第十一章 旅の終わり 五
十一章 旅の終わり 五
わたしとマリアさん、ガンジイもそれの出現はすぐに感じ取った。本部の方向から流れてくる、異様な力のが肌をひりつかせる。それでも落ち着いてるのは、マリアさんもガンジイもなにかしらの緊急事態が起こることは承知の上だったからだろうな。
「これが、カンスケが仕掛けていた罠か」
「うん。……でもこれ、結構まずい。マリアさんが設置してたはずの対抗策が機能してない」
マリアさんは落ち着いてはいるが、その顔からいつもの作り笑いが消えていた。これはわたしもマリアさんも想定していなかった。並行世界が視えすぎてこの可能性を見過ごしてしまっていたか。まあ仕方ない、分厚い辞書の中身を全部認識するなんて無理な話だ。それが出来たらわたしはもう宇宙に溶けてることになる。
「わたくしの反転機は、カンスケに利用されました。波形と波形が衝突し、より大きな波となってしまった」
「カンスケはマリアの仕掛けに気付いていたのか」
「いや、気付いてはいなかったはずだよ。無意識というか本能というか、本人が認識していないからこそ利用されちゃった」
面倒だなぁカンスケの奴は本当に。どれだけ戦場を引っ掻き回すつもりなんだ。本人がそれを認知してないからどうしようもないのだけれど。矛盾しているが、カンスケはマリアさんの対抗策を無意識下で認識していたのだろう。マリアさんがあの空き部屋にずっといることを、カンスケも疑問には感じていたはず。それを意識の深層部分がずっと警戒していたということだ。
「このままここにいるわけにはいくまい。私が応援へと向かおう」
「ガンジイはここにいて大丈夫だよ」
「……皆は、無事に生き残れるのか?」
「うん、みんなを信じて。こっちは王と戦わないと」
大丈夫、最悪の未来はわたしには視えていない。みんながなんとかしてくれる。わたしたちは王との戦いに備えておかないと。カンスケがやらかしたせいで、王との交渉は無理になった。ある程度戦って、後は対話で協力関係を結べる未来もあったんだけどな。その未来が全部潰れた。
「……わたくしも、王との戦いへ向かいます」
「王とのですか?」
「息子は止めにいくのです。戦いに行くわけではありません」
「ここまでお疲れ様でした」
「ありがとう。ガンジイさん、わたくしのあとはお願いします」
ガンジイは黙ってうなづき、最後にマリアさんと握手を交わした。マリアさんはわたしとも握手して、カンスケの後を追い、闇の中へと消えていった。氷のように冷たい手だったな。凄い人だ、なんでまだ消滅しないで耐えていられるのか。母の愛か、それとも責任か。わたしには分かりそうもないな。
「あらためて聞いておくが、カンスケはなにをしたのだ」
「闇の扉を四つ同時に、ほぼ同じ場所に発生させたの。マリアさんはそれを防ぐ用の機材を設置していたんだけどね」
「この肌を刺すような力の流れ、扉が発生しただけとは思えぬが」
「高密度のエネルギーが同時発生したから、エネルギーが外に広がらずに内に向けて増幅してしまったんだよ。扉同士が壁になってしまったの。本来なら闇のエネルギーは爆発的に、外に向かって広がっていくんだけどね」
「……闇の扉四つ分の力が凝縮された、闇の核が形成されたということか?」
「それどころじゃないね。そこにいた死神の、魂のエネルギーまで全部が凝縮されてる。これを放置してたら、この世界全部がエネルギーに分解されてしまうよ。火山から流れ出した溶岩が、あらゆるものを呑み込んで焼き尽くすのと似てるね」
そこにいるだけで、この世界をただのエネルギーへと分解していく存在。カンスケの無意識下の願望が作り出した怪物だ。もはや目的と手段が入れ替わってる。この世界のあらゆるものを、分解することが目的になってしまってる。
「それはもはや、死神との戦いなどしている場合ではなかろう。共に戦わねば」
「一緒に戦ってくれる人はいるよ。ノイがムクと一緒に向かってる。ただ、王は協力してくれないよ」
「感情を優先するような者には見えなかったが。……いや、カンスケと同じことか」
「そうだね。長く生き過ぎて、精神が退行して子供に戻ってる部分があるからね。老人が子供みたいなわがまま言い始めるのとおんなじ。マリアさんは本当に立派な人だったよ。ずっと立派な大人のままだった」
ヴォンが犠牲になった以上、もう王との交渉なんて不可能。仲間を失った以上、王がこちら側と協力関係を結ぶことはない。
でもわたしにとっては、カンスケが好き放題やってくれてありがたい。この戦場にエネルギーが満ちるほど、わたしの本当の計画は成功させやすくなる。一番性根が邪悪なのは、カンスケじゃなくてわたしかもな。
「これは、どういうことか?」
「……いや、おれにも分からない。なんでこんなことに……?」
死神の王様は、おれを殺意のこもった目で睨み付けてくる。おれがなにかしたと思ってるようだけど、おれは本部周辺に罠なんて仕掛けてない。でも闇の扉が同時に複数発生するなんて、人為的な仕掛けがないと起きるわけがない。どういうことだ、何が起きてるんだ……?
