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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第八章 時間の分岐路 五

第八章 時間の分岐路 五


 さて、死神界に戻っては来たが、なにから王様に報告するべきか。優先順位をつけるなら、まずは奴らの戦力だろうな。だが報告したところでどうなんだって話だ。無の力に定められたあいつ、レイレイ。俺がなにしようが、王様がどうしようが、全部あいつの手の上で転がされてるだけなんじゃねぇのか?なにもかもを支配するつもりはないようだが、あいつはこれから何を起こそうとしていやがる……。

「王様、帰還しましたぜ」

「ご苦労」

「ヴォンはまだ偵察ですか?」

「あぁ、まだ帰っておらぬ」

 王様は椅子に腰かけて、目をつぶったままじっとしている。エネルギーを少しずつ奴らの世界に移している最中だ。俺は自分の椅子に座って、無限に続く真っ白な空間を仰いだ。寂しくなっちまったなぁ。王様と二人きりなんて初めてじゃねぇかな。今まではクラフォンか、ミューピレィか、ヴォンか、一人は必ずいたからな。

「寂しくなったものだな」

「そうですねぇ……」

「奴らの戦力はどれほどだった?」

「まずカンスケの実力が計り切れないですね。直接会いましたが、あまりにも力を隠すのがうますぎる。他の連中で言えば、壊滅的に危険なのが二人いました」

 レイレイと、太陽ビームとかいうのを撃った小型の生物。あのビームの最大出力がどれほどのもんか知らねぇが、直撃したら俺とヴォンは普通に消滅するだろうな。なんせ低出力ですら闇の核を消滅させたんだ。十分切り札として通用する破壊力だ。

「相性の都合もあろう。火に水をかければ消えるのと同じこと。闇を払うことにおいて、その光線は無類の力を持つのだろう」

「それにしたって大した威力でしたよ。ただその小型の生物自体の戦力は皆無です。危険な兵器だと考えたほうがいいですね。そういう奴がいると分かってさえいれば、対処は困難ではないかと」

「お前が死神に加えたいと言っていた戦士はどうであった?」

「その件で、深刻な報告がありまして……」

 俺はあるがままを報告した。レイレイは宇宙の崩壊を乗り越える鍵であると同時に、破滅の光でもある。運命を見通す力なんてものまで発揮されたら、これ以上その力を進化されたら、本当に手が付けられなくなっちまう。

「前代未聞であるな」

「ほんと、異常存在としか言えませんよ」

「ガンジイという戦士、余も戦力に加えたいと考えていたのだが、どうやら無理だな」

「ついでにムクって奴、あいつやっぱり達人の域に到達してました。魂の力が肉体を変異させてます。俺かヴォンの力を解放しないと、ムクには勝てないですね」

「だが他の戦力に関しては、恐れるほどではないということだな?」

「いえ、そういうわけでもなくてですね……」

 後はクラフォンの件についても報告だ。クラフォンはあの世界に可能性の芽を見出した。そして一人の戦士として満足して散っていった。クラフォンが期待した戦士、オクゼツという奴も気にかかるところだ。

「クラフォンは大義を全うしたか。可能性の芽があの世界に存在すると、お前もそう考えるか?」

「はい」

「余は隠密に動いた方がよいかと考えていたのだが、さてどうするべきか」

「レイレイをこっそり、例の短剣で刺そうって話ですかい?」

「その者の無の力さえ消失させてしまえば、一旦は問題が解決するであろう」

「しかしですね王様。奴らにばれないように接近するのは不可能です」

 意図的に、そうなるように集められたとしか考えられねぇ。奴らはそれぞれ別の手段で、周囲を感知する力を持っていやがる。

「まずガンジイですが、五感が研ぎ澄まされてます。音、におい、振動、ほんのわずかな異常にすぐ気付かれる。俺がこっそり近づいたのにすぐ察知されましたよ。絶対気付かれない自信があったんですがね」

「優秀な戦士だな」

「次にムク。あいつは音の反響を捉える術に長けてます。姿を隠したとしても、そこにいるなら反響で気付かれますね。盲目の戦士でその手の技の使い手はいますが、あいつは盲目じゃない。おそらくあの世界の、暗闇に関係した生育の結果でしょう」

