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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第十章 嵐の前 四

十章 嵐の前 四


 わたしがこっちに戻ってきたのは、カンスケが闇の本部周辺に敷いた陣の説明とか、あらかた話し終えたタイミングだった。三勢力が一つの部屋に集まって、ついにラストスパートって感じの光景だ。今日のところは簡単な説明に留め、まずは準備を整えないといけない。カンスケが闇の本部内に充満していた闇のエネルギーを払い、光側の人たちは自由にここを動き回れるようになった。これから武器の搬入なんかを済ませ、その上で戦力の分析をし、作戦を練り直す。

「ガンジイ、ただいま」

「なぜ無茶をしたのだ」

「いつの間にか向こうにいたの。自分でそうしたわけじゃないから」

「それを無茶というのだ」

 ずうっとガンジイの眉間によっていたしわが多少ほどけた。心配してくれるのはありがたいが、ここまでくると少しうっとおしく感じてしまう。これが反抗期というものか。わたしの中でガンジイは完全にお父さんとして確立してるのか。じゃあ明がお母さんになる?それは絶対嫌だな……。

「でね、結局自分で決められないから帰ってきたよ」

「お前が犠牲になるなど許さぬ」

「でも、そうしないとこの世界は崩壊しちゃうよ。向こうでそれが分かっちゃった」

「……カンスケらの力をもってしてもか」

「うん。わたしが自分を犠牲にする以外に無理。ガンジイが望んだ、ずっと続く人の歴史は実現しない。宇宙の崩壊で全部やり直しになる」

 またガンジイの眉間にしわが寄った。娘のわがままに困り果てるお父さんの図だ。

「……まず、カンスケとマリアにそれを伝えるべきだ。両者の争いはそれで止まる」

「でもそれじゃあ、死神と戦う理由も失っちゃうよ。どうせ崩壊が止められないなら」

「……うむ」

「伝えるとしても、この決戦が終わってからだね」

 わたしはそう言って、一旦場を離れて園子の所へ行こうとしたが、ガンジイに引き止められた。

「子よ、我らは受け入れるべきなのやもしれぬ」

「……宇宙の崩壊を?」

「正確に言うならば、己が一人の人間に過ぎぬことをだ」

 ……ガンジイは強い人だから、本当に強い人だから、それが出来ると思う。でもみんなは無理だよ。それが出来るほど強い人なんていないんだ。だってそれは、今までの自分の人生が、努力が、全部無駄だったと突きつけられることになるのだから。

「私も、カンスケやマリアも、人を超えた強さを持ってしまった。故にその強さに応じた理想を求めたのだ。だが、それがそもそもの間違いだったのではないだろうか」

「わたしを救うためだとしても、ガンジイの口からそんな言葉は聞きたくないよ」

「全てを諦めるなどとは言っておらぬ。掲げるべき理想を、再定義すべきではないかと言っておるのだ」

「……じゃあ、今のガンジイが考える理想ってなに?」

「お前達、次世代の子らが、より幸福な人生を送れる世をつくることだ。一人の人間として、可能な限りな」

「いつか宇宙が崩壊して、その子が、その子孫が築いてきた歴史が、全部無駄になるとしても?」

「それを、受け入れねばならぬときが、今ここなのやもしれぬ」

 ガンジイはそう言って、明のところへ歩いていった。なにか話すわけではなく、武器の運搬作業の手伝いをするみたいだ。……わたしが犠牲になることを、なんとしてでもやめさせたいんだろうな。でもまぁ、ガンジイは人間という生き物を信用し過ぎている面はあったと思う。ほんの一世代か二世代の間、平和な世が続いたとしても、その次の世代が全てを台無しにする可能性なんていくらでもある。大きな戦(いくさ)がなかった江戸時代の後の歴史で、世界規模の戦争が起きたりしたわけだしなぁ。絶対にどこかに現れるんだ。争いを望む人間、人を苦しめることを望む人間という奴が。

「あ、園子見つけた」

「犬の解析はまだ終わってないよ」

 中々園子が見つからず、あちこち探してようやく見つけた。園子はホールの一角に様々な機械を設置して、簡単な作業場をつくっていた。仕事が早いな、ナナゴウが手伝ったのかな。

