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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第十一章 旅の終わり 七

十一章 旅の終わり 七


 予想していたよりは戦えてる。オレ程度の体術でもそれなりに、ノイとヴォンの攻撃をいなせている。こいつらが正気を失ってるってところがでかいな。ヴォンの方は無差別に周りを攻撃するばかりだ、それを利用して張り付いて離れないようにする。ノイは姿を消すことが出来るが、ヴォンの無差別攻撃に当たるわけにもいかねぇから、不意打ちの機は限られてる。ヴォンの攻撃の前か後か、どこから突然現れるかを予想出来る。

 最初はこいつら二人の同士討ちを狙ったが、うまくいかねぇ。ヴォンの方もどういうわけか、ノイの動きに合わせて攻撃をずらしてくるようになってきた。正気に戻ってきてるわけもねぇし、死神として一緒に戦っていた頃の本能で動きを合わせ始めたのかもな。とにかく今のままじゃ防戦一方だ。

 こうして回避に専念してるだけでも、ヴォンの細胞とノイの鱗で、オレのエネルギーが奪われていく。それ自体は大した問題じゃねぇ、闇のエネルギーなんてこの世界にいくらでもある。どれだけ奪われたところで、こっちもほぼ無尽蔵に回復していくだけだ。問題なのはこいつら二人が力を増していくこと。時間が経つほどエネルギーを吸収し、こいつら二人ともどんどん強くなっていきやがる。

 せめて分身が自由に使えればな。なんとかノイの鱗だけでも消すことは出来ねぇもんか。ヴォンの方は細胞分裂という特性上、すぐにまた周囲にばらまかれちまう。だが鱗なら剥がせる量にも限界があるはずだ。辺り一帯を掃除できる程度の、闇のエネルギーの爆発でも起こせるなら……。

「やってみるか、今までこんなこと考えこともねぇが」

 ヴォンの細胞とノイの鱗、その両方ともに影響を受けず、かつ爆発を起こしても問題ねぇ場所はどこか。上空だ。分身をここの上空に大量生成、かつ可能な限りエネルギーを集中させる。そして闇の扉の発生を再現する。本物の闇の扉を出すことは無理だが、そこまでしなくていい。小規模のエネルギーの爆発を起こして、その余波でこの辺りの邪魔な浮遊物を吹き飛ばす。

 いっそこいつらも上空まで運んでいって、爆発に巻き込んでやるか?……やめておいた方がいいな。そのエネルギーを吸収されたらやべぇ。こいつらをやるなら格闘戦しかない。あくまでその土台をつくるための爆発だ。あくまで余波を、爆風を発生させるだけ、エネルギーを地上に届かせない程度にだ。力の加減を誤るな、やりすぎたら明らがいるアーマーを吹き飛ばしちまう。分身の生成、配置は完了した。後は一点に凝縮して爆発を起こす。

 上空から空気の振動が伝わってきた。音が届き、その後に爆風が地上へと広がっていく。うまいこといったぜ、ノイの姿が見えうようになった。鱗は吹き飛ばせたようだな。対処法は見つかった、また姿を消そうとしても、お前の鱗が尽きるまで何度でも吹き飛ばしてやる。だがようやく戦いの土台がつくれただけだ。ここからどうやってこいつらを仕留めるか。

 まずはノイを攻めたいところだ、ヴォンの方は見るからに耐久地が高ぇ。……そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇか、両方同時にやっちまわねぇとか。仮に片方だけ片付けられたとしてだ、そのときにエネルギーを放出されたら終わりだ。生き残ってるもう片方がそれを吸収しちまう。難題だな、こいつらを両方同時にかよ。

 やりようはある。結局オレの武器は加速からの突進だ。ノイを抱きかかえたまま加速してヴォンに特攻する。ナナゴウから聞いた話だと、ヴォンには核があるらしい。その核を粉砕しつつ、ノイの方も砕ければ一気に決着がつけられる。

「……だが、そうはさせてくれねぇよな」

 ヴォンは急にオレから距離を取り、なにをするかと思ったら二体に分裂しやがった。オレの思考を読みやがったか、こいつも歴戦の死神だろうし、正気失ってても敵がなにしてくるかなんて体が覚え込んでるわけか。ノイを掴んで特攻しようにも、どっちがヴォンの本体か分からねぇ。しかもこいつ、二体どころかもっと複数に分裂出来るわけだしな。特攻の瞬間に数百体にでも分裂されたら、本体に当たる確率なんてほぼ無いに等しい。

