戦いのあと…
「…いろいろ落ち着いたところで、とりま助けてくれてありがとうな。俺たちだけだったらあの後いったいどうなってたことか…」
「いいよお礼なんて、俺とショウの十年以上の付き合いだろ」
「そうはいってもな…」
「まあまあ、久しぶりの再開なんだから堅苦しい話はやめようじゃないか。それより何か聞きたいことがあるんじゃないか?」
ーー場所は変わって町の喫茶店の一角、この町では比較的一般的な服装の俺と男物のぶかぶかの服を着る赤髪の少女、そしてこの辺境の町には似つかわしい堅牢かつ軽装な白銀の鎧を着る騎士という異様な空間が広がっていた
俺たち(ほぼシオン)の手によって刀に呪われた怪物を撃退した。その後町の騎士団が駆けつけて事後処理を行った。俺たちはシオンに任せて昨日は休養をとり、今日改めて事情を説明し、その流れで喫茶店へ
「とりあえずシオンさんは王国の実質最強クラスの騎士さんなんでしょ?なんでこんな辺境の町に来たの?」
「くそっ!この世界に来てはや半年、俺はなんとかして異世界ライフを満喫するために過酷な環境で暮らし、それなりに筋力もつけたはずなのに…どこでこんなに差がついたんだ!!」
「ショウ、うるさい!!」
「ははっ、ほんとにふたりは仲がいいね」
アイセアが机に伏す俺の頭にゲンコツをくらわせたのを涼しげな顔で笑うこいつ、桐谷 紫苑は今では王国で白兵戦においては右に出るものはいないと言われるほどの人間になっているらしい
『銀閃』シオンの二つ名であり、彼が戦った地には地平に白銀の騎士だけが残ることから名付けられたらしい。なんて浅はかな名前の付け方だ……別に羨ましいとか思ってない
「うん、こういうことはあまり一般の人には言ってはいけないんだけどね。今回は特別にな…王国の王子、王女は今何人いる?」
「情弱な俺に聞くかそれ…確か第三王女が末っ子じゃなかったか?」
「その通りだよ…さすが『将来の夢はお金持ちの奥さんをつくって気ままに暮らすこと』
だったショウだ」
「おいまて、誤解を生むだろ?俺はただ働きたくないだけだ。しかもこっちに来てからは生きるために毎日仕事をしているんだからな」
「まあどうでもいい話は置いといて…王国の紋章の色が青と黄色と黒と白で構成されている理由と関係があってだな、この色は王国繁栄の立役者である魔法の属性を示しているんだ」
「はっ?魔法だったらあと一つ赤がないとおかしいだろ」
魔法には主属性として火・水・自然・闇・光の五つがある。あとはそれらを派生して他の魔法が生まれる。だからこそ火を示す赤がないことに疑問を抱いたのだが…
ここでシオンは神妙な顔をして周りを伺って言う
「赤がない理由…それを調べるために王国の最高機密にアクセスした結果…空白の三年間を記す本が見つかった。タイトルは『煉獄の魔女』…」
シオンの鋭い眼光が一瞬アイセアに向けられた気がした。それとほぼ同時にだろうか、アイセアが急に立ち上がった
「あっ、ここの喫茶店セルフで取りに行かないと行けないんだった!ショウあんた行きなさいよ」
至近距離にいる人間に話しかけるにしては大きな声でアイセアが言う
「今いいところなんだから自分でいけよ」
「ああー、ショウにあげた魔力が全然回復しないよー、誰かさんのせいで」
「ベクトルの方向隠せてなくね!?わかったよ…いけばいいんだろ行けば」
「うん…お願いね」
そう言うアイセアの赤い瞳がが浮かなかった理由を俺は知るよしもなかった…
「おぉぉーい!セルフサービスじゃないじゃねえか!お陰で恥ずかしかったわ」
俺が戻ってくると二人はまるで離婚した夫婦が偶然再開しちゃった感を醸し出して座っていた
