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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第十一章 旅の終わり

十一章 旅の終わり


「ママもほら、作り笑いなんてしてないで、本音で話そうよ」

「あなたがそれをしていないでしょう」

「そんなことないってば」

 なぜかママは、このなにもない空き室を好んでいる。闇さえなければ、窓から制御装置が見えるこの部屋を選んでここにいようとする。とりあえず小さなテーブルとイスを運んできて、親子二人水入らずで会話をしようとはしてみてる。でも強情だなぁ、おれがどれだけ歩み寄ろうとしても、ママは一向に心を開いてくれない。こっちは腹くくって関係修復の努力をしてるのに、全然相手にしてくれないからなぁ。

「クリス……」

「違うよ」

「……カンスケですからね。そうです、あなたはカンスケですから」

「いいじゃんそこは。名前変えたくらいで本音まで変わらないって」

「なぜあなたが、遠く離れた日本という地へと渡ったのか。顔も名前も変え、そこでなにを求めたのか。わたくしには理解出来ています」

「ほんとにぃ?」

 ママがおれに対して何を求めているのか。それがおれには分からない。魂の分解をやめさせようとしているのは分かる。ただそういうことじゃあないんだ。もっと、こう、おれという人間そのものに対することだ。おれがなにをするかではなく、おれがどうあるべきか。そこに意見があるみたいなのに、それを全然話してくれない。

「人という生き物は不思議なものです。あなたが好んで読んでいた本に目を通してみました。マンガ、コミック、そういったものです。そこには人のあるべき理想の姿、友情や、努力や、夢の大切さが描かれていましたね」

「ドラマがあるよね。心躍る素晴らしい作品たちだよ。で、なにが不思議なの?」

「創作の中に人のあるべき理想を描くことは出来るというのに。なぜ現実の人間は、こうも愚かで醜いのかです」

 ママらしくない、人間を否定する言葉が出てきたな。これはちゃんと聞いておいた方がいい、その人らしくない発言の中にこそ、その人の本音がある。

「あなたは現実の人間に絶望し、創作の中にだけある理想を、そこにだけ存在している理想の体現された世界を求めた。日本という国はそういった創作作品が、他の国よりも自由かつ豊富でしたからね」

「現実逃避ってことかい?」

「そのときすでに、あなたの心は壊れていたのです。あなたはそれに気付いていない。今ここにいるあなたは、本当のあなたが演じているカンスケという『キャラクター』に過ぎません」

「あはは、そんなこと分かってるよ」

 ママの顔から作り笑いが消えた。おれの発言の真偽を探っているみたいだ。

「おれがカンスケになることを決めたのは、師匠と出会ったからだよ」

「魔女様ですか」

「あの人は、本来ありえないはずの理想を実現させた人だからね。現実の人間にもそれが可能であることを気付かせてくれた。ただ、元のままのおれではそれは出来そうにない。事実出来なかった。だからカンスケになることにしたんだ。師匠が用意した舞台の上で、おれはカンスケを演じ続けてる」

「……それは、あなたが本当に望んでいることなのですか」

「人は変わるんだよママ。今おれがやっていることは、今のおれが本当に望んでいること。おれはもう、全ての人間を救うことを諦めた。人間には救う価値のある者と、切り捨てるべき者がいる」

「あなたの仲間は、切り捨てるべき者だったというのですか?」

 ……どういう意味の質問だろうか。おれがいつ、自分の仲間を切り捨てた?そんなことをした覚えはない。するわけがない。救う価値があると判断した人しかおれは仲間にしていない。かつてのように、裏切られることになるからね。

