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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第十章 嵐の前 五

十章 嵐の前 五


 オレはどこまで、悪夢に追いつけたか。ボスにオレの肉体が変異しているらしいことを伝えると「自分で気付いてなかったの?」と笑われた。死神の奴らが攻め入ってくるのはいつになるか、実際奴らが来るまで分からねぇ。それまでにもっと強くなっておかねぇと。

 幸いなことに、ガンジイとムクの二人との稽古が積めるようになった。静と動、対照的な二人の達人がここにいる。肉体の変異が起きたことで、格闘戦の重要性が増した。分身を使った戦いだけじゃねぇ、そこにオレ本体の力を乗せられるようになった。それでもまだ、オレは悪夢を超えられねぇ。あの死神のじじいに追いつけたとも思えねぇ。どうすれば、その壁を越えられるのか。

「ムクとはうまくやっておるのか」

「あ?訓練の様子ならお前も見てるだろ」

「そうではない、人としてだ」

「あー、なんだろうな。なんであいつ、オレに懐いてるんだろうな」

 ムクはどういうわけか、隙あらばオレと一緒にいたがる。なんでか分からねぇが、オレはどうにも子供から好かれることが多い。こんな乱暴者の近くにいたって、いいことねぇだろうにな。

「兄さん、僕の方もお願いします」

「おう、加速の感覚はつかめたか?」

 そんでナナゴウだ。こいつもどういうわけかオレに懐いてる。しかもオレを「兄さん」と呼び始めた。まぁ呼びたいようにさせておけばいいや。光側の連中も、ナナゴウのやりたいようにさせてるみてぇだしな。明にも「あの子をよろしく」と言われたし。

『よろしくじゃねぇだろ、光側のお前らが面倒見てやらねぇでどうすんだ』

『ナナゴウはもう、こっちには心を開いてくれないよ』

 「ふざけんなこの無責任が」と言いそうになったが、口からそれが飛び出る前に止めておいた。ここで身内でいざこざ起こして、いいことなんてねぇからな。レイレイからちらっと聞いたが、明は兵隊を鍛える担当。ソノコってのが兵隊じゃなく人として大切にする担当って感じで、役割分担はしてたらしい。それがうまいこと嚙み合っていればよかったんだがな。

「やはりまだ、五感で位置を掴むというのが難しいです。どうしても視覚に頼ってしまって」

「……やっぱり問題点は別のとこだろ。いくら加速についていく訓練したって、そもそもその出力が出せないと意味がねぇ」

 ナナゴウもそれは十分承知の上のはずだ。いくら加速の感覚に慣れたって、自力でその速さを出せねぇなら無意味だからな。こいつの体は魂のエネルギーを転化出来るのに、それを全然制御出来てねぇ。心の在り様、そこにある迷い、そういったもんが邪魔をしちまってる。

「臆舌よ」

「ん?」

「お前もナナゴウと同じ課題を抱えておる。お前達二人がすべきことは、戦闘訓練ではない」

 オレとナナゴウが同時に「あー……」と何ともいえねぇ声を出した。オレの肉体が変異したのは訓練の結果じゃねぇ、心境の変化だ。心の在り方が変化した結果だからな。なら、壁を超える鍵もそこにあるか……。

「今から新しいことを始めるべきではない。付け焼き刃はかえって隙を露呈させるだけであろう。ここからは死神の襲撃に備え、休息をとるべきだ。己の基礎を信じ、現在の全力を出すことに注力すべきだ」

「そうは言ってもよ、決戦まで楽しくおしゃべりってわけにもいかねぇだろ」

「いいや、それでよい。こうして三勢力が集まったのだ。互いをよく知ることが、戦闘時の連携にも繋がる」

 そういや、ボスはまだ戦力をどう分担させるか決めかねてるみてぇだったな。こっちが決めた戦い方に、向こうが素直に乗ってくれるわけねぇしな。こっちの都合と、あっちの都合、どこをぶつけ合って、なにを押し付けて、なにを受け入れるか。オレが口出しすることじゃねぇな、ボスが決めたことに従った方がいいに決まってる。