「ん?俺がいない間に何かあったのか?シオンがセクハラしたとか?」
「…ショウじゃあるまいしするわけがないだろ。さっきの話の続きだけど僕がこっちへ来た理由は人探しってところだってこと」
軽くディスられ、なおかつ適当な理由ではぐらかされた。が、俺にはこの重い雰囲気の中話を盛り返す勇気はなかった
その後も話は特に盛り上がりもみせずに夕暮れ時となった。そしてシオンが突然この町を今日中に出ると言った
「もう行くのかよ、一泊くらいしていけばいいのに」
「もともとここに立ち寄る予定は無かったからね、いろいろと押しちゃってるんだよ。じゃあまた来るよ」
「ちっちっち、次会う時は俺がお前を超える時だからな。そこんところ勘違いするなよ。それと…これは餞別だ」
そういって俺は鞘に包まれた日本刀『飛翔』をシオンに投げる
「これは…?」
「まぁ今回は巻き込む形になっちまったからな、お前の剣は折れちまっただろ?だから取り敢えずそれを預けておこうと思っただけだ」
「ははっ、ショウはツンデレだな」
「使い方間違ってんぞ…お前ほど強いと一人でも大丈夫なんだろうが寂しくなったらその刀を俺だと思ってくれ」
「それはそれで気持ち悪いな…まあありがたく貰っとくよ…それと彼女によろしく」
シオンはここにいないアイセアへの挨拶を頼んだ。当の本人は腹痛だとかいって家に帰ってしまった
「おう、任された。じゃーな」
夕日に照らされる道を白銀の騎士は去っていた。その後ろ姿は物語の勇者のようだった
「追いつけるかなあいつに……とか考えたところで唯一の武器も渡しちまったし、当分は金稼いで新しいやつを作らないとだな」
俺は先行きの見えない未来を頭を抱えて考えながら家への帰路につく
そしてその後方のシオンは言葉をこぼす
「僕が一人でも強い、か…僕が欲しかったのは力じゃなくて心から笑いあえる仲間だったんだよな…この世界の魔王を倒してしまったら元の世界へ帰らなくちゃいけないのかな、それは僕にとっていいことなのか…否か…」
妙に紅い太陽の下、誰よりも強く誰よりも脆い白銀の騎士は大きく小さな背中で息をつく
「それとアイセア…いやアイシス王女の所在もわかった…これでまた一歩この王国の謎に近づけた」
この世界に来てから半年、綿密すぎる日々を過ごし得たこの知識の不穏さを示すようにあたりを風が吹き抜ける
「うおっと…これはまた気持ちの悪い風だな、部屋に行く前にアイセアの様子を見てみるか」
今日は裏路地に不良の姿は見えなかった。
今ではショウの住んでるボロアパートの横の部屋にアイセアが住んでいる
「おいアイセア、入っていいか?」
「……どうぞ」
少しの沈黙のあとアイセアの声が聞こえる
一応機嫌取り用のモナカ(らしきもの)は買ってきた。これであわよくば…
そう思いながら立て付けの悪い扉を開けると、仁王立ちをして待ち構え、窓の木漏れ日によってさらに燃える赤髪の少女は突然言った
「…私はこの王国を脅かす魔王を討ち取ってこの国の英雄となってやるわ!!」
「…はい?」俺の口が阿呆みたいに開く
「だから…その…あんたは鍛冶屋のくせに冒険家になるんでしょ?だから…その旅に私も同行してあげるってことよ」
緊張していたのか顔が真っ赤になっていた
そんないろいろブレブレな彼女を俺はしっかりと目で見つめて言う
「あぁ、よろしくな」
こうして俺たちの長く険しい冒険は始まった
「あっ、そうそう、さっき町の騎士団の人が来て壊した山の環境の修繕費の一割でいいから払ってくれだってさ」
「……それはないぜマジで」
始まらないかもしれない…




