21話:異次元な勇者の力
城門の防衛ラインを突破されれば街は終わる。そう判断した数人の志願兵たちが、決死の覚悟で城壁から飛び降り、槍を構えて勇者へと突き進む。
だが、剛力の勇者の力は絶望的だった。
彼の重厚な鎧はその怪力によって羽根のように軽く扱われ、突き出された槍は鋼の小手で無造作に弾き飛ばされる。兵士たちが必死に連携して隙を突こうとするが、勇者は笑って腕を振るい、その一振りごとに武器は空を舞う。
まだ致命的な被害は出ていない。
武器を弾かれた兵士たちが次々と戦列を離脱していくが、このままでは彼らは武装を失った状態で、徒手空拳で蹂躙されることになるのは明白だった。
しかし、俺は城壁の影からその戦いを冷徹に見定めていた。
勇者の動き、兵士の槍の軌道。そのすべてが交差する「一点」を待つ。
一人の兵士が、渾身の力を込めて槍をすくい上げるように勇者の右腕へ突き出した。
(ここだ!)
俺は能力を振るう。
槍の穂先が通過する軌道上、まさに勇者の腕が位置するその空間に、薄い水の膜を――「置換」した。
水により接続を失われた腕が宙を舞うのと、穂先がその空間を通過するのはほぼ同時。
周りから見れば、兵士の槍が勇者の腕を両断したようにしか見えないだろう。
「むう、見事!」
自身の腕が飛んだにもかかわらず、勇者は怯むどころか感嘆の声を上げた。そのまま脚力に任せて高く跳躍し、空中で自分の切断された腕を掴み取ると、着地して不敵に笑う。
「勝負はまだこれからだ!」
そう言い残し、彼は後退していった。
その先には本陣――聖女が控えているはずだ。あの腕も、彼女の能力にかかれば瞬時に再生して戻ってくるのだろう。
俺は、一時的に能力を勇者の足止めに割いたため、上空の雨が止み始めたことに気づいた。何か次の策を考えなくてはならない、そう頭を切り替えようとするが、それは強制的に中断された。
突如、視界がオレンジ色に染まった。
王国軍の陣営から、天を突くような劫火が立ち上がったのだ。その熱量は凄まじく、つい先ほどまで俺が生成していた雨や雲を一瞬で消し飛ばした。
「……なんだ、ありゃあ」
味方であるはずの王国軍から上がる炎。勇者も、城門前の兵士たちも、皆がその異常な光景に顔を向けた。それはただの火災ではない。軍勢そのものを焼き尽くすかのような、神の如き暴虐な炎だった。
剛力とは違う、別次元の破壊の予感。
アイゼンの防衛戦は、俺の想定を遥かに超えた場所で、最悪の形へと変貌しようとしていた。




