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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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45 カンカン

 あやめがおばあちゃんのメモの切れ端を見る。


『沼田市には無軒か葬儀屋があります。夏場だから〇〇〇〇葬儀屋に連絡をやすよからして貰って下さいね。電話番号は〇〇〇〇〇〇です。』


 あやめは母親にメールした。直ぐに気が付くだろいか?でも、電話するのも気が引ける。


 もう既に三十度を超えている。窓を開けて風通しを良くした。一台しかない扇風機をおばあちゃんの所に持って行く。


「氷……、確か冷蔵庫にあった筈……」


 あやめは腰よりも低い冷蔵庫から、製氷皿を冷蔵庫の上から出した。上の部分だけ冷凍室になっているのだ。おばあちゃんがあやめの為に作った氷が残ってる。


 台所の棚にジップロックがあった。氷をつめて、おばあちゃんのお腹の上に乗せた。


 何か足りない。あやめは考えた。


「あやめの刀!」


 あやめはおばあちゃんが何回か言ってたあやめの刀を思い出した。確か、おばあちゃんの机の横に行李(こおり)がある。蓋を開けるとあやめの刀と茶色い日本刀がある。


「おお、すげえ……。かっけえ……」


 弥彦があやめの後ろから覗いている。あやめはあやめの刀をおばあちゃんの胸に置いた。


「何か苦しそうじゃない?腹の下でよくない?」


 やひこは茶色い日本刀を持ってマジマジ見ている。


 あやめもおばあちゃんの組まれた手が上の方にあるのが気になった。たが、喉の近くに刀があるのは頂けない。


「そうだね。お腹に置こう……」


「この刀って何?」


「家宝だよ。あやめの刀っていうの……」


「あやめと同じ名前なんだな……、あやめって先祖?」


「何で知ってるの!?弥彦……弥彦?!確か、弥彦だったわ。旦那さんの名前!」


「へえ、あやめの祖先に同じ名前の人がいたのか……珍しいな。まあ、昔ながらの名前だしな……」


 弥彦がテレビのある部屋に戻った。刀を持ったまま自然に動く。


「あやめ。カンカンの中、ちゃんと見たか?」


「見てない……」


 あやめがおばあちゃんから離れて、テレビのある弥彦の側に向かった。隣の部屋なので、襖を明けっ放しだった。


「見ていい?」


「私が見る……。大丈夫だから……」


 あやめはおばあちゃんのメモ書きの指示書をこたつテーブルの横に置いた。


 上から紙を取る。手紙が三通。あやめの名前とやすこの名前と父の名が書いてある。


 遺言書とシーリングワックスの付いてる厚い手紙。


「確か、遺言書について、おばあちゃんが何か書いてた……」


 あやめはおばあちゃんのメモの切れ端の指示書を又、見た。


『遺言書については司法書士さんと書いた物です。駅前の〇〇〇〇司法書士です。電話番号は〇〇〇〇〇〇。この司法書士さんはお宝についても知っています。連絡した後に、沼田市歴史資料館の〇〇さん連絡して下さい。あやめちゃんが相続せずに、寄贈する場合、四五〇万円で話が付いています。家の修理に当てると良いと思います』


 あやめは困惑した。


 自分が相続権があるとは思えないからだ、何か遺言書に書いてあるのだろうか?


「おばあちゃん……、始めから家を直す気があったんだ……。だったら何で私の代でやるつもりだったのかしら?」


「箱の下の封筒だけ厚くない?」


 弥彦が下から掘り出して、封筒を出した。


 これには封がされてない。ズシリと重い。嫌な感じがした。


「やっぱり……お金だ……」


 あやめはお金の封筒をカンカンの下に戻した。


『葬儀の費用とお墓の供養代。その封筒で足りると思います。お葬式は最低ランクで良いので上げて下さいね。やすこが来てから後で、お友達の〇〇さんに連絡してくれれば、皆に連絡してくれると思います。』


「おばあちゃん……こんな事まで心配してるなんて……。もう全て知ってるみたいに書いてある……」


「あやめを呼んだんだ時にはもう覚悟してたのかもしれないね。あやめのおばあさんと話した時、助けになってくれって頭を下げられたから……」


 弥彦が気まずそうにしている。


「何で話てくれなかったの?!」


「いや、直ぐに亡くなるとは思わないだろ……。あんなに元気だったんだから……」


 あやめが目を伏せた。確かに死ぬ素振りすらなかった。いや、確かにあやめの刀の話をしたり、戦国時代の甲冑の場所を教えて行ったのだから、覚悟はあったのかも知れない。


「でも、普通は娘のかあさんに来てほしかったでしょうに……最後に会いたい筈よ」


「あやめがお母さん似なんじゃないか?だから、懐かしんで呼んだんだろ?お母さんは呼べない理由があたんじゃないか?」


「確かに、おばあさん……。お母さんと仲直りしろって言ってた。」


「大人は子供に隠すからな……。尚更、話せないんじゃないか?親子だし……。おばあさんも母親だから娘には……話せなかったんじゃないか?」


「おばあちゃん……」


 あやめが蚊取り線香の火を見に行った。何も告げないおばあちゃんの亡骸がある。


「おばあちゃん……」



 あやめが呟くと、ぼおっとおばあちゃんの頭が光った。するりと抜けて、枕元に光が女性の姿になった。


「えっ?あやめさん!?なんで?」


 枕元に座る着物の女性はあやめ本人に生き写しだった。


「あやめ?どうした?」


 弥彦が藤田から貰った刀を手に部屋に入って来た。弥彦は首を二、三度振り辺りを伺った。


「あやめとおばあさんしかいないぞ」


「待って!おばあちゃんの枕元にあやめさんが座ってない?」


 枕元を注視する弥彦。だが、首を傾げた。


「誰もいないよ。」


 あやめも戦国時代のあやめを見てから呟いた。


「あやめの刀を見ているの?」


 戦国時代のあやめの険しい顔を見る。祖先が子孫を迎えに来たと言う訳ではなさそうだ。


 そもそもおばあちゃんはあやめの子孫ではない。弥彦とさよりの子供だ。あやめはそれを恨んでいる?


「でも何で戦国時代の縁もない人があやめとして弥彦の子孫に現れるのかしら?刀?刀に意味が?」


「あやめ?大丈夫か?おばあさんはショックだったろうけど……しっかりしろ……」


 戦国時代のあやめはぼうっと光り消えた。瞬きもしないで忽然と……。


「待って!何が云いたいの!」


 あやめが叫んだ。

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