「ねぇ、あの子のことなんだけど。ヤヨイって子。ナナゴウとあの子、そういう関係?」

「今は違うよ。そのうちそうなったらいいなと思うけど」

「うん、あたしもそう思う」

 園子は機械犬をなでつつ、様々な計器に接続したりしながら、ナナゴウへの心配を口にした。

「ナナゴウはまだ子供なの。ううん、本当は子供でいないといけない歳なのに、そういられない役割を与えられちゃった子なの」

「わたしたちの時代にもいたけどね。ヤングケエラーとかさ」

「あたしは、ナナゴウに素のままのあの子でいてほしいの。せめてあたしの前でだけでも、そのままの、子供のままのあの子でいられるように。そう接してきたつもり。だけど駄目だったよ。ナナゴウは自分が必要とされているのは、その役割があるからだと思ってしまってる」

 あぁ、なるほど。ナナゴウが園子に懐いてるのはそういうことか。でもナナゴウ本人が自分を愛せていないからなぁ。自分が必要とされてるのは、自分という人間、人格ではないと。兵隊のリーダーとしての役割があるからだと、そう考えてしまっている。

「でもね、あのヤヨイって子の前では、ナナゴウは素のままでいるように見えたの」


 実はヤヨイが、ナナゴウの力を解放する鍵になってるのかも。役割とか、戦いとか、そういうことではなく『ナナゴウ』を必要としてくれる人に出会えること。ナナゴウ自身が、それで自分を受け入れられるようになればってところか。

「ま、その辺はいい兄貴分が見つかったし、あいつに任せてみよう」

「誰?」

「オクゼツって奴。そっちも大事だけど、わたしも相談したくてさ」

「うん」

「もうさ、わたしはなにをするべきか、分かんなくなってきてるよ」

「アイはただ普通に生きてればそれでいいよ」

「そういうわけにはいかないの。もし園子が超能力を持ったら、それを使わずにいられる?」

「……無の力のこと?」

 最近ずっとわたしは、誰かに心配されっぱなしだ。ありがたいことなんだけどね。でも申し訳ないし、じれったくもあるんだよそれが。

「どんな超能力でもいいよ。例えばじゃあ、園子は地球の自然環境を守ろうとしてたとするよ。砂漠化を止めるために、たくさん研究して、努力して、現地に行って緑を増やす活動をしたり、仲間と一緒にがんばってるとするよ」

「うん」

「そうしたら、あるとき突然神様が出てきてこう言ったとしよう。『お前の働きに関心したから、砂漠を全部緑に変える力を与えてやろう』って。その力は指を鳴らすだけで、砂漠を豊かな自然に変えることが出来る。それを使う?」

「……使わない。使いたくない」

 だよね、園子はそう言うだろうと思った。結果よりも、過程を大事にする人だもの。

「それを使ったら、一緒にがんばってきた仲間の努力を、否定しちゃうと思う」

「まぁね」

「みんなでがんばってきた結果で、砂漠を緑でいっぱいに出来るならいいよ。でも結局そんな力でそれを実現出来てしまったら、今までの自分達の努力はなんだったのって、そうなっちゃう」

「でもね、神様はこうも言ったんだよ。『人間がどれだけ努力したところで、砂漠化は止められない。地球が砂漠になることは防げない。この力を使う以外に救う方法はない』って。それでも使わない?」

 園子はわたしの顔を見つめてきた。この発言の意味を理解したのだろう。こんなに悲しい顔をされると、わたしまで泣きそうになる。

「……それでも、あたしは使わない。アイが消えるつもりなら、あたしも一緒に消える」

「そんな脅迫を聞くつもりはなかったんだけど」

「一緒に消えるから。あたしが消えることになったら、アイのせいだからね」

 やっぱ園子ってガンジイと似てるな。この頑固っぷり。博愛主義なところとかも。女版のガンジイだ。もしくはあっちが男版の園子?

