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ENDLESS NIGHT  作者: 清水進ノ介


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第八章 時間の分岐路 三

第八章 時間の分岐路 三


 カンスケは甘すぎる。こいつのせいでどれだけの人が死んだか、その責任を取らせるべき。こいつは下っ端で言われた通りに動いただけなのは分かる。でも、だからって、許されることじゃない。カンスケがどう考えてようが、うちは絶対許さない。……でもまぁ、可哀想な奴だとは思うけど。

「……ヤヨイ」

「気安く呼ぶなし」

「やっぱり死神との戦いが終わるまで、僕を殺すのは待ってもらいたい。責任はそれから取る。僕はとてつもない人を苦しませる結果を生んでしまった。自分に生きてる価値があると思わないけど、今はまだやることがあると思う」

「きみが責任取ることじゃないんだけどねぇ」

「いいじゃん。こいつがそうするって言ってるんだし」

 危うい感情に翻弄されてるなこいつ。今にも崩れそうなのに、無理して立ってる。少し前までのオクゼツみたいになってるし。自分がしたことを悔やんでるだけならいいけど、その中に不信と怒りが混じってきてる。光側の連中への疑問がこいつの中に出てきてる。

「じゃあ、気を取り直して闇人退治といこうか。ぼくがここに罠を仕掛けるから、ナナゴウくんは闇人をおびき出してもらいたい」

「すぐに行動していいの?」

「問題ないよ、罠はすぐに設置出来る。ぼくはこの空間の安定化もしないといけない。戦いはナナゴウくんに任せることになるし、きみの都合のいいようにどうぞ」

 カンスケはそう言うと、ナナゴウに小さな受信機を渡した。手の平に収まるサイズで、液晶パネルが着いてる。パネルに発信機の位置が表示されるようになってる、結構希少な道具だ。

「それを見れば闇人の位置が分かるから、後は頼んだよ」

「その前に、表の世界で闇人が周囲から消えた件について知りたい」

「それはまだ原因不明。死神の仕業かどうかも、まだ分かっていないよ。調査の途中で闇人の邪魔が入ったからね」

 なんだ、そうなんだ。ていうか死神以外にそんなことする奴いないと思うけど。というか死神以外にそんなこと出来る奴いないと思うし。もしかすると表の世界では、すでにガンジイ達が死神と接触してるかも。

「じゃあ、僕は闇人の注意を引いてここに連れてくる」

「一緒に行くのよ~。一人は危ないのよ~」

「僕は大丈夫だよ。またねミニちゃん」

 ナナゴウは一人で走っていった。……ほんとに大丈夫かあいつ。無理してるようにしか見えないし。

「可哀想にね。マリアのせいでしんどい思いさせられて」

「誰?マリア?」

「あぁ、光側のリーダーだよ。名前知らなかったっけ?」

「知らんし」

「知ってるのよ~。子供の見た目だけど、なんかすごい人なのよ~」

「……子供の見た目か。ふうん、そっか」

 カンスケがなにか気にしている。見た目が子供ってことは、うちみたいにまだ幼いうちに死んで、そのまま光側の組織に入ったってことかな。でもそうじゃないとしたら……。

「相当無理してるみたいだね。自分の魂が擦り切れていくくらいには」

 そういうことだ。魂のエネルギーを摩耗していくほど、その姿はか弱くなって子供に近づいていくし。ていうかカンスケ、昔にそのマリアってのと会ったことあるのかな。聞いたことないけど。

「ナナゴウくん、だいぶ参ってるだろうね。光側の他のメンバーも闇の扉のことは知っていて、あえて黙っていただろうしね。彼の問題点は年齢の割にしっかりし過ぎてるところだねぇ。人がなんで自分を騙していたか、その理由も心情も察知出来てしまうから、責任をなすりつけることも出来ないだろうし」

「あんなガキんちょを騙すとか、光側の連中やっぱ最低だし」

「保身の為じゃなくて、ナナゴウくんの為でしょ。本当のことを言わない方がよかったと思うけどなぁ。これから戦力を整えて、死神との戦いを始めないといけないっていう大事なときに。コンディション乱すどころか、内乱が起きそうな気配までしてるよね」

「うっ……」

 それは、そう。反論は出来んし。でもあいつの方から聞いてきたし、それに答えてやっただけだし。……それにうちが謝るなんておかしいし。うちは悪いことなんてしてないから。

