10、噛み
桐生星華の死体は円卓に戻ってきた。
綺麗だった髪はボサボサ。悪臭。
顔の肌も、焦げたように変色していた。
どれほどの電流を流されたのか、ひどい死に様だった。
日菜々「あ、あ、あああ」
山井「いやあああ!」
唖然、恐怖、悲鳴。
一歩間違えれば誰もがああなった可能性がある。
静かに涙を流している者もいた。
死体を隠す幕が降りるように、部屋が真っ暗に落ちた。
羽賀「わ、なんだ?」
斉藤「明かりが」
セイギノミカタ「容疑者を処刑したにも関わらず、恐ろしい夜がやってきました。
各自、夜のアクションを行って下さい」
暗い部屋の中、自身の腹元のモニターが朧に光る。
写っているのは、先ほどの円卓を囲む10人のアイコン。
清水灰司に続き、桐生星華のアイコンにもバツがついていた。
セイギノミカタ「役職によって夜のアクションは違います!
まず占い師の方は、最も怪しいと思う人物を1人選択して下さい。
その人が、人間か人狼か表示されます。
あくまで2択で、役職を持っているかまではわかりません」
日菜々「……」
織田「……」
セイギノミカタ「続いて、霊能者の方。
あなたは先程処刑した人物が、人間か人狼か表示されます。
こちらも2択で、役職まではわかりません」
前島「……」
セイギノミカタ「騎士の方は、今夜人狼の襲撃から守りたい人物を選択して下さい。
守った人物と人狼の襲撃先が被った場合、ガード成功。犠牲者なしです」
騎士はまだ生きてるだろう。
大事な役職だ。誰が騎士で、ガード成功は起こせるのだろうか?
セイギノミカタ「そして、人狼の2人は今夜殺したい人物1人を相談して決めて下さい。
タッチパネルにタッチ式のキーボードが表示されたでしょう?
それで相方といくらでも話し合っていただいて構いませんよ」
人狼の役職の醍醐味は、襲撃先を仲間と相談すること。
あいつは残したくない。
そいつを殺すと疑われる。
あえてこいつを噛むか?
今頃、色々話しているのだろうか。
部屋は暗く、モニターの光くらいじゃ隣のやつですら何をしてるかわからない。
存分に話し合ってくれ。
セイギノミカタ「そして、それ以外の村人と狂人の方は、怪しいと思う人物を1人選択して下さい。
翌朝、一番怪しいと思われている人物を公表します」
これはおまけ。プレイヤー全員にタッチパネルを触らせる行動をとらせるためだ。
部屋は暗いが、役職だけタッチパネルをゴソゴソ触っている状況を避けるための措置。
羽賀「……」
牧村「……」
山井「……」
九十九「……」
斉藤「……」
セイギノミカタ「みなさんよろしいでしょうか?
全員の操作完了を確認。
今夜の人狼のターゲットが決まりました!
その人物とは……」
暗闇の中、円卓が回り始める。
同時に狼の牙の口が開いていく機械音。
誰かが今日あれの中に引き込まれる……
日菜々「うぅ、やめて」
羽賀「こ、こえええ!」
山井「……ひいい」
斉藤「神よ……」
織田「くんなよ。頼むぞ!」
牧村「やだ!助けて!騎士さんお願い!」
前島「ふう、大丈夫。俺は大丈夫さ……」
九十九「さて……誰に来る?」
全員が恐怖し、祈っている。
しかし、この中には選んだ側が確実に混じっている。全くわからない。
このゲームの人狼は演技がうまいかもしれないな。
ゆっくり円卓の回転が止まった。
もう全員、自分がどこにいるかわかっていないだろう。
今、狼の牙の前にいる者が今夜の犠牲者だ。
さて、誰がやられるだろうか?
その時、確かに感じた。
こんな暗闇の中で、何を根拠にと思われるかもしれない。
でも第六感、肌で感じたんだ。
恐怖、懇願しているプレイヤーの中で今確かに、笑った者がいた。
???「ぬ?」
椅子ごと勢いよく引っ張られる音と共に……
???「や、やめろ!ぎゃああああ!!」
男の悲鳴が部屋中に響いたのであった。
始めたのは何年前だろうか?
きっかけなど取るに足りないものだったろう。
妻との冷めた関係や、娘が思春期に入り私を無視し始めたことや、さらに大した仕事もやらせてもらえず、知名度もなく、私は誰かの人生の脇役だと感じ始めた頃だったかもしれない。
女子高生を買うのは楽しかった。
「ふう、最高だったよ」
「そう?ありがと」
「やっぱり現役のJKは大好きさ。どこかで関わる機会があっても下心を持たずにはいられないくらいね。
お金ここに置いておくよ」
「ありがとー!おじさん大好き!」
「私も大好きさ。いつもありがとうね。
……アスカちゃん」
「いえいえ、こちらこそ!」
「アスカちゃんって私と違い、裏表なさそうだな。学校でもそんな感じなのかい?」
「いやいや裏表あるよ!何でも話せる親友は作ろうとしてるけど、基本嘘つきだよ!」
「ははは、こりゃ一本取られたな。
彼氏とかはいるの?」
「いないよー。でも私だって好きな人はいるよ」
「まあ年頃のJKなんて誰でもいるだろうね」
「でも叶わない恋。だから寂しくてこんなことしてるのかも……」
「……そうかい。おっともうチェックアウトの時間だね」
「もう3時か。こんな時間に家に帰って大丈夫なの?」
「妻は帰省中で、娘は寝ていたから大丈夫だよ」
その後、アスカちゃんを送り、うちに帰った私は驚愕した。
うちに強盗が入っていた。
幸い盗られた金額は大したものではなく、犯人もすぐに捕まった。
警察に聞いた話、犯人の男は噂に聞く詐欺師Mr.ハロウィンに結婚詐欺で全財産を奪われ、闇金の金を返すために、強盗に至ったそうだった。
しかし問題は別にあった。
娘は強盗に脅されたらしく、心に深い傷を負ってしまっていた。
そして私は警察にも妻にも問い詰められた。
娘をおいて深夜にどこに行っていたのか、と。
焦った。人生最大の憔悴だった。
私は答えた。
強盗の侵入に気付き、いち早く逃げたのだと。
生涯最高の演技だった。
その日から、妻も私に口を利かなくなった。
私は思った。
よかった。これでJKとのお楽しみはまだ続けられそうだ、と。
演技をする仕事をしていてよかったとも初めて思えたことだった。
演技とは、無から生む迫力。
その才能は人間性と反比例する。
要は、嘘をつくことが平気か否かだ。
私は心の底は、中途半端な人間だった。
演技が必要なこのゲームの人狼達はそこがどうなのか気になってはいたが……
それよりも……
妻や娘との関係、果てはその娘の心の傷よりも優先されるもの。
私の大罪、色欲。
私が唯一、主役であると感じられる時。
もう一度、JKを抱きたかった。
私の最期の思いは、ただそれだけだった。
斉藤章三、死亡。
1日目、夜のターンにて人狼から襲撃。
1日目、夜のターン。
1、前島康隆
2、羽賀亮也
3、牧村芽衣子
4、織田武臣
5、山井小百合
6、九十九一
7、桐生星華………死亡、1日目処刑
8、斉藤章三………死亡、1日目襲撃
9、桃山日菜々
残り7人。
1日目終了。
ゲームは、2日目へ。




