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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第十一章 旅の終わり 三

十一章 旅の終わり 三


 いくつか不安要素は残っているが、俺がまず考えるべきはムクをどうするかだ。どうするったって、戦うしかねぇわけだが。ミニちゃんはたいまつの外側へ走っていった。とりあえずは俺に太陽ビームを撃ち込むつもりはないようだが、結局は敵なんだよな、それを馬鹿正直に信用するのは危険過ぎる。いきなりあのビームを撃たれないように、まず対策をしておくか。ここはすでに敵陣の中、術の類は使えねぇが、元々生まれ持った体の機能なら使える。まずはこっちから仕掛けるか。

 適当にムクに接近し、数発殴り合う。俺もこいつも肉弾戦が得意分野だ。武器なんか持つよりも、自分の体が最大の武器になる。それにしても重いな、こいつの拳。一発受けるだけで全身に振動が走りやがる。でもまぁ、そうしてくれた方がありがてぇや。

「トカゲみたいだなー、お前の体。硬い鱗だなー」

「天然の鎧みたいなもんなんでな」

「でもその鱗、殴る度に割れてはじけ飛んでるぞー」

「それでいいんだ。これはただの鱗じゃねぇからよ」

 俺の体表は鱗に覆われ、それは微弱な電磁波を発することが出来る。その電磁波は光子を屈折させ、俺に光が当たらないように弾き飛ばす機能がある。その鱗は殴られる度に微細に砕け、この周辺に漂ようことになる。つまり、自分の姿を見えなくさせることが出来る。

「あらら、消えちゃったのよ~?」

「消えてないぞー。なんか見えなくなっただけで、そこにいるなー」

 どの世界でも視認するってのは同じ仕組みだ。物に光が当たり、その反射した光を眼球で捉えることで、脳にその映像が認識される。俺の鱗は光を屈折させ俺に当たらないようにするから、俺はそこにいても視認出来なくなる。普通はな。

「でもお前は音の反響で、俺の位置を感知出来るんだろ。この世界のコウモリみたいだな」

「あたしは分かるけどなー」

「見えなくなっちゃったのよ~」

 ミニちゃんは可視光線を色々と捉えられるが、これで俺の姿は見えなくなったな。俺がどこにいるか分からねぇのに、適当にビーム撃つことはないだろ。すぐ近くにムクもいるから、巻き添えにする危険もある。これで太陽ビームは使えなくさせたが、ちょいと厄介なことになってきた。

「ムク、お前な」

「おー?」

「お前、強過ぎねぇか?」

「そうかー?」

 押されてる。真正面からの殴り合いで、俺がじわじわ追い詰められてる。それだけじゃねぇ、こいつはまだ余力を残してる。こいつ攻撃だけじゃなくて、防御もしっかりしてやがる。ガンジイに教えられたのか、俺の攻撃をいなして体勢を崩す技まで持ってやがる。下手に俺が殴りかかろうものなら、それを反撃の起点にして急所に重い一撃を入れてくる。

 なにをどうやったら、まだ十年そこらしか生きてねぇ子供がこんな戦闘力を持てるんだ。肉体が変異してるだけじゃねぇ、生まれ持った戦いの才があったのか。そしてその才を目覚めさせるなにかが、こいつの過去にあったのか。それをうらやましいとは思えねぇな。こいつの過去がどれだけ悲惨だったのかって話だからな。

「なー、もうやめるかー?」

「なんだよ、俺とはもう戦いたくねぇってか?」

「だってお前、ずーっとなんか考えてるなー」

 ……悪いことをしちまってるな。目の前の戦いにまるで集中出来てねぇ。こいつもそれを見抜いてるから、本気でかかってこねぇ。

「今までこんなことねぇよ。わくわくしてんのに、戦う気になれねぇ。こんなに心躍る戦いの場だってのによ、いざ前線に出てきたら、それがいいことだと思えなくなっちまった。お前と本気のぶん殴り合いしてぇのによ。なんだか胸騒ぎが収まらねぇ」

「ふーん。変な奴だなー」

 さっきからずっと、嫌な予感が止まらねぇ。俺の経験と本能が、目の前にある戦いから、俺の注意をそらそうとしてくる。「ここにいては駄目だ。こんなところにいる場合じゃない」と、俺の中から必死に警告し続けてくるなにかがある。