 後方からノイが殴りかかってきた。姿を隠せなくなった以上、正面から殴り合いで戦おうってか。さらに分裂したヴォンも襲い掛かってくる。ノイの姿が見えるようになっただけで、ずいぶん回避は楽になった。だが的確な反撃を、こいつらに致命的な一撃をぶち込む方法が思いつかねぇ。

 ……こいつらを一旦引き離すってのはどうだ?加速をつけてノイの方だけ掴んで遠くに連れていく。ヴォンから離れた位置なら、死に際にエネルギーの放出をされても、それがヴォンまで届くことはないんじゃねぇか?……いや、だがその間にヴォンが明達のいるアーマーを攻撃し始めたらまずい。くそが、どうすりゃあいい、この状況はよ……!


 一瞬の苛立ち、思考の乱れをノイは見逃さなかった。こいつ、殴りかかると見せかけてオレの懐に飛び込んできやがった。そのままオレに覆いかぶさるようにしてのしかかってきて押し倒される。まずい、逃げられねぇ。鱗が全身に突き刺さって体が拘束されちまってる。

 ヴォンの方がこの機を逃さすわけがねぇ。分裂を解除して一体に戻り、大きく腕を振りかぶった。ノイごとオレを叩き潰すつもりか。やべぇ、オレがやばいんじゃねぇ、ノイが危ねぇ……!オレは全身潰れたところで再生出来るが、もしノイがその一撃で即死したらどうなる?せっかくヴォンから吸収したエネルギーが、全部元に戻っちまう、連鎖爆発がまた起きる……!

 分身を出し渋ってる場合じゃねぇ、最高密度の十七体を生成して盾にする。いや違う、ヴォンを攻撃させて軌道をそらすか。いいや、盾の方だ、分身そのものの打撃力は大したことねぇし、加速をつける時間もねぇ。……いや駄目だ、一か八か攻撃させるしかねぇ、盾にしたところでエネルギーを吸収されて、大した強度を維持出来ねぇ。

 狙うはヴォンの振りかぶった右腕、その手首と肘だ。筋力のつけようがねぇ関節部、そこに分身を連続突撃させて、少しでも攻撃軌道をそらす。それをヴォンの腕が伸びきった瞬間にだ、その一撃がノイとオレに到達するまでの一瞬に……!

「兄さん!!」

 でけぇ岩が砕けるような音が響いた後に、その声が聞こえた。ヴォンが腕を叩き下ろした直後に、奴の顔面は右方向から突っ込んできたなにかに砕かれて、そのまま振り下ろした腕の勢いで数回空回りしながら倒れた。ヴォンを砕いたのが誰か理解したその瞬間に、オレはすぐに指示を出していた。

「オレにかまうなナナゴウ!そのままヴォンを出来る限り遠くまで連れていけ!」

「了解!」

 あのアーマー着てるってことはヤヨイと合流出来たか。ナナゴウはヴォンの体を持ち上げて、そのまま重苦しい動作で走っていった。ヴォンのばかでかい図体持ち上げてんだ、速いとはいえねぇが奴が回復するまでには相当遠くまで持って行けるはずだな。オレはノイの方をどうにかする。これで突破口が一気に開いた。

 分身が自由に使えるなら、やりようはいくらでもある。分身を加速させてノイに横方向からぶち込むが、今のままだと鱗が全身に刺さっていてオレも一緒に吹っ飛んじまう。オレの体は闇の手を地面に突き刺して固定する。これでノイだけを引きはがせる。

 分身をノイに突っ込ませ、奴が地面を転がっている間に体勢を整え体を再生する。今日だけで何回全身ずたずたにされたか分からねぇな。ノイの方も素早く立ち上がって、拳を構えた。……気のせいか、こいつさっきより動きが速くなったか?おかしいぜ、こいつが使った力の解放とやらは、自分の魂をエネルギー化する術のはずだ。時間が経つほど魂が削られていって、動きが鈍くなるはずだが……。

