7話 結菜の戦いですわ
混沌のプロレスリング上。結菜の前に立ちはだかる「猪突猛進」の5人が、一斉に法被を翻す。
「如月咲希だけじゃない、あなたも幼馴染だったわね……。ついでに叩き潰してあげるわ! 食らいなさい、我らが聖域! 必殺:『猛進!ラブ・コール(アイドリング・ドーム)』!!」
「「「た・け・る! た・け・る! ちょ・と・つ! もーしん!」」」
一糸乱れぬコールの波動がドーム状の領域となって広がり、周囲の乙女たちを飲み込んでいく。
「えっ、何これ!? きゃああ……た・け・る! た・け・る!」
ドームに触れた瞬間、乙女たちの武装が次々と「猛」の文字が躍る法被へと変わり、自我を失ってコールに加わっていく……。
まさに、ファンクラブによる布教という名の強制改宗!
「くっ……! 近づかせないよ!」
結菜が鋭い氷の刃を放つが、ドームの境界線に触れた瞬間、パキンと音を立てて形を変える。
「えっ……!?」
氷の刃が、猛の顔がプリントされた『自作のラバーストラップ』や『缶バッジ』に変化し、地面に虚しく転がり落ちる。
「おーっほっほ! このドーム内では、あらゆる攻撃が『愛の献上品』に変換されるのよ! 死角はないわ!」
絶体絶命の結菜。
(……本当は、誰にも見せたくなかったけど……今はこれしかない……!)
結菜は懐から財布を取り出し、中から一枚の小さな紙片を抜き取ると、それを氷の刃の先端に凍りつかせた。
「えいっ……!」
放たれた氷の刃はドーム内で消滅し、グッズへと変わる。
しかし、氷が溶けて剥き出しになった紙片が、ヒラヒラとファンクラブの足元へ舞い落ちた。
「何かしら?この紙切れ ……?」
ファンクラブのリーダーがそれを拾い上げ、絶句する。
そこにあったのは、
小学校低学年、泥だらけで日焼けし、前歯が抜けた状態で満面の笑みを浮かべる猛の生写真。
「しょ、ショタ猛様……!? なにこの、母性本能をダイレクトアタックしてくる破壊力は……! 抜けた前歯が、眩しすぎ……っ!」
「尊い……尊すぎて心臓がオーバーヒート……っ!!」
ファンクラブ全員、鼻血を噴き出しながら白目を剥いて卒倒。
ドームが霧散するように消え去った。
『――WINNER:卯月 結菜――』
「ふぅ……」
結菜はいそいそと地面に落ちた写真を拾い上げると、汚れがないか確認し、大切に、誰にも見られないように財布の奥へとしまう。
その時財布から覗く、幼い結菜と咲希が2人で抱き合ってる写真。
「…。」
一瞬目を閉じた後、結菜は無言のまま、未だ麗香と対峙している咲希の方を見据えた。




