方法をこの子は見つけ出した。私ですら驚くような方法を考案し、その実行案まで完成させてしまった。宇宙は広いわね、こんなことが出来てしまう存在が、マリー以外にいるなんて。

「この舞台上では、全然活躍していないように見えていたけれど。あなたってとんだ化物だったのね」

「失礼な、化物なんて。愛だよこれは」

「あんた、レイレイは結局どうすると思ってるの?」

「分からないわ」

 私にも、もう分からない。あの子の精神構造は灰色ではなく、黒と白が同居している。その天秤がどちらに傾いてもおかしくない。そしてそれを決定出来る権利を持っているのはあの子だけ。あの子は決して他人に自身の選択権を与えない。信頼出来る人に相談はしても、最後の決断は必ず自分でつける。「あの人にそう言われたからそうした」なんていう楽な生き方は絶対に選ばない。

「でも、これからは少しは楽になるでしょう。あなたがいるのだものね」

「うん」

「なんかさ、前々から聞こうとして、聞きそびれてたんだけどさ」

「うん?」

「なんで、そんなに?」

「アイはね、あたしが死ぬことを肯定してくれた人だから。だから愛してるの」

 メイは私の方に目配せしてきた。「なに言ってるか理解出来る?」って顔で。

「愛の形はそれぞれよ。あなたとガンジイがそうであるように」

「そうだね。……こっちは用意終わったよ」

「ありがと。ガンジイさんと幸せにね」

「別れの挨拶は早いよ。まだレイレイが消えると決まったわけじゃないから。これからも会える可能性だってあるよ」

「……一つ、提案があるのよ。いいかしら」

 ソノコとメイは同時に私を見た。期待はされてないようね、二人とも「これ以上場をかき乱すようなことはやめて」と目で訴えかけてくる。日頃の行いの結果ね。

「最後に一つだけ、私にも手伝わせてもらいたいの。私もあの子のことは、本当の妹のように想っているのよ」

「……何がしたいのかによる。アイの為になることなら」

「この舞台の、土台を破壊するわ」

「……うん、お願いする」

 ソノコはすぐに受け入れてくれた。これも日頃の行いかしら。

「いや、いやまって何言ってんの、詳細聞いてないよね?」

「いいの、魔女を信用する。アイの為に、お願いします」

 この結末に納得出来ない人もいるでしょう。あの子もきっと納得しない。ここまでの旅路はなんだったのか、あの葛藤はなんだったのかとね。でも私は、都合の良いハッピーエンドを望む。私はこの決戦の行く末に興味はない。でもあの子にはなるべく幸せでいてもらいたいもの。

「私はもう二度と、この世界、この時間軸には干渉しないわ。私の目的はすでに達した。そうする理由がないものね」

「結局あんた、なんだったの?どこから来た何者なの?」

「あなたには関係のないことよ。それとあなたに別れは言わないわ。あなたの来世でまた会うから」

「来世……?」

「じゃあね、ソノコ。あなたとはもう二度と会うことはないでしょう。ごきげんよう」

「うん。じゃあね」

 私が果たすべき役割はもう終わり。私はこの舞台を去り、別の劇場へと行きましょう。私は本来、この舞台の上にいるべき役者ではない。脚本家であり、演出家であり、もしくは乱入した観客に等しい存在。この舞台が幕を下ろすとき、そこに立っているべきは役者のみだもの。

 終劇をどう導くのかはあの子に任せましょう。この舞台の主役である、あの子にね。

「あなたとも二度と会うことはないでしょう。さようなら、レイレイ」


次回へ続く……

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