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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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71/80

71話

 会議があった日から四日後、スウェインさん経由で四代目勇者たちから「指定の場所と日時での話し合いを了承した」との返信が届いた。

 その手紙を確認した俺は手紙を送り、いよいよ本腰を入れて客を迎えるための本格的な準備を開始することにした。


 まずは、勇者たちを招待するためのアジトの大掃除と、会談用の机や椅子といった調度の準備だ。

 食事の必要性も考慮し、干し肉や調味料などの長期保存の利く物はすでに購入していたが、あまり日持ちのしない野菜やその他の食材も含め、アイゼンの市場を回って購入を進めていく。

 途中で一度ライラさんの家にも立ち寄り、貴重なコメを少し分けてもらった。

 それらを大きめの背嚢へ一括してまとめ上げ、俺はアジトへの出発準備に取り掛かった。


「サトウさん、お出かけですか?」


 商会を出ようとしたところで、ちょうど通りかかったリナに声をかけられた。


「ああ、例の王国の勇者たちとの話し合いに向かうところだよ」


「場所は国境近くと伺いました。もしかして、あの山のアジトですか?」


「そうだね。こうなると、リナが『アジトへの初めての招待客』じゃなくなっちゃったなぁ」


 申し訳なさそうに苦笑いする俺に、リナはふふっと可愛らしく微笑んで首を振った。


「いいえ、最初にお会いした時に、サトウさん以外の方が誰もいらっしゃらなかった時点で、私がもう初めての招待客だったのでしょう」


「なるほど、確かに」


「私は、他の方々の確認と評価を経て、さらに満足度の高くなったサトウさんのアジトへと招待していただくことにしますわ」


「それはそれは、なかなか責任重大なプレッシャーだな」


「ええ。ですから……招待のために、ちゃんと無事に帰ってきてくださいね?」


「もちろん。約束するよ」


 温かい言葉を交わし、俺はぎっしりと必要な物資を背負い込むと、アジトへと向けて一人出発した。


 今回はやることが山積みのため、道中の魔物との無駄な遭遇は極力スルーし、身体能力を活かして最速でアジトへ向かう。


 現地に到着してすぐ、まずは山麓の道の整備に取り掛かった。

 鬱蒼としたこの森の奥に本格的な街道を通す必要はない。山を登る急斜面にはこの前石の階段を作り上げたが、麓から山までの道のりは他人にアジトを発見されないよう、あえて手付かずのまま残してあったのだ。だが、今回は向こうから歩いてきてもらう以上、この際仕方がない。

 草木の刈り込み程度であれば、放置すればまた元通りになるはずだ。今はこの先に人が踏み入る道がある、ということだけが分かる程度の簡易ではあるが、十分な幅の道を作っておく。


 次に、広場で話し合いをするための巨大な机と椅子の準備だ。

 道を作る最中に見つけた手頃な大木を、能力の『切断』で水平に薄く平らに切断し、広場へと運び込む。いくら天竜鳥(スカイドラゴン)討伐で身体能力が跳ね上がっているとはいえ、大木を丸ごとそのまま担いで運ぶのは流石に無理があるため、現地で必要サイズにカットして大まかに形を整え、軽くなってから運び込んだ。土台として丸太を足として四本設置し、その上に切り出した平らな厚板をドスンと置く。

 本当であれば木材をじっくり乾かしてから家具として使用したかったが、今回は急造品だ。ひとまず机としての形が数日間保てればそれでいい。

 椅子も同様に、太い丸太から簡易的に削り出す。腰掛ける部分と背もたれだけを残して不要な部分を能力で切り落とした、非常に簡素な丸太椅子だ。


 続いてトイレの設置。自分専用のアジト内のトイレとは別に、客用として穴の深い簡易野外トイレを設置する。こちらは客が帰った後に、穴ごと丸ごと大量の水に置換して埋め戻してしまえば衛生上も問題ないだろう。


 さらに、念のため寝床の準備もしておく。と言っても、以前からアジト内に置いてあった毛布やシーツの洗濯だ。購入してきた洗剤と、空間から呼び出す大量の水を使って一気に洗い上げ、力任せに絞ってから日当たりの良い場所に干していく。


 おっと忘れるところだった。自分が『コップ一杯の水』の勇者だと示すパフォーマンスと、客人へのお茶の振る舞いのために、コップも用意しておかなければ。岩壁から手頃な石を切り出し、能力で内側を削り滑らかにして、人数分となる七人分の石造りのコップを完成させた。


 招待のための準備として残るは当日振る舞う料理くらいだが、これは当日の朝に作ればいいだろう。


 これらの作業を黙々とこなす合間を縫って、俺は対四代目勇者用に、己の能力の新たな使い方の訓練を重ねていた。

 発想としては、広範囲を守る『結界』の構築だ。

 現状の『水』の置換なら、一人分を包み込んで防ぎ切る程度なら自分自身がずぶ濡れになる覚悟をすれば可能だが、今回はもう少し広く、アカリやハジメも含めて同時に囲い込めるだけの広さを確保したい。


 イメージするのは『土星の環』だ。

 自分たちの周囲の空間へ、広範囲に超薄膜の水の輪を連続で展開・置換する。

 しかし、展開した直後に重力によって水は即座に下方へと落下し、置換を続けた結果、地面に丸い黒いシミを形成してしまった。


「うーん、失敗か……」


 同じ高さの同一位置へ連続で水を置き換えようとしても、いくら置換のインターバルを短くしたところで、落下した水は次の水へと置換されず、結局は揮発の限界を超え水滴となって下へ落ちてしまう。防護機能としては瞬間的に水幕が張られるので問題ないのだが、これでは水が垂れているのを見て、何か怪しい術を仕込んでいることが相手に即座にバレてしまう。


「もう一度だ」


 次は重力に合わせて、発生させる位置を段々と下にズラしながら連続展開してみる。だが、やはり同じように地面へ丸い水溜まりを作ってしまうだけだった。


「これは……なかなか手強いな」


 この地道な能力訓練と並行しながら、招待に向けた道づくりや建物内の掃除などを休むことなく続けていった。


 そうして作業と訓練に没頭すること3日後。


「ふぅ……まあ、こんなもんか」


 絶え間ない試行錯誤の末、コツをつかんだ後の水の輪の結界は俺が特に強く意識せずとも、上から下への微小な置換を連続で行うことで、地面に垂れて黒い輪を作らないレベルまで達することができた。あとはこれをループしているだけで最後の置換の水は気化し飽和せずに流れていく。


 部屋の掃除や調度品の準備よりも、こちらのチート能力の応用訓練の方が遥かに時間がかかってしまった。


 四代目勇者たち、そしてアイゼン側から向かってきているアカリたちは、二日前に山頂の見張り台からの遠眼鏡で確認済みだ。時間計算からしても、そろそろ国境近くの麓に到着する頃だろう。


 俺は一通り整ったアジトを見渡し、ひとつ深呼吸をすると、先に到着するであろうアカリたちを出迎えるため、新しく作り上げた道を踏みしめて街道へと向かっていった。

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