「ヤヨイは謝ったほうがいいと思うのよ~」

「は?ふざけんなし」

「ミニちゃんの方が大人だなぁ」

「は?は?」

「そういえばミニちゃん、そのお腹の武器見せてもらえる?それ、たぶんとんでもない兵器だよ」

 

 頭の中が、ゴミ捨て場になったみたいだ。邪魔な思考の欠片が散乱していて、考え方がまとまっていかない。僕は、どうやって責任を取ればいい?目的の為に、たくさんの人を犠牲にしてしまった。それも善良な人達を。カンスケよりずっと酷いことをしてしまった。悪気がなかったからといって、許されることじゃない。それを知らずにのうのうと生きていたなんて。それに司令官もソノコさんも、それを教えてくれなかった。総司令官もなにが起きたか知っていたはずなのに、教えてくれなかった。僕の為にあえて言わなかったのは分かってる。だけど知らないこと以上に、最悪なことなんてないじゃないか。

 僕が正しいと信じていた人達は、僕は、とてつもない過ちを犯していた。もしかすると光側は、闇側以上に犠牲者を出してしまっているのではないか……?

 ……駄目だ、余計なことを考えない。とにかく今は、この空間から出ないといけない。カンスケは犬と人間が混ざり合った闇人がいると言っていた。まずはそいつを倒さないと。……その犬というは、やっぱりあの犬なのかな。村の中で、人間は全員敵という状況の中で、唯一味方と思えた友達。僕に温かさをくれたあの犬。もしそうなら、倒すことが唯一の救いだ。もう魂は残っていないだろうけど、それでもそこに救いがあると信じたい。

 カンスケから渡された受信機には、闇人のいる方向が示されている。自分を中心に東西南北が表示され、点滅する点が闇人がいる場所を教えてくれる。そう遠くないところに反応が……。

 いや、速い。異常な速度でこちらに接近してくる。このまま逃走し、カンスケの元へ誘導するのは駄目だ。まずは敵の行動を見てそれから決める。遠距離から突然、投擲物とうてきぶつで攻撃してくる可能性もある。一目散に背を見せて逃げるのは悪手のはずだ。

 急激な状況の転換が、かえって僕の心を楽にしてくれる。今は目の前に迫る闇人のことだけ考えればいい。それ以外の雑念を頭の中から排除出来るのなら、ありがたい限りだ。霧がかった視界に、黒い物体が侵入してきた。円形だ、ボール状の黒い球体。まだ遠くにあるからおおよその目算になるが、直径は三光くらいか。それが凄まじい速度で回転しながら接近してくる。間違いなく目標は僕だ。どうやって僕のことを感知したのか分からないが、こちら目掛けて突進してくる。

 回避は容易だった。左へ走る様子を少し見せて、右へと急旋回するだけでよかった。敵は回転の勢いが強すぎるから、急な方向転換が出来ていない。僕の後ろへと転がっていき、しばらくしてからようやく止まって、こっちに向きを変えようとしている。

 ……酷く、おぞましい姿だ。どう表現すればいいのか分からないほどだ。この闇人には体が無い。あるのは巨大な顔だけだ。原型がなんの生物だったかなんて分からないぐらいに、無理矢理丸く変形させられた頭部。人間のようにも、犬のようにも見えない怪物の頭から、無数の手足が生えている。闇人ではなく、未知の怪物としか思えない。この怪物の中に、あの犬の魂が残っているとは思えない。仮に残っていたとしても、こんな姿で生きていくのは望んでいないはずだ。早く解放してあげないと。

 怪物は顔についた無数の手足で駆け出すと、やがて加速に動作が追いつかなくなり転がり始めた。多少の方向修正は出来るようだけれど、やっていることは単純な突進でしかない。これなら僕にも倒せるんじゃないか?……いや、油断しちゃ駄目だ。そんなに簡単に倒せる相手なら、あのカンスケがわざわざ罠を仕掛けようなんてしない。それ以外の武器をこの怪物は持っているはずだ。でも……。僕は甘いな。どうにかして、こいつを自分で倒したいと思ってる。カンスケにやらせたくない。ただの感情論でしかないのは分かっているけど……。

