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勇気

 元の世界でみたアニメで、最弱の主人公が自分よりも遥かに強い敵に恐れもせずに挑んでいくものがあった。俺はそんなアニメの主人公に少なからず憧れて今まで育ってきた。自分でも偽善と知りながらも、果敢に虐めっ子に挑んではボコボコにされたのを今でも覚えている。まあその成果は得るとのより失うもののほうが多かったくらいなのだが


 そして今ーー


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 虚勢だけで俺は怪物へと向かっている。距離がどんどん狭まっていく…そして


「うぐっ…」


 俺は情けなく敵を目の前にしてただ突っ立っているだけが精一杯だった

 多分あと一歩を踏み出せば、たちまちあの奴隷商の仲間のように潰されるだろう。そして当の怪物はというと、まるで俺の選択を見守るかのように動こうとしない


 アイセアの手前、見栄を張って飛び出したまでは良かったのに身体が全く動かない


「御主人様?」


 横で『飛翔』が心配そうに声をかけてくる。それが俺の中にあった耐えられない気持ちを爆発させた


「無理だ無理だ無理だ!こんなの絶対無理だ…俺はただ、物語の主人公のようになりたかっただけなんだ。でも現実は違った!俺には力も勇気も何もなかった。何も無かったんだ!それなのに……」


「……」


 飛翔は何も言わなかった。刀を通じて共有しているからこそ俺のやりどころのない気持ちにかけるべき言葉が無かったのだろう


 俺は膝を地面について今にも泣き出しそうになった。そんな俺を怪物は見下ろすだけで何もしてこない。まだこの世界に産み落とされたばかりだ。来るもの拒まず、去るもの追わず。といった具合だろうか


 いっそひと思いに殺して欲しいとまで思ってしまった


「何泣いてんのよ!」


 唐突にうずくまって無防備な俺の背中に平手打ちが飛んできた。


「いっつ!なにすんだよ」


 目に溜まった涙が痛みとともに引いていった


 「馬鹿なの!?一人で何をうじうじと言っているのよ。だいたい独り言が多すぎ!寂しがり屋さんか!ほら、まずは立って。目を瞑って深呼吸…せーの」


 俺は言われた通りに立って深呼吸をする


 「すーーっ、はぁーー」


 「はい、落ち着いたらまずは移動する。大丈夫、あいつは多分まだ動かない。動いたらその時はその時よ」


 「ちょ、待ってって」


 そういってアイセアは急いで俺の裾を掴んで岩陰まで連れていった


 「何やってるんだよ!一刻もはやくあの怪物を殺らなきゃいけないんだろ!こんなことしてる場合じゃ…」


 「はぁー、さっきまで本心を思いっきり暴露して泣き崩れてたヤツがよく言うわね…」


 「……」


 俺は何も言い返せない。まずこんなわかりきった嘘をついたのもただアイセアという子の前では強い自分でいたいという小さなプライドのためだからだ


 「私は…ショウはもう逃げてもいいと思うの」


 「なっ!?」


 驚いた。絶対「気合いが足りない」とか「男としてのやるべき事をしないのか?」とか何かで怒られると思っていた。しかし、アイセアの言葉は予想の斜め上をいった


 「ショウはさっき言っていたよね『俺には力も勇気も何もない』って…でも私はそうは思わない。だってショウ、あなたはなんで今ここにいるの?」


 「俺が今ここにいる理由…」


 思い返す…

 奴隷商に囚われた子供たち、奪われ呪刀となった飛翔そして、売られかけていたアイセアの救出…


 「そう、ショウはすでに勇気を持って行動をした。もし私のことを見て見ぬ振りをしていたらショウが巻き込まれることはなかった。だからもしショウのことを偽善者とか言う輩がいたら私がぶっ飛ばしてあげる」


