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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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79話

「ほらしっかり、たんと食いや」


「くそう……、うめえなあ……」


「せやな、こんなうまい肉も、ましてや米なんて食わせてもらえんかったしなあ……」


 ソウシを殴り飛ばしてすっかり吹っ切れた様子のカケルに、リンリンが次々と食事を勧めている。

 その隣では、顎ごと顔面を打ち砕かれたのちにアカリの能力で無事蘇生したソウシが、治ったばかりの顎の具合を気にしながら恐る恐る肉を口に運んでいた。

 向かいの席では、アカリとシオリの女子トーク(主に恋愛話)にハジメが気まずそうに巻き込まれている。

 アカリの規格外な蘇生能力を目の当たりにして「不公平だ……」と羨ましそうに不満を漏らしていたタイショーも、すっかりテーブルに腰を落ち着け、白銀鹿の極上肉に舌鼓を打ちながらバクバクと飯とともに平らげていた。


 俺はそんなタイショーに、ふと思いついた疑問を投げかけてみる。


「そういえば、来るのが随分と遅かったですね」


「いや、あの手紙はねえだろ! 『国境近くの山』なんて雑な指定、小学生だってもうちょっとマシな場所書いてくるぞ。途中で爆発が起きなきゃ、そっちに何かあったのかって探しようもなくて永遠に見つけられんかったぞ」


「いやあ、他に書きようがなくて……」


「てか、あの爆発は何だったんだよ。危うく巻き込まれて死ぬところだったじゃねえか」


 そう言ってタイショーは一息つくように箸を置き、両手を組んで真剣な表情で俺に向き直った。


「まあ、それはいい。……それより、味噌があるってのは本当か?」


「まだ実物が手に入ったわけではないです。アイゼンに住む森人が、昔知り合いがそれらしいものを作っていたと言っていまして。日本酒の肴にしていたとか……」


「日本酒って……米の酒か!?」


 タイショーは組んでいた手を解いてテーブルにつき、身を乗り出すような姿勢で確認してきた。


「ええ、まさにそれです」


 俺の回答を聞くと、彼は腕を組んで「ふぅむ……」と鼻から深く息を吐き出した。


「となると、米麹が存在する可能性が高いな。なら味噌も確かに作れるはずだ」


「そうなんですか?」


「基本的に味噌は大豆と麹を使って作るもんだが、大豆じゃなくても他の豆で代用はきく。麹さえあれば何とかなるだろう……」


 そう言うと、彼は組んだ腕をほどいて再び嬉しそうに食事を再開した。


「まあ、まずは現地で直接話を聞いてみないとな……」


 その後は、全員入り乱れての「日本」の話題で大いに盛り上がった。

 俺たちが語る現代の日本の話に、「あの番組終わったのか!?」とか「あの芸能人はまだ現役なのか!?」といった話題が飛び交う。四年前に召喚されたカケルたちならまだしも、十二年前に召喚されたタイショーとのギャップはすさまじく、ジェネレーションギャップならぬ「召喚時期ギャップ」で大いに花が咲いた。


 食事もあらかた食べ終わり、後片付けに取り掛かりながら、今後のゆくえについて話し合いを始める。


「これから俺たちはアイゼンに戻って今回の結果を伝える予定ですけど、そっちはどうなりそうです?」


 日本の話題で気分が多少持ち直したとはいえ、カケルはまだ難しい顔をして考え込んでいたため、代わりにリンリンが答えてくれた。


「そうやなあ。ひとまずは、カケルが納得できるよう、負担が減るよう協力する予定や。このままうちだけアイゼンに亡命することもできなくはなさそうやけど、流石にそれはあんまりやしな」


 そう言って、リンリンはシオリの方へと振り向く。


「シオリも、ちょっとの間手伝ってくれへんか? すぐ逃げ出したい状況かもしれへんけど、あんさんが抜けると、ちと辛いんや」


「いえ……私も、何か少しはやっておかないと、後で心に残りそうですから……」


「そうか、ありがとな」


 リンリンは優しく笑うと、空いた皿を洗う作業に戻った。

 俺は空間から連続して水を生成し、桶を満たしていく。――途中でリンリンから「これのどこがコップ一杯の水やねん」と鋭いツッコミを受けたが――そのままカケルに向かって確認してみた。


「これから、王国に戻りますか?」


「ああ、そうだな……。王国内部で何がどうなっているのか、自分たちの目で確かめて正したい。ソウシ、付き合ってくれるか?」


「ああ、もちろんだ。多分、この中では僕が一番罪が重いだろうしな……」


 きっぱりと答えた二人に対し、タイショーが思いついたように声を上げる。


「それなら、一代目に『ありがとよ』って礼でも言っといてくんねえかな?」


「一代目……ですか?」


「ああ。死んだはずの俺たちをこの世界に呼び寄せた能力者ががいるはずだ。サトウ達まで呼び寄せられているってことは、多分そいつはまだ生きている。俺のさらに先代にあたる奴だ」


 タイショーの語る意外な人物に、カケルは不思議そうな顔で問い返した。


「会ったことはあるんですか?」


「ねえな。匿われているのか、監禁されているのか……その辺の事情はよくわからんが、まあ、もし会えたらお礼でも言っておいてくれよ。おかげで楽しく暮らしてますよってな」


「わかりました。探してみます。まずは、そこを最初の目標にしてみるか……」


「そうだな。一連の王国の陰謀の中心に関わっていそうな感触がある」


 カケルの言葉に、ソウシも深く頷いて賛同した。


 後片付けも無事に終了し、俺たちはアイゼンまでタイショーに送ってもらうことになった。タイショー曰く、「さっさと味噌と酒の情報が知りたい」とのことだ。


 拠点外の塀の外まで移動し、四代目たちが驚く中でタイショーが能力で動かした「四人は余裕で座れる巨大な大岩」に腰掛けながら、残る彼らに声をかける。


「そちらの皆さんはどうします?」


「ここを、一晩借りてもいいか? さすがにこの時間から山を下りて野宿ってのもな……」


「ええ、もちろん自由に使ってください」


 そう言って俺は立ち上がり、カケルに向かって右手を差し出した。


 カケルも力強い手でその右手を握り返してくる。


「それでは、お元気で。また会いましょう」


「ああ、必ず」


 しっかりと交わした手を放し、俺は再び大岩の上へと腰掛けた。


「皆、しっかり座ったか?」


「タイショー、階段は壊さないでくださいよ!」


「わーってるって! それじゃ、行くぞ!」


 タイショーの威勢の良い声を合図に、足元の地面がバリバリと派手にめくり上がり、巨大な岩が豪快に動き出す。


「またねー!」


 アカリが身を乗り出し、最初に出会った時と同じように大きく手を振った。


「ああ、そっちも元気でなー!」


 リンリンが出会った時とは違い豪快に手を振り返し、その隣でシオリも控えめに小さく手を振って見送ってくれる。


 直後、大岩は一気に加速を開始。

 めくり上がる地盤による森のざわめきと、凄まじいスピード感に耐えかねたアカリの「ぎゃあああああっ!?」という絶叫が山々に響き渡る中、俺たちはまるで転がり落ちるような凄まじい速度で、一気に山を下っていったのだった。

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