 剣を構え、迎撃態勢を整える。カンスケに言われた通りだ。僕は村で暮らしていた頃、苦しみが麻痺していたのだろう。そう、苦しみだけが麻痺していた。だからお前が寄り添ってくれた温かさは、そのときからずっと覚えているんだ。なんでお前が僕にだけなついてきたのかは分からない。お前は何度村人達に襲われて食べられそうになっても、いつもこっそり会いに来てくれた。一緒に生きていくことはもう出来ないけど、それならせめて、お前を楽にしてあげたい。

 突進を回避しつつ、剣で斬りつける。硬くない、刃が入ったのが感触で分かった。怪物はしばらく転がり、ゆっくり止まり、体の向きを変え、また突進してくる。攻撃を急いてはいけない。まずは回避が最優先。攻撃動作は最小限でいい。少しでも刃が入れば、怪物が勝手に回転して傷を深くしてくれる。数回同じことを繰り返した。怪物は行動を変えない。ひたすら突進だけを繰り返してくる。……だけどここで気付いた。この怪物は、少しずつ変化を起こしていた。


「ねぇ、あいつ一人で戦い始めたけど」

「みたいだね」

「なんか、この村にいた犬を倒したいとかさっき言ってたし。自分だけでなんとかしようとしてない?」

 五感の共有で、あいつの視界は全部見えてるし。カンスケが罠にかけるって言ったのに、自分勝手な奴め。カンスケがわざわざ裏の世界に連れてきた化物だぞ。普通に戦って、勝てるわけない相手だって分からないかな。……それともうちのせいで、まともな思考が出来ないくらい、追い詰められてたりする?うちが共有出来るのは五感だけ。頭の中の思考までは分からない。もしそれすら共有出来てしまったら、たぶんうちの脳が耐えられないだろうし。

「早く助けにいかないと」

「お、ナナゴウくんが心配?」

「そういうんじゃないし。うっさいし」

「素直じゃないのよ~」

「しばらく様子を見よう。大丈夫、ナナゴウくんが本当に危なくなったら、すぐ助けに行くよ。あの子の実力を見させてもらおう」

 今のところ危ないことはなさそう。ちゃんと敵の動きが見えてるし、回避も反撃も出来てる。……この闇人、弱くない?なんか転がってるばかりで全然雑魚なんだけど。カンスケはなんでこんな奴を、わざわざ裏に連れ込んだんだ?

「あの闇人は、中心部分に核がある。それを壊さないと倒せないよ」

「それだけ?そんなわけないでしょ」

「……あの闇人、どういうわけか、自分の力を抑えつけてるんだ。あの球体の中に、異常なエネルギーが詰まってる。それが外に出て行かないように、必死に抑えつけてるみたいなんだよね」

「闇人にそんな知性なくない?」

「いや、ベースになった魂が強い意思を持っていたなら、それをずっと保ち続ける可能性はあるよ。もうその魂が消滅していたとしてもね」

 内部に高エネルギーか。なるほど、それが解放されたとき、尋常じゃない破壊が起こされてしまうから、裏に連れてきたと。爆弾みたいな感じか。安全な場所で爆発させようってことね。うちらは体が吹っ飛んでも再生するだけだし。

「……あれ?じゃあナナゴウやばくない?」

「そうだね、ミニちゃんも爆発に巻き込まれたら終わりだね」

「終わっちゃうのよ~?」

「それをさせない為の罠だったんだけどね。エネルギーの拡散を防ぐための。でもまだ大丈夫だよ。見守ろう」

 カンスケはあいつのことをどう評しているのか分かんない。まだ評価がつけられない段階なのかもしれないし。カンスケが見守るって言うなら、それに従うだけでいいか。このままいけば、そのままあいつが勝ちそうな感じ。時間はかかるだろうけど、少しずつ攻撃を加えていけば、いつかは核を露出させられそう。……と、思っていた矢先、面倒なことになってきたし。

 あの闇人、形態を変え始めた。あいつが斬りつけた傷から、でっかい腕やら脚やらが生えてきてる。内部に凝縮されていたエネルギーが、手足に形を変えて出てきてる。これ、中途半端に攻撃していると、闇人がどんどん強くなっていくだけなんじゃ?