「女性陣は最近、いつも一緒にいて話し込んでますからね」

「なんの話してんだあいつら」

「ダンデいわく、愛や恋についての議論を交わしているらしい」

「ダンデ……?誰だそいつ」

「ミニちゃんの本名ですよ」

「あいつオスだろ。なんで女連中に混ざってんだ」

「ミニちゃんってオスなんですか……?」

「メスなのかあいつ……?」

「植物に対し、人間と同じ雌雄を適用すべきではない」

 なんだこの気の抜けた会話。女連中も決戦を前に、色恋沙汰の話なんてしてる場合かよ。……いや、決戦後の世界を繋いでいく為に、必要なことではあるけどよ。人の歴史を繋いでいく為には、男女の出会いが不可欠ではあるからな。

「そうか、あいつらなりに、そこまで考えた上でってことか」

「決戦の後のことを想起することで、士気を高めているわけですね」

「いいや、ただ話して楽しんでいるだけらしい」

「どういうことですか、兄さん。僕には行動原理が理解出来ません」

「知らねぇよそんなもん。女にしか分からねぇ世界があるんだろ」

 どうなってんだあいつら。なんでそんな呑気でいられるんだ。分からねぇな……。それが女の強(したたか)さってやつなのか……。なんなんだろうな……。


「あんた、本気でそれ言ってんの……?」

「おー。死神と戦い終わったら、子供つくって育てるぞー」

「でも臆舌はさぁ、きみのこと子供扱いしてるよ」

 工具室で武器をいじりながら、ムクとメイ、うちの三人で話を進める。レイレイとソノコは、ミニちゃんと一緒にどこか行った。新兵器の起動がちゃんと出来るか試験するらしい。あの機械犬、構造を分析したら武器として使えるものだったらしい。ナナゴウは絶対嫌がるな、あの子を武器にして使うなんて。うちも嫌だし。そういえばまだ名前を決めてあげられてない。どうしようかな。

「あたしはまだ子供だぞー。でも子供はもうつくれるぞー」

「そういう話じゃないよ」

「あんたいつからオクゼツのことそうやって見てたん?ちょい前のオクゼツ、すさんでで酷かったし。その頃のあいつに会ってんでしょ?」

「弱っちかったなー!初めて会ったときのあいつなー!めっちゃ弱くて酷かったなー!」

 ぼろくそに言うじゃんこいつ。今の成長したあいつを見てときめいちゃったのか……?ここ数か月の中で、一番能力値が上がってるのはオクゼツで間違いないし。今のあいつ、闇の核と戦うことすら出来るらしい。信じられんし。でも模擬戦したガンジイがそう評価してたから、実際そうなんだろう。

「臆舌はほんと優しい奴だから、明は賛成だけどね。ただあいつがきみのこと、そういう目で見てるかって話」

「どーいう目だー?」

「夫婦になりたいと思ってるのかって話」

「母ちゃんが言ってたぞー!男の前で裸になれば、次の日から夫婦になってるもんだってなー!でも恥ずかしいよなー!」

「あんたの母親、なんてこと教え込んでんの?」

 メイがすかさず「それはないね」と、若干不機嫌な感じで否定の言葉を吐き出した。過去にしたことある上での発言だしこれ。

「頑爺さぁ!明が裸になっても顔色一つ変えなかったんだけど!」

「じいちゃんがそんなもんで顔色変えるかー?」

「そんなもん!?」

「ていうかあんた、魂だけだから子供つくれないし」

「いや違う、六〇年前の話。ガンジイがまだ十五歳のとき」

 それはすごいし。十五の頃からあの人はもう「ガンジイ」だったのか。人格の土台って、それくらいの頃にはもう出来上がってるもんなのかな。……じゃあ、うちの土台ももう出来上がってしまってるのかな。いや、成長は出来るはずだし。オクゼツがあれだけ変わったんだから。

「で、きみの方はナナゴウとどうなの?」

「は?なんでナナゴウ?」

「なんでって、いつも一緒にいるでしょ」

「は?いつもっていつ?」

「いや、だからいつもだって」

 そうか?……そうかも。そういえば一緒にいることが多い気がする。

「お前、ナナゴウと仲いいのか悪いのか、よく分かんないなー」

「……まぁね」

「ナナゴウが心開いてるの、きみとオクゼツだけなんだよね」

「うちら闇側なんだけど。なにやってんの、あんたら光側」

「きみ達の前でだけなんだよ、あの子が子供のままでいられるの。こっちじゃあ大人を演じないといけないから。あの子が自分はまだ子供なんだって気付けたのは、きみのおかげなんでしょ?」

