番外編「ある日の庭とやきもち焼きの騎士」
平和が戻ったアスター侯爵領。
屋敷の庭は、リゼットと雇われた庭師たちによって手入れされ、今や領内有数の観光名所となるほど美しくなっていた。
ある晴れた午後、リゼットは庭の温室で新しいハーブの苗を植え替えていた。
最近、近隣の村の子供たちが庭を見学に来ることが増え、リゼットは彼らに植物の育て方を教えているのだ。
「リゼットお姉ちゃん、こっちのお花は何ていうの?」
「お姉ちゃん、僕がお水あげる!」
子供たちに囲まれ、リゼットは楽しそうに笑っている。
そんな彼女の様子を、執務室の窓からじっと見つめる影があった。
「……楽しそうだな」
ギルバートである。
彼は書類仕事の手を止め、むすっとした顔で窓の外を睨んでいた。
「おや、旦那様。また嫉妬ですか? 相手は子供ですよ」
執事のセバスチャンが、呆れたようにお茶を置く。
「嫉妬などしていない。……ただ、リゼットがあまりにも無防備だから心配しているだけだ」
「はいはい、そういうことにしておきましょう」
その時、庭の方から子供の甲高い声が聞こえた。
「大きくなったら、僕、リゼットお姉ちゃんのお嫁さんになる!」
一人の男の子が、リゼットに野花で作った指輪を渡しているではないか。リゼットは「あら、嬉しいわ」と微笑んで受け取っている。
ガタッ!
ギルバートが椅子を蹴って立ち上がった。
「……少し、休憩してくる」
「いってらっしゃいませ」
セバスチャンは苦笑して見送った。
庭に降り立ったギルバートは、大股でリゼットたちの元へ向かった。
突然現れた強面の侯爵様に、子供たちは「わあ、氷の騎士様だ!」と少し怯えながらも興味津々だ。
「ギルバート様? お仕事は……」
「休憩だ」
彼は短く答えると、男の子とリゼットの間に割って入った。そして、リゼットの手を取り、自分の胸元から取り出したハンカチで、土で汚れた彼女の手を丁寧に拭き始めた。
「……あまり、他の男から物を貰うな」
「え? でも、子供ですし……それに、ただの草の指輪ですよ?」
「男は男だ。それに、お前の指に嵌めていい指輪は、俺が贈ったものだけだ」
ギルバートは真剣な顔で言い、リゼットの左手の薬指に口づけをした。そこには、婚約指輪である大粒のダイヤモンドが輝いている。
「~~っ!」
リゼットは子供たちの前で赤面し、湯気を出しそうだ。
子供たちは「わー、ちゅーした!」「ラブラブだー!」と囃し立てる。
「ふん。……わかったら、これからは俺の傍を離れるな」
ギルバートは勝ち誇った顔で子供たちを見回し、リゼットの腰に手を回して独占欲を見せつけた。
リゼットは恥ずかしさで死にそうだったが、彼の子供じみた嫉妬が愛おしくて、こっそりと彼の服の裾を握り返した。
「はいはい、わかりました。私の騎士様」
平和な庭に、幸せな笑い声が響き渡った。




