3話 わたくしデジタルは苦手ですわ
放課後、「ブブブ」咲希のスマホが震える。
画面には幼馴染の猛からのぶっきらぼうなメッセージ。
「……猛からですわ。『今日は遅くなるから、テツの散歩頼む』……ですって。全く、人使いが荒いですわ」
隣で画面を覗き込んだ結菜が、嬉しそうに提案した。
「テツくんの散歩? 私も行く! 咲希一人だと、またテツくんに振り回されそうだし」
校門へ向かう道すがら、結菜がクスクスと笑いながら尋ねる。
「猛くんには返事返したの?」
「……返してませんわ。文字を打ち込むのに、どのボタンを押せばいいのか戸惑ってしまって……」
「あはは、咲希、そういうの本当に苦手だよね」
結菜の優しいからかいに、咲希は頬を膨らませている。
「お待ち下さい。お姉さま方。」
校門の前で、一人の1年生がタブレットを手に立ちはだかる。
「なんですの? あなたは……」
「私は電脳 幸。如月お姉さま、私と恋愛バトルをお願いします。」
『――LOVE BATTLE 確認。闘技場を展開します――』
あたり一面がネオン光る回路図のような電脳空間へと変貌した。
「ラブ・ドレスアップ(武装開放)!!」
結の武装:『電脳の箱庭』
周囲に無数のホログラムパネルが展開され、その中心にAI彼氏『アダム』が投影されている。
咲希の武装:『拒絶する鉄仮面』
「またですの!? 戦う理由はなんですの!?」
「お姉さまは恋を否定していますが、私の分析では『恋している』という結果が出ています。それを解析し、論理的にわからせてあげます。……アダム、起動」
『……ハロー、マイプリンセス。ターゲットの深層心理、スキャン完了だ』
アダムの超低音イケメンボイスが響き渡る。
観客「きゃあああ! 殿方のイケメンボイスですわー!!」
実況(ミミ子)「出たーっ! 幸さんの完全無欠のAI彼氏アダム! その甘い声は、女子生徒の理性をデリートする破壊力を持っております!」
解説(花園)「嗚呼……。データに基づいた自分だけの『理想の彼氏』。これに抗える乙女は、この学園には存在しませんわ……」
アダム(ホログラム)が咲希の鉄仮面に歩み寄り耳元で囁く。
『…猛。』
「えっ?!」
咲希は一瞬ドキッとする
『君の心拍数、猛という単語が出た瞬間に0.5秒加速している。これは紛れもなく、恋心という名のプログラム……』
「なっ、なんですのそのデタラメは! 鉄仮面を透過してスキャンしないで下さいまし!!」
鉄仮面にピキピキとヒビが入り始める。
実況: 「ああーっと! 咲希さんの鉄壁にヒビが! ついに『恋』を認めさせられてしまうのかー!?」
アダムは続ける
『僕の解析では答えはもう出ているけど、君は猛くんのことどう思ってるんだい?』
「あいつはただの幼馴染ですわ!…ただの…」
鉄仮面にさらにヒビが入る中、「ブブブ」再びスマホが震えた。
「――っ! ちょっと待って下さいまし! 猛からですわ! 『返事まだかよ』? ……いけません、忘れてましたわ!」
咲希はバトル中にも関わらず、必死にスマホを取り出し、震える指で画面をタップし始めます。
「ええーと、まずはロックを解除して……ああっ、パスコードを押し間違えましたわ! アプリを開くのは……どれですの!?」
実況「な、何が起きているんだーっ!? 絶体絶命のバトル中、如月さん、猛烈な勢いでスマホと格闘中!!」
解説「これはいけません。アダムの甘い囁きよりも、猛くんの『返事催促』の方が、彼女の脳内メモリを占領してしまったようですわ……!」
――10分経過。
沈黙が支配する闘技場。幸もアダムも、あまりのスマホ操作の遅さに動けない。
「『わ・か・り・ま・し・た・わ』……っと。ふぅ、返事できましたわ」
全員:「「「不器用すぎーーー!!!」」」
幸は、自分の高度な解析を無視して7文字に10分かけるという、咲希の「デジタルへの絶望的な適応力のなさ」と「そこまでして猛に返そうとする無自覚な献身」の矛盾に脳がパンク。
「……計算不能……。現代のデジタル時代にこの処理能力…。私のプログラムじゃ解析できません……!!」
電脳 幸、あまりにも不器用な咲希にショート(尊死)。
『――WINNER:如月 咲希――』
夕暮れの街。猛の愛犬、大型犬のテツが咲希に飛びつく。
「テツー。散歩ですわよー。もう、顔を舐めないで下さいまし! 」
「あはは。テツくんは咲希のこと大好きだねー」
結菜は、楽しそうに笑う咲希とテツを見つめ、小さく呟く。
「(……ご主人様も、きっとテツくんと同じくらい咲希が…。)……私も、大好きだよ」
その言葉は、犬の鳴き声にかき消され、咲希には届かない。