「ふむ」

「さっき言った小型の生物。奴らはミニちゃんと呼んでましたね。そいつは可視光線を認識する幅がでかい。赤外線やら放射線やら、そのあたりまで感知出来るようです。電磁波なんかもいけるかもしれないですね」

「……ふむ」

「あとナナゴウってのもいます。ヴォンが言っていた、魂を原動力に変えたっていうあいつです。あいつは温度探知の機能を持ってる。あの崩壊した世界の中だと、高温の物体なんて目立ってしょうがないでしょうな」

「…………ふむ」

「ついでにヤヨイってのもいました。どうやらカンスケの部下のようです。そいつはある種の憑依術の使い手です。かなり広範囲の魂と感覚を共有出来るみたいでして。おそらく半径五○戦囲ってところです」

「………………」

「レイレイの周囲に、そいつらが常に張り付いてるわけですよ。しかもレイレイ自身も進化していってる。仮に別次元からの接近を試みたところで、本人にそれを気付かれるでしょうな」

「ノイよ」

「はい」

「困ったな」

「そうですね」

 絶対になんらかの意思が介入してやがる。奴らを集めた黒幕がいる。王様が言う「困った」ってのは、その黒幕の存在のことだ。超常的な力を持った何者かが、あの世界には存在している。そして俺達はまだ、その存在について一切の情報を持っていない。

「困ってるでしょうから、こっちから出向いてあげたわよ」

「……は?」

「ほう、来訪者か」


 ……なんだ?……なんだ、こいつは?こいつは駄目だ、危険だとか異常だとか、そんな言葉で表現出来る存在じゃねぇ。どうやって死神界に侵入した?そしてなんなんだ、この化物じみたエネルギー量は……?

「みんなからは魔女、と呼ばれているわね」

「そなたがあの世界の黒幕であったか」

「ごきげんよう、死神の王。あなた達が尻込みして行動を遅らせないように、出てきてあげたわよ」

「王様、俺の力を解放してください」

 最悪な日だな、今日は。レイレイの対処だけでどうしようかって頭抱えてんのに、それ以上の化物が出て来やがった。どうする、なにが正しい選択だ。この化物、通常形態の俺じゃあ手も足も出せそうにない。だが王様は今エネルギーの移行中だ、その邪魔をさせたくねぇ。なら俺が消滅してでも、時間を稼いで……。

「やめなさい。ただの無駄よ。あなたが本気を出したところで、わたしには触れることも出来ないでしょう?それにあなたの王様を消すつもりはないもの」

「……信じると思うか?だったらなにしに来やがった」

「一つ言っておくわね。私はあの世界の戦士達と、死神の戦力を均衡にさせてもらうだけ。それ以上のことをする理由がないわ」

「故に思う存分、攻撃を開始せよと?」

「そういうことね。私が姿を隠していたのでは、それを警戒して中々出てこようとしないでしょう?」

 ふざけるな、こんな化物がいた方が手を出さねぇだろうが。戦いに介入するつもりはない?それが本心だなんて思えるわけねぇ。俺達を焦らせて決戦を早めさせ、出て行ったところを叩き潰すつもりじゃねぇのか。

「大丈夫よ。私の目的はあの世界の存続じゃないもの」

 また分けわからねぇことを。そうじゃねぇなら何が目的なんだ。まさか宇宙の崩壊を別の方法で乗り越えるつもりか?

「違うわ。私は宇宙の崩壊を乗り越えることを諦めた。永遠に回る世界を維持することが目的」

 ……永遠に……?まさかこいつ、一つの世界の中で、時間を跳び回って……。

「そういうことよ。だからこの先でこの世界が消滅しようが、宇宙が崩壊しようが、私には関係ないの」

「ノイよ」

「なんですか?」

「気付いておらぬようだが、お前の思考が全て読まれておるぞ」

 ……まじか。

「まじよ。さて、観客もやってきたようだし、始めましょうか」

「……無の力を通して、こちらを見ている者達がおるようだな」


「お、繋がった!始まったよみんな!」

「お姉ちゃんと、ノイと、あれが死神の王かな」

 カンスケがやたらと元気だ。お姉ちゃんと死神の王の戦いを見るのが楽しみで仕方ないみたいだ。わたしは円形のモニターのようなものを創って、そこに死神界の様子を映すことにした。自分の進化というか、無の力の浸食速度が恐ろしい。この数時間の間に、わたしの力は異様な速さで強くなってる。

