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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第九章 追憶の誘惑 六

第九章 追憶の誘惑 六


 ムクとミニちゃんが、過去のナナゴウを探してその辺を歩き回る中、うちはどうやってムクの不意をつこうかとずっと考えていた。うちには闇の核を捉えられるような身体能力はない。出てきた瞬間に感覚共有しようとしたところで、出てきたことが分からない。となると、出てきた後で感覚を共有するのは無理だし。

 じゃあ出てくる前にそれをしておかないといけない。ムクと感覚を共有して、こいつが隙をつくっているところに、ちょうど核が出てきて攻撃してくれたら……。あれ、ちょっとまてよ。それ、うちも核に殺されるんじゃ?感覚共有の為には、うちはムクに触れてないといけないし。核がムクを殺したら、そのそばにいるうちだって当然殺されてしまう……。

「なー、さっきからぼうっとしてるぞー。大丈夫かー?」

「え、あ、はい。大丈夫です」

「なんだその話し方ー?本気でお前を殺す気なんてないからなー」

「……ナナゴウを、殺そうとしても?」

「そもそもなのよ~。ナナゴウが死んじゃったとしても、別の人が制御装置を壊すだけなのよ~」

「……それは、そうかもしれないけど」

「どうせ未来は変えられないのよ~。じゃあナナゴウが居てくれた方がいいのよ~」

 こいつ、急に的を得たこと言いやがる。でも確かにそうだ、ナナゴウは光側の連中に命令されてそうしただけ。自分自身の意思で制御装置を探し出して壊したわけじゃない。ナナゴウがいなかったとして、別の兵士が同じことをするだけか。

 なら目標変更だし。殺す相手をナナゴウから、光側の連中に変える。このままナナゴウの過去を辿っていけば、あいつが光側の連中に助けられて、その基地へ行くところになるかも。そこに光側のリーダーもいるかもしれない。名前はなんだっけ、たしかマリアだっけ。カンスケがそう言ってたはず。ありがたいことに、うちらは過去の人間達から認識されてない。相手が人間なら、うちでも不意をつけばやれるかも……。

「あ、ナナゴウいたぞー。犬も一緒だなー」

 ムクがナナゴウを見つけた。集落の隅で、犬とじゃれあってる。まだ三歳くらいか。犬の方はもうそこそこ大きくなってるけど、柵の亀裂からうまいこと出入りしてるみたいだ。……ナナゴウとだけ、感覚共有してみるか。さっきみたいに、核が潜んでるか分かるかもしれないし。……感覚を共有してみたけど、なんだこれ、何も感じない。感覚が無い……?

「あ、そうか。魂を麻痺させてるのか」

「なんの話だー?」

「カンスケは、ここにいる子達の魂を麻痺させて、苦しみとか何も感じさせないようにしてたんだってさ」

 子供達がぼうっと生気のない顔をしてるのはそれか。そんな中で、ナナゴウだけは顔に表情がある。あの犬のおかげだろうな。ナナゴウと犬はしばらく遊んだ後、大人達に見つからないようにひそひそと移動し、亀裂がある柵のところまで来た。犬はそこから外に出て行って、ナナゴウは一人でとぼとぼと他の子達の群れの中へ歩いて行った。

「光側の連中が、あの子達を助けにくるらしいけど。いつ来るか分からんし」

「それを見たいのかー?」

「え、うん」

「そんなことより、さっさと核ぶっ壊してみんなのとこ戻りたいけどなー」

「早く帰りたいのよ~」

「それよりヤヨイ、伏せた方がいいぞー」

 ムクが腕をぐるぐると回し始めた。なんだ、急になにを始める気だしこいつ。

「闇の核って、人間の中に隠れてるっぽいからなー。後ろからお前の方に近づいて来てる奴が一人いるからなー」

「そうなん……?そいつの中にいるって分かるの?」

「分かんない。でもそこにいる子供達の中から襲ってこないなら、近づいてくる奴全部怪しいからなー」

 十秒くらいして、本当に男が一人、後ろの方からのそのそと歩いてきたし。子供を捕まえに来たんだろうな。ムクはじっとその男から目を離さない。どうしよう、ムクが本当に核を壊してしまったら、うちは元の時代に戻っちゃうし。かといって止めるのも不自然。

