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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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61話:新たな恋の予感

「だけど……なんで私たちは、最初は『邪神』を倒せって言われてたんだろ……」


 俺たちのツッコミの後に、ふとした疑問が頭をよぎったのか、アカリがぽつりと呟いた。

 王国の歪んだ情報操作のからくりについて、俺は一つの推測を口にする。


「味を占めたんじゃないか? 前の世代でそういう言い方をして、召喚者を都合よく神輿に乗せられたからな。まあ、アイゼンのこの地域には魔人がいないから、今回は『邪神崇拝の街』ってことにしたんだろう」


「で、そのおあつらえ向きの嘘に、まんまと乗っかっちゃったやつが約一名……」


 そう言って、アカリはハジメをじろりと睨みつける。


「ま、まあ、幸い誰も死者は出なかったし、今更もう過ぎたことを蒸し返す話でもないだろ……」


「そうだけどさあ。本当に人騒がせなんだから」


 居心地を悪そうに身を縮めるハジメ。そんな三人の微妙な空気の流れる台所に、工房の入り口から元気な声が響き渡った。


「ルルはいるっスかー!?」


「きゃー! シャルちゃんおはよー!」


 その声を聴いたアカリは、一瞬でさっきまでの真面目な顔を崩し、入口へと嬉しそうに走っていった。

 相変わらず切り替えが早いなと思っていると、シャルに続いてミラも中へと入ってくる。シャルは背後からアカリにがっしりと抱き着きつかれ、アカリの顎を頭の上に乗せ、満足げなアカリとは対照的に、何事もないような無表情を貫いていた。


「ハジメさーん、おはようございます。 今日もギルドの護衛依頼よろしくお願いしますね。今日はお弁当もお持ちしましたから、休憩の時に一緒にいただきましょう!」


「あ、ちょっと待って! ルルもお弁当作ってるから、みんなで、みんなで一緒に食べようね!」


 奥の部屋から、ルルの少し焦ったような声が聞こえてくる。


「……ん?」


 なんというか、目の前で繰り広げられているこの状況に、俺は少し奇妙な違和感を覚えた。ハジメの横顔を盗み見つつ、アカリに小声で尋ねる。


「もしかして……ハジメって、あの二人に結構懐かれてる?」


「あー、うん、そうなの。ちょっと前のギルドの依頼でね。本当は安全な採集依頼のはずだったんだけど、不運にも急に大型のビッグボアが乱入してきちゃって。ルルちゃんが防御の展開も間に合わずに弾き飛ばされそうになったところを、ハジメが素手でビッグボアを掴んでそのまま投げ飛ばしたんだよね」


「なるほど。女の子からしたら、それは相当な衝撃だったろうな」


「それに、ハジメって元々が根っからの正義マンじゃん? なんかそれがミラちゃんの好みにがっちりはまっちゃったみたいで。『強くて、真面目で、正義マン』。理想の騎士様に見えるのかもね」


「なるほど。衛兵局トップの娘さんだし、お堅くて強い男がタイプなのは納得だなぁ」


 そんな会話をしながらハジメのほうを見ると、彼はミラとルルの二人に挟まれ、顔を林檎のように真っ赤にしながら、何を言われても何も言い返せない無抵抗なフリーズ状態と化していた。


「で、今日はその女の子たちも含めて、五人で依頼を受けるのか?」


「まあ、依頼をこなすのは三人で、私とハジメは後ろで見てるだけだけどね。サトウさんも一緒に来る?」


「いや、俺はちょっと遠慮しとくよ。本来の生業である『猟』のついでに、ちょっと王国側の様子でも遠くから眺めてこようかと思ってさ」


 そう言って、俺はまだ頭を抱えている亡命者の客人を慰めているディルバードさんに、「防具の件、よろしくお願いします」と声をかけ、一足先に工房を後にした。


 アイゼンの大通りを歩き、いったんガストン商会へと戻る。


「サトウさん、お帰りなさい。ディルバードさんとの交渉は無事にまとまりましたか?」


 建物に入ると、デスクワークをしていたリナがすぐに声をかけてくれた。


「交渉ってほど大げさなものじゃないけどね。まあ問題なく、天竜鳥の素材で防具を作ってくれそうだよ。職人も一人増えたみたいだしね」


「そうなんですか? あの偏屈なディルバードさんが、自分の工房に新しく職人を増やすなんて珍しいですね……」


「どうも、北方から命からがら逃げてきた亡命者の地人の人らしくてね。朝から頑固者同士、お互いの譲れないこだわりで激しく言い争っていたよ」


「お相手も職人さんでしたか。それはディルバードさんの工房の価値が、アイゼンでさらに跳ね上がってしまいそうですね」


 リナは商人の鋭い目をして頭の中で計算を弾きつつも、どこか楽しそうに苦笑いを浮かべた。


「あと、その亡命者の人から北方の戦況の情報も多少得られたよ。過去の戦いで、あちらの軍勢が『三代目勇者』はすでに打倒したって言っていた。だから、今現在王国に残っている戦力は、四代目の四人のみになっていそうだ。昨日の商会の会合にはディルバードさんは出ていなかったみたいだから、こういう情報が入ったことを後でガストンさんに伝えておいてくれるかな」


「分かりました、責任を持って会長に伝えておきます。……サトウさんは、これからどちらへ?」


「久しぶりに、あのアジトにでも行こうかなって。ここ最近、色々と忙しくて全然戻っていなかったからさ。ついでに、そこから王国側の様子をじかに眺めてみようと思うんだ」


 俺がそう言うと、リナは少しだけ目を輝かせた。


「アジトですか……。サトウさんが色々と手を加えて作り替えているというアジト、私も一度行ってみたいです」


「え? 自分が一度、盗賊に捕まった因縁の場所なのに?」


「サトウさんに初めて出会った、大切な場所でもありますから」


 リナのまっすぐな言葉に、俺は少し照れくさくなって頭を掻いた。


「そっか。それじゃあ、リナがいつ来ても問題ないように、もっと居心地よくしっかりと整えておかないとね」


「はい、楽しみにしていますね」


「あはは、あんまり過度な期待はしないでね。それじゃ、行ってくるよ」


「はい、お気をつけて」


 リナに温かく見送られ、俺は愛用の道具をまとめると、懐かしい記憶の残る山奥のアジトへと向かってアイゼンの街を出発した。

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