聖剣と女騎士
あの戦いからひと月が過ぎた
あの時感じた高揚感、生と死の興奮、そのすべてがだんだん薄れつつある。これが噂に聞く賢者タイムなのだろうか?
「おい黒アホ毛!頭の中空っぽにしてないで手を動かせ!」
「う、うっす!」
今俺は改めて鍛冶屋の元で働かせてもらっている。というのも自分でつくった工房は借金のため売り払わされ、とにかく金がなくなったからだ。まぁそれと人間関係の大切さを知ったからも少しある
(ちなみに異世界には黒髪がやはり少なく、ついでにおれのアイデンティティのアホ毛も含めてよくこう呼ばれる)
「まあそれにしてもお前のつくる工芸品には魂を感じるな。一体どうやってるんだ?」
「スキルの賜物です」
「……お前かわいくないな」
妖精が見えると言っても信じてもらえないだろう。まあなんやかんやで毎日淡々と過ごしている
ちなみにアイセアはあまり魔法を使えるもののいないこの町ではとても重宝され、今では病院で働いている(なお給料は少ない模様)
「ふぁー、暇だ…何か面白い事件でも起きないかな」
そう思った矢先、けたたましい音とともに工房の扉が蹴破られた
「なんだこの扉?脆すぎて壊れちまったぜ」
「職人にとって聖域である工房に部外者が入るとはいい度胸だな」
白髪の凄みのあるじいさん。工房主が突然の乱入者に圧をかける
「はっ…なんだ田舎の人間は客にそんな態度をとるのか。これだから人族の中でも田舎のやつは嫌いなんだよ」
そういってずかずかと入ってきたのは180はある工房主をゆうに超える背をもつ者だった
二足歩行にもかかわらず体は体毛に覆われ顔は平たくなく狼のようで耳は上に向かってとんがっている。そう獣人だ
「で、何の用だ?見ての通りこっちは忙しいのではやく失せてもらいたいのですが」
「へっへっへ、兄貴、魔法が無ければ貧弱な種族がなんか言ってますね」
今まで前方の大きな赤毛の獣人にしか気づかなかったがその後に腰を低くした青毛の獣人がいた
そいつが言う通り人族は他の種族に比べて腕力が異様に低い。しかし、人族はそれを補うために魔力の扱いに長けている。が、このように魔法が使えるものが少ない町では上下関係が浮き彫りとなってしまう
「はっ、俺もこんな薄汚い場所ははやく去りたいからな。お前らは明日までにここの場所を空けろ。今度やる事業にここはいらないんだ」
「なっ!一体何の権利があってそんなことをする?」
工房主が一方的に要件を告げて去ろうとする獣人の肩を乱暴に掴む
「きたねぇ手で俺に触れるんじゃねぇ!」
獣人は怒りを顕にして振り向き、工房主の顔面へと強力なパンチをくらわせた
「ぐはっ!!」
鈍い音とともに工房主は工房の壁に叩きつけられる。人間の数倍の力をもつ獣人の攻撃を一般人が受ければただじゃすまないだろう
カチン
これには普段は温厚な俺もさすがに頭にきた。普段は頭の固くムカつく工房主だが、こうも理不尽なめに合わされてるのを見ればムカつくだろう
俺は立ち上がり獣人の前へと立つと、
「おいおい、あんたら体中から陰毛(笑)みたいなの生えてますけど大丈夫ですか?それ耳の中にも生えてるんじゃないっすかね?だから言葉が理解出来ないんすか?かわいそうっすね」
数少ないボキャブラリーでできる限りの挑発をした。案の定獣人の二人組はブチ切れた
「おい糞ガキ!てめえ調子のってんじゃねぇぞごら!」
「やんすやんす」
徐々に獣人が近付いてくる
「おい黒アホ毛…今ならまだ間に合う!なんとか謝って許してもらえ」
少し前の俺は怖気付いて見て見ぬ振りをしただろう。だが、俺は前回の戦いで3レベ上がったのだ。そして攻撃スキルを身につけた。いわば今の俺はただの鍛冶屋じゃない。戦う鍛冶屋だ
「はっ鍛冶屋だと思って見くびったな!くらえ『ブロウ』!」