 ノイは急加速し連続の殴打を繰り出してきた。気のせいじゃねぇな、やっぱり動きがよくなってる。どういうことか分からねぇが、早くやっちまわないとまずいことになりかねないか。分身を生成し加速する。狙うのは奴の真上方向からの突進だ。ノイはトカゲみてぇな見た目してるが、二足歩行の脊椎動物とみて間違いねぇ。突進の前に分身をノイにまとわりつかせて拘束、無理矢理に直立姿勢を取らせるのがよさそうだ。背骨が伸びた状態なら衝撃は緩和されずに、直接脊椎と腰椎に損傷を与えられる。これで終わりに出来るはずだ。

「……なんだが、そうだよな。やっぱりそう簡単にはいかねぇわけだな」

 そういうことかよ。こいつヴォンのエネルギーを吸収したことで、強化を通り越して過負荷になってたのか。重荷になっていた分のエネルギーが消費されたから、動きがよくなってきてやがる。ここからが本番ってわけだ。ナナゴウが来てくれてまじでよかったな。本調子になったこいつと、ヴォンを同時に相手なんて無理だったろうからな。

「臆舌、まずい……」

 明がアーマーの中から呼びかけてきた。どうした、声が震えてる、ムクがよくない状態か……?

「ムクの心臓が、止まった……」

 ……嘘だろ。なんでだ、気道は確保させたはずだ、なんでそこまでの重症になってんだ。

「死神の細胞は、分子レベルに小さくなってたみたい。呼吸を通して肺から血液中に入り込んで、全身全て、内臓全部が機能不全になってる……」

「あたし達ではもう、手の施しようがないです……」

「ムクをアーマーの外に出せ、一か八かだ、オレの生命力をムクに流し込む!」

 ノイとの戦いで手が離せねぇってときに……!くそが、苛立ってる場合じゃねぇ、余計なこと考えるな。オレが守ってやればいいだけの話じゃねぇか……!


 アーマーの外にムクを担いだ明が出てきた。分身数体で囲わせて、闇のエネルギーが明の魂に触れないよう遮断する。

「ムクを置いてさっさと戻れ!」

「役立たずでいるわけにはいかないでしょ!ムクはわたしが見てるから!」

「お前がムクの近くにいたら、エネルギーをそっちに流せねぇだろ!」

「ぼくもお手伝いするのよ~!助けるのよ~!」

 ミニちゃんは目ぇ覚ましたか。ミニちゃんがアーマーの中から這い出してきて、明は入れ替わりにしぶしぶアーマーの中に戻っていった。オレの生命力をエネルギーに変換してムクに流す。それでどれだけ回復させられるか分からねぇが、それ以外に出来ることがねぇ。

「ソノコ、電圧の調整お願い。ミニちゃんはアーマーから電線引っ張り出して、心臓に電気ショックして。わたしが指示した通りにすれば大丈夫」

「了解なのよ~!」 

 こんなやり取りをしている間も、ノイはオレを攻撃し続けてくる。背から闇の手を生やして体術だけで応戦しないとならねぇ。分身を生成するエネルギーは全部ムクに流す。なんとかムクが回復すれば、ノイと戦えるようになる。そのときにオレのエネルギーが残ってるか分からねぇが、仮にオレがぶっ倒れてても、全回復したムクならノイに勝てるはずだ。

 ……そんな後ろ向きな考えでいいのか。今生死の境を彷徨ってるムクに戦いを託すなんて考えでいいのかよ。ノイの攻撃は秒ごとに激しくなっていく。速さも重さも上がっていく。反撃を入れる隙もなくなってきた。なんとか直撃を受けねぇようにさばくだけで精一杯じゃねぇか。

 気合が足りねぇな。自分が情けねぇ。オレが負けたらどうなる、全員死ぬだろうが。オレの後ろにいるムクが、明もソノコもミニちゃんもだ。

「臆舌、危ない!」

 ノイの正拳突きがオレの顔面にぶち込まれる。防御が間に合わねぇ、こいつ尋常じゃねぇ早さで強くなっていきやがる。殴られた衝撃で地面を転がって、ムクの近くまで吹っ飛ばされた。まずい、もうオレじゃあノイを抑えておけねぇ。どうすりゃあいい、力が足りねぇ。どうしてオレはいつも勝てない。どうしてオレは……。

「結局誰のことも、救えねぇんだ……!」

 立ち上がろうとした拍子に、なにかが足の裏に刺さった。……ボスがくれた、謎の木箱だ。腰巻に入れておいたのが落ちたのか。……ふたが、開いてる。ボスの手紙には「そのとき」が来れば開くとあった。今がそのときってことか?

