31話
破壊された城壁へ向かう道中、俺は寄り道をすることにした。
急ぎ足で街へ戻ってきたため、アジトの食糧庫が心もとない。猟に出るついでに、しばらく籠もれるだけの物資を調達しておこうと考えたのだ。
市場は戦勝祝いで沸き立ち、至る所で叩き売りが行われていた。生鮮食品はあり得ないほどの安値で並んでいたが、残念ながら俺の目的である保存食関連はそこまで極端な値下がりはしていない。それでも、普段よりはいくらか手頃なものを選び、背嚢に詰めていく。
一つの屋台の前で、乾燥肉の束を手に「果たしてこれは買い得か?」と悩んでいると、背後から無造作に声をかけられた。
「よう、兄ちゃん。王国の動向を知らせてくれたんだってな? ありがとよ」
振り返ると、以前防具の制作を相談した職人の男が立っていた。
「……あれは、ただの偶然ですよ」
「なあに、偶然でも何でもいいさ。おかげで街全体が腹を括って備えられたんだ。ただ、まあ……」
男は苦笑しながら、無精髭の生えた頬を掻いた。
「戦前も今も修羅場でな。頼まれてた防具のほうは全然進んでねえんだわ。すまねえな」
それはそうだろう。開戦前は兵士たちの装備の点検、今は破損した武具の修復で、工房は寝る間もないはずだ。
「いえ、俺のほうは後回しで構いませんよ。ゆっくりやってください」
「そうかい? 助かるぜ」
「それに、天竜鳥の素材を持ってきて、格安でやってもらうつもりですからね!」
「ははっ、そりゃあいい! 期待して待ってるぜ」
男は豪快に笑い、力強い腕で俺の背中をバンバンと叩いた。
「でもまあ、体には気を付けてくれよ。せっかくいい防具ができても、着るあんたがいなきゃあどうしようもねえからな」
「もちろんです。まだまだ死ぬ気はありませんよ」
「しかし、この店の前にいるってことは……買い物が済んだら、もう猟に行くのか?」
男が、俺の手に持った日持ちのする食品に目を向ける。
「いや、まずは城壁の補修を手伝ってからかな。王国軍とは鉢合わせたくないからね。今はそのあと猟へ出るための、保存食漁りですよ」
「なら、こいつがいい。俺の一押しだ」
男は店主に手早く金を支払うと、棚に並んでいた特製の燻製肉を掴んで俺に突き出してきた。
「え、いいのか?」
「この街を救ってくれた礼さ。あとはまあ、防具が遅れることへの詫び代ってやつだ。受け取っとけ」
「……それじゃ、ありがたく頂きます」
「ああ、補修頑張れよ」
「そっちもね」
俺たちは短く別れの言葉を交わした。思いがけず質のいい食糧が手に入り、俺はひとまず満足して、復興の槌音が響く城壁へと向かって歩き出した。




