72話
街道に出て、まずはアイゼンのほうに向かって歩を進める。
俺が一人で王国側に向かって行って勇者たちと遭遇したところで、ただの現地人か怪しい奴とみなされて無視されるのがオチだろう。
「おつかれー」
アイゼン側に少し歩くとすぐにアカリたちの姿を発見し、片手を上げて挨拶をする。
「サトウさん、こんちは~」
「お疲れ様です。四代目の人たちは?」
アカリが元気に手を振り返し、ハジメはぺこりと頭を下げながら周囲を確認してくる。
「そっちはこれから。というか、それが二人分の新装備か」
ハジメの両腕には、以前にも増して巨大な高級感漂う籠手のような盾がしっかりと握られていた。
「へへー、いいでしょー!」
そう言ってアカリがその場でくるりと一回転してみせる。
着ているものは、足元まで伸びるフード付きの真っ白なコートに、繊細で簡素な装飾品が施されたもの。さらに頭にはベールをかぶっている。彼女が回転するとコートがふわりと軽やかに広がり、見た目の重厚さに反して重さをあまり感じさせない上質な質感となっていた。
「なんというか……意外だな。もっとこう、派手なギャルっぽいデザインになるのかと思ってたよ」
アカリたちと並走するように、来た道をゆっくり引き返しながら二人の新装備を観察する。
「聖職者っぽいのがいいって最初に言ったじゃん! どうみても立派な聖職者でしょ!」
「いや、まあ確かにそうなんだけどさあ」
「それにほら、サトウさんの装備と同じ天竜鳥の素材だから強度もバッチリ! ベールのおかげで、狙われやすい首元もがっちりガードだよ」
「なるほどね。というか、ガードという意味ではハジメのは何ともごついな」
「ディルバードさんたちがめちゃくちゃ張り切っちゃって、最終的にはこうなりました」
ハジメが苦笑いしながら、その巨大な盾をグッと掲げて見せる。
人の身長ほどもあるその巨大な盾。イメージ的には、前に「剣のように扱う」と言っていたが、そのようなものというより、トンファーの幅を極限まで広げて人間サイズに巨大化させたようなデザインだ。
「何とも……凄まじく重そうだな」
「天竜鳥の軽い素材を使ってますから、見た目ほどではないんですけどね。片方で三十キロくらいですかね」
「両手で大人一人分じゃねえか。それを振り回すのかよ……おっかねえな。まあ、頼もしくはあるけど」
ハジメが試しに軽く腕を振ろうとしたので、巻き込まれないようサッと距離をとる。
「ところで、あっちの四代目勇者たちは本当に来るの?」
「来るよ。山頂の見張り台からこっちに向かって来てるのが見えたし、多分そろそろ到着するんじゃないかな」
「んん? あそこに見えるのが……あれか?」
そんな会話を交わしながら歩いていると、目ざといハジメが遠くに歩いてくる黒髪の4人組を発見した。
「ああ、間違いないな」
「確かに、あの独特の髪色や雰囲気は間違いなく日本人だね」
アカリは迷わず手を高く振り上げ、「おーい!」と声をかけて呼びかける。
それに気づいたように、一行の後方を歩いていた女性が一人はにかみながら小さく手を振り返してくれたが、前を歩く二人の男性陣はピクリともせず無反応だった。
「うーん……男の人たち、なんかすごく不愛想だね」
「まあ、一応あいつらにとっては戦時中の最前線だからな……」
近づいてくるにつれて分かってきたが、なんというか……彼らの表情は一様にひどく荒んでいた。
特に先頭を歩いている男の顔つきには、刺々しいピリついた空気が纏わりついている。
おそらく、彼が戦闘で先陣を切って突っ込んでくるという、例のリーダーの勇者なのだろう。
そのすぐ後ろには、眼鏡をかけた目の鋭い、いかにも気難しそうな顔をした男がピッタリとついている。
さらにその後ろには女性が二人。一人は先ほど手を振ってくれた明るい雰囲気の女性で、こちらを見てどこか嬉しそうに笑みを浮かべている。
そしてもう一人の女性は、怯えるように前方の男たちの陰に隠れるようにして、一番後ろからおそるおそるついてきていた。
「こんにちは。勇者御一行様で合ってますか?」
先頭の男たちが目前まで近づいてきたところで、俺は静かに声をかけた。
「そう聞くってことは……お前達が例の二人か。だが聞いていた話だと、召喚者は二人のはずだが? ……『爆炎』の男は生きていたのか?」
男は足を止め、鋭い目つきで俺を凝視しながら確認をとってくる。
確かに、王国の人間から話を聞いているなら、追放された俺のことなんてカウントに入っていないのが普通か。
「違いますよ。俺はそっちの爆炎じゃなくて、その前に追放されたほうです」
「ああ……聞いたことがあるな。コップ一杯の水しか出せない役に立たない能力で、散々笑われながら追い出された男がいるって話は。……なぜそんな奴がここにいる?」
「今回の話し合いの場所の提供者ですよ。この辺りを拠点にしていてね。まあ、細かい話し合いはその場所についてからゆっくり進めていきましょう」
そう言って俺は踵を返し、今来た道を戻り始める。
「え? こっちに戻るの? なんかちょっと損した気分」
俺の行動にアカリがボソッと呟く。
「まあまあ。注意深く見てれば分かったかもしれないけどね。ほら、ここだ」
そう言って、俺は街道の脇にある鬱蒼とした藪の中へ迷いなく突き進んだ。
その藪を抜けた先には、昨日までに俺が綺麗に整備した一本の道が一直線に伸びており、それが遠くの山の斜面まで続いていた。
「おい、話し合いの場所ってのは、こんな森の中なのか?」
藪をかき分けて追ってきた眼鏡の男が、不信感を露わにしながら確認してくる。
「いや、山の上ですよ。ちょっと登りますけどね」
そう言って俺は、自分が切り開いたアジトへ続く山道を、四代目勇者一行を引き連れてゆっくりと歩き出したのだった。