「ヴォンの魂は消えかけておる。力の解放を何故使ったのだ……」
「……もう一度言うけど……」
「貴様のせいだ、カンスケよ。貴様がやったのだ。貴様の他、誰があれほどの罠を仕掛けられるというのだ」
完全な闇の中、王が纏うエネルギーと、その眼光が鋭く浮かんでいる。ほんの二メートルほど先、あふれ出る殺意を隠そうともしない。交渉する余地もない、王様はこの世界を敵だと判断した。……いや、この世界をじゃないか。おれという個人をか。
骸骨の兵隊と、闇人がぶつかる音が絶えず聞こえてくる。そしてその音や振動に混じり、おれの鼓動が頭を、精神を揺さぶってくる。どういうことだろうか。おれが罠を仕掛けたのだろうか。いいや、そんなわけがない。おれはカンスケを演じているだけだ、本当に狂っているわけじゃない。
「本物の狂人は、己が狂っていることに気付かぬものよ。貴様がそうであるようにな」
「……なんにせよ、あれだね」
「なんだというのだ」
「もう、戦うしかないね」
「貴様のせいでな」
おれはこの世界の存続を願っている。おれが選んだ人達が、信頼できる仲間が宇宙の崩壊を超え、歴史を繋いでくれることを望んでいる。それはおれの本心だ。仮におれの中に、おれ自身が気付いていない狂気があったとしても、この感情は本物だ。
「この決戦が終わったら、おれは自分を分解するつもりだったんだけどね。この世界はきみを含め、生き残ったみんなに託すつもりだった」
「その程度のエネルギーで、宇宙の崩壊を超えられるとでも考えていたのか」
「無理なのは分かってるさ。でもこの世界には、その可能性があるからね」
安心してたんだけどなぁ。もうおれが頑張る必要もない、残されたみんながどうにかしてくれると思えていた。今のオクゼツくんになら全部任せられるし、ガンジイさんはママの跡を継いでくれるだろう。レイレイちゃんなら中立の立場でうまいことやってくれるだろうし、死神との連絡役にもなれる。
おれはママと一緒に、この世界を守る為のエネルギーとなって消える。それでどうとでもなると考えていたけど、どうにかならなくなってしまったな。……本当に、おれのせいなのか。おれは狂ってるのか?そんな馬鹿な、おれは正気のはずだ。
王様が剣を向けてきた。紳士だね、今から始めるぞとわざわざ教えてくれるんだ。それとも余裕の表れかな。もしくは矜持かもしれない。
『汝が刃、露となり』
気付いたときには、王様の剣はおれの胸に当てられていた。でも刺さってはいない。王様が振るう剣は、刃が液体になって溶けて滴り落ちる。刃を溶かしていなかったら、今頃心臓が一突きにされていたところだ。格闘戦は苦手だし勝ち目がない。おれに使える術で戦うしかないし、まぁ最初からそのつもりだ。
「……奇妙な術を使うな、貴様は」
『我が楽園に、足を踏み入れる者なし』
周囲の地面を、次元の落とし穴に変異させる。けど落っこちる前に避けられちゃったか。接近するのも退くのも一瞬だな。王様は元居た位置よりずっと後ろに下がって、新しい剣を創り出してる。おれの陣の中でも消えずに剣の形になってるということは、元々この世界にある鉱物や動物の骨を、剣にして空間の隙間に収納してあったみたいだ。
「そんな程度の距離を取るだけでいいのかい?おれの言葉が届いてしまうよ」
「妙な言葉を吐き出す奴だ」
「中二病とか言わないでよね。ちゃんと意味があって言葉にしてるんだ」
初めに、言葉があった。この世界の全ては振動である、そういうことだ。
おれがやっていることは、素粒子の振動数を変えているだけ。でもそれであらゆる物理現象を空間上に展開出来る。超ひも理論の応用だ。嚙み砕いて言えば、この世界の全てのものは、振動数が違うだけの「ひも状の素粒子」で構成されている。その振動数の違いがあらゆる物理現象を引き起こしている。