「それに気付いていないから、あなたの心は壊れていると、わたくしは言っているのです」

「ママがなんのことを言ってるのか、おれには分からないよ」

 ママの顔に作り笑いが戻ってきた。……諦めたみたいだ。もう、おれと話をする価値はないということか。

「やはり、わたくしはあなたを止めねばならないようです」

「もっとはっきり言いなよ。殺さないといけないって」

「子を殺める罪を、わたくしは背負いましょう。死神との戦いの後に」

 交渉決裂か。どうにか光側との争いを止めようとはしてみたけど、これはもう無理か。ママが言った通りだな。創作の中で理想を描けても、現実の人間はこうも愚かだ。

 そして何が腹立たしいかって、おれもその愚か者の一人ということだ。

「死神の件が片付くまでは停戦を続けよう。今だけは共通の目的がある」

「お行きなさい。客人もいらしたようです、もうここにいる理由はないでしょう」

 強大な力が近付いていることは分かっていた。奴はこちらが分かりやすいように、わざと真正面からゆっくりと進んでくる。決戦はまだ先だ。だが、宣戦布告しにきたということか。

「じゃ、おれは死神の王を出迎えてくるよ」


 本部の正面入り口に行くと、ガンジイさんだけがそこにいた。王様が近付いてること、他の人も感じ取ってると思ったけど。いや、みんな分かっている上で戦いの準備を優先してるのか。ガンジイさんはリラックスした様子で、おれに声を掛けてきた。まだ戦いが始まるときではないことも、分かっているみたいだ。

「休戦を、強く呼びかけてくれ。戦う必要などないのだと」

「一応言ってはみるけど、それは無理だと思うよ」

「私も承知の上だ。この戦いの後に、協力関係を結ぶことが目的だ」

 死神達は、必ず戦いを仕掛けてくる。奴らの狙いは二つ。まずレイレイの無の力を消滅させること。これだけが目的なら戦わずに済んだかもしれない。でも二つ目の目的に、この世界が、宇宙の崩壊を乗り越える可能性を見定めることがある。要はおれ達の力試し、品定めだ。

「麗冷は、無の力を消滅させることを決めた。本来であれば無用な戦いのはずなのだ」

「でもねぇ、大多数の知性ある生物って、争わずに済む理由よりも、争う為の理由を探してしまうからさ」

「そうでなければ、死神があれほどの強さを持つ理由がないか」

「戦士だからね、彼らは。死神であると同時に、戦いを求める性質の持ち主だから」

 ガンジイさん以外の人達は、予想通り今もせっせと戦いに向けて準備を進めているらしい。みんな冷静だな、まぁここで慌てふためくような人は、最初から決戦のメンバーとして集められてないか。

 ガンジイさんは「用心せよ」と気遣いの言葉を残して、本部の中へ戻っていった。わざわざおれを待っていたのは、レイレイのことが心配だからだろう。彼女の命は保障されている、と、思う。保障されているはずだと断言は出来ない。死と同時に無の力が暴走すれば、死神界もそれに巻き込まれて消滅するから、命を奪うまでは出来ないという理屈は成立する。ただ、それを死神がよしとしていたなら、話は変わってくるわけだ。

 真っ暗な平野を、たいまつを掲げながら真っすぐに進む。死神の王も、真っすぐこっちに向かってくる。そして本部から一キロも離れていない地点で、おれと王は顔を合わせることになった。

「実際に会うのは初めてだね。おれがカンスケ、きみらが散々警戒してる相手だよ」

「余のことは、先日の魔女との戦いを通じてすでに知っているはずであるな」

「すごかったねぇ、あれ。見ててワクワクしちゃったよ」

「余を、死神を、止められると思うか?」

「かろうじて、ね」

 王は「それは楽しみだ」と笑みを浮かべた。たぶん浮かべたと思う。顔が骨に覆われてていまいち表情が見えない。おれは王に停戦と協力の意があるのかを確認したけど、返答は予想通りのものだった。

「我ら死神すら超えぬことが出来ぬ者達に、宇宙の崩壊を超えられるわけがなかろうよ」

「だよねぇ、やっぱり戦うことになるよねぇ」

「そなたらの命が保証されているなどとは考えぬことだ。死神が消滅することになろうとも、余らは全力をもって戦に臨むつもりだ」

 予想がまた嫌な方向で当たってしまったな。レイレイの無の力は、彼女の精神に多大な負荷を与えることで暴走し発動する。本人の死だけではない、レイレイが大切にしている仲間の死でもそれは起こりうる。死神がこちら側の誰かを殺めれば、それはこの世界ごと、死神界の消滅をも招きかねないわけだけど……。