「ミニちゃんもこっち来な。ごめんな、こっちから仕掛けといて、やっぱやめるなんてよ」

「王様に怒られないのよ~?」

「怒られるで済むならそれでいい。それより、もっと……」

 決戦なんてしている場合じゃねぇ。そんなもんより危険な異常事態が、なにかが起きる気がする。そして、そのなにかを仕掛けている奴が誰なのか。それが問題なんだ。

「……この戦いの陣を敷いたのは、全部カンスケなんだよな?」

「そうだぞー」

「レイレイは?あいつは作戦を、意見を出したりしてたか?」

「レイレイはなんにもだなー。全部カンスケが決めた通りに動いてるぞー」

 俺がやるべきことは、死神としてこいつらと戦うことじゃねぇ。一人の戦士として、この戦いを収めることじゃねぇのか。王様はこの戦場の異常性に気付いた上でそれに乗ってるのか。

 どっちだ。この決戦を利用して、自分の都合のいいように全てを操ろうとしているのは、どっちなんだ。カンスケか、それともレイレイか。

 本当に最悪なのは、その両方ともだった場合なんだがな……。


 司令とソノコさんは、まだアーマーロボットの起動が出来ていない。不自然に時間がかかってる。なにかトラブルがあったのだろうか。気にかかるが様子を見に行くわけにはいかない。本部の正面方向から、地面を強く踏み鳴らす振動が、不規則な感覚で伝わってくるからだ。

 これは挑発だ。「外に出てこい」と死神が呼んでいる。おそらくヴォンで合ってる。奴は体格が大きいから、この本部の中では小回りの利く小柄な人間の方が優位に動き回れる。それを避け外で戦いたいのだろうと予想出来る。

 僕はそれに乗ることにした。奴とは以前に一度戦っている。僕一人の力で撃破することは難しいから、司令とソノコさんが戦いの準備を済ませるまでの時間を稼ぐ。一番避けるべきはこのままヴォンを放置し、奴がしびれを切らして本部の中に攻め込んでくることだろう。地形的には有利に立てるかもしれないが、アーマーロボットを起動前に破壊されてしまう恐れがある。僕が今やるべきことは時間稼ぎ。それが最善のはずだ。

「自分の誘いに乗ってくれたことを感謝する。若き戦士よ」

「ヴォンだね。僕はナナゴウ。以前一度、あなたを奇襲して倒したことがある」

 本部の正面扉から外に出ると、そこには大男が立っていた。身長は四光(4m)はある。ずっしりとした体格で、まるで大岩のようだ。……いや、鉱物そのものなのか?その体は金属のような、あるいは光沢のある岩のようなもので構成されている。生きている鉱物。それがヴォンという死神なのか。この世界にもミニちゃんという、植物が意志を持った存在がいる。他の世界に無機物が意志を持った生物がいても不思議ではないか。

 そしてその右手に握られている、巨大な金属の塊。ヴォンよりもさらに巨大な、あまりに原始的な武器だ。ただ重く、そして固い、それを叩きつける為だけに作られたハンマー。……あれを一撃でも受ければ、僕のボディは粉砕されるだろう。

「魂を原動力と変えた、あの一撃。今回も同じことをするつもりか?」

「いいや、あれはもう使わない」

「それがよい。あれはお前の魂を燃やし尽くしてしまう。お前という可能性を消すことになってしまうからな」

 問答無用でヴォンが襲い掛かってこないのは、その死神の目的があるからだ。この世界の力を、可能性を見極めること。奴らは正々堂々、正面からの力のぶつけ合いを望んでいる。あくまでこちらにその気があるのなら、という前提の上にはなるだろうけれど。

「しかし、加減をするつもりはない。ここで自分に倒される程度の存在に、可能性の芽があるとは思えんのでな」

 ヴォンはハンマーを振り上げた。軽々と、木の枝のように。尋常じゃない怪力だ、ムクさんとどちらが上だろう。間違いなく言えるのは、こいつに腕力で勝つことは不可能だ。僕が勝てる材料があるなら、速度だけ。それを活かすしかない。

 僕も剣を構え、そのまま先手を打った。ヴォンの懐に入り込むことを狙う。ハンマーの攻撃範囲を確保されること、一定の距離を保たれるのが一番まずい。あのハンマーは巨大であるが故に、奴の体に密着し続けることが出来れば、その攻撃を封じることが出来るはず。

