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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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24/37

24話

 このまま放置すれば、哨戒中の街の兵士に見つかるのは時間の問題だ。今の殺気立った雰囲気では、事情を聞く前に矢を射かけられる可能性が高い。俺は意を決し、彼女を確保するために城壁を下りることにした。


 周囲に人がいないことを確認し、壁面に「置換」で小さな足場となるくぼみを作る。それを指がかりにして、音もなく地上へと降り立った。


 そこからは隠密行動だ。物陰に身を潜め、都度、望遠鏡の暗視機能で彼女の現在地を特定する。聖女は怯えた様子で周囲を伺いながら、岩場の陰で足を止めていた。俺は気配を殺して背後に回り込み、静かに声をかけた。


「……こんばんは、聖女さん」


「ひゃっ!?」


 短い悲鳴を上げて飛び上がる彼女を見て、俺は思わずため息をついた。

(「ひゃっ」て……まあ、そうなるか)


「あー、お久しぶりです。驚かせてすみません」


「だ、誰……っ? 敵……なの?」


 彼女の瞳には怯えの色しかない。無理もない、召喚されたあの日、俺たちは一言も言葉を交わしていないのだから。


「サトウですよ。ほら、一緒に召喚された……『コップ一杯の水』の」


 説明しながら、俺は空間に水を「追加」し、腰のコップでそれを受け止めて彼女に差し出した。


「……どうぞ、喉が渇いているでしょう」


「えっ? あ、あ、あの時の……追放された!」


「しーっ、静かに。見つかりたくないでしょう」


 慌てて彼女は自分の口を両手で押さえた。差し出した水を受け取ってもらえそうになかったので、俺は自分でそれを飲み干し、本題に入った。


「どうしてこんなところに? 一人でこちらへ来るなんて自殺行為ですよ」


「……逃げてきたのよ、あんなところ」


 彼女――アカリと名乗った少女は、ぽつりぽつりとこれまでの経緯を話し始めた。

 召喚された直後から無理やり軍に編入されたこと。この世界には人間以外の「邪悪な亜種」がいて、彼らを打倒することこそが神の意志だと教え込まれたこと。そして今回の強引な軍行。


「ここに来た途端、変な土砂降りに降られるし……」

(……ごめん、それは俺だ)


「長旅のせいか、みんなの足がボロボロになって歩けなくなるし……」

(……すまん、それも俺の仕業だ)


「そのあと、あの火の勇者の炎で焼かれた人たちの治療に追われて……もう、うんざり!」

(……よかった、それは俺の所為じゃない)



 その後もしばらく彼女の愚痴は止まらなかった。獣人が邪神の使徒だなんて嘘に決まっている、この戦争なんて最初から来たかったわけじゃない、助けられなかった兵士たちがたくさんいて悲しい……。


 俺は彼女を宥めすかしながら、自分が下りてきた城壁のポイントへと誘導した。


「ひとまず……この街に保護してほしい、ということでいいんだよな?」


「……うん。でも、受け入れてもらえるかな」


「多少のツテはあるから。今は俺を信じてくれ」


 見張りの兵士が視線を逸らすタイミングを計り、俺は彼女を促した。


「ほら、今だ。登って」


 あらかじめ作っておいた足場を使い、彼女をサポートしながら城壁の上へと連れ戻す。最後は腕を掴んで、一気に城門の上へと引っ張り上げた。


 暗闇の中、息を切らす聖女を見つめながら、俺は次の手を考える。

 「勇者を殺した」という秘密を抱えたまま、この「聖女」をどうやって街に溶け込ませるか。平和なスローライフからは、また一歩遠のいた気がした。

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