46 古き時の中であやめの想い
あやめは立ち上がって、台所に向かい、床下収納を出し始めた。弥彦はあやめの刀と一緒に刀を携えた。
「どうした?何があったんだ?」
「多分、弥彦に会いたいんだわ!だから、子孫にまで現れてる!」
梅干しの瓶を出し終わると、あやめはランタンを持って階段を下りて行く。
土床に着くとスリッパに足を通し、弥彦の甲冑を見た。やはり青白く光っている。
弥彦も恐る恐る床に着くと、スリッパを履いた。弥彦も驚いて見ている。
「光ってる!あやめ!これか?……あれ?」
弥彦が首を傾げた。
「甲冑に何か足んないと思わないか?刀か?」
弥彦が左側に寄り、懐中電灯を当てながら、あやめの刀と藤田の刀を甲冑に収めた。
カンカンカンと家鳴りがする。
どごんと落ちるような音がしてから、甲冑の顔の面の所から腕が出て来た。あやめが叫ぶ。あやめは弥彦を甲冑から遠ざけると腕が慌てたようにもがいている。
「なにあれ!手が見える?」
「甲冑しか見えないけど……暴れてない?お〜おい、座れ……座れ!いいから、座れ!」
甲冑の手が見えない弥彦が叫ぶ。
あやめは弥彦に戦国時代のあやめの話はしていない。長い夢を見たのだと思っていたからだ。だが、先祖に弥彦の名前とあやめが居て、おばあちゃんの死に目に戦国時代のあやめが出て来た。これは何か因縁があるのだろうと考えた。
弥彦の言葉に従うように手が下がった。
甲冑の腕を通って、手の位置まで来ると、ぐるりと手の甲が反対に正しく向き直った。顔の位置に目が出てきた。戦国時代の弥彦だ。これが弥彦の顔だと思った。夢よりも年を増し貫録がある。
「戦国時代の弥彦の顔……」
カンカンカンと家鳴りがするがすると、頭を深く下げて土下座するようなあやめが、ぼおっと足元に現れる。頭を上げない。下げたまま甲冑の弥彦と対峙している。
「あやめさん……、弥彦を待っていたの?どうして……あやめさんを捨てた男でしょ?例えどうしても会いたかからって……戦国時代から待ってるなんて可哀想よ……」
「違うんじゃないか?頭を上げないし……、待って居たなら近くに行くはずだろ?」
「どういう事?」
「いや、俺だったらだけど……考え方や価値観が違うのかな?戦国時代だから……。恋愛感情とは違うのかも……。甲冑の男も動いてないし、でも人がいるのは分かるよ。二人がなんか近くにいけないのも分かる気がする」
「器が違う……。時代によって変わる……、でも、あやめさんは待っていたのよ!なら弥彦は助けるべき相手でしょ?」
戦国時代の二人は動かない。
「かつては愛した人でしょ?」
「立場が変わったんじゃないか?甲冑の人は?」
弥彦が首を傾げた。
また、カンカンカンと家鳴りがする。次は強めに音がなる。怒っているように鳴る。
あやめが怖がって弥彦に抱き着いた。それを見た甲冑の弥彦が立ち上がった。
現代のあやめを見ている。あやめは甲冑のまま棒立ちになっている戦国時代の弥彦を怖く思った。
「おお……すげえ迫力。武将みたいな感じだな……。弥彦っうのは見えないけど……。でも逃げた方が良くね?あやめを見ているよな……逃げるぞ!」
あやめを庇って、弥彦は甲冑に背を向けた。
「待って!あやめさんが可哀想よ!」
「駄目だ!あれは亡霊だぞ!」
「じゃあ、一分!時間を頂戴。」
あやめが直ぐさま正座すると弥彦の前で甲冑に頭を下げた。
「ご先祖様どうか!あやめさんを救って!」
戦国時代のあやめと同じポーズをする。
「だから!あのさ!もういいや!分かったよ!あやめの為に助けてくれ!偉い人!」
弥彦も土下座した。
甲冑が現代の人を見てから、ゆっくりと、また、戦国時代のあやめに目をやった。
全員が頭を下げたまま動けない。
カンカンカンと家鳴りがする。弱く弱く鳴く。
甲冑が上座から一歩前へ歩んだ。ガシャンと音がする。
一歩一歩と戦国時代のあやめの前まで歩く。甲冑の弥彦が片膝を付いて、あやめの肩に触れた。ゆっくりと優しく肩を触っている。
『あな……しあわせ……』と声が聞こえた。
現代の二人は顔を上げる。
甲冑の最後のポーズからゆっくりとするする蛍の光のように輪郭が霧散していく。
天上に昇って消えていく。
淡い光を観ながら二人は呆然とした。最後の一欠片が消えると辺りはランタンの光に照らされた。懐中電灯も明かりを灯している。
甲冑はきちんと固定された最初の状態であった。だがあやめの刀と藤田の刀が寄り添って戦国時代のあやめが正座していた所にあった。
二人は呆然として身震いした。怖い体験をしたからである。
「終わったのね……。あやめさん……。末裔として最後まで見ていなくてはならなかったのよね?だから、私が最後の後継者だった訳なのね……。おばあちゃん……」
あやめの瞳から一雫の涙が零れた。