「ヤヨイはやっぱり、未来を変えたいのよ~?」

 しゃがんで頭を伏せてるうちの顔の前で、ミニちゃんが呑気に首をかしげてそう聞いてきた。やめてくれし、なんでムクがそこにいるのにそんなこと聞いてくんの。回答によってはなにされるか分からんし。

「未来を変えるのって、絶対無理だと思うのよ~」

「……あんたとムクは未来を変えたがってないから?」

「それよりもっと、手も足も出せないのがいるからよ~。ヤヨイもこの前見てるのよ~」

「誰のことだし」

「魔女なのよ~」

 ……あぁ、最悪だ。なんでそれを忘れてたんだうちは。あの魔女は自力で時間を超える。カンスケを超える化物、世界の異物。あの魔女にとって不都合なことが起きれば時間をさかのぼって修正される。どうすればいい、せっかく目の前にチャンスがあるのに、それを手放したくない。

 うちはただ、またみんなと一緒にいたいだけなのに。なんでこんなに、世界は望む通りに進んでくれないの……。


「さて、と。わたしたちは戻ってきたけど、ムクたちはまだみたいだね」

「どうにか手助けにいけませんか?」

「厳しいね。時間を超えるのは、無の力とは根本が違うから」

 わたしたち三人は元いた時代に戻ってきたけど、そのままのんびり待つというわけにもいかなかった。ムクたちがここにいないということは、わたしたちが何かしらの干渉を起こさないといけないということだ。ムクたちだけで闇の核を倒せているなら、すでにここにいるはず。過去の時間の中にどれだけいようと、現代の時間が同じだけ経過するわけではないから。

「私としても、あまりお前に力を使わせたくはない」

「こんなときは、困ったときの神頼みならぬ、魔女頼みかな」

「そうね、ナナゴウをこれから過去に送るわ」

 お姉ちゃんがいつの間にかナナゴウの背後に立っていて、その肩に手を置いていた。ナナゴウが何か言おうとしたけど、そのときにはもうあの子の姿は消えていて、そこにはお姉ちゃんだけが立っていた。

「仕事が早すぎるよ」

「期限は刻々と迫っているのよ。のんびりしている暇はないわ」

 死神との決戦という意味ではなく、私が無の力に呑まれるまでのタイムリミットの方だな。まさか過去の時代体験がさっと終わったのは、お姉ちゃんが闇の核に干渉したから?そんなことまで出来るのかな。というか逆に出来ないことなんてあるのかな。もっとガンジイの過去をゆっくり見たかったのにな、仕方ないか。