『闇は這いずりその身を潰す』
王様の体を全方向からの重力で押し潰せないかと試みる。周囲の闇のエネルギーを重力という現象へと変換してみるが、まぁ効かないか。ぶ厚い骨の鎧が内側の肉やら内臓やらを守り切ってる。だったら重力を逆転させてみようか。外から内ではなく、内から外へ。王様の体内から外側へと重力を操作してみる。
『暗闇の底は、汝が内に在り』
言葉とは音の振動。言葉は音の波となり、素粒子へ働きかけその振動を変化させる。古来から一部の人間は、言葉によって物理を操ることが出来るのだと気付いていた。おまじないだの、呪文だの、そういった類のものはその試行錯誤の産物だ。おれはそれを実用レベルで使う方法を編み出したわけだけど、王様にどれだけ通用するかだな。
「厄介な。貴様はあの魔女の弟子か?」
「そうだよ」
王様の動きが若干鈍った、だがあまり効いてはいないか。普通の生物なら体内から爆発して終わりなんだけどな。王様はおれの周囲を高速で飛び回り、何度も斬りかかってくる。でもその刃はおれには届かない。すでにこの周辺の物理法則は書き換えた。おれに接触する物体は、全て液体と化すようになってる。
『見えざる両手は、空から落ちる』
闇のエネルギーに質量を持たせ、周囲一帯に落下させる。おれの術のいいところは、王様を狙う必要がないこと。空間そのものに攻撃性を持たせてしまえば、無差別に周囲全体を破壊出来る。王様は動きが速すぎておれでは目で追えないし、知覚も出来ない。こういう戦い方をするほかないね。
「無駄だ、多少の傷は負うであろうが、貴様に余は倒せぬよ」
「倒せるとは考えてない。その骨の鎧を一層砕けばそれでいい」
実際のところ、おれが王様に勝つのは無理だ。なぜなら、おれはこの世界の救世主でしかないから。そして相手は死神の王なんだ。根本的な生物としての違い、宇宙から与えられた使命の違いがすでに勝敗を決定している。王様はあらゆる世界を刈り消滅させる使命を与えられている。あらゆる物理現象が引き起こされる、数多の世界を渡り歩く為の力を宇宙から与えられている。灼熱の世界、極寒の世界、中には毒で覆われた世界なんかもあるはずだ。死神はその中で活動出来る体というものを獲得している存在だ。
おれの言葉で空間上に展開出来るのは、結局は「物理現象」に過ぎない。王様に勝ちたい、殺してしまいたいとするなら、どれだけ物理で攻撃したところで効き目がない。王様の鎧はそれらの作用を全て激的に軽減してしまう。さっきからおれが展開している物理現象は、この世界の生物なら一瞬で死んでるレベルのものだ。ガンジイさんやムクちゃんでも即死するぐらいの術をここ数カ月で編み出したんだけどなぁ。やっぱり王様にはほぼ効いてない。
『我らが住処は、閉ざされた伽藍洞』
とりあえず王様がどこかに行かないように、空間を閉じておこう。これで王様は、おれを中心に半径二○メールの範囲から出られなくなった。
「このままここで、互いが朽ちるまで悠久を過ごすつもりか?」
「どう考えてもおれの方が先に死ぬでしょ。でもまぁ、きみがおれを殺すのを諦めて、どこかに行ってしまうのも困るからね」
「貴様の他は誰も困らぬぞ」
「困るよ。きみが飛んで行って事態を解決してしまったらそこで終わりだよね。本部の近くに出てきた高エネルギー体、あれをどうするかってところで、ドラマが生まれるんだからさ。きみ達が言うところの『可能性』が」
「……それでもなお、己が狂っていないと言い張るのか」
なにをもっておれが狂っていると判断しているのか。おれがやっているのは可能性の芽を育てること。そうした方が死神にとっても都合がいいはずなのに。この世界の可能性が発展するのなら、いいや、発展させるために予期せぬ事態を起こした方がいいのに。
……起こした方がいいのに?おれは今そう考えたか?