 モニターの前にみんなで座って、まるで映画鑑賞会のような状態になってる。純粋に楽しもうとしてるのはカンスケだけだろう。……いや、ムクとミニちゃんも楽しんでるだけっぽいな。死神の王の強さを見定めようと、真剣になっているのはガンジイ、ナナゴウ、ヤヨイの三人。どうせなら光側の人たちも集めたかったけど、ここら一帯から闇のエネルギーを払うのはわたしには無理だ。モニターの維持で精一杯。カンスケなら出来そうだけど、今のこの人に何言っても無駄だろうな。

「かっこいいじゃん王様!さすが死神の王だね!」

「なんかとげとげしてんなー!堅そうだなこいつー!」

 体はそこまで大きくなく、ガンジイと同じくらいだけど、死神の王という名にふさわしい形をしてる。二足歩行の人型だけど、その姿は一言で言うなら骨。分厚く太い骨の塊だ。普通は皮膚があり、肉があり、その中に骨がある。だがこいつはトゲ状の突起が無数に生えた骨が、体の表面に浮き出ている。まるで鎧のように形成された骨の隙間から、その中にある肉が見えている。頭部は鹿の頭蓋骨と、鳥の頭蓋骨が合わさったような形状。胸部から腹部にかけては、装甲のように分厚い骨が、内臓を守るように複雑な形で配置されてる。背面はどうなってるのかな、見えないから分からないけど、たぶん牛の背骨みたいに極太の脊椎が浮き出ていると予想出来る。

「下半身の形状が気にかかるな」

「なんかスカートみたいになってるし。なにあれ」

「わたしには傘みたいに見えるかな」

 脚部よりも目につくのは、腰骨から下方向に伸びる、左右三本ずつ、計六本の細長い骨。その骨の間に半透明の薄い膜が貼られている。あの膜も肉体の一部なのかな。ヤヨイが形容したようにスカートにも見えるし、広げればわたしが感じたように傘のような形に変わりそう。意味のない装飾ではないはず。なにかしらの方法で戦いに利用するものだろう。

「武器は持ってないね、大鎌とか持っててくれたら最高なのになぁ!」

「静かにして、始まるみたいだよ」

 お姉ちゃんが一歩前に出た。先手を仕掛けるつもりかな。……なにをするつもりか分からないけど、頭の大きなリボンをほどいて、手に持った。なんだあれ、まさかあのリボンがお姉ちゃんの武器?このあたりからカンスケも静かになって、お姉ちゃんと死神の王との戦いに集中し始めた。口を開いているのは、戦いの場にいる二人だけだ。

「骨の隙間から、中身をえぐってやろうかしら」

「出来るものなら、やってみるがよい」

「冗談よ、今日はあなたのその骨の装甲を一層、壊しに来ただけ」

 骨の装甲を、一層?……そうか、あの骨いくつも重なり合って分厚い装甲になっているのか。ミルフィーユみたいで面白いな。他の世界にはそんな構造を獲得した生物がいるのか。どんな環境下で進化した結果、この形に行きついたのだろう。気になるけどそこまでは視えないな。

「全部で四層あるでしょう?それを三つに減らさせてもらうわね」

「ノイよ、離れているのだ。余の心配ならいらぬ」

「……承知しましたよ。実際俺じゃあ何も出来そうにないですし」

 先手を仕掛けたのは、王の方だった。椅子に座ったまま、右手を上に上げる。その動作中に、王の背後に十本の剣が生成されていった。3Dプリンターで物が作られていくみたいに、刃から柄に向かって形が出来上がっていく。中性の騎士が持っていそうな長めの剣、ロングソードっていうのかな。それが十本、お姉ちゃんに剣先を向けたまま宙に浮いている。

「もっと創っていいわよ」

「では百本といこうか」

「もっとよ」

「では千本か」

「一秒の間に、数億の武器を創る黒猫をわたしは知っているわよ」

 なんだその化け猫。怖すぎるだろ。どんな知り合いを持ってるんだお姉ちゃんは。

「では、十億ほど創ろう」

 王が両手を上げると、モニターの画面が真っ暗になった。モニター画面が消えたわけじゃない。これは影だ。死神界の上空に創られた十億の剣が、光を完全に遮り世界を真っ暗にしてしまった。……ということは、死神界の光源は上方にあるということかな。じゃないと光が遮断されるわけないし。いや、そんなことを気にしている場合じゃない。なんでわたしは十億の剣に全く驚かないのか。着眼点が光源に向くのはどういうことだ。……あぁ、そうか。剣の創造方法が、見ただけで理解出来たからか。