「しかしここにいるということは、我らに伝えることがあるのか」

「あの子、ナナゴウの体についてよ」

 お姉ちゃんはそう言うと、地面に指で文字を書いた。……何語だろうこれ。英語、ではないみたいだけど。

「ラテン語よ。Fiat lux。意味は『光あれ』」

「ふうん。なんでラテン語?」

「話すと長いから割愛するわ。これはナナゴウのボディの封印を解く為の呪文なの。カンスケに教えておいてちょうだい」

「封印とは?」

「あの子のボディは私が設計したのよ。あの体には魂のエネルギーを分解して、原動力に変える力がある」

 ……死神が光側の施設を襲ってきたとき、ナナゴウが一瞬だけ解放したあの力か。そういえば園子がなにか言って、それでナナゴウが突然けた外れの力を発揮していたけど。

「園子達に教えておいた呪文は、あの子の封印を十分の一だけ解除するものよ」

「あれで十分の一なんだ」

「この呪文はまだ誰にも教えていない。あの子の封印を全解除する為のものだから。カンスケなら使い時を見極められるでしょうからね」

「ナナゴウに危険はないのか」

「大丈夫よ。周囲に膨大なエネルギーがあるなら、それを優先して使用するようにしてあるもの。あの子の魂が損傷することはないわ」

「クリスティーナさんは?さっきはいたのに」

「光側の施設よ。あっちこっち大忙しよ」

 涼しい顔でそう言われてもなぁ。本当に忙しいのかな。わたしたちが死神に勝てるようにあれこれ動いてくれてるみたいだけど。

「一つ勘違いしているようだけれど、私はあなた達が死神に勝てるように動いているわけではないのよ」

「え」

「私の目的はそこじゃないもの。あなた達が死神に敗北したところで構わないし」

「えぇ……」

「だけれど全力をもって臨んでちょうだい。全身全霊を尽くしてね。ごきげんよう」

 いつもの調子で言いたいことだけ言って、お姉ちゃんは一瞬で姿を消した。本当に何がしたいんだろうあの人は。

「戦わせることが目的であり、勝たせることはそうではないのか」

「謎だねぇ」

「相も変わらず人知を超えておる」

「……そういえば、わたしとガンジイの二人だけになるの、かなり久しぶりだね」

 ちょうどよかった。いつかガンジイにだけは明かしておこうと思っていた、わたしの計画。それをここで話しておこう。この先二人だけになれる時間なんて取れないかもしれない。

「聞けば私がそれを止めることを承知の上でか」

「うん」

 ガンジイは苦い顔で目を細めた。近い将来、わたしは消える。正確にいえば消えるわけではないけれど、この世界の中からいなくなる。どうせそれは防ぎようがない。なにもしないでいたって無の力に浸食され続け、わたしは力そのものになってしまう。だったらその前に、わたしが望むことをするだけだ。

「じゃあ、全部話しておくよ。わたしが描いてる構想、これから起こそうとしてること、なにもかもね」


「おー、また時間飛んだなー」

「でも場所は変わってないのよ~」

 ……風景が一変したし。さっきまでいた村から、整備された室内へとうちらは飛ばされた。闇の核はどうやら、ムクと対峙すること自体を避けたみたいだ。うちらに近づいて来ていた男は、うちらを素通りして子供達のところに歩いて行った。ムクはずっと腕を回し続けてたし、核がその体内から飛び出してくることはなかったみたい。だというのに、空間の歪みが起きてうちらは今ここにいる。

「闇の核、奇襲を仕掛けることもしなくなったし」

「どこか離れた場所から、時間を飛ばせたのよ~?」

「たぶんね。で、ここはどこだし」

「ここあれだぞー。光側の施設だなー。あたしらはここで初めてナナゴウに会ったんだぞー」

 ……なるほど。どおりで旧文明の建材で構築されてるわけだ。現代ではありえない、なめらかな面が続く空間。金属やコンクリートで囲まれたこの場所が、光側の施設なのか。うちらがいるここは集会場かな。大きな金属製の扉があって、数十人が走り回れるくらいの広い空間もある。電気があって明るいし、ずいぶんいい所を見つけて基地に改良してるんだな、光側の連中。

「ナナゴウはどこなのよ~」

「さっきの集落から救助された後だとしたら、医務室じゃない?」

 うちがそう言うと、ムクが「医務室なら知ってるぞ~」と案内を始めた。その後ろをついて行きながら、うちはナナゴウのことを考えていた。

 ナナゴウはあの集落で殺される寸前で助け出されたと言っていた。そして光側の連中にあの特殊なボディを与えられ、その中に魂を入れて動いている。やっぱり闇の核の狙いは、うちにナナゴウを消させることだ。ムクとミニちゃんは過去を変えたいなんて思ってないし、その意思があるのはうちだけだ。うちの記憶を核は読み取って、ナナゴウがいない未来を実現させようとしてる。……でも、やっぱり分からないのは、なんでナナゴウなんだ?

 うちが闇の核の立場なら、どうにかしてムクの過去を変えようとする。この最高戦力を排除することを最優先にするはず。ムクは強いなんてものじゃない、正真正銘の化物だし。次点でミニちゃんでもいい。ミニちゃんの太陽ビームの破壊力は、ムクを超えるほどの威力だし。一度撃ったらしばらく撃てないという欠点があるけど、それにしたってえげつない力だ。そんな中で、なんでナナゴウ?確かにあいつは強い。カンスケが興奮したほどの逸材だし。だけどまだまだ成長過程。現時点で脅威になる要素はないはずだけど。

 そんなことを考えていると、すぐに医務室に着いた。そこには……。これは、直視したくない光景だし……。体の一部を失った子供達が二○人ほど、ベッドに寝かされている。止血はされていて、なんとか生きているみたいだけど、ベッドに滲む血の跡が痛々しすぎる。子供達は全員表情がなくて、ぼうっと天井を見つめている。魂はまだ麻痺させたままみたいだ。当たり前だし、こんな状態で麻痺を解いたら痛みでショック死してしまう。

