豹変
「カエセ…ソレヲカエセー!!」
「いやいや、何を言うてるがですかおたくは、もともと俺のだから…」
俺が呆れた口調で話している時だった。突然奴隷商の身体から液体が噴き出したかと思えば肉を突き破り、異様なものが現れてきたのは
「い゛だい゛!!痛い痛い痛いいだいい゛い゛い゛ぃだぃぃぃぃぃぃ!!」
苦痛な叫びとともに完全に奴隷商だったものの姿は消えていた
「な、なによあれ…まるで引きこもりのデブがある日超上的な力を得て世界征服をしようと考えてる的な化け物じゃない」
「的確過ぎてもはや何を言ってるかわからないぞ!ドラクエの太った大魔王みたいなやつに足が八本生えてるやつだな。それよりもなんでこんなやつが辺境の山に現れたんだ!」
「それは僕が説明します」
「お前は!?」
不意に俺に話しかけてきた人物…いや妖精は『飛翔』だった。飛翔は相当やつれた様子で意識を保つのもやっとという感じだった
「お久しぶりです。御主人様。今は時間がないので細かいことは話せませんが、刀に取り憑かれた人間は理性を失い代わりに人ならざる力を得ます。しかし、その力を留める役割が無ければその人間は力を制御できずに暴走します」
「おいおい、てことはその力を留める役割ってのは…」
「はい。僕のことです」
「…ふっ、つまり全部俺のせい、ということか…あははははっ!」
「ショウ!どうしたのよ、さっきからひとりでぶつくさ呟いて。ついに完全に逝っちゃったの?」
「完全にも何も少しも逝ってませんから〜!俺はいつだってクールだぜ。こいつも俺がやってやる!!」
「何かいい作戦でも思いついたの!?」
「ノープラン イズ ベスト」
そういって俺は飛翔を構えて未だに身体を増殖している怪物に対峙する
「やーい、デカブツ!こっち向きやがれ!お前の母ちゃんデベソ!」
「………」
「返事がないただの屍のようだ」
「ふざけてる場合かっ!」
アイセアの見事なツッコミが脳天に響いた
「でも確かにあいつさっきから動きがないんだよね。ほんとに死んでるのかな?」
やべぇ、フラグが立っちまった…
そう思ったが矢先、奴隷たちが閉じ込められていた牛小屋の方から声が聞こえてきた
「おい、糞ガキども!!さっきはよくもやってくらたな!」
農耕用の鍬を持った奴隷商の愉快な仲間たち(留守番の人)が自力で縄を解いて目を血走らせて走ってくる。どうやら怪物に気がついていないようだ
「おい!おっさん!今はそれどころじゃないだろ!あんたも身を隠せ!」
必死に声を出して奴隷商の仲間を宥めようとするが、男は止まらず、ついに怪物のすぐそばまで来てしまった
「調子に乗ったことを死んで後悔させてやる!簡単には殺さねぇぞ!四肢をもいでその後…」
ヒュッ
巨大な鉄骨が空気を切る音がした、そして奴隷商の男は不快な音とともに、トマトを潰したかのような赤い鮮血を噴き出した
「おっ、おえっ…」
異物を吐き出す。多分アイセアも同じような感じだっただろう
俺はその光景を目に焼き付けてしまった。人が潰れる様……命の儚さ、そして今この状況の異常さが身にしみた
「ギャァァァァァア!!」
奇怪な雄叫びをあげて怪物が動き出す。
「まずいですね。あれは殺戮本能のまま暴れるようです」
「『飛翔』。どうやったらあれは止まるんだ?」
「……殺すしかないと」
「ははっ、だよな…」
「なあアイセア…俺はどうすればいいと思う?」
「…決まってるでしょう。あいつをやらなきゃ、あいつを放置したら多くの命が犠牲になる」
アイセアはやる気だった。目の光はまだ消えていない
「そうだよな。あぁっくそ、とんだ初陣になっちまったもんだぜ。しがない鍛冶屋の俺にこんな試練を与えるなんて神もクソもねぇな」
やっぱり異世界はゲームみたいなものなんて妄想は完全に間違いだったんだな。これは命のやり取りなんだ…今、この瞬間だけでも俺が…
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
俺は剣を構えて怪物へと突っ込んでいった…