「自分達が消滅しても構わないと。そっちも覚悟を決めてきたわけだ」

「余が死神となり数千年。このような事態は初めてなのだ。魂をかける価値のある戦であろうな」

「どっちも宇宙の崩壊を超えるっていう目的は同じなのに。戦わないといけないなんてね」

「余の目には、そなたはそれを楽しみにしているように映っているが」

「おれはさ、ドラマが見たいんだよ」

 王は高らかに笑った。声が周囲に響く、テノール歌手のような笑い方だ。この戦いを楽しみにしているのは、お互い様ってわけだ。魂の可能性を炸裂させる戦い。人は崩壊を超えられると、それを信じさせてくれるものを見られるだろうか。

「三日後だ。死神は三日後に、戦いを始める」

「教えちゃっていいのそれ?」

「余が望むのは、そなたらの全力だ。その力を見定めること。奇襲を用いるつもりなどない、全方向から、こちらも全力をぶつけさせてもらおう」

 王はそういうと、闇の中へと消えていった。三日後か。それだけあれば十分だな。全方向から来るという王の言葉に偽りはないはず。元々そうするはずだとこっちも予想した上で陣を敷いてあったし。全方向、ね。やっぱりそうなるか。真正面からではなく、あらゆる方向から、ね。

「オクゼツくんに、かなり頼ることになるなぁ。なるべく早く前線に出したいけど」


 最初に三勢力が集まった部屋に、再びみんなが集まった。わたしと園子でホールを機材だらけにしちゃったから、ここ以外に手頃な集合場所がないのだ。座る席は最初と同じ。机の上にはカンスケがつくった立体地図が広げられている。いよいよ、作戦を決定するときがきた。

 緊張感のある顔つきをしているのは、ガンジイとナナゴウ、明もきゅっと口元を引き締めてる。リラックスしているのはムクとミニちゃん、オクゼツもいい意味で力が抜けてる。ヤヨイはむすっと不満げな顔で膝の上にファイブを座らせている。ナナゴウはやっぱりヤヨイと一緒に戦う気はないみたい。園子は怖がってるのが見え見えだし、マリアさんは相変わらずの作り笑い。カンスケは真面目を装ってるけど、戦いを心待ちにしているワクワク感が目の奥にある。

 つまり、みんないつも通りってことだ。それは安心材料であると同時に、心配の種でもある。ガンジイとかムクみたいな完成体ならいいけど、殻を破らないといけないナナゴウなんかがいつも通りなのは、ちょっと心配。安定感があるというのは、裏を返せば通常通りの力しか出せないということだ。まぁ、なるようになるか。

「じゃあ、まずは誰が誰と戦うか、それを伝えていこうかな。死神は三人に対して、こっちは十一人と一匹。数ではこちらが有利ではあるね」

「王は全方向から攻めると宣言したらしいが、大量の傀儡(くぐつ)でも使うつもりであろうか」

「オレの分身みたいなことか?ボスが敷いた陣の中では、敵の術は分解されちまうはずだぞ」

「なにをしてくるか断定は出来ないけど、まずは数の不利を覆そうとしてくるはず。オクゼツくんにはまず、そのなにかの相手をしてもらうことになる。目には目を、数には数をってね」

 昔から物量攻めは戦いの基本だ。基本は数が多い方が勝つ。その数の差を埋めるためにあれこれ作戦を練るわけだ。

「それから死神は、離れた地点にそれぞれ主戦力を投入してくるはず。ノイとヴォンって二人だ。レイレイちゃんのそばから、防衛隊を引きはがそうとしてくるはず。こっちはそれを迎撃しにいかないといけない。この本部の中に敵味方の全戦力が集まるのは駄目、混戦の中でレイレイちゃんを守り切るのは無理だ」