「元の形に戻ろうとしてるね。今のあの頭部だけの姿は、エネルギーを抑え込んでいった結果だ。このままだと、巨人みたいな形になりそうだね」

「そんな闇人見たことないけど。やばくない?」

「おそらく核になっているのは、人間じゃなく動物の魂だね。さっき犬がなんとかって言ってたけど、まさにそうなんだと思うよ。動物って本能で生きてるから、人間に比べてそこに雑念が混じらない。普通ではない変化を起こしても不思議じゃないね」

 闇人はどんどん巨大化してる。最初は少しずつだった変化が、はっきり分かるくらいの早さになってる。ただ転がるだけだった攻撃が、長い手足のせいでおかしな軌道を描くようになってるし。敵がなにをしてくるか予測出来ないっていうのが、一番怖い。敵自身もどこに転がっていくか分からなくなってるはず。今のとこあいつはそれを全部避けてるけど、そのうち当たったら大怪我になりそう。

「ミニちゃん、準備しておいてもらえる?」

「ばっちこいなのよ~」

「まだ先になるけど、核を露出させるには、太陽ビームが必要になるだろうからね」

 カンスケがミニちゃんを抱きかかえた。やっぱりこのまま見守るつもりみたいだし。最後には手を出すみたいだけど、本当にこのままあいつに任せて大丈夫か。

「ヤヨイちゃんもさ、ナナゴウくんが悪くないのは分かってるでしょ」

「理屈と感情は、別問題だし」

「その態度を続けるなら、後悔することになるよ。怒りをぶつけるべき相手は、ナナゴウくんじゃないよね」

「……怖いこと言うなし。後悔なんてしないし。なんでそんなにあいつの味方すんの?」

「あの子の気持ちは痛いほど分かるからね」


 こんな生物は見たことがないし、もちろん対処の仕方も教わってない。もちろん怪物との戦いを想定した訓練なんて受けていない。ここが退き時だろうか。カンスケが仕掛けた罠へ誘導するべきか。頭部から生え始めた手足は、異様に長く伸び始め、歪な四足歩行を始めた。蜘蛛くもに近い形状だが、四本の支えしかないから重心が常に崩れている。巨大な頭部が振り子のよう様々な方向に動き回るせいで、その重さを制御出来ていない。

 逃げるにしても、一旦動きを止めてからの方がいい。手足のうちの一本を切断するだけで、こいつはまともに動けなくなるはず。力任せに飛びついてきたところを、回避して斬るだけだ。

「ハナレテ」

「……え?」

 怪物が、言葉を発した。ハナレテ?離れて……?

「ニゲテェ……!」

 その瞬間、怪物の頭部が急激に膨張し、破裂した。その中から無数の巨大な手足が突き出してくる。駄目だ、避けきれない。あらゆる方向に伸びた手足が、僕の回避先を全て潰してしまっている。それなら後方に飛び退いて、少してでも衝撃を緩和させる。

 ……緩和させる、はずだった。だけどその必要はなかった。僕へと迫った巨大な足が、停止したからだ。他の無数の手足は伸び続けてる。僕の目の前のこの一本だけが、なぜか急停止した。

「……お前、僕のこと分かるんだね」

「ア、ア……」

「こんな姿になっても、僕を守ろうとして……」

 覚悟は決まった。わがままなのは分かってる。でも僕は逃げたくない。お前をこの醜い人間の魂の群れの中から解放する。こいつの正体はもう分かった。素体になっているのは、やっぱりお前だったんだ。犬の魂に、他の村人達の魂が混ざり合っている状態。通常であれば、動物と人間の魂が混ざるなんてありえないはず。だけど本能に支配されていたあの村人達の魂なら、理性を失い動物と成り果てていたあいつらの魂なら、こうなってもおかしくない。

 闇の扉に呑まれたとき、生存本能のみに突き動かされて、全ての魂が混ざり合ってしまったのだろう。その中で唯一、理性を保ち続けていたのがお前だったんだ。その理性は、僕を守ることを望み続けた。もう僕が人間に苦しめられないように、僕が傷つけられないように、必死に人間達の魂を抑えつけていたんだ。僕は……。

「僕はそれすらも知らないで、ずっと、のうのうと、生き続けていたのか……」

 なんにも知らないで。お前はもう消えてしまったんだと決めつけて。僕はここでも、なにも知らないままだったんだ。

「もう苦しまないでいい。ほら、おいで。もう自分を抑え込まないでいいんだ」

 闇人の体は、限界まで膨張したところで巨大化を止めた。そこから無数の手足が絡まり合って、一つの巨大な獣の姿になっていく。全長は僕の二○倍くらいはありそうだ。犬のような、イノシシのような、四足歩行の獣の形態。その体の表面には、人間の顔のようなものが、絶えず浮かび上がったかと思うと消えていく。

