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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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41話

「さて、話をする前にあんたたちの居た所と、この世界の違いを聞いておこうかね」


 ライラは年季の入った手つきで、卓上の湯呑みを揺らした。


「違い、ですか。一番は魔法のあるなしかなあ」


「あとは、人には多くの種類がいるってことだな」


 俺の言葉に、ライラが片眉を上げる。


「あんたの世界ではそうではなかったのかい?」


「ええ。俺たちの世界では、この世界でいう『猿人』のみが人種として存在している状態でしたから」


「なるほどね。そりゃかなり違う。まずはそこから話をしようかね」


 ライラは棚から、黄ばんだ羊皮紙の簡素な地図を取り出してきた。


「この世界では、昔、多くの島が存在していたんだよ。そのバラバラのに存在していた島だったものが一つにまとまって今の大陸になったと言われている。それぞれの島には別々の人種が住んでいて、それが今じゃ混じり合って暮らしてるって話さ」


 ライラは地図の一点を指さす。


「ここが自由都市アイゼン。ここから東――王国のほうだね、こっちは猿人が比較的多い。そしてアイゼンから南はあたしたち森人が、北側は獣人が多い地域になっている。昔、それぞれの島だったことの名残だって考えられているね」


「昔って、ライラさんも知らないくらい昔ですか?」


 アカリが身を乗り出して尋ねる。


「あたしが生まれるよりもずっと前さ。ま、本当のところは誰も知らないがね」


「じゃあ、西もまた別の人種が?」


 俺が問いかけると、ライラの指が地図上をアイゼンから西へと滑った。


「西は……もうそこは、すぐに海さね。そこは『海人うみびと』の領域さ」


「海人、ですか? 海に近いところに住んでいる人たちのことですか?」


「いいや、海の中に住んでいる連中のことさ。まあ、海人からしてみりゃ、あたしたちは『陸人おかびと』なんだがね」


 海の中に住む人種。ファンタジーでは定番だが、実在すると聞くと興味が湧く。


「そういえば、西で思い出した。俺、ガストンさんの護衛で西の海洋都市に行くことになりました」


「えっ!? 冒険の時はまだついてきてほしかったのに……」

 

アカリが不満げに声を上げる。


「まあ、それは勇者のハジメに頼めばいいだろ」


「ちょ、まっ……!」


 アカリが慌てて俺の口を塞ぎ、言葉を遮ったが、もう遅かった。


「……勇者のハジメ?」


 ライラが目を細め、逃がさないよと言わんばかりの視線を向ける。


「勇者がこの街に来てるのかい?」


「あー……、はい」


 アカリが気まずそうに縮こまる。


「言ってなかったのか。どうせすぐ知られるだろ」


「だって……」


「どういうことだい、説明しておくれ」


 ライラに促され、俺が肩をすくめて代弁した。


「昨日、『聖女を返せ』って勇者が一人で攻めてきまして。アカリが自分で聖女だって明かした上で、勇者をボコボコ……いえ、説教したんですよ。んで、その勇者はディルバードさんがお持ち帰りしました」


「ボコボコになんかしてないわよ! ただ諭しただけ!」


「……アカリ?」


「ご、ごめんなさい……」


 ライラは呆気にとられたように沈黙していたが、やがて深いため息をついた。


「……まあいいさ。この街やあたしんちが騒ぎになってないってことは、住人が受け入れたってことなんだろう。あたしの予想してたよりも、ずっと自由な都市になったねえ……」


 ライラはどこか誇らしげに目を細めると、今度は俺を真っ直ぐに見つめた。


「そういえば、サトウ。あんたにお礼を言ってなかったね」


「お礼?」


「王国が攻めてくる時期を知らせてくれたらしいじゃないか。おかげでこの都市もしっかり対策できた。あたしとしても、自分が作ったこの都市とともに死ぬか、それとも自分の子供のようなこの都市を見捨てるか、究極の選択を迫られるところだったよ。ありがとう」


「この都市は、ライラさんが作ったんですか?」


 アカリが驚愕の声を上げる。


「あたしだけじゃなく、他にもいたがねえ。まあ、あまり公言はしてないから今はもう知らないやつが多いか。中央にあるあの建物があるだろう? あそこは元は建物なんかなく、あたしたちが作った小さな村だったのさ。それが王国からあぶれた者や、たまに立ち寄った旅人が気に入って住み着いたりと、勝手に発展して今の状況さ」


「へえ、歴史ってやつですね」


「じゃあ、ライラさんってすごく偉いんですね!」


 尊敬の眼差しを向けるアカリに、ライラは照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「偉くなんかないさ。ただ長く生きて、長く見てるだけさね。都市の住民はみんな好き勝手やってるよ」


 ライラは嬉しそうに笑みを浮かべ、再び地図を見つめた。

 この自由な空気は、このお節介で愛情深いエルフの老婆から始まったものだったらしい。

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