エピローグ「枯れない花と二人の未来」
数年後。
アスター侯爵邸の庭園は、季節ごとに違う表情を見せる美しい場所として、国中にその名を知られていた。
春には桜とチューリップ、夏には向日葵とラベンダー、秋にはコスモスと紅葉、そして冬には温室で珍しい蘭や熱帯植物が咲き誇る。
それは、リゼットとギルバート、そして領民たちが力を合わせて作り上げた、愛の結晶だった。
庭の奥、あの最初に再生した薔薇が植えられている場所に、二人の姿があった。
薔薇の木は大きく育ち、アーチを作って無数の深紅の花を咲かせている。
「今年も綺麗に咲いたな」
ギルバートが、リゼットの肩を抱きながらつぶやく。
彼の腕の中には、まだ小さな赤ん坊が眠っている。二人の間に生まれた、愛娘だ。
「ええ。あの子が頑張ってくれたおかげです」
リゼットは愛おしそうに薔薇を見上げた。
かつて死にかけていた一輪の薔薇が、今ではこんなにも立派になり、新しい命を見守ってくれている。
「リゼット」
「はい?」
「ありがとう。俺の人生に、色を与えてくれて」
ギルバートはリゼットを見つめ、穏やかに微笑んだ。
その笑顔は、かつての凍てついた氷を微塵も感じさせない、春の陽だまりのような温かさを持っていた。
「私の方こそ。私を見つけてくれて、愛してくれて、ありがとうございます」
リゼットは背伸びをして、彼の頬にキスをした。
赤ん坊が「あう」と小さな声を上げ、二人は顔を見合わせて笑った。
風が吹き抜け、花びらが舞い上がる。
枯れた土地は緑に覆われ、凍った心は溶け、愛の花が満開に咲き誇る。
二人が手を取り合って歩く未来には、もう悲しみも孤独もない。
ただ、優しい光と、花の香りだけが、いつまでも二人を包み込んでいた。