 あぁ、そうか…俺は勘違いをしていたんだな

 物語の主人公たちは何も特別な力を持って戦えていたわけじゃないんだ。ただ大切な何かを守るために戦っていたんだ…


 「ふふっ…はははっ」


 「な、何がおかしいのよ!?」


 真っ赤な髪と同じように頬を赤く染めてアイセアが言う


 「いやいや、おかげで目が覚めた気分だよ。ありがとうアイセア」


 「そう、なんかショウに素直に謝られると気持ち悪いわね」


 「そこは素直に受け取ってくれよ…」


 「じゃあショウはせめて街の騎士団に連絡を頼めるかしら?多分私一人じゃ少ししか時間は稼げないから」


 そんな訳の分からないことを言うアイセアに俺は困惑した表情で


 「はっ?何を言ってるんだ?俺もやるに決まってるだろ?」


 俺のこの言葉に今度はアイセアが困惑したような顔をしていた


 「第一、一矢報いないと俺の気がすまねえしな。それに今の俺はさっきとは違うぜ!言うなればnew武田 将だからな」


 「はぁー、呆れた。…でもしょうがないから一緒に行ってあげましょう」


 そういってアイセアが微笑んだ。口では呆れたようだがどことなく嬉しそうだった


「なあ飛翔。もしかしてなんか必殺技みたいなものとか使えたりしないかな?」


さすがに何かしらの策が無ければ自殺しにいくようなものだから、俺はダメ元で聞いてみた


「必殺技ですか?そんな便利なもの……あっ!そういえば一つありました!」


目の前で小さな妖精は自分でも驚いたような感じで飛び上がる


「なんだと!?」


「実は僕ほどの精錬された刀だと刀身に魔力を溜めて遠距離攻撃が可能になるんです。そしてこの技はチャージも可能なので…」


「あいつが止まっている今のうちに魔力をありったけ込めて放てば…」


「「やれるかもしれない!」」


アイセアにもこの技を使った作戦を伝えてみた


「…なるほど。作戦はわかったわ。でもいいなー刀の妖精と喋れるなんて、ショウのくせになんかずるい」


「ずるいと言われてもな…俺の唯一のアイデンティティとも言えるし」


「まあもしかしたら宝剣級の武器にもなれば御主人様を通して妖精を視認することも可能になるかも知れませんが。僕レベルではまだ無理ですね…」


「と、申しております。いや、俺の持てるスキルをすべて使って『飛翔』を作ったんだぜ?上なんて存在するのかよ」


「アダマンタイトや竜の尻尾などの伝説級の素材を使わなければ無理ですね」


なんだそのファンタジーでも入手困難なものリストに必ず載っているものたちは…


「とにかくやってみなきゃ始まらねえか」


俺は立ち上がろうとした


「そうだその前にショウ。手を出して」


「なんでだ?まあいっか…」


俺は言われた通りに手を前にだす。すると突然アイセアが俺の手を握ってきた


「あ、アイセアしゃん!?どうされたのでございますか!?」


いきなりのことと女性に対する免疫力のない俺は緊張で何を言ってるのかわからなくなってしまった


「ーーーーーー」


するとアイセアが聞きなれない言葉を呟くと手が温かい光に包まれた


「…これは?」


「昔お母さんが教えてくれた勇気の出る呪文。勇気が出たでしょ?」


「あぁ、そうだね。今ならあの化け物にも立ち向かえそうだよ」


「ふふっ、せいぜい少しは役に立ちなさいよ」


そういってアイセアは可愛らしく微笑んだ。俺はアイセアのためにも頑張らなくてはと思った


****************************************


「ふぅーーーっ、はぁー!!」


刀身が徐々に青白い光を帯びていく。魔力を充填すること2分


「どうだ!俺の魔力は!」


「……やっとジャイアントアントを一匹倒せるレベルです」


「なにその程度だと…!?」


ちなみにジャイアントアントは群れで行動するただ大きくなったアリのことだ。つまり大して強くもない


「さすがは鍛冶屋…魔力には疎いか」


「そこっ!!まだ充填は終わらないの?」


未だに怪物は動くことなくただその場でどす黒い液体を気持ち悪く噴き出すだけだった


「そうは言っても俺の魔力量じゃ全然溜まらなくて…」


「じゃあ私が代わりに」


「残念ながら御主人様にしか使えない必殺技でして…とのことだ。鍛冶スキルあって初めて良かったと思う」


「あぁもうめんどくさいな!じゃあ私の魔力をショウを介して直接送ればいいんじゃないの?」


「それなら可能です…だそうです」


「よし。じゃあ私も…」


そういってアイセアは俺の背中に手を触れた。体に力が流れてくるのがわかった


(うおぉぉい!今日の俺いろいろやばいな…キャパオーバーとかでそろそろ死ぬんじゃね?縁起でもねえな)


そんなことを妄想していると『飛翔』がみるみる魔力を帯びていく


「これは…彼女の魔力はとても神々しく、なおかつ禍々しさも帯びている。なんとも不思議で膨大な…」


「なんだ?それはすごいの…」


「グォォォォォォォォ」


ここで思わぬ出来事が起きた。身の危機を感じ取ったのか怪物が突然雄叫びをあげて八本の触手をしならせるようにして襲ってきた


「ま、まずいぞ!!今襲われたらなす術もない…」


「どうすんのよっ!?」


「飛翔!?あとどれくらいだ?」


「まだあれを倒すのには魔力が足りません!」


俺たちの声も虚しく、触手の一本が振り下ろされる。目を閉じる


「ーッ、!」


あぁ、死んだな…


しかし先ほどの恐怖は感じなかった。一人じゃない。それだけでこんなに違うものなのか。それでもせめて…


しかし、振り下ろされるはずだった触手は襲うことなく、代わりに落雷の音が響き渡った。目を開く


「これは…いったい?」


「グギャァァァアワァァ!!」


怪物の叫び声が響く。目の前には大地を丸く切り取ったような大穴が空いていた。そして一本の触手が焦がされ落ちていた


「やあショウ。元気そうで何よりだ」


唖然とする俺たちの目の前には白銀の鎧を身にまとったショウがよく知る爽やかな騎士が立っていた…

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