「さて、どうしのぐか見せてもらおう。降り注ぐ十億の剣、どう対処するか」

 暗闇の中で、王の声が聞こえたかと思うと、次はお姉ちゃんの声が聞こえてきた。

「止まれ」

 ……なにも起きない。真っ暗でなにも見えない。実況してくれないかな、状況が分からない。

「今頃状況が分からなくて困ってるでしょうから、教えてあげるわ。剣が降ってきたけどそれを止めた。それだけよ」

 わざわざこっちに教えてくれた。で、お姉ちゃんは「止まれ」の一言で十億の剣を止めましたと。わたしはさっき、闇の核の動きを止める為に空間軸を固定したけど、それと同じことをしたみたいだ。でもそれを十億か。わたしでは一か所が限界なんだけどな。さらっと十億か……。

「あなた、好きな食べ物はあるかしら?」

「余か?甘いものが好みであるな」

「じゃあ飴にでもしましょう」

 モニター画面がぱっと明るくなった。……上空から、無数の飴が降ってきている。可愛らしい包装紙に包まれた飴玉が、ざあざあと雨のように。なにをしたんだこれ。まさか剣を飴玉に変異させた?……駄目だ、今のわたしでは仕組みが理解出来ない。お姉ちゃんがなにをどうやってこの現象を引き起こしたのか、なにも分からない。

「ノイよ、よかったな。これで当分は嗜好欲を満たせるな」

「……そんなこと、言ってる場合じゃないですって。なんすかこれ。何が起きてんのか俺には理解出来ないですって」

「驚かせてごめんなさいね。可愛い動物達にでも癒されてちょうだい」

 飴玉の包装紙が次々と勝手に開いて、飴は宙を舞いくっつき始めた。数十個の飴玉ごとに一つの塊になったかと思うと、次はそれが動物の形に変わっていく。あれだ、飴細工だ。飴で作ったうさぎとか馬を見たことがある。飴で作られた数々の動物達は、元気に走り出しノイの周りを飛び跳ねている。ノイは頭を抱えて呆然としてる。わたしも頭が痛くなってきた。一体何を見せられているんだこれは。戦いなのか、マジックショーなのか、何がどうなっているんだこれは。


「……麗冷よ、お前になら何が起きているのか理解出来るのか?」

「全く分からない。次元が違い過ぎるよ。カンスケは?」

「……理屈では分かるね。ただ実行出来てるのが意味分かんない。これあれだよ。水面を歩きたいなら、体が沈むより早く足を動かせばいいって言って、本当にそれを実現してる。実際は出来るわけの無い机上の空論を、師匠は本当に引き起こしてる」

 カンスケは仕組み自体は理解出来ているのか。無の力に定められた今のわたしより上なんだ、すごいなこいつ。

 わたしたちはもう、意味も分からずモニターを見ていることしか出来ない。画面の向こうでは、死神の王が椅子から立ち上がり、右腕を前に伸ばしている。次はなにをしようとしているんだ。

「どうやら本気でやり合わねばならぬようだ。エネルギーの移行は一旦止めねばならぬか」

「そうね、さっさと始めましょう」

 次の瞬間、王の右手には剣が握られていた。一瞬で武器を生成したか。シンプルな銀の剣だ。機能性のみを追求した、一切装飾のない一本の剣。お姉ちゃんの方は、持っていたリボンをひらりとひるがえした。するとリボンはしゅるしゅると渦を巻くように形を変え、細身の剣へと変形した。……レイピアだっけ。フェンシングの選手が持っている細長い剣。

 王とお姉ちゃんは、お互い右手に武器を持ち、剣の切っ先を相手に向けた。……と思ったら、お姉ちゃんは左手の手のひらも、王へと向けた。

「この世界は殺風景過ぎるわ。ガーデニングでも始めてみたらどうかしら?」

 お姉ちゃんがそう言うのとほぼ同時、左手からなにかが連続で発射された。早すぎて何が撃ち出されたのか分からなかった。王は前進しながら、それを全て剣で弾いていく。弾かれたものが床に落ちて、ようやくその正体を目視出来た。それは巨大な針だった。針の先端は床に深く突き刺さっている。あれが直撃すれば、骨の鎧に覆われた王でも傷を負うほどの鋭さなのだろう。そうでないなら、わざわざ弾く必要もないだろうし。