 木箱の中から、黒い煙みてぇなもんが噴き出てきて、オレの頭を包んだ。なんだこれは、ボスはなにを木箱に仕掛けておいたんだ?

『やぁオクゼツくん。おれの予想通りに事が動いてるなら、だいぶピンチになってるよね』

 ボスの声が頭に響き、それと同時に映像が見える。……見えるんじゃねぇ、これは……。思い出している……?

『オクゼツくんが生まれ育った村が、闇の扉に呑まれたときのことだよ。つまりおれとオクゼツくんが初めて会ったときの記憶だね。オクゼツくんが闇に呑まれ消滅しかけていたときのことだ。そのときの記憶をオクゼツくんから抜き取っておいたんだ。この記憶のせいで、オクゼツくんは自分を責め続けて、心の病気になってしまっていたから』

 オレの記憶上だと、オレは闇の扉に呑まれた瞬間に意識を失って、気が付いたときにはボスに救助されて本部に寝ていた。そうじゃなかったってことか……?

『おれが助けに行ったとき、信じられないことにオクゼツくんは闇の中で意識を一回取り戻したんだよ。思い出したかい?地下にいる女の子を助けようとしたんだ。自分の魂が闇に呑まれ消えかけてるっていうのに、きみはその子を助けたい一心で、闇を払いのけたんだよ』

 ……そうだ。その通りだ。オレを慕ってくれていたあいつだ、大人になったらオレと結婚するなんて言ってやがったあいつだ。名前すらなかったあいつを、助けようとした。自分のことなんかより、なんとしてでもあいつだけは助けたかった。

『でもオクゼツくんは、おれを地下まで案内する途中で力尽きてしまった。きみは、あの女の子を救えなかった。それを悔やみ過ぎて、心の病になってしまった。病状は悪化する一方だった。だから原因になっているこの記憶を、抜き取るしかなかったんだ』

 ……そうだ、全部思い出した。オレは自分の無力に打ちのめされて、なにも出来なくなっていた。飯も食えない、寝ることも出来ない。ひたすら天井を見つめて自分を責め続けていた。何度死のうとしても、闇のエネルギーが勝手に体を再生しちまう。死ぬことすら出来ず、ひたすら苦しみ続けていた。

『おれはオクゼツくんにこう言ったんだ。自分を犠牲にしてでも助けようとした、その魂に価値があるんだって。これから強くなればいい、いつか誰かを救えるように、守れるようになればいい。オクゼツくんは何一つ間違っていない、そのままでいい。そのままのオクゼツくんで、これから強くなればいいだけだって。そしたらオクゼツくん、やたらおれに懐いちゃってさ。なんかもうおれを神様みたいに信仰し始めちゃって困ったよね。それだけなにかに救いを求めていたってことだから、おれも止はしなかったんだけどさ』

 ……それを、この記憶を今オレに返して、それで一体なんだっていうんすか、ボス……?

『それで本題なんだけどね。オクゼツくんが救えなかった女の子、実は生きてたんだよね』


 頭の中に流れる映像が切り替わった。これはボスの視点か。倒れたオレを担いだまま、地下への階段を下りていく。そこに、あいつがいた。意識を失い倒れているが、闇人にならずに人間のままだ。そしてその周囲を、あいつを守るように人型の塊が囲っている。これはオレの分身か?この時点でオレはまだ、分身生成なんて出来なかったはずだが……。

『我が目を疑ったよね。この分身はオクゼツくんが無意識につくりだしたものだよ。闇のエネルギーの扱いなんて出来ないはずのオクゼツくんが、この子を救いたい一心で発現させたんだ。直感で確信したよ。オクゼツくんは新たな時代の、指導者になるべき人材だって』

 分身が壁になって、闇のエネルギーを遮断している。オレが、救った?あいつを、救えていたのか……?

