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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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39話:新たな装備と護衛依頼

 翌日、俺はマリーダが用意してくれたという例の雨具を見せてもらうことにした。

 差し出されたのは、落ち着いた色合いの、丈の長いフード付きコートだった。手に取ると見た目以上に軽く、それでいて独特の光沢がある。


「これは雨の多い湿地帯に生息する『レイル・スパイダー』の糸を織り込んだ一品ですわ。激しい雨の中でも獲物を捕らえるために進化させた糸ですから、撥水性は抜群。おまけに剣による斬撃を弾くほど頑丈な繊維ですのよ」


 マリーダの解説を聞きながら袖を通してみると、厚手でしっかりした作りなのに、不思議と蒸れる感覚がない。通気性と防御力を両立させているあたり、かなりの高級品なのが伝わってくる。


「少しサイズが大きかったかしら?」


「いえ、いいですね。着心地がいいですし、これくらいゆとりがある方が雨や……その、飛来物を防ぐのにちょうどいいです。普段から着ていても違和感がない」


「それはよかったわ」


「おいくらになりますか?」


 俺が懐に手を入れると、マリーダは柔和な、しかし商人らしい鋭い笑みを浮かべて首を振った。


「いいえ、差し上げますわ。リナを救ってくれたお礼と……あとは『投資』だと思ってくださいな」


「投資……ですか?」


「ええ。サトウさんに雨に濡れて風邪でも引かれては、我が家にとってもこの街にとっても一大事ですから。健勝でいていただくことが、一番の利益なんですの」


 そう言って笑う彼女の勢いに押され、俺は「それでは、ありがたく」と、その厚意を受け取ることにした。何度か腕を回したり足捌きを確認したりしたが、動きを阻害することもない。これなら『置換』の余波で濡れることも、砕けた破片が直撃することもなくなりそうだ。


 装備の確認が終わったところで、それまで静かに見守っていたガストンがおもむろに声をかけてきた。


「さて、サトウ殿。実は折り入って頼みたいことがあってね」


「何でしょう?」


「私も今回の混乱が落ち着き次第、行商を再開しようと考えていてね。その護衛をお願いしたいのだ」


「あれ? 王国との交易がもう再開されるんですか?」


 戦争が終わったばかりで、あちらの国内も荒れているはずだ。俺が疑問を口にすると、ガストンは首を横に振った。


「いや、王国との交易は当分の間は無理だろう。今回は逆方向だ」


「逆?」


 俺の言葉を引き継ぐように、リナが期待に満ちた顔で答える。


「海洋都市よ。サトウさん、海は見たことある?」


「あるような、ないような……」


(転生前の記憶なら鮮明だが、この世界の海はまだお目にかかっていないな)


 俺の曖昧な返答を見て、ガストンは気を利かせたように続けた。


「まあ、出発はまだ少し先だ。それまでじっくり考えて返答をくれれば……」


「いえ、その護衛、お受けいたします」


 即答だった。アジトでの引きこもり生活もいいが、この世界の広さを知っておくことは、今後スローライフを盤石にするためにも必要だろう。


「そうか、受けてくれるか! ありがとう。準備にはまだ数日かかる。その間はうちでゆっくり身体を休めるといい」


 そう言えば、この街にやってきてから戦いや治療、訓練に明け暮れて、じっくり散策したことがなかった。出発までの数日、俺はこの活気あるアイゼンの街を隅々まで練り歩いてみようと決めた。

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