8話 恋愛大乱闘の勝者は…ですわ!
結菜がファンクラブを撃破したその横で、咲希と麗香の激闘は続いていた。
「おーっほっほっほ! 私の理想の旦那様は、私のためなら何だってしてくれるのよ!」
麗香の背後に現れたのは、スーツ姿にエプロン、赤ん坊を背負い、右手にお玉、左手にゴミ袋を握りしめた『理想の旦那様』の幻影。
その旦那様が、凄まじい手際でお玉を振り下ろし、咲希の鉄仮面を乱打する。
「痛い痛い! この旦那様のお玉、生活感の重みが地味に響きますわ……!」
実況と解説を放棄した2人はおやつタイム。
実況「……ん? 麗香さんの『理想の旦那様』、ちょっとリアルすぎませんか? 夢がないというか……」
解説「本当ですわ。家事を完璧にこなす旦那様の後ろで、スウェット姿で激太りして、テレビを見ながら寝そべっている麗香さんの将来像が透けて見えますわ……。あれは愛ではなく、ただの使役ですわね」
「……そんなの、愛ではありませんわ! 家事は二人で協力して、分担してやるのが理想ですわーーっ!!」
咲希の魂の叫びと共に、鉄仮面からピンクのレーザーが放たれる。
「いやあああ! 現実を突きつけないでーーーっ!!」
麗香の理想が限界を超えて膨張し、大爆発! 煤けた制服姿の麗香がリングに力なく落ちた。
『――WINNER:如月 咲希――』
しかし、巨大リング内の乱闘は収まらない。
「どうしましょう、このままでは学園が…!」と実況が頭を抱えたその時、空間をきり裂くように、
「皆様、おやめなさい!」
という凛とした声が響いた。
学園長 一条蘭子が、まばゆい光と共に壇上へ。
「こんなに大勢で争って……。皆様の恋心が泣いています! ラブ・ドレスアップ!!」
学園長 武装:『至高の純白』
50年分の愛の記憶が積層した、ダイヤモンド並みの硬度を誇る絶対防御のドレス。
「恋とは、相手を敬い、慈しむもの……。例えば私の夫との出会いは公園でした…。私が転んで泣いている時、ぶっきらぼうに手を差し伸べてくれました。その時私の恋がはじまったのです!そして、中学時代…(長い惚気)」
学園長が語り出すと、闘技場内の重力が急激に増加。
「重……っ! 惚気の圧力がそのまま重力になっていますわ!?わたくしの武装でも…耐えられませんわ…!」
咲希の鉄仮面すら耐えきれず、乙女たちが次々と地面にめり込んでいく。
「さあ、武装を解きなさい。今夜は仲良しさんとパジャマパーティーで恋バナしなさい(ウィンク)」
有無を言わさぬ愛の圧力に、全員の武装が強制解除された。
『――WINNER:学園長――』
実況「大乱闘の勝者は伝説の乙女!学園長が全て薙ぎ払ったー!」
解説「はじめて学園長の武装を見ましたが、50年汚れることがなかった純白…。お美しいですわ!」
実況「学園長に収めていただいた所で、そろそろ午後の授業時間です!それでは、皆さんごきげんよう!」
元の静かな廊下に戻った咲希は、肩で息をしながら辺りを見回す。
「……大変な目にあいましたわ。ねえ結菜、本当にすごかっ……あれ、結菜?」
しかし、咲希のそばに結菜はいなかった。
「…。」
廊下の奥には咲希を見つめている結菜の姿が。
そのまま、暗い廊下の奥へと歩みだし消えていった…。
結局その日、結菜に会うことはなかった。
一人で校門を出る咲希。そこへ、野球部の練習を終えた猛がやってきた。
「お、咲希! お前も帰りか? ……あれ、結菜と一緒じゃないのかよ」
「それが、途中からいなくなってしまいまして。連絡もつかないのですわ……」
「……そっか。まぁあいつのことだ、大丈夫だろ。たまには二人で帰ろうぜ!」
「……そうですわね。結菜はしっかりしていますものね」
どこか胸騒ぎを感じながらも、咲希は猛と並んで、沈みゆく夕日の中を歩き出した。
その頃――。
ひっそりと静まり返った生徒会室の重厚な扉を、叩く音。
「……お入りなさい」
会長・聖子の声に導かれ、部屋に入ったのは……。
夕闇の中で、氷のように冷たい瞳をした結菜だった。