「あ、マリアが来たぞー。ソノコもいるなー」

「メイはいないのよ~」

 通路の奥から二人の女が慌ただしく走って来て、医務室にいる子供達の状態を見て回り始めた。この幼女の姿をしているのがマリアだな。力を使いすぎて容姿が幼くなっていると前に聞いてる。……なるほどね、本当にかなり弱ってるし。でも魂の根っこというか芯の部分に、まだかなりの力を残してる。こいつが全盛ならカンスケにとって、最大の敵になってただろうな。もう一人のソノコとかいうのは全く気にしなくてよさそう。うちみたいな、ただの組織の構成員だな。

「人の姿のまま生かすことは不可能でしょう。用意しておいたボディに魂を移すしかありません」

「……やっぱり、この子達を戦わせるつもりですか?」

「仕方がありません。時間がもうないのです。それにそれも一つの経験として、魂を成長させる要素となります」

 そのとき通路からガチャガチャとやかましい音をさせながら、知らない女が大量のボディを入れたコンテナを運んできた。

「お、メイだなー」

「こいつも構成員?」

「じいちゃんの一番大切な人なんだってさー」

「え、まじ?ガンジイにそんな奴いたの?」

 あのガンジイにそんな相手がいたのか。どういう流れで光側の一員になったんだろ。メイという女はコンテナからボディを次々と下ろしていくと、寝ている子供達の隣に素早くそれを寝かせていく。今から魂をこのボディに定着させていくみたいだ。

「おや、あなたが現れるとは驚きましたよ」

 マリアが突然そう言った。もちろんメイに対して言ったじゃない。ナナゴウが寝ているベッドの横に、あいつが、魔女が立っていた。

「この子のボディは、私が用意したものを使ってちょうだい」

「魔女様が、ご自分でつくられたのですか?」

「そうよ。この子は特別。理由はそのうち分かるわ。そのうちね」

 魔女はそう言うと、マリアではなくうちの方をちらっと見てきた。……認識されてるのか、うちらがここにいること。マリアも一切認知出来ていないのに。今の言葉はうちに対して聞かせたってこと?魔女はそれだけ言うと、いつの間にか姿を消していた。ほんと何者なんだあいつ。

「お、また時代飛ぶっぽいぞー」

「闇の核はどこなのよ~?」

 ムクがいち早く空間の歪みに気付いた。闇の核はやっぱりもう、うちらの前に出てくるつもりがないみたい。次はどの時代に飛ぶんだろ。なんとかこいつを、マリアを始末出来るチャンスがこないものか。……無理なのかなやっぱり。魔女がわざわざうちを見てきたってことは「お前にはなにもさせない」と脅しをかけてきたのと同じだし。うちはやっぱりもう、みんなには会えないのかな……。


 そして時代が飛び、うちらは同じ医務室に立っていた。……時間を飛んだはずだけど、なにも変わってないし。ベッドに寝かされている子供達がいて、せっせとボディをその隣に並べていくメイがいる。

「なんだー?さっきと同じ時間じゃないのかこれー?」

「……いや、よく見たら子供達みんな別人だし。さっきより未来っぽい」

 寝ている子供達の中にナナゴウがいない。それに機械の体になった子供達が、ボディをかついでどんどん医務室に入ってきた。カンスケのやつ、世界のいろんなところにああいう集落をつくってたのか。光側の連中はそこからこうやって、次々と子供達を助けては機械の体を与えていってるみたいだ。

「司令、ボディは全て準備完了です」

 メイにそう声を掛けたのは、ナナゴウだった。他の機械の子達はみんな、ナナゴウの後ろに並んでる。ナナゴウが子供達のリーダーなのか。あいつが子供の面倒見れるなんて思えんけど。単純にこの中だと年長なのかな。

「ありがと、みんなはもう休んでてて。ナナゴウは総司令を呼んできてもらえる?」

「了解です」

 子供達は一列になってどこかへ歩いて行った。訓練されてるな、すでに兵隊になる心構えまで仕込まれてるし。ナナゴウは一人だけで別の方向、兵隊達とは通路の逆方向へと歩いて行った。