「少しは自覚したらどうだ。貴様の意志や思想は、分断された状態で貴様の中に混在しているのであろう」
「……参ったね。自分の無意識に驚いてる」
「死神の為、そしてこの世界の為、貴様はここで死なねばならぬ。貴様は邪悪そのものだ」
少々まずいな、王様は戦い方というか、戦う「座標」を変えるつもりだ。魂のエネルギーを放出して、周囲と空間情報を遮断し始めてる。おれの言葉は周囲の空間には作用し続けるけど、王様が持ってる剣には作用しなくなる。なるほどね、どちらにしてもまずい。
おれが空間を閉じたままにすれば、王様の攻撃がおれに通るようになる。それを守る為の言葉を構成し続けないといけなくなるな。防戦一方になってしまう。かといって空間を開いてしまえば、王様はおれの処理を後回しにして、本部まで飛んで行ってしまうかもしれない。今は頭に血がのぼっておれを殺すことしか考えていないみたいだけど、どこかで冷静になられるとまずいんだよな。
「心がさ、動揺しっぱなしだよ。どうしたものかなこれは」
「どうしようもないであろうよ。貴様の最善手は今すぐ死ぬことだ」
「ただ死ぬってわけにもいかないんだよ。きみの鎧を一層は破壊しないと、ママとかガンジイさんに道を繋げられない」
「……それも貴様の本心であるところが、不気味でならぬ」
この精神状態の乱れの中で、おれは王様の鎧を破壊出来るか?単純におれの持っている全エネルギーを解放するだけでは届かない。だからわざわざ言葉の術を編み出したのに。頭の中で言葉が乱れてしまう、最適な言葉を発せなくなってくる。
自分の行動や考えを、一つにまとめないと駄目だな。意識と無意識に振り回されている今のおれは無力だ。問題はどうやって、おれの意識を一つに統合するかなんだけど。……無責任だけどみんなに期待するしかないか。おれの魂そのものが奮えるなにかを、起こしてくれるのを待つしか……。
「ソノコさん、早く!あれがまだ暴れないうちに!」
「駄目だよ、だってそれをしたら……」
さっきまでヴォンさんだったものは、まだ動きを見せない。ヴォンさんの魂の記憶が影響しているのだろうか、その姿はヴォンさんを基調にしているが、全身からトゲのようなものが突き出た痛々しい姿をしている。時折苦しむような仕草を見せたりはするが、前傾姿勢のままで立った状態から動かない。でもただ立っているだけなのに、周囲の大地が高温で赤く焼けただれていく。
「あれが暴れはじめたら、僕達三人とも間違いなく消滅します。だったら僕だけが犠牲になった方がいい」
「そんなの受け入れるわけないでしょ!?」
その優しさが命取りになるとなんで理解してくれないんだ。駄目だ、これ以上こうして敵を眺めているわけにはいかない。奴の注意を僕に向けさせないといけない。司令とソノコさんのアーマーはもう破損して動けないんだ、ほんの少しでも僕が奴の攻撃を引き受けて時間を稼がないと。
そして僕が司令とソノコさんの対角線側に、正反対の方向へ移動しようとした瞬間に、敵は視線をこちらに向けた。ただそれだけのことだった。敵は僕を意識してこっちを見たわけではない。ただもがく動きの中、たまたま視線が僕の方に向いただけだ。それだけのことで、僕の左脚は消滅していた。
無理だ、身代わりになることすら出来ない。敵が内包しているエネルギーが高過ぎる。視線がこちらに向けられた一瞬に、エネルギーの波が発生し僕の左脚を分解してしまった。
「ソノコさん、もう封印を解くしかないんです。なんとかお二人を遠くまで、可能な限り投げ飛ばします」
「出来るわけないって言ってるでしょ!?」
「いい加減にしてください!全員で死にたいんですか!?」
「ナナゴウ、もういいよ、無理だ。ソノコにはなに言っても無理だよ。理屈より感情を優先するんだからこの人」
「じゃあ諦めて死ぬって言うんですか!?」
「いいや、大丈夫だよ。幸運だったのは、ここが本部だったってこと。そして闇の扉が本部を消し飛ばしたってこと」
なんだ、司令はなんのことを言ってる?ここで口論なんてしてる場合じゃない、敵がこちらを認識したら、こっちに意識を向けられたら、それだけでもう終わってしまう。
そして、その最悪が訪れようとしていた。敵のわずかな重心の変化、挙動の変化からそれを感じ取った。敵は、こっちに気付いた。そして再びこっちに視線を向けようとしている。次は一瞬じゃない、はっきりと僕等を見るつもりだ。そうなったら、もう終わるしかない。