「ノイの方は相当な手練れであった。光側の施設で軽く手合わせをした程度だが、実力は十分に分かっている」

「ヴォンってのもやばかったよ。何回壊してもすぐ再生するでかい奴。ナナゴウの力を強制開放して、あのときは撃退出来たけど」

「その二人が本部までの道を拓いて、王がこっちの心臓を止めにくる。レイレイちゃんっていう、お互いの世界にとっての心臓をね」

「しかし、わたくし達が死神の策に応じる必要はないでしょう」

「もちろん。敵の作戦通りに事を運ばせたら、負け戦で確定だ。こっちの策もぶつけさせてもらう」

 戦場というのは、自分がやりたいことと、敵がやろうとしていることのぶつけ合いだな。純粋な戦力差を補うために、古来から人間はあれこれ作戦を立てたり、砦を築いたり、武器をつくったりとまぁ、互いを滅ぼし合うために努力してきたわけだ。

「柔軟に動いてもらう必要はあるけど、基本的な人員配置は決めてある。これを見てもらうおうかな」

 カンスケが地図の上で手を振ると、別の立体的な像が浮かび上がってきた。そこにそれぞれが戦う予定の組み合わせが描かれている。

「ヴォンの相手をするのは、メイとソノコ、そしてナナゴウの三人だ。光側の施設でヴォンと対峙したことのある三人の予定」

「うちとファイブは入ってないのね、結局」

「ヤヨイちゃんは、レイレイちゃんの護衛。その方がいいでしょ?」

 ヤヨイを頃合いを見てナナゴウの所へ向かわせたい旨は、わたしからカンスケに伝えてあるし了承済み。カンスケもその方がいいと思ってる。

「ノイの相手はムクちゃんとミニちゃん。後はオクゼツくんに応援に向かってもらう」

「私はノイの相手をしたことがある。オクゼツは麗冷の護衛につけた方がいいのではないか?」

「いいや、ガンジイさんは王と戦ってもらう。おれと、ママと、ガンジイさんが王の相手になる」

 それぞれの勢力のトップ三人か。この三人で王に勝てなかったら、他にもう王に手出しできる戦力はいないな。今のところは。

「レイレイちゃんはここ、本部の中にいてもらうよ。きみがやられたらこっちの負けであり、死神の勝ちだからね」

「ずっとここにいるの?」

「そこは柔軟性をもって、きみ自身の判断で動いてもらうことになる。おれやガンジイさんが、常にここにいてきみの護衛につける保証はない。戦場は常に予測不能だ。今言った人員配置だって、突然変わる可能性を、全員が頭に入れておいてもらわないとね」

 カンスケはお姉ちゃん、魔女については一切の言及をしなかった。あの人がなにをするか、もしくはしないのか、最大の予測不能存在だ。お姉ちゃんに関しては、最初からいないものとして考えた方がいいな。


 ついに、最後の戦いが始まるか。六〇年という歩みが、私をここへと導いた。私が歩み始めた頃、この旅の始まりに、これほどの戦いが起きるなどとは想像もしていなかった。私はただ、世界の闇を晴らし、かつてあった太陽を求めていただけであった。全ての人間の未来に、光をもたらしたかっただけであった。

 この数か月の間に、全てが変わった。闇の中を駆けてきた一人の少女との出会いが、なにもかもを変えた。これまで私が歩み続けた道は、全てが麗冷と出会う為であったと言ってもよい。この子が私の旅に、意味と結末をもたらしてくれたのだ。

「ようやく、明と一緒になってくれるね」

「まだ死ぬつもりはない」

「死神との戦いが終わったら、早く死んでよ」

「この体が動くまでは、役目を果たし続ける。しかし……」

「もう、旅は終わりでしょ?」

「あぁ」

「楽しみだね、臆舌とムクがどうなるのか。隠居して見守れるよ」

 オクゼツの人生はそこからが本当の始まりといってよかろう。奴は本来、人々を先導すべき者だ。先頭に立って歩く者。これからの時代を築く、その長となるべき者であろう。私は最後尾からそれを見守ろう。この体が動く間は、まだその歩みについて行かせてもらう。

「懸念点は、カンスケとマリアだが」

「どうしようね、あの二人は。でも明とか臆舌が口出し出来る問題でもないよ」

 カンスケやマリアは、戦いの後どうするつもりなのであろうか。このまま争い続けることを、選択するわけがないと信じておる。ナナゴウとヤヨイは心を通わせつつある。子供達が和解の道を選び、歩み寄っているというのに、老人達が争い続けるなど、これ以上恥の上塗りを続けるわけにもいかないであろう。