「とりあえずナナゴウについていくし。人の多い所は避けた方がいいし」

「闇の核、もう出てくる気ないんじゃないかー?」

「そう思わせて奇襲してくるかもだし。それに結局は核を壊さないと、うちらは元の時代に戻れんし」

「出てきてくれないと困るのよ~」

 まだ諦めない。魔女が関与しているせいで、過去を変えることは絶望的。でもまだ出来ることはある。もうなりふり構っていられんし、だったらその魔女と交渉してやる。魔女が出てこないといけない状況をつくって、交換条件を持ち掛ける。その為にそばにいるべきは、ナナゴウかマリアだ。どちらかの命をうちが奪おうとすれば、魔女は絶対に現れるはず。

 うちらは通路を歩くナナゴウについて行った。その道中、ナナゴウは不意に方向を変えて、小さな部屋に入っていった。ドアはなくて、自由に出入り出来る倉庫みたいなだ。謎の金属部品が入ったケージが大量に積まれてる。その奥にかすかに光が灯っていて、ナナゴウはそこにいる誰かを驚かせないように、小さく咳ばらいをして自分がいることを知らせた。

「あ、ナナゴウ」

「ソノコさん、やっぱりまたここにいたんですね」

「マリアさんには知られたくないからね。こっそりここで考えてるの」

 さっき医務室にいた、特に注意する必要のなさそうな女だ。こいつ、こんな隅っこでこそこそなにしてるんだ?

「ごめんね、まだちゃんと考えられてなくて」

「僕は今のままの名前で気に入ってますよ。他のみんなもそうです」

「でも、番号で呼ぶなんてやっぱり駄目だよ。『七号』なんて」

 ナナゴウって名前、実際は数字の番号だったのか。何語だろう、このソノコってのが生前暮らしてた国の言葉だろうけど。さっきの会話から察するに、マリアは子供達にそれぞれ、ちゃんとした名前をつけることをよしとしてないみたいだ。兵隊に個性なんて必要ないってこと?本当に光側のリーダーの考えることかよそれ、ひどいな……。

「マリアさんはなんでも『これも魂の経験の一つです』で片付けちゃうから……」

「僕は正しいと思います。総司令は深い部分で優しい方ですよ」

「……でも」

「それに、本当にみんなこの名前を嫌がってはいません。繋がりがあるからです。今までいたあの場所では、全員が他人でした。今は番号という繋がりがあるから、仲間だと思えるんです。ソノコさん達に助け出してもらった順番、その番号。みんな気に入ってるんですよ」

 ナナゴウはそう言うと、敬礼してから部屋を出ていった。淡々と過去を見せられ続けてるけど、闇の核は本当にずっと姿を隠してるつもりかな。


 その後ナナゴウは、マリアがいる指令室へと入っていった。そこにはなにかの資料を持ったマリアがいた。やたらと綺麗な姿勢でイスに座り、人形のような無表情でじっと資料を見つめている。マリアは部屋に入ってきたナナゴウに柔らかく笑みを投げると「これで救出作戦は完了です」と言った。

「カンスケに苦しめられていた子供達は、すでに全員救助しましたね。後は新しい体を与えるだけです」

「ですが、奴はまた新しい集落をつくるかもしれません」

「止めねばなりません。よい機会です、それをあなたにお願いしようと考えています」

 ……マリアは机の上に、持っていた資料を広げた。この資料、まさか……。

「カンスケはこの図面にある装置を使って、闇の扉を発生させているようなのです」

「……闇の扉は、自然的に発生していたわけではないのですか?」

「それもあります。しかしカンスケの意思でそれを発生させていることもあるようなのです」

 やっぱり、闇の制御装置の資料だ。どうやって手に入れたんだ?いやそんなことよりここだ、ここが未来を変える為の分岐点。ここでこいつを止めることが出来れば……。いや駄目だ、落ち着け。それは無理だ、すぐ隣にムクがいる。なにか騒ぎを起こすとしても、ムクとミニちゃんがいない状況じゃないといけない。どうにかしてそんな状況をつくれないかと考えていたら、救いの手が突然やって来た。