『この女の子はおれが保護してたんだけど、一向に目覚める気配がなかった。闇人にならずに済んだとはいえ、闇のエネルギーを多量に浴びた影響で、この子は老化が止まり、死んだように眠り続けていた。数十年もの間ね。何度も迷ったよ、オクゼツくんをこの子に会わせるべきかどうか。結局おれは、会わせないことにした。それがオクゼツくんにいい影響を与えると思えなかったんだ』

 映像がまた切り替わった。これはどこだ?オレの知らない場所だ。どこにでもある普通の村みてぇだが……。

『そして女の子は、ある日突然目を覚ましたんだ。なんの前触れもなく、突然意識を取り戻した。理由は少ししてから分かったよ。体から闇のエネルギーが全て消えていた。眠っている間にエネルギーは自然に体から抜けていって、全てが消えたときに目を覚ましたんだ。肉体は正常に成長と老化が再開したけど、女の子は記憶を一部失っていたよ。言葉とか生活の仕方は覚えていたけど、生まれた村のことや、オクゼツくんのことは忘れてしまっていた。おれは女の子を遠く離れた村へと運んだ。女の子の記憶と、村人達の記憶もいじって、元々この子がその村で暮らしていたことにしたんだ』

 あいつが普通の暮らしをしているのが見える。どこにでもあるような、普通の暮らしを。……これがいい、あんな最悪な故郷のことなんて忘れちまって、オレのことも忘れてこうやって普通に暮らしてくれるのが一番いい。

『一人ぼっちにならないように、記憶を操作して家族も用意したよ。そこまでしなくていいかとは思ったけど一応ね。たまに様子を見に行ってたんだけど、この子の記憶の深層には、オクゼツくんの影響がかなり残っていた。この子は心の中にずっと、誰かを助けたい、手を取り合わないといけないという使命感みたいなものが強くあったんだ。そしてあるとき、この子は一人の獣人と恋をし、村から出ていくことになった。人間と獣人が手を取り合うことを、その村はよしとしなかったんだ』

 また映像が切り替わった。ずいぶんと成長して大人になったあいつが見える。その隣にいる獣人と、洞窟の中で暮らしてるみてぇだ。村から追い出されても、あいつは強く生き抜いていったのか。

『住み着く場所を見つけるまでは、こっそり手助けしたりもしてた。ここは湖の中にある小島でね、その洞窟で二人は生活を始めた。闇人に襲われる心配もないし、危険がないとは言えないけどずいぶん安全に暮らせる場所だよ。そこからはもう、おれが手を出したり見に来るのはやめにしたんだ。これからのことは、この二人が手を取り合って乗り越えていくべきだと思った。……なんだけど、本当についこの前、十年ぶりくらいに様子を見に行ってみたんだ。なんとなくね、どうしてるのかと思って』

 再び映像が切り替わる。……誰もいねぇ。洞窟の中には、人が暮らしていた痕跡こそあれ、もうそこには誰もいなかった。ボスの視点で映像をそのまま見ていると、洞窟の突き当たりについた。

 ……そこには、二つの頭蓋骨があった。人間のものと、獣人のもの。そうか、二人ともここで死んだってことか。気になるのは、頭蓋骨は寄り添うようにして並べて置かれていたことだ。誰かが他にいたってことか?その誰かが骨を並べて、この洞窟から出ていったのか。

『運命というものは、本当に信じられない出来事を引き起こすものだよ。頭蓋骨の上の方、洞窟の壁面に文字が刻まれてるのが見えるでしょ。あの女の子が刻み付けたものだよ。オクゼツくんになら読めるでしょ』

 ……読める。オレの村の文字だ。あいつが刻み付けた文章が分かる。

”この闇に閉ざされた世界の中、それでもこの子には、力強く生きてもらいたい。願わくばあらゆる困難を打ち砕く強さが、この子に宿りますように。その願いを込めてこの子には、わたしたちの娘には、こう名前を付けた。無苦(ムク)。苦しみを無にするほどの強い子に育ちますように”

『オクゼツくんは無力じゃないよ。じゃあ、がんばってね』


 ボスの声が消え、映像も消えた。気が付くとノイが目の前にいて、腕を振りかぶっていた。……見える。さっきまで追いつくことが難しくなっていたノイの動きが、はっきり捉えられる。ノイの腕がオレに向かって伸びてくる。なんでこんなにゆっくりなんだ?ただ体を横に回しながら、ノイの胸の上、左側の鎖骨のあたりを殴り返した。

 ノイはオレが殴った衝撃で、宙を吹っ飛んでいって、十回ほど地面の上を転がっていった。……ノイの動きが遅くなったんじゃねぇ、オレが速くなってる。体の内側から、魂の中から、今まで感じたことのないエネルギーが全身に広がっていく。あらゆる感覚が鋭くなっていく。五感が研ぎ澄まされていく。……聞こえる。地面を伝って鼓動が響いてくる。まだ弱いが、それでも確かに命の音がする。