「あいにくだが、この世界では植物など育たぬよ」

「そうかしら?立派に大きくなっているわよ」

 床に刺さった複数の針が、ヘビのようにぐねぐねと動き回りながら巨大化していく。これは植物のツタだ。あまりにも太く大きく、幅でいったら五メートルはあり、植物だと認識するのが難しいけど。王を囲うようにして巨大化した何本ものツタは、上空へ向けてぴんと背を伸ばし、一斉にその重量を乗せて、ハンマーのように王へと振り下ろされた。ツタが床と衝突し、モニター越しでも伝わるような重低音が響く。王はどうなった、まさかやられるわけないし、どう対処したんだろう。

「ナナゴウよ、目視できたか?」

「はい、見えました」

 ガンジイがナナゴウにそう問いかけた。なんの話だ?……振り下ろされたツタの上、いや少し上空に王が浮いている。下半身の傘が開いて、そこから朱色に輝くエネルギーが放出され浮力を得ていた。振り下ろされたツタを、わたしには知覚出来ない速さで回避したってことか。ただ浮いてるだけじゃない、あの傘は高速で移動するためのエンジンの役割になってる。

 王は剣を構え、消えた。わたしには消えたように見えた。風を切る音がずっと聞こえ続けてる。尋常ではない速度でお姉ちゃんの周囲を飛び回っているみたいだ。たぶんガンジイとナナゴウにはこれも見えてるんだろうな。ムクも見えてるはず。カンスケはどうだろう。お姉ちゃんはレイピアを構えたまま動かない。王が斬りかかってくるのを待っている。

 不意にお姉ちゃんがレイピアを振り上げた。キンと甲高い音が聞こえ、刃と刃がぶつかり合う。王とお姉ちゃんは刃を合わせたまま、至近距離で互いを見合っていた。

「魔女と名乗った割には、接近戦もこなせるのだな」

「むしろそっちの方が得意よ」

「ならばこれは罠だったということか」

 王がそう言った後に気付いた。王は加速に使っていた傘の骨の内の一本を伸ばし、お姉ちゃんの腹部を突き刺していた。その骨はお姉ちゃんの体を貫通し、背中から突き出ている。

「あなたのその骨の装甲、どれくらいの高温に耐えられるかしら?」

 お姉ちゃんはそう言うと、にやりと不敵な笑みを浮かべた。するとお姉ちゃんの体と、モニター画面が歪み、真っ赤な嵐のようなものが巻き起こった。次はなんだ、真っ暗になったり真っ赤になったり忙しいな。……炎の渦か、これは。さっき王を襲ったツタが一瞬で炭と化している。炎の竜巻、台風、その中心点に王が一人で立っていた。あれだけ太いツタが一瞬で炭になったのに、王は平気なようだ。それで、お姉ちゃんはどこへ消えた?

「……これは困ったな。どうやら余では勝ち目がないらしい」

 王はそう言いつつも、構えた剣を下ろさなかった。炎の渦の中から、お姉ちゃんがゆっくり歩み出てきた。全身から炎を発し、火の魔人のようになっている。体を炎に変化させてるのか。じゃあ剣で斬ったところですり抜けるだけだ。いやそれどころじゃないな、この炎の渦とお姉ちゃんは一体化している状態だ。お姉ちゃんを倒したいなら、炎の渦ごと全てを消さないといけないことになる。……無理じゃないそんなの?

「でも諦めはしないのね」

「戦いに喜びを見出すのは、戦士の性であろうよ。そなたという怪物を相手にどれほど余が抗えるか、試すのも一興」

「ごめんなさいね、わたしも中々忙しい身なのよ。ゆっくり付き合ってあげたいところだけれど、終わらせてもらうわね」

 ……炎の渦から、二人目のお姉ちゃんが出てきた。と思ったら、三人目も出てきた。なんだこれ、全部で何人いるんだ?王をぐるりと取り囲むように、炎の中から次々とお姉ちゃんが出てくる。分身?……いや、違う。これ魂の複製だ。全部本物のお姉ちゃんだ。嘘だろ、魂の複製って。そんなの宇宙の意思にすら出来ないはずの、神の所業なんだけど。王が勝ち目がないと悟ったのは、この複製達に気付いたからか。

「じゃあいくわよ。三秒耐えられたら大したものね」

 数十人なのか、数百人なのか、全てのお姉ちゃんが全く同じ動作でレイピアを構え、姿が消えた。王の姿も見えなくなった。ギンギンと激しく刃がぶつかる音が聞こえるだけだ。わたしにはやはり速すぎて見えないみたいだ。

「動きが見えぬな」

 ガンジイがそう言った。あれ、ガンジイにも見えてないの?