 可能な限り高速で接近する僕を、ヴォンは虫を払うかのように阻んだ。巨大なハンマーを横になぎ払うように何度も振り回し、攻撃と防御を同時にこなされる。そう簡単に懐に飛び込ませてはもらえないか。だがそれでもいい。ヴォンへと急接近、そして退避を繰り返し、司令とソノコさんの到着を待つ。あくまで時間稼ぎが最優先、ここで危険を冒しがむしゃらに接近を試みる必要はない。

「つまらぬ戦いをするな、若き戦士よ」

「……つまらない?」

「お前を侮辱するつもりはない。しかしお前の行動は、腰が引けている。仲間の戦士の応援を待っているな?その行動は的確かつ正しい。だがつまらん」

「戦いにつまらないも面白いもないと思うけど」

「お前には期待しているのだ、若き戦士よ。普段は寡黙な自分が、ここまで言葉を出すくらいにはな。以前自分の頭を砕き割ったあのとき、その一撃には強い覚悟と信念を感じた。なんとしてでも、仲間を守りたいという心を感じた。だが、今のお前はつまらない」

 ……分からない。つまらないとはなんだ。勝つか負けるか、その選択以外になにがあるというのか。

「来い。渾身の一撃を撃ち込んでみよ」

 ヴォンはハンマーを投げ捨て、大きく手を広げてそう言った。なにを考えている、罠か?僕を懐に飛び込ませ、その先になんの狙いがある?

「今のお前では、自分に傷一つ与えられぬ。それを理解させてやろう」

 ……上等だよ。好きに攻めさせてもらえるなら、そうさせてもらおう。少しでも敵を消耗させられるなら、こいつの挑発には乗る価値がある。


「なぁ、お前らの根城ってどこだ?ヴォンはその近くに隠れてるんだがよ」

「どこだろうなー。あたしって今、どこにいるんだー?」

「本部ならあっちなのよ~。走ればすぐなのよ~」

 ミニちゃんはムクの頭の上に乗り、変なポーズをしながら指を南西の方角へ向けた。どうやら可視光線が降り注ぐ角度から、本部の位置を算出してるみてぇだ。嘘なんてつくことねぇだろうし、その方角へと走ることにした。こいつらの根城にいるだろうヴォンと合流しないとだ。

「お前、本当にあたしと戦わなくていいのかー?」

「別に死神の目的は、お前らをぶっ倒すことじゃねぇからな。可能性さえ見い出せるなら、他のやり方でも構わねぇよ」

「じゃあ王様にもやめようって言ってくれよなー。最初から戦うなよー」

「そりゃあそうだけどよ。だが結局な、生き死にを懸けた戦いの中で、魂は強い力を発揮するもんなんだ。今までの経験上、戦うのが一番なんだよな」

 俺の中の警告は秒ごとに激しくなっていく。戦いなんてしてる場合じゃねぇ、まずヴォンを見つけて、カンスケが敷いた陣の外へ出る。王様だって気付いてるはずだ、このままここにいたら取り返しのつかない何かが起きてしまう。死神の中じゃ、俺が王様に次いで経験が長い。理屈で表せねぇ危機を、事前に察知出来る感覚も磨かれてきてる。

「とにかくヴォンを見つけて、一旦撤退するぜ。協力してくれよ、もうヴォンは戦いを始めてるかもしれねぇが」

「でもなー、逃げられてもちょっと困るんだよなー」

「そりゃなんで?」

「レイレイがさー、もう限界っぽくてなー。お前のとこの王様なら、レイレイが変になっちゃってるの戻せるんだろー?」

「逃げるならレイレイを助けてからにしてなのよ~」

 それはまずいな。無の力が暴走したら、死神界もこの世界も消滅する。面倒だなまーじで。厄介すぎる時限爆弾だろあの力はよ。……ヴォンを見つけて一時撤退、その後は王様に報告と相談。まずこの場の異常性について指摘、同意を求め、こいつらとの休戦を提案する。最優先はレイレイを侵食している無の力の消滅。こいつらもそれを拒む理由はねぇはずだ。それから戦いを続けるか、別の方法で可能性を探るか、それはそのときに考えればいいか。

