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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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48/50

48話

「なかなか壮絶だったんですね……」


 その生々しい話の内容に、思わず俺の食べる手も止まってしまう。映画や小説のフィクションではなく、目の前の男が実際にくぐり抜けてきた、死と隣り合わせの戦場の記憶だ。


「これでも俺はまだマシな方さ。一緒に召喚された四人のうち、一人は俺が逃げる前に目の前で焼け死んだ。残りの二人は……その後、王国の進撃具合がピタリと止まった時期があるのを見るに、おそらく生きてはいないだろうな」


「それって、いつ頃の話なんですか?」


「もう十年以上前だとは思うが……。脱走した後はとにかく東に逃げて、港のある街まで着いてそこで一年くらいは息を潜めて過ごしていたんだ。だが、やっぱり怖くてな。ほとぼりが冷める前に、船に乗ってさらに北へ移動した。ああ、その東の港にいた時に、この『コメ』に出会ったのさ」


 そう言ってタイショーは、手元に残っていた寿司をひょいと手に取り、豪快に口へと放り込む。

 そのあまりに美味そうな食べっぷりと豪快さに、俺の体に入っていた緊張も自然と和らぎ、箸を動かして食を再開した。


「北の街には、二年か三年くらい居たんだがな。そこへまた『王国軍が新たな勇者を連れて北上しだした』って不穏な噂が聞こえてきてよ。いわゆる三代目の勇者たちだ」


「今から、七、八年くらい前ですかね?」


「それくらいだろうな。で、このまま北に留まるのもヤバイってんで、さらに西へ西へと逃げて、ようやくこの海洋都市に辿り着いたってわけさ」


「じゃあ、もう七年近くはここで暮らしているんですか?」


「おう。良い漁港もあったし、何より開拓できそうな土地もあったからな。『ここしかねえ』って腹を括ってよ。俺の能力で土地を改良して、昔見つけたコメの苗を取り寄せて育て始めたんだわ」


「やっぱり、一から開拓して育てるのは大変でしたよね」


「そりゃあな。もし俺が、あの頃のただの大学生のままだったら、とっくに諦めてただろうよ」


「あ……、そうか。『土の勇者』の能力!」


「そういうことだ。この辺りの肥沃な平地は、もう昔から住んでる地元の奴らが使い切ってたからな。だが、俺に言わせれば因縁の『斜面』は、誰も手を付けていない手つかずの宝山だった。……どうだい、興味あるか? 見事な段々畑だぜ?」


「ぜひ、見てみたいですね!」


 思わず身を乗り出したものの、ふと海洋都市に来るまでの景色を思い出して難しい顔になる。


「と言いたいところですが、街の近くにそんな山や斜面はなかったように見えましたし、結構遠いんじゃないですか?」


「まあ、街のすぐ近くってわけじゃねえが、すぐだよ」


「それなら、明日も特に予定がなくて暇そうであれば……」


「よし、それじゃあ明日もここに来てくれ。案内してやるぜ。……って、何か予定でもあるのか?」


「そうですね。そろそろ、俺がこっちに来てからの話をした方がよさそうですね」


 俺は、話と食事に前のめりになっていた体を少し後ろへと傾け、これまでの出来事を思い起こしながら静かに話し始めた。


「俺がこの世界に召喚されてからは、まだ一年も経っていません」


「ってことは、四代目か? いや、その途中に別の勇者の噂を聞いた気がするから……」


「おそらく五代目でしょうね。雰囲気的には、あの一代目の能力ってのは、四年に一度の周期で、四人ずつ召喚できるといったものなんじゃないでしょうか」


「なるほどな。確かに俺たちの周期を考えても、四年に一度ってのはしっくりくるな」


「で、俺が召喚された時もやっぱり四人だったんですが、例の『コップ一杯の水』っていう能力のせいで、速攻で無能の烙印を押されて追放されまして」


「だから言ったろ、最高にラッキーだったって!」


「ええ、本当に。これじゃマズイと思って王国から離れてる途中で、たまたま大きな商会のお嬢さんを盗賊から助けましてね。その親御さんにひどく感謝されまして……。今はここから東にある自由都市アイゼンを拠点にして、その商会から家も生活も全面的な支援をもらいながら、のんびり暮らしてる感じですね」


 俺の境遇を聞いたタイショーは、持っていた湯呑みを机にガタッと置いた。


「……いや、ちょっと待てよ。お前、流石にラッキーが過ぎねえか!? なんだその至れり尽くせりなスローライフは! この不公平感っ!」


「はは、なんか本当にすみません……。その後は、俺と同じ時に召喚された残りの三人勇者を引き連れて、王国軍がそのアイゼンに攻めてきたんですけど……。まぁ、なんやかんやがあって王国軍に不幸が重なりまくって、そのまま勝手に撤退していきました」


「なんやかんや、ってなんだよ」


「本当になんやかんや、としか言えないんですよね。正直、俺は前線で戦争に参加していたわけじゃなく、安全なところから見ていただけなのでよく分からないんですよ。召喚された勇者の一人が暴走して、それで自滅したっていうのが一番近いのかな、と……」


「俺はあんなに死にかけたってのに、この圧倒的な不公平感っ!!」


 頭を抱えて本気で悔しがるタイショーに、俺は苦笑いするしかない。


「ほんとなんかすんません……。で、その撤退のどさくさに紛れて、さっき言ったチートな回復能力を持つ聖女がアイゼンに逃げ込んできて、さらにその後、もう一人の別の勇者がその聖女を探して単身で街に殴り込んできたんですが、色々あって、今は二人ともアイゼンの住民として普通に住み着いてる状況ですね」


「じゃあ何かい? 今、そのアイゼンの街には、お前も含めて三人の召喚者が集まってるってことか。……待て、残りの一人の勇者はどうしたんだ?」


「あー……それは、さっきの戦争の自滅に巻き込まれて……」


「……そうか、悪かったな、変なこと聞いて」


「いえいえ、気になさらず。で、戦争も無事に終わったので、消費した物資の補給のために商会がこの海洋都市に来ることになって、俺はその護衛としてついてきたってところです」


「なるほどな。ひとまずは、王国には今すぐこっちの西まで軍を向けるほどの作戦力はなさそう、ってわけか」


「ええ。もしあったとしても、まずはそのチート聖女がいるアイゼンをどうにかしなきゃいけないですからね。というわけで、俺の明日の予定は商会の仕入れの進み具合次第、って感じです」


 タイショーはふむ、と顎をさすりながら、残り少なくなってきた大皿の寿司へと手を伸ばした。


「まあ、ここの物資補給も一日じゃ終わらねえだろ。それに、その話を聞く限り、アイゼンにいる聖女様も確実に欲しがってるんじゃないか? この『コメ』をよ」


「ええ、それは間違いなく。ライラさんっていう聖女が世話になってるエルフの爺さん……じゃなくて婆さんからは『ガストンの干物は飽きたからいらない』と言われていたにもかかわらず、俺に干物持って来いと命令してましたからね。この米を付けたらさぞ喜ぶでしょうね」


 想像するだけで、アカリの目が輝く様子が目に浮かぶ。俺も残った寿司を手に取り、口へと運んだ。


「よし決まりだ! 明日は商会の仕込みの合間を縫って、俺の自慢の米を取りに行くぞ」


「ですね。もしガストンさんたちの出発が早まりそうになっても、こればかりは少し待ってもらうことにします」


 そうして、異世界で出会った同郷の先達と明日の楽しい予定を立てながら、俺たちは残り少なくなった極上の寿司を、最後の一貫まで綺麗に片付けていった。

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