「マリアから、戦いの後のことは聞いておるのか?」

「なにも。ただ、あの人は力尽くでカンスケを止めるつもりだよ」

「……親の愛情故に、か」

「だね。子供の為に尽力することは親の義務。でも道を誤った子供を止めることも、その親の義務だよ。それに光側の長という立場もあるし。でもそれはもう、外野が口出しすることじゃないよ。みんなには他に、やるべきことがあるでしょ」

 その通りだ。死神との戦いの後にも、まだやるべきことは残っている。この世界に、太陽を取り戻す。しかしそれは……。

「この世界の先は、子に任せてよいのだと、今は思えるのだ」

「よかったね、レイレイと会えて」

「あの子の為に、そして私自身の為に、私は重荷を下ろす事が出来た」

「ようやく、自分を許せた?」

「そうだな」

 穏やかだ。心の底に吹き荒れていた嵐は、すでに過ぎ去った。己の無力を許せぬ怒りの炎が、私を焼くことはもうなかろう。私が果たすべき役目は、後一つで終える。死神の王を撃退し、子供達の背を押すことだけが、残された私の役目。残りたった一つの使命だ。

「私より強き者が、次世代を担う子供達がいる。私の旅は、私自身の手で太陽を取り戻す為の旅ではなかった」

 子供達の為に、道を拓くこと。それが私が続けてきた旅の意味であった。私が歩み拓いてきた道を、さらに先へと繋げてくれる子供達がいる。それを託せる次世代と出会えたことが、私の旅の終着点であったのだ。


「本当に、園子も戦うの?」

「あたしは明のサポートだよ」

「本当にロボット完成させてるとは思わないじゃん」

「もっと巨大なのにしたかったんだけど。だいぶ小型化しちゃった」

 ホールにはわたしと園子の二人だけ。園子が設計図を準備してたロボットを二人で組み立てていく。園子と明はこの本部の中から、そのまま外に出ることが出来ない。闇のエネルギーに魂を焼かれてしまう。だからエネルギーを遮断して直接魂に触れないように、防護アーマーを着る必要がある。それが二人乗りのこのロボットだ。

「ナナゴウとヤヨイみたいじゃん。二人乗りアーマーって」

「……そうだね」

「もう戦わせたくないなんて言わないでよ。園子だって覚悟決めてるんでしょ。あの二人だってそうなんだから」

「分かってるよ」

 カンスケが死神の王と接触して、決戦は三日後になると確定した。こちらが準備する為の時間を、わざわざ用意してくれたってこと。それまでにはこのロボットも完成する。園子に向かって「戦わないで」なんて言えない。わたしも含めて全員でかからないと、この戦いには勝てないだろう。わたしだって、ずっと本部の中で守られているばかりではいられない。前線に参戦するなんて無茶はさすがに出来ないけど、状況を見て動く必要は出てくるはず。

「だるいね」

「なにが?」

「無の力、わたしが敵意を向けられる相手には問答無用でぶつけられるんだけど。死神って悪い奴等じゃなくてだるい」

「その力にはもう頼らないって言ったじゃん」

「でもいざってときの切り札にはなるし。いや、使えないんだけどね結局。死神に対して憎しみとか湧いてこないから」

「……あのときみたいに、あたしとか、もし誰かがやられたらどうするの?」

「どうだろう。死神が初めて出てきたときは、正体が分かってなかったけど、今はもうあいつらがなんなのか知ってる。でも力が暴走しないとも限らない。今は普通に話してるけど、実際わたしはもうほとんど力に呑まれて消えかけてるからね」

 ガンジイがこれでもかと言いふらすものだから、みんながわたしは無の力を放棄したと思ってる。あそこまで嬉しそうにされると、実際は本当の計画を実行するつもりのわたしとしては罪悪感が芽生えてくる。でもまぁ大丈夫だろう。そのうちそれが、わたしが選んだ道なんだって理解してくれるはず。その信用があるからわたしは心置きなく消えることが出来る。

