11話 結菜の秘めてた想い…ですわ
「自らの意思で戦いに赴いた、あなたの恋…。見せてもらうわ。」
会長がステージに立つ結菜を見つめていた。
実況「さあ1回戦第2試合! 怨念 響 vs 卯月 結菜! 開戦です!!」
解説「失恋の痛みを呪いに変える響さんに、結菜さんはどんな『恋の力』で立ち向かうのでしょうか……」
「…」
強張った表情でステージに立つ結菜。
観客席から心配そうに見守る咲希。
「結菜…。」
「ラブ・ドレスアップ(武装開放)!!」
怨念 響:『深愛の五寸釘』
巨大な藁人形を抱え、自身の痛みと引き換えに相手を呪うカウンター武装。
卯月 結菜:『刺々しき凍える純愛』
透明な氷の結晶が幾重にも重なったドレス。美しくも、触れるものすべてを切り裂く鋭利さを秘めている。
「恋なんて……もうこりごりよ。恋が無意味だってことを、あんたに教えてあげるわ!」
響が叫ぶ。
「3年付き合ってた護……。でも護は私を裏切った! あの女を選んだのよ!」
響が自らの藁人形に深く釘を打ち込む。
ドシュッ! という音と共に、響の肩に傷が走り、連動して結菜の肩から鮮血が舞った。
実況「出たーっ! 響さんの必殺スキル『心中・茨の道』! 自分を傷つけながら、相手にはその数倍の苦痛を強いる禁断の呪詛です!」
解説「自分を削ってでも相手を倒そうとする響さん……あまりに痛々しい戦い方ですわ……」
「護は他の女と……。二人が憎い! 幸せな奴らはみんな消えればいいのよ!」
響が狂ったように釘を刺し続ける。結菜の透明な氷のドレスが、流れる血でみるみる赤く染まっていく。
観客席から咲希が身を乗り出して叫ぶ。
「結菜! 結菜、もうやめてくださいまし! そんなに傷ついてまで……!」
結菜が、俯いたまま静かに話し出す。
「……私、ずっと好きな人がいるんです。小さな時から、ずっと」
「……でもその人は、別の子のことばかり見てるんです」
響が嘲笑う。
「ははは! あんたも私と同じ負け犬じゃない! だったらその恋、私が今ここでトドメを刺してあげるわ!」
釘が深く、深く打ち込まれる。しかし、結菜は静かに首を振った。
「まだ、負けてません。二人とも……あまりに鈍感すぎて、自分たちの本当の恋心にすら気づいていないだけなんです」
「なら奪えばいいじゃない! 私から護を奪ったあの女みたいに、力ずくで!」
結菜は、血が滴り落ちる拳を強く握りしめた。
「……最初は、笑っている二人を見ているだけでよかった。でも、変わらなすぎる二人を見ているうちに……私の中に、暗くて、冷たい気持ちがどんどん大きくなってきて……」
「だったらその愛を憎しみに変えなさい! そうすれば楽になれるわ!」
響の最後の一撃が放たれようとした瞬間、結菜が顔を上げた。
「だから……私は今日、この暗い気持ちと……この恋に、自分自身で決着をつけに来ました!」
結菜の瞳の奥に宿る「覚悟」の冷気で、響の手が止まる。
「……きっと、傷つくわよ。私みたいにボロボロに…。」
「はい。覚悟の上です」
「……辛い、最悪の結果が待ってるかもしれないわよ」
「……今のまま、親友の振りをしている方が、もっと辛いですから」
「……全てを失うかもしれない、茨の道よ……!」
「その時は……遠くから、二人を見守っていきます。いままでと同じように」
沈黙。
「…馬鹿ね。あなた…。」
響の腕から力が抜け、禍々しい藁人形が霧のように消えていく。
「……次の試合、……あなたの、その恋の結末…見届けてあげるわ。」
「はい。……ありがとうございます、響さん」
実況「け、決着ーーーっ!! 結菜さん、一度も相手を攻撃することなく勝利を収めました!」
解説「彼女が今日戦っていたのは、響さんではなく、自分自身の『逃げたい心』……。ずっと秘めてきた想いを、今日、解き放つ覚悟を決めたのですね……」
ステージを見つめる咲希。その手は震えていた。
「結菜に、そんなに想っている相手がいたなんて……。ずっと一緒にいて、一番近くにいたはずなのに……気づけなかったわたくしは、親友失格ですわ…。」
咲希は拳を握りしめ、
「謝らなくてはなりません。わたくしが、結菜の恋を……全力で応援してみせますわ!」
親友とはまた別の、固い決意を胸に刻む。