「なぁ、後で俺と本気でぶん殴り合ってくれるか?ガンジイとも本気でやってみてぇんだよな」

「あたしは別にいいけどなー。じいちゃんは嫌だって言いそうだけどなー」

「あとオクゼツってのはどこにいるんだ?そいつともやってみてぇ」

「オクゼツなー!あいつ強くなったぞー!でもまだちょっと弱いぞー!」

 クラフォンが可能性を見出した戦士だ。どれほどのものか試したい。だがまぁ、今はそれどころじゃねぇか。

「オクゼツは本部の近くにいるぞー。骨がいっぱい来てるから、本部を守れるようになー」

「じゃあガンジイは?」

「じいちゃんはレイレイとか、カンスケとかと一緒だなー。レイレイを守らないとだからなー」

 なら王様が向かった先にいるってことか。……やっぱり王様も、不穏な空気を感じ取ってる。だから俺をこっちに寄こした。俺が適宜判断して動きやすいようにってことだ。

「……ん?オクゼツは本部の近くにいるって言ったか?」

「おー」

「ならヴォンと戦ってるってことか。本部の警備を任されたなら、まずオクゼツがヴォンと接敵するはずだよな」

「さあなー。どうだろうなー」

「難しいことは分かんないのよ~」

 ……もしも、今ヴォンと戦ってるのが別の奴なら、まずいな。聞くのが怖いが、確認しないわけにはいかねぇな。

「もしかしてなんだがよ、オクゼツに警備を任せたのは、カンスケか?」

「そうだぞー。外に出て、後は自分で判断して本部を守れってなー」

「ミニちゃん、本部まであとどれくらいで着く?」

「あと三分もかからないのよ~」

 長すぎる。戦場の三分はあらゆる事態がひっくり返るのに十分過ぎる時間だ。最悪だ、嫌な予感が、警告がさらに加速していく。

「今本部にいるのはオクゼツだけか?違うよな、誰がいる?」

「えーっとなー」

「光側か?カンスケがずっと敵対してた、光側の連中がいるのか?」

「おー、そうだぞー」

「ナナゴウと、メイとソノコがいるのよ~」

「全力で走るぞ!助けねぇと消される!!」

 それがカンスケの狙いか、あの野郎、最初からこの決戦を、戦いを利用して光側の連中を全部消すつもりだ。奴が敷いたこの陣は、この世界が死神に勝つ為の陣じゃねぇ。

 カンスケにとって、都合の悪い奴を全員消すための陣。死神も、この世界の連中も、奴は自分の都合のいいように全てを利用するつもりかよ。


「カンスケ、ノイが気付いたっぽいよ」

「なにに?というか感知出来るの?ムクちゃんとの戦いはどうなってる?」

「ムクと一緒に、本部に向かって走ってる」

「え、どういうこと?戦いをやめたの?」

 こいつ、やっぱり自分でやっていることに、自分で気付いてないんだ。わたしとマリアさんは最初から気付いてる。でもそれを仕掛けた本人がそれに気付いてない。

「ムクとノイは合意の上で戦いをやめた、ということでよいのだな?」

「うん。ミニちゃんも一緒に本部に向かってる」

「我らも戻るべきか」

「ううん、ここにいた方がいいよ。王の相手しないとだし」

 死神の王は予想通り、さっきまでは戦場のここから少し離れた地点で停止していた。だがムクとノイが動き始めたのと同時、ここへと向かってきてる。

「ほら、カンスケが迎撃しに行かないとだよ」

「すでに戦場が予想してない動きになってるなぁ。でもまぁ、おれがまず相手しに行くのは決めてたしなぁ」

「願うことなら、あなたが王と共倒れになってくれればよいのですが」

「そんな酷いこと言わないでよママ。じゃ、行ってくるかな」

 王は分厚い骨の鎧に守られてる。元々四層あった鎧は、先日お姉ちゃんがその表層を破壊して、残り三層になっている。三回は王と戦って、鎧を一層ずつ破壊していかないといけない。カンスケが用意していた駒は、まずカンスケ自身。次にマリアさん、最後にガンジイ。でもその通りにはならないだろうな。

 カンスケはふらっと、まるで散歩にでも出かけるように戦場の中へと歩いていき、すぐに闇の中へと消えた。王と戦い合える自信はあるっぽいけど、突然なにかやらかしたりしないだろうな。いやすでにやらかしてるか。早く応援を向かわせないと、本部にいるみんなが危ないか。

