10話 咲希の戦い、結菜の覚悟ですわ!
実況「さあ1回戦第1試合! 咲希 vs 駆! 幕開けです!」
解説「『音速の惚気』と『鉄壁の拒絶』。矛と盾の激突ですわね」
「ラブ・ドレスアップ(武装開放)!!」
走輪 駆:『韋駄天の恋路』
脚部にピンクメタリックの流線型装甲を装着。音速移動を可能にする。
如月 咲希:『拒絶する鉄仮面』
お馴染み、ピンクのフリルがついた無骨な鉄の棺桶。
「いくよー! 私の恋は速いよー!」
駆がクラウチングスタートから爆発的に加速する。「悟くんとの出会いは隣の男子校との合同練習で、彼が差し出してくれたスポーツドリンクが……」
咲希の周囲を猛スピードで旋回しながら、早口のノロケ弾丸を叩き込む!
実況「凄まじい手数! 鉄仮面に無数の傷が刻まれていくーっ!」
解説「ですが……早口すぎて内容が3割も聞き取れませんわ!」
その様子を、客席から冷たい瞳で見つめる結菜。そこへ、息を切らした猛が駆け寄ってきた。
「結菜! よかった会えて! 咲希がトーナメントに出るって言うから見に来たぜ!」
「……そうなんだ」
結菜の声は低く、どこか他人事のように響いた。
ステージ上では、咲希が防戦一方になっていた。
(このままでは負けてしまいますわ……! そもそも恋してないわたくしが、なんで戦わなくてはいけませんの!?)
その時、観客席からまっすぐな声が響く。
「咲希ーーー! よくわかんねえけど頑張れーーー!」
「猛!? ちょっと、恥ずかしいから大声出さないでほしいですわ!」
その声に、駆がピタリと足を止める。
「今の男の子、彼氏??」
「違いますわよ! あいつはただのデリカシーのない幼馴染で!」
「でも応援に来てくれてるじゃん! 彼のこと…好きなの??」
咲希の顔が、鉄仮面の中で沸騰したように赤くなる。
実況「駆さん、対戦相手との心の距離を詰めるのも速い!」
解説「咲希さんもタジタジですわ……!」
客席では、猛が身を乗り出していた。
「結菜、これってどういう戦いなんだ?」
「……お互いの恋心を、武装の力に変えて競い合うんだよ……」
「へぇー。アイツ、あんなに頑丈なもん作って……必死だな」
猛は、鉄仮面(咲希)をじっと見つめる。結菜は、そんな猛の横顔を静かに見つめ返した。
「あいつとは何もありませんわ! ただ……」
「ただ?」
「……これからも、当たり前のように隣にいたいとは……思っていますわ」
ポツリと漏らしたその瞬間、空から小さな石が一つ、駆の脳天に直撃した。
「……いたーい!」
「猛とは、生まれた時から家が隣同士。両親同士が仲良くて、夕飯やお出かけも一緒に行ってましたわ…。」
咲希が小さな声で思い出を語り続けると、空から数え切れないほどの思い出が礫に変わり、降り注ぎ始めた。
それは積み重ねられた「時間の重み」そのもの。
「それから小学校の時は…。」
「痛い! 痛い! 私の武装、足だけだから普通に痛いってばー!もうヤダー!」
駆はステージから飛び降りて逃走した。
実況「決着ーーーっ! 韋駄天の駆さん、降りしきる『日常の重み』に逃走!逃げ足も速い!」
解説「ドラマチックな一目惚れに、コツコツと増えていった十数年の思い出が降り注ぐ……。学園長の惚気とは別の、重い想いが垣間見えましたわ!」
『――WINNER:如月 咲希――』
試合後、猛がステージの咲希を見つめる。
「……咲希。あいつ、戦いの中で俺のことめっちゃ話してたな……」
猛は少し考えるような、複雑な顔をしていた。
結菜は黙って猛の顔を見る。
「あっ! これから水泳部との決闘があるから行くわ! 咲希によろしくな!」
猛はいつものように嵐のように去っていく。
「猛くん……! 私も、次の試合に……」
結菜の声は、遠ざかる猛の背中には届かなかった。
ステージ裏の廊下。
「ふう……疲れましたわ。あっ、結菜!」
向かいから、冷気を纏った結菜が歩いてくる。
「次、試合ですの? 頑張って下さいまし!」
「……」
結菜は咲希の横を通り過ぎる際、足を止めて言い放った。
「……私、負けないよ。自分自身にも……咲希、あなたにも!」
「結菜!? どういうことですの!?」
振り返らない親友の背中。その足跡は、廊下の床を白く凍らせていた。
実況「続いての第2試合……怨念 響 vs 卯月 結菜! 開戦ですわ!!」