敵の体がゆっくりと僕達の方へ傾き始めた。終わりの時を告げるカウントダウンのように、ゆっくりと少しずつ。顔を伏せたまま、まず足先がこっちに向けられ、肩が動き胸の正面もこっちを向いた。その体から無秩序にほとばしる雷光のようなエネルギーの放出が、徐々に方向を変え一つの束となっていく。……終わりだ、もう僕には何も出来ない。あのエネルギーの波を防ぐなんて無理だ。
「動くんじゃねぇぞ、ナナゴウ」
闇の中から、声が聞こえた。……そうか、司令が言っていたのはこのことか。エネルギーの波が照射され、閃光が視界を真っ白に染め上げられる。しかし次の瞬間には真っ暗になった。闇だ。闇のエネルギーの盾が、僕達を守ってくれている。ごうごうという暴風と、爆弾が破裂するような暴力的な音が鼓膜を突き刺すが、その声はハッキリと僕に届き、張りつめていた緊張感を緩和してくれた。
「大丈夫かよお前、左脚やられてるじゃねぇか」
「それ以外は無事です」
「おう、なら大丈夫だな」
「遅いよ臆舌。本部の中でのんびりし過ぎ」
兄さんは僕の左脚に、闇のエネルギーで作った即席の義足を作り出して取り付けてくれた。分身生成の応用でこんなことも出来るのか。これでまた動けるようになった。兄さんは無数の分身を連続生成し続け、それを盾にして敵のエネルギー波を相殺してる。あれだけのエネルギー量を防ぎきれている。
「エネルギー源なら今のとこあるぜ。この世界は闇のエネルギーに覆われてんだ。だが、このまま消費させられ続けたらやられるな。やられる前にやらねぇと」
兄さんだって世界中の闇のエネルギーを自在に操ることが出来るわけではない。この付近、どれくらいの範囲か分からないけど、この戦場の中にあるエネルギーを消費し尽くしてしまったら、分身の生成は出来なくなってしまう。
「ですが、あれに触れることすら出来ません。触れた瞬間に分解されてしまいます」
「あの化物以上のエネルギー量を乗せりゃあぶん殴れるだろ。問題はそれだけのエネルギーを身にまとえるのかってとこだ」
「兄さんなら出来ますか?」
「きついな。お前は?」
「無理です」
「そもそもありゃあなんだ?簡潔になにがあったか聞かせてくれ」
僕はここまでの状況を簡単に説明し、兄さんは一言「ならなんとかなるな」と楽観的な意見を出した。
「ボスが狂ってんのか、正気なのかは分からねぇ。だがこの状況はボスが用意してつくりだしたものだ。それならどうにかなる」
「その、ええと、根拠は?」
「ボスが、オレ達が死んじまうような状況をつくるわけがねぇ。これはボスが用意した修業の場と考えていい。オレ達の魂を成長させる為にこうしたんだろ。なら乗り越えられるはずだ」
「……僕はカンスケをそこまで信用していませんが。ですが、僕達が消滅するように仕向けることはないはずなのは同意です」
兄さんは分身を、司令とソノコさんが乗っているアーマーを囲うように配置した。兄さんの分身の盾があるなら、今のところは二人の安全は保障されたと考えていい。敵はこちらにエネルギー波を向けてはいるが、その場から移動する気配は見せていない。次は、どうやって敵を倒すかだ。
「おい明、なんかいい策はあるか?」
「計器での分析結果だと、敵の体は高密度のエネルギーが膜のように形成されてる。その膜さえ消せれば、直接殴れるようになるだろうけど」
「ナナゴウ、誰が戦場のどこにいるか分かるか?ミニちゃんはどこにいる、連れてきてくれ」
「太陽ビームを、あれにぶつけると?」
「オレが全力出して闇のエネルギーを集中させても、闇の核四つ分に匹敵させるのは無理だ。しかもあれには死神の魂のエネルギーまで凝縮されてんだろ、なおさら無理だ。オレとお前でどうにか出来るなら、膜を消したその後だ」
ミニちゃんなら、兄さんの言う通りどうにか出来るかもしれない。でも戦場のどの方向にいるのか、それにムクさんとミニちゃんは別の死神と戦っている最中のはず、見つけたとして連れてこられるかどうか……。
「待って、こっちに誰か来てる。反応が……三つ……?」
ソノコさんが何者かの接近を感知して知らせた。だが三つなのはなんだ?警戒して構えていると、闇の中からその三つの正体が現れた。ムクさんとミニちゃん、そして……。死神が、一緒にいる……?
