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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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34話

 俺の大声に「何事だ」と三人娘が採取の手を止めて集まってきた。


「ああ、すまん。ちょっとアカリの回復魔法がすごくて驚いただけだ」


「そんなにすごいんスか?」


 シャノが弓を持ち直して、不思議そうに首を傾げる。俺は溜息混じりに答えた。


「そりゃもう、死んでる生き物だって生き返らせそうなくらいだよ」


「やってみます?」


 ミラが事も無げに提案し、先ほどトドメを刺して後ろ脚を縛り上げたウサギを差し出してきた。


「いやー、死にかけのひどい火傷の人は治したことあるけど、死んだ人は生き返らなかったよ?」


 アカリは半信半疑の様子だったが、促されるままウサギに手をかざした。すると、切り裂かれた首の傷が跡形もなく塞がり、冷たくなりかけていた体がみるみる温かさを取り戻していく。……やがて、ウサギがパチリと目を開けて猛烈に暴れだした。


「うわっ!」


 ミラが慌ててウサギを持ち替え、再度剣を振るってトドメを刺す。


「……矢の傷までなくなって、毛皮が高く売れそうッスね」


 無機質に呟くシャノの言葉を聞きながら、俺は引きつった苦笑いを浮かべて言った。


「良かったな。これからの冒険、安心して死ねるぞ」


「死なないわよ!?」


 ミラの鋭いツッコミが入るが、シャノは真剣な表情で頷いた。


「まあでも、こんなすごい保険があるのは、パーティーとしてはすごく安心ッス」


「だけど、これからはまずアカリさんを守ることを前提に考えないとだねえ……」


「ルル、その意見には賛成よ」


「そうッスね。アカリさんのことはアタシたちが命に代えても守るッス」


「命を失ってもアカリが蘇らせてくれるからな」


「そこ、茶化さない! ……うん、みんなありがとう。でもあんまり危険なことはしないでね?」


 アカリは少し照れくさそうに、けれど諭すように言った。


「もちろんよ。全滅なんてしたら意味がないんだから、これからも慎重に行きましょう」


 ミラの言葉に全員が深く頷き、彼女たちは再び賑やかに薬草採取へと戻っていった。

 俺はその背中を見送りながら、このとんでもない「聖女」がもたらす未来の波乱を想像し、少しだけ遠い目をする。


「でも、なんであのウサギは生き返って、あたしが治した王国の兵士は生き返らなかったんだろう……」


 ふと、アカリが悔しそうな、それでいてどこか寂しげな表情でつぶやいた。


「……魂とか、そんなものじゃないかな?」


「魂?」


「死んでから時間が経てば、魂が体から離れてもう元には戻らない……とかさ。生き返らなかった兵士は、死んでからかなり時間が経っていたんじゃないのか?」


「……そうかも。治せる人から順番に治していったから。でも、魂なんて本当にあるのかな」


「俺たちが今、こんな妙な事態に巻き込まれているんだ。魂の概念があったとしても不思議じゃないさ」


「うん、そうだね……」


 アカリは納得したように頷いたが、ふいにその足取りが覚束なくなる。


「気になるなら、街に戻った時にまたあのウサギを治して……って、顔色が悪いな。大丈夫か?」


「うん、ちょっと、びっくりしちゃって。その……いきなりウサギの首を――」


「ああ、そうか。確かに、普通の女子高生には刺激が強すぎるな」


「別にベジタリアンってわけじゃないのよ。ただ、いきなり目の前で、しかも無抵抗なウサギにあんな……。私、これからやっていけるかな?」


「その辺は、彼女たちに相談すればいい」


「受け入れてくれるかな、こんな弱音」


「大丈夫だ。そもそもアカリのその回復能力は、根底にある優しさから来てるんだろ。この街の住人なら、そんな君を気にせず受け入れてくれるよ」


「……うん、そうだね。後で相談してみるよ」


 アカリは少しだけ表情を和らげた。


「……優しさからか。そういえば、他の勇者の能力にも由来があるのかな」


「あるんじゃないかな。剛力の勇者は……あれは『正義マン』だね。もうウザいくらいに。正しいことと人助けが大好きで、『俺にもっと力があれば、みんなを助けられたのに』ってよく言ってたから。まあ、その歪んだ正義感が王国に利用されちゃったんだろうけど」


「あー、世界ってそんなに単純じゃないんだけどなあ」


「彼ははたから見ていても、バカみたいに単純だったからね」


「なかなか酷い評価だ」


「そりゃ、あの暑苦しさに振り回されて酷い目に遭ったんだから!」


 俺が肩をすくめると、次の名を口にした。


「炎の勇者は?」


「彼は、なんか世界を恨んでたね……」


「この世界に飛ばされたことを?」


「ううん。元いた世界も、この世界も。自分が正当に認められないことを、ずっと恨んでいる感じだった。……世界なんて業火に焼かれて滅んでしまえばいいのに、って。よく言ってたから、それが能力の元だったんじゃないかな」


「……重いな」


「うん。だから、あの時、彼が倒れて消えたことは……彼にとっての救いだったんじゃないかなって。私はそう思うことにしてる」


「そっか……」


 アカリのその言葉は、彼を「水」に変えて葬った俺にとって、一つの救いのように感じられた。


「それなら、俺もそう思うことにするよ……」


 そんな重い話を打ち切るように、ミラたちが戻ってきた。彼女たちが抱える籠には、十分に薬草が詰まっている。


「もうそろそろ帰りまーす!」とミラが手を振る。


「今日はありがとうございました」とルルが礼儀正しく頭を下げる。


「いろいろあったけど、何事もなくて良かったッス」とシャノ。


 確かに、これほど短い「初冒険」で得た収穫と知識は、俺にとってもアカリにとっても、予想以上に大きなものだったと振り返りながら、俺たちは街への帰路についた。

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