第13話 雪女サイ
そしてその夜。
俺は例のごとく魔王城に来ていた。
ああ......なんだか今日は疲れた。寝不足続きなのと、昼間にあのカツラとかいうジジイと戦ったせいで疲れが貯まっている。
魔王様に少し休ませてもらうように頼もうかな......
そう思い俺は部屋を出る。
ちなみに俺は魔王城に自分の部屋を割り振ってもらっている。そこに円盤型のワープ装置を置いて、カエデさんの元から魔王城に来ている。
さて......とりあえず魔王様の部屋に向かうか。
あれ?そう言えば魔王様の部屋ってここからどうやって行くっけ?
俺は一度魔王様の部屋に行ったことがあるが、いかんせんこの広さである、場所を覚えている訳がない。
「ん?お前は......」
その声は背後から聞こえた。聞き覚えのある低い声である。
俺はその声がした方を恐る恐る見た。
そこには髭を生やした長身の男性、魔王軍の第1魔将、ランドさんがいた。
「ラ、ランドさん......」
「こんなところで何をやっている。来たなら早く仕事をしろ」
ランドさんは歩きながら言う。
「は、はい!すいません!」
この人の前だと自然と背筋が伸びる。威厳があるとはこのことを言うのか。
あの魔王様が唯一恐れる?訳もわかる。
「あ、あの......」
「なんだ?」
「ま、魔王様の部屋に行きたいのですが......」
「なんだ、まだそんなことも覚えていないのか」
ランドさんは呆れながらも魔王様の部屋の場所は正確に教えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
俺はペコッと頭を下げながら言う。
「一度で覚えろよ、もう教えんからな」
そう言うとランドさんは後ろへ振り返り、歩いていく。
ふー、怖い怖い。
「それと貴様」
俺に背を向けながら言うランドさん。
「は、はい」
「その膝の擦り傷はなんだ?」
「え?」
そう言われて俺はハッとして自分の膝を見た。
俺の膝の辺りのズボンは破れ、擦り傷があった。
これは昼間にジジイをやりやったときに出来た傷だ。
「え、えーっと......これは」
「まあいい。しかし、1つ言っておく」
そのまま背を向けながら言うランドさん。
「貴様が何をしていようと俺は知らん、だが魔王様を裏切るような真似をしてみろ。その時はクビではすまないからな」
そう言うとランドさんは廊下の奥へと消えていった。
あ、あれは何かに気が付いている発言だよな......
俺はランドさんに教えてもらった道順で、魔王様の部屋へ向かう。
俺の部屋は1階、魔王様の部屋は最上階の4階にあるので相当階段を上った。
しかし、さっきのランドさんは何を言いたかったのだろうか。
俺が嘘ついて昼間に何かをしていることには気が付いているが、魔王城での仕事を蔑ろにしないのであれば見て見ぬふりをしてくれると言うことなのか?
まあとにかくだ、バレてしまっている以上はもし失態を晒したらマジでクビじゃすまない。
魔王様に対しても失礼のないように接しないと。
そうこう考えている間に魔王様の部屋の前に着いた。相変わらず魔王とは駆け離れた可愛らしいレイアウトの扉である。
コンッ!コンッ!コンッ!
「魔王様、いらっしゃいますか?」
俺は3回ノックし、魔王様の所在を確かめる。
「いるよ」
その声は中から聞こえてきた。この可愛らしい声は間違いなく魔王様である。
「魔王様、入っていいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
そう言うと、俺は魔王様の部屋の扉を開けた。
スーッと扉を開けると、そこにはまた機械をいじっている魔王様がいた。
どうやら魔王様は機械やコンピューターが好きらしい。所謂オタク気質なところがある。
「あの、魔王様」
「何?」
魔王様は機械をいじりながら背中で返事をする。
あれ?いつもの魔王様なら振り返って「あっ!ロイロイだ!」とか言ってくるはずだが......