 そこは別にお互い様。うちもまだ子供だと思い知らされたし。

「でもあの人は?レイレイの友達、ソノコって人」

「ナナゴウも今は分かってるはずだよ、本物の恋愛感情じゃないって。ソノコは母親代わりになってただけ。子供がよく言う『大きくなったお母さんと結婚するー』ってやつだっただけ」

「あたしも父ちゃんに言ったことあるなー。大人になったら父ちゃんと結婚するーって」

「お父さんのこと、大好きだったんでしょ」

「今でも大好きだぞー」

「でもそれ、臆舌に対する好きとは違うでしょ」

「だなー」

「厄介なのは、ソノコは本当の母親じゃないもんだから、ナナゴウも感情の落としどころが分かんなくなってた。肉親に対する愛情と、他人に対する愛情の区別がつかなくなって、意味わかんないことになって挙動不審になってただけ。きみのおかげで、その区別のつけ方が分かったんだよ」

 ……きみのおかげってなんだ。なんでうちのおかげなんだ。ていうかこいつ、思ってたよりちゃんとナナゴウのこと見てたし理解してたんだな。でもそりゃそうか、光側の人間だし。兵隊の育成って役割上、子供らの前では教官でいないといけなかったから、理解してた上でメンタルケアはソノコに任せてたってことか。

 なんてことを話したり考えたりしてたら、ソノコが来てうちを呼びだした。

「ヤヨイ見っけ。倉庫まで来てくれる?試験の手伝いしてほしくて」

「ん、分かった」

「……でも、ほんとは手伝ってほしくない内容なんだよね」

 なんだそれ、呼び出しに来ておいて。まぁとりあえず行くし。うちになにをさせるつもりなんだろ。


 本部のホールに行くと、ごちゃっとしてた計器の山があった。いつの間にこんなに色々運び込んでたんだ。うちとソノコが着いたときには、ナナゴウもそこにいた。ついさっきレイレイが連れてきたらしい。

「お姉ちゃんがつくった機械の犬のボディね、あれとんでもない代物だった」

「まず名前をつけてあげないといけないの。それを登録するから」

 ナナゴウがうちの方を見てきた。うちに決めろって?考えてたけど、なんも浮かんでこないし。当の犬はしっぽをぶんぶん振り回しながら、ミニちゃんと追いかけっこしてる。あ、ミニちゃんが捕まった。転げ回されてるな、本人は楽しそうだけど。

「では、ソノコさんが決めてください」

「自分で決めた方がいいよ」

「僕も考えていたのですが、どうにも思い浮かばないので」

「うちも同じく」

「……じゃあ、『ファイブ』はどう?実はあたしも名前考えてたんだよね」

 レイレイが「五番目ってこと?」と質問を飛ばした。どうやらこいつらが転生する前の世界の言葉で、数字の五を意味するらしい。

「ナナゴウは、自分の名前気に入ってるでしょ?あたしは今もどうなのかなって思ってるけど」

「七番目という意味ですよね。僕は気に入ってますが」

「で、気付いたんだよね。みんなの名前に数字が隠れてるって」

 ソノコの捕捉説明によると、過去の世界の数字を意味する言葉が、うちらの名前の中に隠れているらしい。レイ(0)、ムク(69)、ミニ(32)ちゃん、ナナゴウ(7)、ヤヨイ(841)。五だけまだないから、ファイブ(5)にしようということらしい。

「ナナゴウの由来は、七号だから。五は入ってないからね」

「よく見つけたね、数字が入ってるなんて」

「ではファイブにしましょう。きみは今からファイブだよ」

 犬は分かってるのかどうなのか、嬉しそうにナナゴウに飛びついて顔を舐め回している。で、名前が決まったところで、それをどうするんだ。

 ソノコは計器の山からコードを何本か引っ張ってくると、ファイブの体に接続して、また別の計器を操作し始めた。うちも多少は機械の知識があるけど、こいつがやってることはまるで分かんないな。