「お前らがこの子を苦しめているなら、全部斬り落としてやるだけだ」

 こいつの動きは人間のものじゃない。動物のものだ。それなら恐れることなんてない。

 お前がなにをしてくるか、どう僕に向かってくるかは分かってる。必ず右の前足から駆け出す癖も、飛びついてくる前に少し体を沈ませることも覚えてる。お前の一挙一動、全部手に取るように分かる。ガンジイさんが教えてくれたことだ。目の前ではなく先の動きを視るんだ。


「……あいつ、なにこれ?急にどうしたの?」

「すごいね、これは。急に別人に変わった」

 視界が追いつかない。ものすごい速さで動き回って、あいつがなにをしているのかが分からないし。これは攻撃してる?それとも攻撃されてる?あまりにも動きが速すぎて、なにが起きているのか何一つ分からないんだけど。

「なにが起きてるのよ~?教えてほしいのよ~」

「ナナゴウくんが、尋常じゃない速度で闇人を斬り刻んでるよ」

 攻撃してるんだ。うちではなにが起きてるのか理解出来ないし。なんで急に?こんなに突然動きが変わるなんてありえないし。

「相手がなにをしてくるか、全部分かってるね。ことごとく敵の先手を取ってる。それにこれ……」

「これ、なに?」

「……なるほどねぇ。師匠は光側にもがっつり干渉してたみたいだね」

「魔女のこと?なにが起きてんの?」

「ナナゴウくんの機械の体。あれ、師匠が設計に関わってるね。魂から発生するエネルギーを原動力に変える機構が備わってる」

 ……大丈夫なのかそれ。そんなことしたら、死ぬ程度では済まされないんじゃ……。魂をエネルギー源にするって、自分の魂を削ってるのと同じことじゃないの?そのまま消滅してしまうんじゃ……。

「お、やっぱりナナゴウくんが心配?」

「いいからそういうの。大丈夫なのあいつ?助けに行った方がよくない?」

「大丈夫だよ。あくまで今発生してるエネルギーを使用してるだけだ。魂そのものをエネルギーに分解はしてない。……それをする機構も備わっているとは思うけどね。なにかしらの封印がされているはずだから、その心配はないか」

「それもあるけど、このままじゃ闇人が爆発するでしょ」

「いや、それも大丈夫そう。爆発は内部に押さえ込まれていたエネルギーが、一気に膨張するから起きるわけだからね。ナナゴウくんは今、抑圧されていたエネルギーをどんどん斬り落としていってる。あはは、すごいなぁ!」

 あぁ、カンスケの目が輝き出した。あいつ、ただのガキだと思ってたけど逸材だったのか。カンスケが評価してるのは体じゃなくて魂の輝きの方。体が高性能の機械だとしても、それを動かしているあいつが弱いなら宝の持ち腐れだし。……あいつが、光側の最終兵器だったってことか。カンスケはよく喜べるな。死神との戦いが終わった後、それと戦わないといけなくなるってことなのに。

「ナナゴウくん、ぼくの声聞こえるよね。そっちに声を届けてる」

「聞こえる」

「もう罠に誘導する必要はないよ。そのまま内部の核が露出するまで攻撃を続けてくれたらいい」

「具体的に教えて。ただ露出させるだけじゃ駄目でしょ」

「いや、本当にそれだけでいいよ。露出した核の正体を見れば、それが分かるはずだから」

「……了解」

「奇跡が起きるよ。こんなことがあるなんて。ミニちゃん、作戦変更だ。きみの力は表の世界に向けて使おうね」


 カンスケの言う通りにする。僕にも分かっていたことだ。手足を斬り落としていくにつれ、その中心となっている部分の存在が見えてきた。核の正体なんて、見る前から分かってる。お前はここにいたんだね。

 自分の体が異様に軽い。司令から聞いていた機能が発動してるのだろう。僕の体には、魂のエネルギーを原動力に変える機能がある。ただその機能を発動させるには、もっと修業が必要になると聞いていた。戦術的な話ではなく、精神部分での修行だ。僕が人として成長するなにかを掴んだとき、この機能が解放されるはずと言っていたが、それが今起きたというこのなのか。