「魔王様、なんか御機嫌斜めですか?」
「そんなことないよ、それより何?」
明らかに御機嫌斜めだ......とてもじゃないが休みたいなんて言い出せん。
「い、いえ、これと言って用は......」
「用がないのに人の部屋に来ないでよ」
魔王様は機械をいじり続けて言う。
こ、こりゃダメだな。退散だ。
一応魔王様に挨拶だけして魔王様の部屋を後にした俺。
まあ休ませてもらうのは甘えていたか、カエデさんとの旅と魔王城での仕事、両立させると決めたからにはしっかりやらないとな。
しかし、なんで魔王様はあんなに御機嫌斜めだったんだろう......
「お、ロイくんじゃないか」
「へ?」
少し考え込むように突っ立っていた俺の左から声がした。
その声がした方に向くと、資料を抱えるサイさんの姿があった。
「サイさん!お疲れ様です」
「ああお疲れ様。どうしたこんなところで?」
サイさんは俺の前まで歩いてくると、立ち止まって聞いてきた。
「い、いえ......魔王様に用があったのですけど、なんだか今日は御機嫌斜めで......」
「ああ、まだ魔王様の機嫌が直らないのか......」
サイさんは「うーん」と嘆息して目を瞑った。
サイさんは事情を知ってそうだな。
「魔王様はどうして機嫌悪いんですか?」
「うむ、実はな......」
サイさんが話してくれた内容はこうだ。
前に魔王城を襲撃してきた3人組、あいつらが言っていた町を荒らすモンスター達についてランドさんが調べていたらしい。
すると、そのモンスター達は帝国軍にも魔王軍にも属さない第三勢力的組織のモンスターだとわかった。
野生のモンスター達であれば放置してもいいが、組織ぐるみで悪さをしているのであればどうにかしないとならない。
っと言うことでその第三勢力的組織の討伐に向けて遠征が決まった。
それでやはりそこそこ大規模な組織を相手にすると言うことで魔王様も遠征のメンバーに加わった。
それで行きたかったショッピングに行けなくなったので機嫌が悪いらしい。
結局のところ色々あったけど、ショッピングに行けないから機嫌悪くなってたのかよ!!
まあでもあの歳で色々と忙しくされていて、大変ではあるよな。
「それよりなんだ、なんだか顔色が優れないなロイくん」
サイさんは腕を組み、心配そうに言う。
やはり寝不足と疲れが顔に出てしまっているようだ。
「は、はい......少し体調が」
「無理は禁物だぞロイくん、働くのはメリハリが大切だ」
「そうですね、でもあんまり休めなくて......」
まあ自分のせいなんだけどな。
「そうか......それならこれをやろう」
サイさんは持っていたカバンから何かを取り出した。
クマさんの顔の形をした小物入れだ。
ク、クマさんだと......なんでクールなサイさんがこんな可愛い小物入れを......
「ほら!受け取れ」
そのクマさんから何やら薬のような物を取り出し、俺に渡してきた。
「これは?」
「魔王様が開発した活力剤だ。私も試してみたが良く効くぞ」
魔王様が開発した薬......
魔王様は結構色々と器用で、俺がカエデさんの場所と魔王城の移動で使っているワープ装置も魔王様が開発したらしい。
それにこの活力剤は魔力を培養して作られてある。魔王様は魔力の専門家でもあるからな。
これは助かる。寝不足で今にも倒れそうだったからな。
「ありがとうございます!」
「だがあまり薬に頼り過ぎるなよ。まあどうしても休めないときは私が氷漬けにして休ませてやる」
「え、遠慮しときます」
「ハハハ、冗談だ」
そう言うとサイさんはクマさん小物入れをカバンに直し、資料を手に一息つく。
「じゃあ私はこの資料を魔王様に渡さないといけなくてな。身体には十分気を付けるのだぞ」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう言うとサイさんは魔王様の部屋へ入っていった。
あー、やっぱりサイさんは魅力的だ。まるでお姉ちゃんが出来たみたいだ。
魔王四天王にして紅一点、雪女サイ。そして魔王軍の人事担当である。
魔王様や俺のお姉さん的存在であり、優しく1番頼りになる存在だ。
魔王様も彼女には甘えたで妹のような娘のような態度で接している。
サイさんならもちろん恋人でも最高だが、あんなお姉ちゃんがいたら毎日楽しいだろうなー。