「……おー?なんか寝てたなー……?」

「そのまま寝てろ。起きなくていい」

「……変な夢、見てたなー……」

「臨死体験じゃねぇのか、それ」

「母ちゃんとなー、父ちゃんがいてなー。抱き着こうとしたら、父ちゃんに帰れって怒られたぞー。そんで母ちゃんに『お兄ちゃんと幸せに』って言われたー。お兄ちゃんって誰って聞こうとしたら、目ぇ覚めたー」

 ムクが意識を取り戻した。これだけしゃべれるなら、もう命に別状はなさそうだな。……それとなくその顔を見てみる。……あいつの面影が、確かにある。

「なぁ、今聞くことじゃねぇけどよ」

「なんだー?」

「お前の母親、幸せに死んでいったか?」

「おー?母ちゃんは幸せな人生だったって言ってたぞー?」

 そうか、オレはあいつを救えていたのか。オレは、誰かを救える人間だったのか。ずっと、自分は無力な人間だと思ってたがな……。結局誰の事も守れねぇ人間だと思っていたが……。そうじゃなかったんだな。

 オレに足りないものは、自信だった。自分を信じることが、出来ていなかった。ノイへと歩み寄っていくオレの前に、分身が並んで立っていた。十七体の分身達。ありがとうな、オレと一緒に戦ってくれた。でも、もういいんだ。お前達がいなくても、オレはもうちゃんと戦える。

 分身の中から、一体がオレに寄ってきて、肩に手を置いた。ネイケロ、ゴードン、みんな、ずいぶん時間かかっちまったが、ようやくだ。

「オレ、胸張って生きていくからな」

 分身は満足そうにうなづくと、ゆっくり溶けるように消えていった。他の分身達も、それを追うように消えていった。もう力を借りることはねぇと思う。たまにふらっと現れてくれれば、嬉しいけどな。

「やろうぜノイ。ジジイへの恩返しもこれで出来そうだ」

 ノイは肩を回しながら、オレがそこにいくのを待っていた。もうお互い小細工なんて使わねぇよな。力と力のぶつけ合いだ。オレには背から生やした闇の手がある。お前には武器と鎧を兼ねた鱗がある。それだけで十分だ、ひたすらぶん殴り合って決着つけようぜ。

 最初はオレが勝っていた。魂から溢れるエネルギーは、オレの肉体にさらなる変異を起こしたみてぇだ。自分でも信じられねぇような力を出せたが、徐々にノイに追いつかれてきた。こいつも余計な重荷が消えていくほど強くなっていく。気が付いたときには、お互い技なんて一切使わずにひたすら殴り合ってた。子供のケンカみてぇに、馬鹿みたいにひたすら殴り合った。

 拳がぶつかり合う度に、鼓膜が破れるような衝撃波が起きる。地面を踏みしめる度に、地震みてぇに大地が震える。合計で百発以上は殴り合った。体感だと十分以上殴り合ってた気がするが、実際は十秒も経ってなかったみてぇだ。そのたった十秒の間に、オレとノイは全力を出し切った。

 そして最後に、かろうじて立っていたのはオレだった。大の字になって倒れるノイを見下ろしていたが、すぐにオレも力尽きてその横に倒れた。ノイは笑っていた。こいつがいつ正気に戻ってたのかは分からねぇ。エネルギーが減っていく過程で、意識を取り戻していたんだろうが……。

「クラフォンも喜んでるだろうな」

「……もう、動けねぇか?」

「力の解放使った時点で、俺が消えるのは確定だ。王様のとこ行ったって、もうどうにもならねぇよ」

「……行こうぜ、それでもよ。それまで持ちこたえろ」

「無茶言うなよ……」

 そう言いつつ、ノイはなんとか体を起こそうとしたが、また倒れた。オレも同じだ、体が言うこと聞かねぇ。闇のエネルギーでの回復が遅い。オレの魂が光側に寄ったからか。

「そういや、ヴォンはどうなった?」

「分からねぇ。だが、とっくに決着ついてると思うぜ」

 ナナゴウとヤヨイの心配する必要ねぇとは思うが……。ここでずっと寝てるわけにもいかねぇ、これからどう動くかを考えねぇとな……。


次回へ続く……

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