 ……僕の、一体なにが成長しているんだ。ただひたすら、自分の愚かさと過ちに気付かされただけなのに。それの一体なにが……。重苦しい思考とは対照的に、僕の体はさらなる加速を続けていく。もはや目で見て考えるということをしていない。これがガンジイさんやムクさんが見ている世界だったのか。数秒先の世界を、引き寄せていくような感覚。過程が結果を生むのではなく、結果を得た後に過程が追い付いてくるような……。

「ただいま」

 気が付いたときには、お前に張り付いていたエネルギーは全て消え失せていた。内部からひたすら湧き出てくる手足を斬り落とし、目の前に残ったのは小さく輝く光の玉だった。なんて小さな光なんだ。今にも消えてしまいそうだ……。この子の魂が今も無事なのは、核になっていたこの子の魂に人間達の魂が張り付いて、それが壁になっていたからだろう。だから周囲の闇のエネルギーに触れることなく、元の形をずっと保ち続けていたんだ。

 僕はボディの装甲を一部開いて、この子の魂を収納した。僕の体の中にいれば、表の世界に出てもダメージを受けないはず。でもその先はどうしよう。ずっとしまっておくわけにもいかないし、どこかでソノコさんに預けて、この子用の体を作ってもらいたいところだけど。

「すごいね、ナナゴウくん。きみ一人でどうにか出来るとは予想してなかったよ」

「後はなにをすれば?」

「表の世界に残したみんなのサポートだね。でもきみは休んでて大丈夫」

 カンスケたちが来て、周囲に漂うエネルギーを吸収し始めた。闇側の奴らはエネルギーを自分に取り入れて、強化や再生に使うことも出来る。しれっと自分達を強くしていくのか。

「死神との戦いに備えないとね。横取りするようで悪いけど」

「……いいよ、僕にはどうしようも出来ないエネルギーだし」

「じゃあナナゴウくん、おれ達はこれから友達になろう」

「……それは無理だよ。目の前で食われていった子供や赤ん坊の顔が、今も頭の中に張り付いてる。あなたが苦しみを麻痺させていたとしても、それを許そうとは思えないんだ。ヤヨイが僕を許せないのと同じだよ」

「ちゃんと分かってんじゃん。ふんっ」

「いや、きっといい友人になれるよ。おれも同じ痛みを知ってるからね」

「……一応、聞いておくけど」

「それは後で。とりあえずここから出る準備をしておこう。やるよ、ミニちゃん」

「サンシャイーン!」

 ミニちゃんが、なにかするのか?ミニちゃんは太陽の力を集めてビームが打てるというのは聞いてるけど、それをこれから打つ必要があるのかな。……あぁ、なるほど。表の世界に出現する闇の核。それをってことか。

「……ねぇ」

 ヤヨイが来て、僕の背中を小突いてきた。僕が無言でいると舌打ちされたけど、言葉にトゲは感じられなかった。

「あんたのやったことは絶対許さないけど。でもあんたは悪人ではないんだからね」

 ……慰めているのかな、これは。僕がしてしまったことは、もうどうやっても許されないと思う。たとえこの先どれだけのことを為せたとしても、僕自身が僕を許せないと思う。

「善人は救うのが闇側の信条。あんたのことは絶対許さないけど、殺すのはやめといてあげる」

「ごめん」

「もっと謝れ」

「ごめん」

「ほんとに謝んな」

「どっちだよ……」

「あんたもう、うちの前で大人ぶった態度取るのやめろよな」

「うん」

「じゃあもう謝るのやめろ。あんたはガキなんだから」

 一応、慰めてくれてはいるのか。そんなことされても、なにも楽にはなれないけど。

「ていうか、最初の予定では闇の核どうするつもりだったの?なんかミニちゃんのビーム撃つみたいな話になってるけど。元々はそんな予定じゃなかったんでしょ?」

「向こうは大丈夫だよ。レイレイちゃんがいるからね」

「あの女、怖いよ。でも戦闘力は無いじゃん。カンスケが人に無理なこと押し付けるわけないから、どうにか出来るもんだとは分かってるけどさ」

「戦う力なんて必要ないよ。最初に彼女に会ったときにも言ったんだけどね。レイレイちゃん、化物だからさ」


次回へ続く……

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