「……ヴォン、なんて姿になってんだよ、お前……」
「どういうわけだ、死神がオレ達に協力してくれんのか?」
「……カンスケがやろうとしていることを、止めに来た。ヴォンの他は全員生きてんのか?」
こっちでなにがあったのか、ムクさん達に説明すると死神は、ノイはぎりぎりと歯を食いしばりながら、地面を殴りつけた。ヴォンさんは、僕達を守る為に魂を犠牲にした。カンスケの策略で仲間を失ったんだ、冷静さを欠いても仕方がない。
「お前らを責める気はねぇよ。ヴォンはお前に可能性を見出したんだ。死神の使命に殉じた。だがカンスケだけは絶対に許せねぇ。あいつはなにもかもを、都合の良いように利用することしか考えてねぇ……!」
「なー、まずあれをぶっ倒した方がよくないかー?話してる場合じゃなくないかー?」
「いつでもビームオッケーなのよ~」
ムクさんの言う通りだ、カンスケをどうするかは後で話す。今は敵を倒さないと。
「オレの分身でミニちゃんを奴の上方へ連れていく。横から撃ったら、奴がどこにぶっ飛ぶか分からねぇ。上からビームぶち込んで、膜が剝がせたら一気に叩くぞ」
反対意見は出なかった。兄さんの分身は空中で位置を固定出来る。僕やムクさんがジャンプして敵の頭上に行くのでは、その後重力で落ちてきてしまうし、ビームを撃った反動でどこかに飛ばされてしまう。
「ビームの余波はオレの分身が盾になって防ぐ。頼むぜ、全パワーぶち込んでやれ」
「やっちゃうのよ~!」
ミニちゃんを敵の頭上へ移動させ、兄さんの分身が僕達全員を囲うように設置される。準備は整った。これで敵のエネルギー膜を剥がせれば、そこから反撃に転じることが出来るはずだ。
「サンシャイーン!!」
ミニちゃんの太陽ビームが発射された。兄さんの盾があるから、何が起きているかを直視は出来ない。だが出来ない方がいい、これを直接見てしまったら、間違いなく失明どころか頭部が消し飛ぶ。盾の向こう側から伝わる熱、振動、音、全てが直接受ければ即死級のものだと直感で分かる。さっき受けた闇の扉の発生より、敵のエネルギー波より、さらに破壊的だ。
数秒後、辺りが静かになり急いでミニちゃんを回収した。兄さんの分身はしっかりミニちゃんを抱きかかえてこっちまで運んで来てくれた。ミニちゃんはエネルギーを使い果たし、ぐったりしていたが生命に危険はない。司令の指示でアーマーを一瞬だけ開き、中にミニちゃんを入れた。ここからは僕達の仕事だ。
ビームの爆撃地点は、もはや地球上とは思えない様相と化していた。大地が、沸騰している。赤熱が闇を燃やしどろどろと重く発光する。灼熱の海とでも呼べばいいのだろうか。あらゆる生命が生存出来ないはずのその海の真ん中に、敵はまだ立っていた。……敵は苦しむどころか快適そうに肩を回している。太陽ビームの直撃を受けて、傷を負うどころか動きがよくなってしまっている。……そうか、あの膜は拘束具でもあったということか。
ここからだった。本当の絶望は、戦いはここからが始まりだったんだ。
次回へ続く……