俺は隠し持っていた小槌を振り下げる。すると全身に力がみなぎり、スムーズにモーションが移行する。跳躍、そして無防備な獣人の頭上に向かって振りかぶる
「ふむ完璧なモーションですな。とても滑らかでかつ繊細的だ」
それもそのはずだ。ここ数ヶ月、あの時ほどの熱は消えたにしろ日々独学を重ねて鍛錬を積んできたのだ、獣人のチンピラごとき…
「この程度かよ」
信じられないことに俺の渾身の一撃は軽々と止められてしまった
「なっ!?」
「ふむ、やはり獣人と人の差は初心者スキル如きでは覆ることはなかったか…しかし君には伸びしろがある。是非頑張って欲しいですな」
「「………」」
俺と相手の獣人、及び周りの空気までもが一瞬止まった。そして俺は小槌を止められた状態で疑問を投げかける
「…さっきからちょこちょこ会話に入ってくるけどあんた誰だ?」
多分ここにいる全員が疑問に思っていたことだろう。その男は鍛冶師の格好でもなく、獣人というわけでもない。この場には非常に不似合いな黒い燕尾を身にまとった執事風の男だった
「おっとこれは失礼。私バーベリア家の執事をやっておりますモノフスキーと申します。ご気軽にモノフとでもよんでくださいませ」
「バーべリア家?どこかで聞いたような…」
工房主が考え込むようにしている。しかし獣人にはこの返答が癪に触ったのか怒鳴り散らす
「あぁ、うぜぇうぜぇ!バーベルかなんか知らねえけどどうでもいいんだよ!!だいたいよ…」
「爺や、こんなところにいたのか探したぞ」
怒りを顕にする獣人を他所に蹴破られた扉から銀髪に青目、片目を髪で隠したお姉さん気質の女騎士がちょこんと顔を出した
「いちいち邪魔すんじゃねぇ!」
あろうことか獣人は有無も言わさずに女騎士へと殴りかかった。が、
獣人が繰り出した強力な拳は女騎士の手によって軌道を変えられる
そして次の瞬間俺はとんでもないものを見た
流れるような身体捌きを見せたあと女騎士は獣人の足を引っ掛けて重心を合わせる。そして2m近い巨体がいとも簡単に宙に浮いた。そしてそのまま倒れる
「この町では挨拶代わりに拳を交えるのか、珍しい習わしだな。勉強になるな」
見事な一本をとった女騎士は真顔で的はずれなことを言った
唖然とした様子で青毛の獣人と鍛冶屋が見ていると
「いえお嬢様。この街にはそのような風習はございませんぞ」
「むっ?そうかのか…ではかの者達はなぜ突然殴りかかってきたのだ」
そういって女騎士は獣人に目をやる。するとさっきまで高圧的だった獣人たちが
「ひいっ!お、覚えてろよ!!」
と、雑魚の捨てゼリフのようなものを吐いて逃げ帰ってしまった
「おとといきやがれ!」
工房主、調子に乗るとまた奴らが来るぞ…しかもあんたの手柄じゃないだろ
「一体なんだったのだ?まさか私が怖くて…くっ、一体なぜだ…」
そして突然膝をついて自問自答をし始めてしまった
一体この状況は?と、俺が思っているのを見てモノフが
「お嬢様。いくら友達が地面だけだからと言っていつまでも下を向いていないでください」
「だ、誰が友達は地面だけだ!…他にも……人の友達が二人くらいはいるぞ!」
(二人しかいないのか…)
「それよりも、ここにおりましたぞ。私たちの探し人が」
そしてモノフら突然俺の腕を持って上へあげた
「へっ?俺っすか?」
「むっ?貴殿が鍛冶師の心得EXを所持しているというタケダ ショウというものか」
やはり状況が掴めない俺はとりあえず名前が呼ばれたので頷いておく
「おぉ!こんなにもはやく見つかるとは幸先が良いな。突然で無礼も承知だが貴殿の腕を見込んで頼みたいことがあるんだが…」
そうして女騎士がかっこよく指を鳴らすと、後ろから従者らしき人が厳重に守られて布に包まれている剣を持ってきた
「私はバーベリア家当主、フレア・バーベリアだ。貴殿にこの聖剣の修理を頼みたい」