「終わったよ。二人で一緒に名前を呼んであげて」

「僕とヤヨイで、ですか?」

「そう、魔女は最初からそういう仕組みをつくってた。ナナゴウとヤヨイの声紋が登録されてたの。他の人じゃなにも起きない」

「二人で一緒なのよ~。仲良しさんなのよ~」

 あの魔女、うちに「もう役に立たない」とか言いやがったくせに。うちは手の上で転がされてたのか。こうなることをいつから見越していたんだ。なんにせよ、まずはなにが起きるのか試してみるか。

「「ファイブ」」

 二人でそう言うと、ファイブのボディが変形し、人型へと形を変え始めた。なんだこれ、どういう仕組み?変形したファイブは、大柄なボディアーマーみたいになった。装着するというより、アーマーの中に人が入って動かすように設計されてるみたい。上半身と下半身の境目から、上下に装甲が開いてて、中に入ると装甲が閉じるようだ。

「ナノメタルだよ。自己増殖に加えて、自己再生機能まである。ちょうど二人が入れる大きさになるし、傷が出来てもある程度は修復出来る」

「二人で?ヤヨイと一緒に、これを着て戦うってことですか?」

 アーマーの見た目は、ナナゴウが少しごつくなった感じ。黒を基調としていて装甲が厚めになってはいるが、すらっとしていて動きやすさを重視しているみたいだ。関節部には若干の隙間があって、排熱と空気孔を兼用している。頭部は丸みのある独特な形状をしているが、周囲を見る為のカメラが見当たらない。どうやって周りの状況を確認するんだこれ。

「この頭の形、中世の騎士みたいだね。園子なら分かるでしょ」

「どうしようか?本当にナナゴウとヤヨイでこれに乗って戦う?」

「いえ、乗りません」

 ナナゴウがきっぱり否定した。どういうつもりだこいつ。

「だよね、ヤヨイを危険なところには連れていきたくないよね」

「はい。前線に連れていくのは嫌です」

「うちの意見を無視するなし。まず乗ってみないとでしょ」

 ソノコが手伝わせたくないとか言ってたのは、こういうことか。うちを戦場に出さないようにしたいわけね。でもうちは前に出て戦いたい。もう後方支援ばかり、サポートすることしか出来ないなんて御免こうむるし。嫌がるナナゴウを引っ張って、アーマーの中に入ってみる。……けど、狭いなこれ。二人で入るには広さが足りなくない?

「ナナゴウがヤヨイをおんぶするのよ~。そしたらぴったりよ~」

 ミニちゃんがそう言うから、ナナゴウをしゃがませて、背中に飛びついてみた。その状態でアーマーに入ると、ほんとにぴったり。……ぴったり過ぎないかこれ。ナナゴウと密着し続けろってこと?

「……ヤヨイ、嫌ならそうと言ってくれていいんだよ」

「……別に、嫌じゃないけど」

「模擬戦の相手に、ガンジイとオクゼツ呼んでくるね。実際動けるものか、試してみよう」


「なにも、変化が見受けられぬ」

「なんにも変わってねぇぞ」

 それがガンジイとオクゼツの、模擬戦をしてみての感想だった。普段のナナゴウと、何一つ変わっていないみたいだし。強くもなってないし、弱くもなってない。ナナゴウ自身もそう言っていた。それにしてもどうなってんだこのアーマー。振動とか衝撃が全くうちに伝わってこなかった。模擬戦とはいえ、けっこう激しく動き回ってたはずなのに。

「その装甲つけて、今まで通り動けてるってのがすげぇけどな。どうなってんだそれ、外は見えてんのか?」

「外の様子は、こちらからは普通に見えてます。顔の周りがモニターになっているんです」

「なんだったらこの中にいる方が快適だし。空調とかも完璧。暑くも寒くもなくて丁度いい感じ」

「ヤヨイを背負っておるようだが、動きにくさや不便さはないのか?」

「いえ、全く。むしろ感覚共有で対峙している相手の感覚が分かるので、戦いやすくなっています。それで僕の実力が上がるわけではないですが」

 レイレイとソノコは、模擬戦の最中ずっと計器を見つめていた。ファイブの状態をずっと調べていたみたいだけど、そっちも変化なしみたい。

「絶対ただのアーマーじゃないはずなんだけどなぁ。お姉ちゃんがそれだけのものつくるわけないし」

「でもこの先は解析不能。隠された機能があるかもしれないけど、あたし達には分かんないや」

「……それならやっぱり、ヤヨイはこれに乗らない方がいいよ。特別強くなれるわけでもないなら」

「なんで?さっきあんたが言ったばっかりじゃん。敵の視界とか感覚、あんたと共有させたら戦いやすいでしょ」

「それは敵が受けた痛みを、きみも共有することになってしまう」

 それはそうだけど、ここでそんなこと気にする?うちの感覚共有は五感全部を共有してしまうから、痛みや苦しみも全部味わうことになるけど。でも世界の命運をかけた戦いの中で、そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ。