「ヤヨイ、ナナゴウのところ行っていいよ。こっちはガンジイとマリアさんがいるから」

「……別に行かなくていいし」

「ナナゴウが声かけてくれなかったからいじけてるの?ヤヨイの方がお姉さんなんだから、早く行ってあげないと」

「……行ったところでだし」

 ヤヨイはいじけて地面を足の先でぐりぐりしてる。面倒だなぁ、乙女心ってやつは。ファイブはさっきからずっと本部の方を見たままじっとして動かない。動物の本能みたいなもので、ナナゴウの危機を察知してるのかな。

「早く行かないと、ナナゴウが死ぬよ」

「え……?」

「カンスケは本部に罠を仕掛けてる。本部ごと周囲を消し飛ばす気だよ」

「それが本当だとして、なんで放っておいたん?」

「本部のことなら、わたくしが守りの機構を設置しておきました。大事には至らないはずです」

 マリアさんが本部にいるとき、好んでずっといた放置部屋。マリアさんはあの部屋を起点に、カンスケの罠を封じ込める為の装置を設置済み。こことは別次元の狭間に置いてあるから、カンスケにも感知出来てない代物だ。さすがカンスケの母親、馬鹿息子の後始末はばっちりだ。

「カンスケの馬鹿には後で説教するとして、うちが行く必要なくない?」

「さっき言ったよ。ヤヨイが行かないと、ナナゴウは死ぬ」

「……未来が視えてんの?」

「視えすぎて気持ち悪いよ。わたしはもう無数の分岐点、平行世界を認識出来るところまで浸食されてる。ヤヨイがここで行かなかった世界全てで、ナナゴウは消滅してるね。メイと園子はどの世界でも無事なんだけどね、ナナゴウが守るから」

「……じゃあ、行く」

「ナナゴウの場所はファイブが感知出来てるから。ついて行けばいいよ」

 ヤヨイはようやく本部へ向け走っていった。ファイブが一緒だから迷うことはないはず。合流さえすれば後はまぁなんとかなるか。

「子よ、今の話は全て事実か?」

「うん。カンスケはこの戦いを利用して、光側のみんなをエネルギーに分解するつもりだよ。というか、全員をなんだけどね。死神も、闇側も、わたしたちも」

「それに奴自身が気付いていないというのか。ただこの世界を崩壊から守る為にか」

「それがカンスケの本質だからね。救世主は自分が先頭に立って先導し続けることはないんだよ。どこかで民衆に世界をゆだねる。この決戦場にいる全ての魂を分解すれば、崩壊を超えられるほどのエネルギーになるとカンスケは考えてるんだよ。その後のことは、この世界に残された一般人に任せようって計画ね」

 わたしも人のこと言えないけど、まぁ勝手なことをしようとしてるなあいつは。でも本人がそれを自覚してないから、周りにいるわたしたちがそれを止めないといけない。幸いなことにノイは一早くカンスケの企てに気付いてくれたし、たぶん王は最初から気付いてる。それも含めこの世界の可能性と考えて動いてるみたいだ。

「臆舌はカンスケの企みを知っておるのか?」

「ううん。だってカンスケ自身ですら気付いてないし」

「そうか」

 ガンジイはずっと落ち着いてるなぁ。元々カンスケが出した作戦に全て乗るつもりはなかったんだろうな。そりゃあそうだ。カンスケが胡散臭い奴なのは分かり切ってることだし。とりあえずはここにいて、戦況を見守っていれば大丈夫かな。


 ボスはどこまでを予測してるのか、オレには分からねぇ。でもボスの命令に従っておけば全部うまくいくことは分かってる。オレは言われた通り、本部にいて外から攻めてきた骨の兵隊共を潰していけばそれでいい。心配なのはナナゴウだな。あいつ、ちゃんと力を出せるかどうか。この戦いの中で、なにかに吹っ切れないと厳しいかもな。それはオレも同じことだが……。

 しかし、不自然に静かだな。ずっと響いてた振動も消えたし、その代わり、たまにやたらと重苦しい低音が外から聞こえてきやがる。戦況はどうなってんだ。オレじゃあ遠くで何が起きてるのか感知出来ねぇ。分身を何体か偵察に出してみるか?いや意味ねぇか。分身と感覚が繋がってるわけじゃねぇし、同じ視界を共有してるわけでもねぇ。

 本部の中の見回りでもしておくか。伏兵が忍び込んでる可能性もあるしな。今本部にいるのはオレだけだ。なにか音や気配がしたら敵で確定だ。……と思ってたら、ホールから聞き覚えたのある声が聞こえてきた。