「そんなこと言うくせに、あのときは勝手に自殺してさ。転生なんてあるわけないと思ってたしさ」

「そんな話はしてません」

「転生ってもっとこう、好き放題出来るようになるもんじゃないの?ずっともがいてるんだけど、わたし」

「あたしに言われても知らないよ、そんなの」

「チート能力で無双したいじゃん。させてよ」

「持ってるじゃん、無の力」

「これそういうんじゃないから。魂にくっつけられた核弾頭だから」

「……使わないことも強さだよ。使わない方が強いんだよ、そんな武器はさ」

 あえて使わない強さか。そういう考えもあるか。与えられてしまった以上は、上手に扱うことが責任としか考えてなかった。なるほど……。

「もしあたしが自殺してなかったら、どうなってたんだろうね、あたし達って」

「どうせまともな人生歩んでないよ、わたしらみたいな人間は。あの時代に性格合ってなさすぎる」

「今もでしょ」

「はは、ウケる」

 こんな会話園子としか出来ないよなぁ。やっぱり園子に相談してみてよかったな。わたしには無い考え方が見つかった。あえて使わないこと、か。無の力は放っておいてもわたしを呑み込んでしまうから、放置するという選択は最初からなかった。死神の王と協力関係を結べたらそれが可能になるかもだけど、どうだろうな。

「ま、選択肢の一つとして考えておくよ」

「魔女はなにか言ってこないの?」

「全然。結局お姉ちゃんがなにをしたいのかも分かんない」

「……あの人が動き回ってこうなってるんだから、もっとちゃんと説明してくれないと困るんだけど」

「お姉ちゃんにそういうの期待するだけ無駄だよ。また相談したくなったら来るね」

「消えたら許さないからね」

「はいはい、分かったって」


 あんまり園子の邪魔をするわけにもいかないし、次は誰のところに行こうかな。わたしの力をどうするか以前に、死神との戦いに負けたらどうしようもないから、へたに相談して心配かけるわけにもいかない。本当はムクとかミニちゃんとも相談したいけど、止めておいた方がいいだろうな。

「あなた、本当に予想を裏切ってくれるわね」

 廊下を適当に歩いてると、お姉ちゃんが後ろから声をかけてきた。急に話しかけられても、もう驚かなくなってきたな。

「向こう側から戻らせる為にどうしようかと、あれこれ考えていたのだけれど」

「なんか帰ろうと思ったら、普通に戻って来れたよ」

「私が久しぶりに本気で頭を抱えていたのに。そんなあっさりと戻ってくるのね、あなたは。あなたが初めて無の力に呑まれそうになったときから、もっと思慮しておくべきだったわね」

 お姉ちゃんはわたしの顔を両手で包むと、じいっとわたしの目を見つめてきた。調べられてるなぁ、魂を隅々までまんべんなく。

「お姉ちゃんは、わたしの立場ならどうしてる?」

「私は自分を犠牲に、宇宙を崩壊から守るわ。でもあなたがそれをするのには反対」

「なーんでみんなそう言うかなあ。ガンジイも同じこと言うし」

「なら逆に、例えば園子が無の力に定められていたなら、あなたはそれを使わせるのかしら」

「絶対反対する」

 そりゃあそうだ。使わせるわけがない。自分が犠牲になるのはいいけど、人をそうさせるわけにはいかない。自分勝手なんだか、思いやりがあるのか、分からないなこれ。結局みんなそうなのかなぁ。

「はっきり明言するけれど、カンスケが言っていた計画に従いなさい。死神と協力関係を結び、あなたの無の力を消滅させる。そして人として生き、人として死になさい」

「でもいつか宇宙が崩壊しちゃう」

「そんなの放っておきなさい。後世のことはそのときの魂に任せればいいのよ。あなたは自分と、自分の仲間の子が幸せになれるような世の中をつくればいい。人間から逸脱した理想なんて持つのはやめなさい」

「それは、その方がお姉ちゃんにとって都合がいいから?」

「あなたが大切だからよ」

 これは驚きだ。全部本音だ。なぜかって、お姉ちゃんがこんなに分かりやすい言葉だけを使って話してくれてる。いつもよく分からない言い回しばっかりするのに。それだけわたしを止めたいってことか。