「このアーマーは着ない。ファイブやきみがそばにいたら、僕は安心して戦えないから」

「うちは役立たずだって言いたいの?」

「きみが安全な場所にいてくれるなら、そう言うよ」

「ナナゴウ、お前だけでちょっと来い」

 オクゼツがそう言って、ナナゴウだけをどこかに連れていった。腹立つ。なにあいつ、大人ぶって。自分ばっかり戦えるからって。うちは後ろに引っ込んでなにもするなって?ファイブはうちらがアーマーから出ると、勝手に変形して犬の形に戻った。あの魔女なんでわざわざ、この犬をアーマーになんてしたんだ。武器をつくるだけなら、犬でそれをする必要なんてないのに。

「……魂があるから、かな」

 レイレイがそうつぶやいた。こいつもうちと同じ疑問を感じていたみたいだけど、魂があるからってどういうことだ?

「ヤヨイの感覚共有って、魂がある相手としか出来ないんでしょ?」

「そうだけど?」

「ファイブには魂があるから、感覚共有出来るでしょ。ただのアーマーだったらそれが出来ない。たぶんそこに、なにかまだ隠されてる機能があると思うんだけど」

「しかし、ナナゴウはそもそもそれを着るつもりがないようであった」

「あんたから言ってよ。うちも一緒に戦わせるべきだって」

 ガンジイに対して言ったのではない。うちがそう言ったのはソノコに対してだ。こいつが言ったことならナナゴウは従うでしょ。

「言わないよ。あたしはそもそも、ヤヨイが戦うのには反対だもの」

「どいつも!こいつも!なんなんほんとにさあ!」

「怒っちゃだめよ~」

 ファイブがうちの周りをぐるぐる走り回ってる。どういうつもりなんだこいつも。うちに対して戦えって言う奴は一人もいないのか。

「私としても、お前はレイレイのそばにいて監視役となってもらいたいが」

「死神が近づいてきたら知らせろって?」

「そうだ」

「それもう手遅れなんじゃないの?うちの監視範囲はそう広くない。どうせ逃げられない距離だと思うけど」

「でも、カンスケもそういう作戦立てそうだよね。実際どうするつもりなのか、聞いてこようよ」

 レイレイはそう言いながら、うちの手を引いてそこから連れ出した。こいつ自身はどう考えてるのか。こいつも結局、うちが戦場に出て行くのには反対なのか。

「わたしも、ヤヨイはわたしの近くにいた方がいいと思うな」

「がっかりだし。あんたもそう言うんだ」

「頃合いを見て、こっそりナナゴウのところへ行かせてあげられるからね」

「……ふぅん」

「無力の辛さは、わたしもよく分かってるよ」

「……ありがと」


 さて、適当にナナゴウを空き部屋に連れてきて、どっから話したもんか。オレがえらそうに言えたことじゃねぇが、こいつの頑固なところは指摘しておかねぇと。将来どこぞの頑固な爺さんみたいになっちまうからな。