「よし、起動シーケンスよしだね。いつでもいける」

「早くナナゴウと合流しよう」

「……お前ら、これに乗って戦うのか?」

 メイとソノコがホールにいた。そんでなにやら兵器を起動させてやがる。ずいぶんとごついな、オレの三倍くらいはある。人型だが体中に分厚い金属が張り付けられて装甲になってやがる。一枚のでかい金属を張り付けるではなく、細かく分割されたもんが何十枚も重ねられてるみてぇだな。ナナゴウを限界までごつくしたらこうなるって感じのアーマーだ。

「これがあれか、お前ら二人が乗るっていう兵器か」

「そうだよ。メイが操縦して、ソノコは計器の操作。単純な力だけなら、きみとか頑爺より上だね」

「ムクよりか?」

「ムクちゃんよりは、さすがに下かなぁ……。新しく作った籠手も壊されちゃったし」

 こいつらは決戦に備えて色々と武器を作ってたようだが、それを採用したのはレイレイとミニちゃんだけだったな。レイレイは弓を、ミニちゃんは太陽ビーム発射ベルトを。ガンジイは手に馴染まないってんでどれも受け付けなかったし、ムクは叩いて壊しちまった。

「で、お前らはいつ戦場に出るんだ?ボスからまだ命令は出されてねぇだろ?」

「いいや、さっき一回戦場に出て、こっちに戻ってきたところ。もう戦いは始まってるよ」

 ……オレが作戦室から出て、まだ数分しか経ってないはずだが、そんなに早く事が動いてたのか?

「不自然だな。なにかおかしいぜ。お前らの機械でなにか分からねぇか?」

「今のところ変なことは起きてないと思うけど?」

「……メイ、これ見て。周囲の空間に異常が起きてる」

「異常?」

「……あたし達の周辺だけ、時間の流れが遅くなってる」

「周辺ってのは、具体的にどこだ?本部全体か?」

「ううん、異常地帯が点々と分散してる。このホールとか、廊下とか屋上部とか、まるであらかじめ決められた座標にだけ、異常が起きるように設定されていたみたいな……」

 ……死神じゃねぇ、だったらボスがそうしてたことになる。どういうことだ、なんでそんなことを。

「まずいね、カンスケに何か仕掛けられてた。早くナナゴウの所に行かないと!」

「オクゼツさんも一緒に来て、ナナゴウが危ない!」

「いや、オレは本部の中全部を見て回ってから行く。これがボスのやったことだとしたら、なにか意味があるはずだ。それにナナゴウはお前らが思ってるより強いぜ。お前らが焦ったら足手まといになるぞ」

 アーマーに乗り込むメイとソノコを視界の端に捉えながら、オレはホールを出ようとした。ボスがしたことには全て理由があるはずだ。戦場は今どれくらいの時間が経った?オレがこうしてる間にも、予測不可のなにかが起きてるかもしれねぇ。

「待って、臆舌!これ総司令が、マリアが言ってたことなんだけど……」

「なんだ?」

「カンスケは、闇の勢力が全滅することが分かってて、闇の核と戦ったって。そうなるように仕組んでたって」

「……そうか」

「そうかって、まさか知ってたの?」

「知るわけねぇだろ。だがボスの精神がぶっ壊れてるのは分かってる。その上で、オレはボスを誰より信用してんだ」

 ボスの中には二つの性質がある。子供みてぇに無邪気でどこまでも残酷になれる破綻した性質。なにがあっても仲間を見捨てねぇ誰よりも優しくて頼りになる性質。その両方がごちゃごちゃになってるのがボスだ。

 仲間を救う為なら、どこまでも残酷な選択を出来るのがボスだ。ボスは結果的に最善の方向に物事が動くなら、なんだって見殺しにする。闇の核との戦いがなければ、この世界に先がねぇと読んでたなら。いつかくる死神との戦いを勝ち抜けねぇことを予測していたなら、闇の勢力を全滅させることだって厭わねぇだろうな。

 ただ、おそらくボス自身はそれを選択した自覚がねぇ。あの人は本当に仲間を守ろうとして、なにもかも失ったと考えてる。だからこそ信用出来るんだ。ボスは常軌を逸した次元で、常に最善のことをしてくれる。なにを犠牲にしてもな……。


次回へ続く……

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