「僕にも見えません」

「あたしもー」

「死神の王の動きはみんな見えてるでしょ。すごいね、師匠が斬りかかってるの全部防いでるよ。……あ、いや、防げなかったね」

 みんながそんなことを言っている間に、戦いは終わっていた。炎が消え、真っ白な空間が戻ってきた。王は剣を振りかざしたまま止まり、その胸にはお姉ちゃんのレイピアが刺さっている。突き刺さった切っ先の地点から、骨の装甲にひびが入り、王の全身へとひび割れが広がっていく。お姉ちゃんがレイピアを引き抜くと、骨の装甲はバリンと音を立て、崩れ落ちた。でも表面の一層だけだ。多少スリムになったけど、まだ装甲は三層残ってる。

「すごいわね、三.四秒も耐えたわよ」

「そなたの残した飴は大切にいただくとしよう」

「じゃ、私は帰るわね。直接会うことはもうないでしょう」

「間接的には、また機会があるのか」

「言ったでしょう?私はあの世界と、死神の戦力を均衡にするって。それじゃあ、ごきげんよう」

 お姉ちゃんはレイピアをリボンに戻し頭に結ぶと、姿を消した。それと同時にモニター画面も消えた。お姉ちゃんが死神界から完全に消えたってことだ。もう死神界の様子は分からないな。

「消えちゃったぞー。どうなってんだー?」

「わたしだけじゃあ、死神界に映像は繋げないよ。お姉ちゃんが死神界から手助けしてくれてたから見れてたの」

「さきほどの魔女の動きはなんだ?私には消失と出現を繰り返していたように見えたが」

「空間転移だね。要は瞬間移動だよ。高速で動くのではなく、自分が行きたい場所に位置を変えられるんだ」

 死神の王、滅茶苦茶に強いな。お姉ちゃんが数十人単位でワープして同時に斬りかかって来るのを、三秒くらい防ぎきってたのか。……なんか、わたしが思っていたより、お姉ちゃんって化物だったんだな。魔女というか神だよ、あんなの。

「しかしまぁ、師匠は難題をぶつけてきたなぁ。今の映像を見て、王と戦う方法を見つけておけってことでしょ」

「直接的な戦い以外に不可能だな」

「つまりおれに、王の使う術を全部封じる罠を創っておけと。しんどいなぁ、あと二か月くらいで出来るのかな、そんなの」

 王が使った、武器の大量精製なんかを駆使されると、こっちには勝ち目がなさそう。でも王の動きはガンジイたちには見えていた。肉弾戦なら渡り合うことも可能ってことだ。カンスケにはその為の罠を創ってもらうとして、わたしたちはなにをしようかな。

「ノイがいることも忘れてはならぬ。奴とて相当な脅威だ。ヴォンという死神もおるらしい」

「戦力をどこにどうぶつけるか、その辺も考えないとだなぁ……」

「さっき分かったことがあるんだけど。闇人が姿を消したのは、お姉ちゃんが操ってるからだね」

「やっぱり?死神の仕業かとも思ったけど、結局師匠だったか」

 おそらくここ一帯どころではなく、世界中の闇人をお姉ちゃんは操ってる。それでなにをしようとしてるのかは分からないな。さっき言ってた、戦力を均衡にするって目的の為に使うのだろうけれど。

「とりあえず、そっちは旅を続けて闇の本部まで来てよ。闇人がいないなら、二週間くらいで来れるんじゃない?」

「うちがいるの忘れないでほしいし。そんな速さで歩けないし」

「ヤヨイは私が背負う。なるべく急ぎ歩むこととしよう」

 死神との決戦は、おそらく二カ月から三カ月先。まだ危機感はないけど、心配の種が一つ順調に育ってる。

 わたしはそれまで、わたしのままでいられるだろうか。


次回へ続く……

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