「さっきのはよくねぇぞ。ヤヨイが前線に出てぇって言ってんだ、そうさせてやればいいじゃねぇか」

「駄目です。危険過ぎます」

「だがお前、自分が明とかソノコに同じこと言われたらどう思う?」

「……僕はヤヨイとは違います。戦う訓練を積んできてます」

「現在の話じゃねぇよ。お前が光側の奴らに助けられた、そのとき同じこと言われてたらって話だ」

 こいつが救助された当時、機械の体を与えられたその時にだ。同じようにあしらわれたら、どう思うかだ。

「お前は子供だから戦うな、訓練もなにもしないで裏方にいろって言われてたら、お前は納得したのか?」

「……ソノコさんからは、実際そう言われてましたが」

「それでもお前を鍛えてくれたんだろ。子供を戦いに参加させたくねぇのは、明もソノコも同じだ」

「……兄さんは、ヤヨイが傷ついてもいいんですか?」

 怖がってんなこいつ。自分が戦いでボロボロになるのは構わねぇが、他人がそうなるのは耐えられねぇか。

「その恐怖がお前の弱点だな。安全な場所にヤヨイを置いとくのは、お前が安心したいだけだろ。お前が力を出せてないのはそれが原因なんじゃねぇか?」

「……ヤヨイの安全が第一です。それが間違っていると?」

「お前、誰かがヤヨイとかソノコを守ってくれると考えてるな。オレか、ガンジイか、ムクか。それともボスか?自分より強い人のそばにヤヨイを置いて置きたいんだろ。その方が安心だからな」

「当たり前です」

「お前が最高出力を出せたのはいつだ?お前が戦わないといけなかったときだろ。お前じゃないとヤヨイを守れねぇ、その状況がお前の力を引き出したんじゃねぇのか?今のお前がやってるのは、ただの他人任せだ」

 反論してこなくなったな。こいつはもっと自分勝手にならないといけねぇ。誰かに守らせるじゃねぇ、自分が守ってやると、未熟者の虚勢を堂々と張れるようにならねぇと、こいつは壁を破れねぇ。

「……なるほどです。ガンジイさんの指摘は当たっていたようです。兄さんもそうなんですね」

「あ?」

「兄さんが守りたい人は、ムクさんとカンスケですよね」

「おう」

「どちらも、兄さんより強い。それもある種の他人任せ、ですよね」

「そうだ、そこがオレの問題点、超えないといけねぇ壁だな。心の根っこの部分で、その二人を超えるなんて無理じゃねぇかって、怯えちまってる」

 ガンジイの奴も中々鋭い指摘しやがる。オレもナナゴウも、守りたい人を守れない恐怖に怯えてる。ムクでも死神に勝てなかったら、オレにどうにか出来るわけねぇという恐怖。自分に対する不信、自身の無さ。それが魂のエネルギーを引き出せない壁になっちまってる。

 理屈でいくら考えたってどうにもならねぇ。どうしたもんかと考えてると、ナナゴウは申し訳なさそうに、一つ質問をオレにしてきた。

「あの、なんで、僕にこんなに時間を使ってくれるんですか?」

「どういう意味だ?」

「まだ未熟な僕よりも、ムクさんとかガンジイさんとか、その人達ともっと話して作戦を突き詰めた方がいいと思います」

「結論言うぜ。そいつらが負けたら終わっちまうからだ。だから、オレ達二人が大事なんだ」

「……どういう、ことですか?」

「オレ達二人はまだ未熟だ。つまり伸びしろがある。ムクだとかガンジイの先に行ける可能性を持ってるのが、オレ達なんだ。ムク、ガンジイ、ボス、もし完成されたその三人でも死神に勝てなかったとき、戦況を逆転出来る可能性を眠らせてるのが、オレ達二人だ」

「……まだ完成されてない、僕達だからこそ」

「いや、違うな間違えた。ヤヨイを入れて、オレ達三人だな」

 ナナゴウは黙ってうつむいてる。難しいよな、信じられるか?あの化物みたいに強ぇ連中の先に、自分が到達出来るなんて思えねぇよ。

「だが、信じるしかねぇ。自分の可能性をよ。本気でそれが出来れば、オレ達は壁を越えられるはずだぜ」

「……努力で出来ることではない気がします」

「だな。だが最初から無理だと思ってたらどうにもならねぇよ。追い詰められたときにこそ、そいつの底力が出てくるもんだ」

 えらそうにこんなこと言えた立場じゃねぇけどな。だがだからって後進の育成しない理由にはならねぇし。少なくともオレの方が戦闘経験も人生経験もあるんだ。なら出来うる限りのことは教えてやらねぇと。

 そういや、ボスとマリアさんはなにしてんだろうな。光側のリーダーに敬称つけるのは違和感あるが、ボスの母親だったっていうなら、呼び捨てにするわけにもいかねぇしな……。あの二人もうまいこと関係修復してもらわねぇと。ぎくしゃくしたまんまじゃあ、死神との決戦で問題起きそうだがな……。


次回へ続く……

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