「じゃあ、お姉ちゃんが結局なにをしようとしてるのか教えてくれたら考えるよ」

「魂の転生先の操作よ」

「……よくわかんないです」

 お姉ちゃんの魂は、今のわたしの力をもってしても、全く底が見えない。ブラックボックスだ。調べようとしたところで、それがなんなのか理解出来ない。

「あらゆる魂は死後に転生を繰り返す。より多くの経験を積み、より多くのエネルギーを発する魂へ成長し、宇宙を支える為に。その経験を積むというシステムを利用すれば、今この世界にいる魂が、次にどの世界に行くかを操作出来るでしょう?」

「ほえ~」

「この世界で出会いや別れ、戦いを経験させ、次行く転生先を操る。その為に私はあれこれ手を出しこの状況を、この舞台をつくり上げたのよ」

「あ、わたしもそうってことね。わたしの転生先も決めてあるから、ここで消滅されたら困るんだ」

「違うわ。あなたの魂がどこへ転生しようが、私の目的には関係ないことよ。私はあなたのことを、本当の妹のように想っているの。だからあなたを守りたい。それだけなのよ。まぁ、色々と利用させてはもらっているけれどね」

 魔性の人だなぁ。たまにこうやって根の優しさを見せてくる。逆に言えばこれを見たことない人はみんな、お姉ちゃんに対して不信感しか持ってないけど。

「で、お姉ちゃんは魂の転生先を操って、なにがしたいの?」

「新しい世界を創るのよ」

「……はい?」

「……私のことは今は考えなくていいわ。詳しく知りたいなら、これを読みなさい」

 お姉ちゃんはそういうと、指揮者のように指を振り、わたしの前に一冊の本を出現させた。朱色の柔らかい光に包まれ、まるで夕陽の中に浮かぶようにして、その本は宙に浮いている。特に凝ったデザインでもないし、そんなに分厚い本ではない。どこにでも特徴のない本にしか見えない。背表紙を見るとそこにはこう書かれていた。

「『ENDLESS(エンドレス) DESIRE(デザイア)』……?」

「その本に私という人間の正体が書かれてる。でも死神との決戦が終わるまで開けないように細工をしておいたわ。読みたいならその後で読みなさい」

「ふうん。分かった」

 本はぱあっと輝くと、小さな光に分解され私の体内へと収納された。私の魂と同化させたのか、簡単にとんでもないことしてくれるなぁ。魂に別の情報を直接組み込むのって、本来ありえないことなんだけどなぁ。

「消えたら駄目よ。そんなことをしたら、私もみんなも泣いてしまうわ」

 お姉ちゃんはそう言うと、いつの間にか姿を消していた。それを伝えるためだけに、わざわざ来てくれたってことか。


 あと相談しておきたいのはカンスケとマリアさんくらいか。カンスケの意見はさっき聞いてるし、マリアさんのところに行ってみようかな。そう考えさっきの会議室へ戻ってみたが、マリアさんはそこにいなかった。カンスケだけそこに残って、地図を前にうーんとうなっている。

「レイレイちゃんは、死神が混戦を仕掛けてくると思う?」

「うん、ごちゃっとしてる方が、わたしのこと不意打ちしやすいだろうし」

「だよねぇ、死神の狙いはレイレイちゃんだからね」

「マリアさんってどこ行ったか知らない?」

「いや、聞いてないね。ママはもう、おれと全然ちゃんと話してくれないからさぁ」

 どうやら光側の人たちと一緒に行動しているわけでもないらしく、適当に本部の中を探してみた。そしてようやく見つけたのは、なにも置かれていない空き部屋の中、マリアさんはそこにいた。マリアさんはぼうっと窓の外を眺めている。一人で考え事かな。話しかけると邪魔してしまうかと思ったが、ここを逃すと次に相談の機会があるかも分からないから、お邪魔させてもらうことにした。