「マリアさん、明がまだかと急かしています」

「おや、では準備をしてすぐに向かいます。ナナゴウは先に行って、明とボディの調整を進めておいてください」

「承知しました」

 ソノコが来て、ナナゴウだけを離籍させてくれた。ここだ、ここしかない。

「ムクとミニちゃんはナナゴウを追って。うちはここでマリアのこと見てるし」

「駄目だろー。闇の核が襲ってきたらどうすんだー?」

「うちは大丈夫だから!早く行って!」

「そうかー?じゃあナナゴウ追っかけるかー」

「追いかけるのよ~」

 よし、いいぞ、行ってくれた。強引だったけどなんとかなった。後は太もものとこに隠し持ってるナイフで、マリアを殺そうとすれば、きっと魔女が出てくる。そうすれば後はうちの交渉次第で……。

「なー、ヤヨイー」

「おわぁ!?なんで戻ってきてるし!?」

「一応言っとくけどあれだぞー。光側の奴らって魂だけの状態だから、お前じゃ触ったり襲ったり出来ないからなー」

 ……忘れていた。うちってこんな馬鹿だったっけ。それをムクに指摘されるなんて。こいつ、最初からうちがマリアを襲うつもりなの勘づいてたのか。……だめだ、もう終わりだ。結局うちには何も出来ないのか。……うちは、こんなにもただ無力だったんだな……。

「じゃ、あたしらはナナゴウ見てるからなー」

 ムクとミニちゃんは走り去った。……せめてこの施設内を探って、情報を持ち帰っていずれカンスケに報告するか。死神との戦いが終わった後は、また光側のこいつらと戦うことになるだろうし。……いや、やっぱりいいや。なんかもう気力が湧かないし。このままぼうっと、こいつらの話だけ聞いてればいいや。

「マリアさん、やっぱりあの子達を戦わせるのは危険です」

「いえ、問題ありません」

「カンスケが子供達の魂を分解してしまったらどうするんですか!?」

「あの子はそんなことしませんよ」

 あの子?こいつ今、カンスケのことあの子って言ったか?マリアとカンスケって、過去にどういう関係だったんだろ。

「子供達の魂には麻痺がかけられていました。あの子は罪無き者を不用意に人を苦しませたり、傷つけたりはしません」

「ですが、戦いともなれば話は変わってくるかもしれません」

「いいえ、あの子のことは誰よりもよく分かっています。我が子なのですから」

 ……なんて言ったこいつ?聞き間違い?

「……マリアさん、無礼を承知で言いますが、あなたは息子さんを止めることに、必死になりすぎているように思います」

「それは否定出来ません。立場、感情、双方の理由があります。ですがあの子を止めねばならないことは、あなたも理解しているはず」

「それはそうですが……」

「時間がないのです。メイやあなたはまだ、あの子に太刀打ち出来るほどの力を備えていない」

 ……嘘だろ、親子って。これどうしよう、誰かに報告した方がいいのかな。ガンジイに伝えてみるとか。……いや、その情報を持ったところで、だからなんだって話か。

「驚いているところ悪いわね、訓練場へ向かいなさい。あなた一人で」

 背後から突然そう言われて、うちはびくっと飛び跳ねた。魔女だ、急に出てきたし。なんで前に出てこないで後ろに出てくるし。でもよかった、こいつが出てきてくれたなら交渉が出来る。

「あなたの言いたいことは分かってるわよ。私に協力することで、かつての仲間を取り戻したいのでしょう?」

「話が早くて助かるし。うちはみんなが戻るならなんでもする。だから……」

「だったら早く行動しなさい。もう伝えたのだから」

「訓練場って?」

「あなた達が最初にいた場所よ。広くて、大きな扉があったあそこ。現代のナナゴウをそこへ連れて来たわ。あの子は今、闇の核と戦っている。約束は守るわよ、あなたが言った通りに動いてくれればね」

 魔女はそう言って消えた。まずい、ムクはともかく、まだ未熟なあいつが闇の核の相手なんて出来るわけないし。……なんで、うち一人でそこに行けって?うちに出来ることなんてないはず……。

 でもとにかく行くしかない。約束は守るというその言葉を信用するしかない。それでみんなが戻ってくるなら……。


次回へ続く……

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