「いいおじいちゃんだね、ガンジイさん」

「わたしの中ではお父さんだけど」

「あたしにも言ってきたよ。『これからも麗冷と共にいてやってくれ』って」

「おせっかいな……」

「それに『あの子はまだ、自分を愛せていないのだ』とも言ってたよ」

「おせっかいだ……」

 わたしはこの旅の中で、強くなれたのかな。時間を巻き戻せたとしたら、ロイさんとアリーンさんを、今なら救えるのかな。……無理だな。

「ガンジイにさ、出会った頃に言われたんだ」

「なんて?」

「いつか弱者を許せるようになるはずだって」

 その弱者というのは、わたしのことだ。わたしは今でも、ロイさんとアリーンさんを救うことが出来ない。自分にそんな力がないことは分かってる。その無力な自分を、わたしは今でも許せない。ガンジイは……、どうなんだろう。理想を曲げることを、諦めることを、受け入れることが出来ているのか。それを選択することを、自分で許せたのか。

「アイはさ」

「うん?」

「本当は、自分一人だけで消えるつもりでしょ」

「うん」

「あたしも一緒に消えるからね」

「無理だよ。無の力に定められたのは、わたしだけだから」

「そうでもしないと、許せないの?」

「うん」

 誰かの為じゃない。そうしないと、自分が納得出来ない。自分を受け入れられない。わたしが本当の計画を実行するのは、自分の為。無力な自分を、許すためだ。

「ガンジイさんの言う通りじゃん。自分を愛しなよ。そんなバカげたことやろうとしてないでさ」

「どうやったら愛せると思う?」

「ガンジイさんは、その為に理想を諦めたんだよ」

 ……そういう、ことだったのか?わたしの手本となるために?わたしが自分を許せるように、それを受け入れられるように、まずガンジイが理想を諦めたってことなのか。ガンジイが歩んできた道の重みをわたしは知ってる。理解してる。その重みを脱ぎ捨てることは、諦めることは、弱さではなく強さなのだと。それをガンジイ自身の行動をもって、わたしに教えようとしてくれていた……?

「ガンジイさんは優しい人だから。自分の為には理想を捨てられなくても、アイの為には捨てられたんだよ。それが本当に強い人のやることだよ」

「……ガンジイは、優し過ぎるんだよ」

「アイはその優しさを裏切ろうとしてるんだよ。本当にいいの?そうしてまで、自分だけ消えたいの?」

「わたしはもう決めたの」

 今さらどれだけ説得されたところで、わたしはもう迷わない。それがわたしの決めた道だから。

「あたしはね」

「なに?」

「アイを愛してるよ」

「そっか」

 さらっと言うなぁこの人。否定してこない。わたしを愛してるから、わたしのすることを受け入れると。園子は本気だ。本気でわたしと一緒に消えるつもりだ。願望じゃない、本当にそれが出来るなにかを、すでに得ている口ぶりだ。

「お姉ちゃんが方法を用意してくれたの?あの人もわたしの計画に反対してるからね」

「色々と提示されたけど断った。あたしだけで出来る」

「じゃあ待ってるよ」

「うん」

「園子だけだよ、こんな甘え方出来るの。もしムクとかにそれ言われてたら、わたしが折れてた」

 今思えば不思議な旅だったな。太陽を見つけるために始めた旅の、終わりがこれなんて。なぜこの世界が闇に包まれているのか、太陽はどこにあるのか。それを知ることが、見つけることが旅の終わりだと思ってたのに。それがこんな所に辿り着くなんて。

「わたしさ、ずっと自分は、自分の人生の主役になれないと思ってたんだ」

「そんな難しいこと考えてたの?」

「わたしはこの世界の、この舞台の上にいる別の誰か、その主役を引き立てるだけのわき役だって」

「……人生なんて、そんなもんじゃない?」

「そう思ってたよ。この舞台の主役はガンジイだろうなって。でもどういうわけか、こうなっちゃったんだ」

 この舞台の主役は、わたしだった。この世界から闇が晴れたところで、太陽を取り戻したところで、わたしはきっと満足出来ていない。わたしが求める強さを得ることが、わたしの求めた旅の終着点だから。


次回へ続く……

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