「わたくしは、あなたの計画に賛成です」

「よかったぁ~」

「よかった?」

「だってみんな反対しか言わないんですよ。一人くらい賛成してくれる人がいないと、相談した甲斐がないですよね」

 マリアさんは少し呆れた様子で微笑んでいたが、また顔を窓の外に向けた。外に何かあるのか?本部の外は真っ暗でなにも見えないけど。

「このすぐ先に、闇の制御装置があったようです」

「あぁ、ナナゴウがやっちゃったやつですね」

「そう命令を出したのは、わたくしです」

「後悔してるんですか?」

「……答えたくない質問ですね」

 へぇ、マリアさんらしくない回答だ。「いいえ、これも魂の経験です」とか言うと思ったけど。つまり本音ってことだな。

「ナナゴウに対して、申し訳ないとは考えていません。これも魂の経験です」

「あ、そうなんですか」

「ですが、制御装置を壊したことによって闇の扉に呑まれ、エネルギーに分解されてしまった魂のことを考えると……」

「それは想定外だったんですか?その可能性に気付いてて、でも時間がないから強行したわけではなく?」

「ですから、答えたくない質問なのです」

 つまり賭けに負けたってことか。カンスケがわざと、闇の制御装置を壊させたことに、マリアさんは気付いてる。だから答えたくないのだろう。カンスケの思惑通りに動いてしまったわけだからね。

「でもわたしの計画には賛成なんですね。わたしの魂も消滅してしまいますよ」

「それをすべき魂がいます。わたくしもそうです。この魂の寿命は近い。ですがそれをすべきでない魂を、犠牲にしてはいけないのです」

「なるほど、自己犠牲ですか。そこが闇側と光側の違いですよね。他人を犠牲にするか、自分を犠牲にするか」

「……しかしわたくしには、なぜあなたが自分を犠牲にしようとしているのか、それが分かりません」

 マリアさんの視線がこっちに向けられた。いつものように笑みは浮かべていなくて、真顔でじっとこっちを見てくる。綺麗な顔だなぁ、お人形さんみたいだなほんとに。これがカンスケを産んだとか、人類史上最大のミステリーじゃない?

「あなたは、人という生き物が好きではないのでしょう」

「そうですね」

「ではなぜ?」

「でもガンジイとかムクは好きですからね。ムクの子孫を守りたいなと。まぁ、絶対どこかで悪い奴が産まれてくるとは思いますよ。しょうもない奴に血を途絶えさせられて、家計が終わるんだろうなぁとは考えてますね」

「……不思議な方ですね。それなのに、自分を犠牲にするなんて」

「大昔のカンスケもそうだったんじゃないですか?」

 マリアさんは、わたしから視線をそらし窓の外へ向けた。否定しないということは、そういうことなのだろう。これ以上は親子の問題だし、深堀するのはよくないな。

「あ、ちなみになんですけど。ナナゴウって子供つくれるんですか?機械の体ですけど」

「魔女様が用意した体です。必要なときにはその機能が使えるようになっています」

「へぇ、じゃあヤヨイとの子供が見られるかもですね」

 マリアさんの顔が勢いよくこっちを向いた。あっちを見たり、こっちを向いたり、なんか面白くなってきたな。で、その表情は分かりやすく驚いている。まさか闇側の構成員と?って顔だ。

「ナナゴウはもう、あなたたち光側にいるべきじゃないですよ。闇側に入るとかそういう話ではなく」

「……そう、ですか。そうですね……」

「じゃあ、わたしはもう行きます。ありがとうございました」

「……まってください、ですが……」

 立ち去ろうとしたら呼び止められた。ナナゴウを光側から手放したくないのかな。実際のとこ明よりずっと頼りになるからなぁ。

「あなたはとても優しい方です。ですから、多くを考えすぎてしまっている」

「あれ、わたしの話ですか?」

「本来は別の人間がやるべきことまで、あなたは責任を負おうとしています。あなたが以前話してくれた、強くなりたいという言葉。自分を研磨するのは素晴らしいことですが、理想を掲げ過ぎてしまっている」


 マリアさんがその後話してくれたことはこうだ。現在発生している問題は大きく分けて三つ。宇宙の崩壊、死神、この世界の消滅だ。

 まず宇宙の崩壊に関しては、カンスケやマリアさんの仕事。数千年を生きた魂が担当すべき役割。

 次に死神との戦い。これはガンジイやムク。戦士たちの仕事。カンスケはおそらく司令塔で前線には出てこない。前線に立つ戦士の仕事だ。

「そしてあなたが担当すべき仕事は、この世界の消滅をどう防ぐか。無の力に定められたあなたにしか出来ない役割です」

「なるほど」

「あなたを低く見積もっているわけではありません。ですがあなたはそれだけを考えればよいのです。さきほどのあなたの発言、あなたは決戦後の世界復興のことまで考えてしまっている。ですからナナゴウに子供がつくれるかという疑問が出たのでしょう。それは……」

