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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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29話

 アウェー感がすごい。

 どうしてこうなった。


 屋敷のロビーに置かれた、対面式の三人掛けソファ。

 片側には、隣り合って座る俺とリナ。

 そしてもう片側には、ミラたち三人娘と――その真ん中に当然のようにどっしりと鎮座する聖女アカリの姿があった。


「ふふ、柔らかいわね……最高だわ……」


「……ねえ、アカリさん? ちょっと顔が近いっスよ?」


 アカリはちゃっかりと、獣人のシャノを膝の上に乗せ、至福の表情でその毛並みを愛でている。昨夜の凛々しい姿はどこへ行ったのか。おい聖女、その顔はいいのか? 完全に崩れすぎて「職権乱用」という言葉が脳裏をよぎるぞ。

 対面に座るミラたちが、俺とリナをニヤニヤと見つめてくるのも居心地が悪いが、それ以上にアカリの壊れっぷりが不安でならない。


 そもそもは、今後の活動方針を話し合おうという真面目な提案から始まったはずだった。

 俺はひとまず、目の前の混沌とした光景を無視することに決め、強引に本題を切り出した。


 話し合いの結果、アカリを加えた新生パーティーの「初陣」には、俺も付き添いで同行してほしいと全員からお願いされ、承諾することになった。

 だが、俺の「コップ一杯の水」という能力を知っているアカリだけは、信じられないものを見るような不信の目を向けてくる。


「……ねえサトウさん、本当に大丈夫なの? あなた、戦えるの?」


 その不安も当然だろうが、ひとまずは無視する。


「まあ、そんなわけで俺はひとまず、王国軍の動向を確認しがてら猟に出てくるよ」


「サトウさん、本当に、本当に大丈夫なんですか?」


 やはり疑っている。まあ、追放時の評価を考えれば当然の反応か。

 すると、リナが自信満々に胸を張って太鼓判を押した。


「大丈夫ですよ! サトウさんはこう見えて、とっても頼りになるんですから」


「そうは言ってもねぇ……」


 まだ不満げなアカリを納得させるため、俺は腰の短剣を軽く叩いて見せた。


「ちょっとした縁で、業物を拾ってね。半分はこれのおかげだよ。……まあ、今回はすぐに戻ってくるつもりだ。その頃になれば街の混乱も落ち着いて、外の依頼も受けられるようになるだろうからな」


「ですよねー。私たち、早く外を見たいです!」


「まあその前に復興のお手伝いだな」


「そうですね!」


 三人娘が少し残念そうに、けれど期待に目を輝かせて言う。

 ひとまず話がまとまったところで、彼女たち三人と別れ、俺はアカリと共に向かいの食堂へと足を運んだ。


 *   *   *


「いやあ、今回の戦争については、突然の雨やら相手方の自爆やら、運の要素が強かったのは確かだ。だがその後の被害については、アカリ殿、君のおかげで死者がほとんど出なかったと聞いている。おかげで明日からも、この街は何の問題もなく存続できるだろう。本当にありがたい。アイゼンの勝利と、アカリ殿に乾杯だ!」


 ガストンの朗らかな発声と共に、戦後初の穏やかな夕食が始まった。

 アカリは、王国ではお目にかかれなかったであろう豪華な料理の数々を前にして、ようやく聖女らしい(?)落ち着きを取り戻したようだった。


 夕食の席での会話は、相手方の陣営の様子や、双方の国内情勢といった情報交換を交えつつも、終始和やかに進んだ。

 そんな話の最中、昨夜治療の指揮を執っていたあの老女の話題が上がる。


「彼女はこの街に昔からいる功労者の一人でね。実は『エルフ』と呼ばれる森人で、この都市の最年長なんだ」


「……え、あの人がエルフなんですか?」


 驚く俺に、ガストンは深く頷いた。


「彼女は長くこの街を見守ってきた分、世の中には様々な事情を抱えた者がいることをよく知っている。何より口が堅い。亡命者である彼女にとっても、きっと力強い助けになるはずだ」


 その後もアイゼンの文化や人々の気質についての話が続き、食事は和気藹々とした雰囲気の中で幕を閉じた。

 食後、アカリはリナに誘われ、街のことについてもっと詳しく聞きたいと彼女の部屋へ向かうことになったようだ。二人揃って、何やら笑い合いながら食堂を出ていく。


(……ついさっきまで、険悪なムードじゃなかったか?)


 女心は複雑だと首を傾げつつ、俺も自分の部屋へ戻ろうとしたその時、ガストンから声をかけられた。


「サトウ殿。君が王国軍の情報をいち早く届けてくれたおかげで、万全の準備を整えることができた。その上、彼女を連れてきて多くの命を救ってくれた。……一人の市民として、心から感謝する」


「いえ、私はただ……偶然が重なっただけですよ」


「それでもだ。君がいなければ、この街は今頃火の海だった。本当に、ありがとう」


 真っ直ぐに向けられる過剰なまでの感謝に、俺は少し照れ臭くなりながらも、その言葉を受け入れた。

 部屋に入り、ベッドに横たわってからも、ガストンの「心からの感謝」という言葉が頭の隅で反芻される。なんだか胸のあたりがムズムズするような、くすぐったい気持ちを抱えながら、俺は深い眠りに落ちていった。


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