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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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49/50

49話

 寿司屋を後にし、タイショーと別れてから改めてガストンに渡された地図を確認する。


「……で、ここはどこだ?」


 やはり距離感が独特だったせいで一瞬迷いもしたが、知っている景色である港、そして城門へと一度戻り、そこから仕切り直すことでなんとか今晩の拠点となる宿へとたどり着くことができた。


 タイショーと意外に長く話し込んでしまったためか、空はすっかり茜色に染まり、日が傾きだしている。

 受付に名前を告げて鍵を受け取り、部屋の場所を確認して奥へと向かう。ガストンはまだ交渉や買い付けのために外出しているようだったが、部屋ではリナがそれらの結果のまとめ作業を行っていた。


「あ、サトウさん、お帰りなさい。街の散策はどうでした?」


「うん、知らない知り合いに出会ったよ」


「……?」


 俺の言葉に、リナはペンを止めて不思議そうな顔をする。


「知らない知り合い、ですか? どういうことです?」


「いや、この街に『勇者』がいたのさ」


「えっ!? だ、大丈夫だったんですか!?」


『勇者』という不穏な単語を聞いた瞬間、リナは驚きのあまり椅子を蹴立てるようにして立ち上がった。アイゼンでのあの戦争を経験した彼女からすれば、当然の反応だ。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。俺と同じで、王国のやり方に嫌気がさして逃げ出してきた人だから。今ではこの街にすっかり馴染んで、農業をしながら暮らしているみたいだ」


 その説明を聞き、リナは胸に手を当ててホッとした顔で席に座り直した。


「びっくりしました……。てっきり、王国軍がもう別のルートからこちらに回り込んできているのかと」


 俺も空いているソファにどさりと腰を下ろす。


「王国には、今そんなことをする余裕はなさそうだ。とはいえ、まだ見ぬ未確認の勇者や聖女が、合計であと八人くらいは世界に散らばっていそうだ、って話にはなったかな」


「そんなに、ですか……」


「まぁ、多くてもそれくらいって話だから、実際はもっと少ないかもしれないけどね」


「でも、敵になるかもしれない存在の大体の上限が分かっただけでも、少しありがたいですね」


「そうだね。それに、王国での勇者に対する扱いはそこまで良くないみたいだからさ。今回であった勇者みたいに逃げ出している人も多そうだし、実際に相手にしなければならない勇者はもっと少ないかもしれない」


 そう言って、俺は腰のコップを取り出し、いつものように一杯の水を注いで一服する。


「ああ、それと。明日はその勇者の畑へ『コメ』をもらいに見に行くことにするんだけど、護衛の予定は大丈夫かな?」


「お父様の仕入れにはあと二、三日はかかると思いますから、明日も自由にしてもらって大丈夫ですよ。……でも、コメ? を、こんな西の果てで?」


 リナの疑問はもっともだ。ライラの講義でも、農業や商業が盛んで穀物類が取れるのは東側の猿人が多い地域だと言っていた。


「その勇者が、能力を使って血の滲むような努力をしたんだろうね。『コメ』は、俺たちにとってどうしても忘れられない故郷の味なんだ」


「そうなんですか?」


「ああ。あとは『醤油しょうゆ』と『味噌みそ』っていう調味料もだな」


「ショウユ、ミソ……初めて聞く名前の調味料ですね……」


「そっか」


 これだけ広く交易を行っている商会の娘であり、実務にも精通しているリナが名前すら知らないとなると、この世界にはまだ存在すらしていないのかもしれない。あったとしても、ここから探し出すのは至難の業になるだろう。俺は心の中で小さくため息をついてしまった。


「まぁ、そういうわけで、明日はコメをもらいに行ってくるよ」


「わかりました。行くときは気をつけてくださいね。サトウさんはある意味、今のアイゼンの生命線なんですから」


「はは、そこまで高い評価をもらえるのは恐縮だけど、油断だけはしないようにするよ」


 こういった明日の動向をガストンにも伝えておこうと思ったのだが、その後、夜遅くに戻ってきたガストンは、凄まじい大移動と交渉の疲れが一気に押し寄せたのか、ベッドに泥のように倒れ込み、そのまま深い眠りについてしまった。

 仕方がないので、俺はリナと二人で、ガストンの分も含めた宿特製のちょっと豪華で量の多い夕食を心ゆくまで楽しみ、タイショーとの約束の明日を迎えるのだった。

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