「それは?」

「あなたはたった一人で、全てを救おうとしてしまっている。それは、一人の人間がやってはならないこと」

「……説得力がありますね」

「わたくしの息子は、それを実行し、ですが人の愚かさに絶望し、壊れてしまった。あなたからは、かつての息子と同じものを感じるのです」

「カンスケ、自分でそれに気付いてないほどですからね……」

「あなたの志を否定はしません。ですが、全てを救おうなどという理想を掲げるのはやめなさい。あなたが犠牲となり世界を消滅から守るならば、あなたはただそれのみを考えればよいのです。その後の世界のことは、残された者たちに任せればよいのです。……難しいですか?」

「そう、ですねぇ……」

「それは、あなたが根本の部分で人間が嫌いだからです。人間という生き物を信用することが出来ないのでしょう」

「はい。どうせそのうち、争い続けて絶滅すると思ってます」

「それなのに、あなたは全てを救おうとする。それが息子そっくりなのです。わたくしは、それが怖い」

 マリアさんがわたしの計画に賛成してるのは、それも理由の一つだったか。わたしという人間を生かしておくと、どこかのタイミングで言葉通り闇堕ちして、カンスケのようなことをやり始めかねないと、そう考えていたのか。……図星をつかれている。言われてみて気付いたが、わたしはカンスケと同じようなことをやろうとしている。自分でこうしようと考え、世界どころか宇宙規模の変革を起こそうとしてる。わたしはガンジイにそれを相談したが、案の定反対されているし、わたしは力に溺れてしまっているのだろうか。

 みんなには反対されるし、園子には脅迫までされてるけど、わたしの本当の計画を実行するのが一番すっきりする方法ではある。全勢力が争う理由がなくなるから。でもその未来には、わたしがいない。それを自分で見ることが出来ない。ムクとかナナゴウが、その子供がどんな人生を歩むのかを見守ることが出来ない。

 なーんかもう、相談したせいで余計面倒になってきたぞ。わたしは結局なにがしたい?マリアさんに言われた通りだ、あれこれ理想を掲げ過ぎだ。あれもしないといけない、あれも考えないといけない、そんなことしてるから軸がぶれる。一つでいい、簡単に結論だけ出せばいい。わたしは一体、どうしたい?

「……うん、決めた。ありがとうございました、ようやく結論が出ました」

「その、結論とは?」

「あれこれ難しいことを考えるのは、もうやめるという結論です」

 マリアさんはにっこりと微笑んだ。わたしのふんわりとした回答を追求しない、さすがの器の大きさだ。とりあえずガンジイのところに行こう。まずガンジイに伝えないと。

 ガンジイは簡単に見つかった。明のわめく声が聞こえたから、そっちに行ったら武器を大きな倉庫みたいな部屋に運び込んでいた。

「抱っこして!武器なんて後でいいじゃん!明をぎゅってして!」

「ならぬ、戦いの準備が先だ」

「ガンジイ、ちょっといい?」

「なにかあったか?」

「わたしの本当の計画、やめた。カンスケが言ってた、死神との協力を結ぶ未来を選ぶことにしたよ」

 ガンジイは持っていた大きい箱を床に置き、わたしの前でかがむと、抱きしめてきた。明が後ろから殺意のこもった眼差しをこっちに向けてくる。怖いなぁ。

 ガンジイは心底安心したみたいだ。わたしが消えるのをなんとしてでも防ごうとしてたからね。わたし自身がそれを選んだならもう安心だろう。

 それを、選んだと思わせておけば、みんなからあれこれ言われることはなくなる。ガンジイはわたしの言うことを全部信用してくれるし、ガンジイが言ったことならみんな信じるはず。

 ごめんね、嘘ついて。


次回へ続く……

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