43 テレビ
あやめがテレビを見ている。いつもなら寝ている時間のおばあちゃんが布団から起きて、部屋に入って来た。
「あやめちゃん。起きてるだべ?」
もう、夕飯も食べて、廊下の窓戸もカーテンを引かれて、家の内部を見えないようにしていた。外は夜景が輝いている。
「どうしたの?おばあちゃんは眠れないの?」
寝間着姿のおばあちゃんは、いつものテレビを横に見るこたつテーブルの席に座り、テレビを見始めた。
「いやね……なんだかね……」
おばあちゃんは歯切れが悪い。いつもは寝つきが良い。この時間はイビキをかきながら寝ている時間である。日の出とともに起きてあるのが日課であった。だが、今日は違った。まあ、こんな日もあるだろうと……、あやめは気にもしなかった。
「夜は何のテレビば見てるだべか?、……東京では?」
あやめは聞き間違いかと思った。東京での事を聞かれた。群馬では、初めてである。
「夜やってる番組は流しているだけだよ。誰も居間に何ていないもの……」
「やすこもか?」
「かあさんも、とおさんも居ないよ。父さんは仕事が忙しくて、殆ど単身赴任みたいなもんだよ。」
「そうだべか……、やすこも夜にいないだべか?」
「かあさんは家にいるよ。でも、私と居ると辛いみたい。勉強とか外面的なものしか見てないもの……」
おばあちゃんは眉間に皺を寄せて考えている。
「やすこを許してやってくれだべ……、あやめちゃんは可愛いんだべよ。でも、親であるが故に役割ばかり気にして、上から目線で言ってるだけだべ。もっと根源があるんだべ……」
「根源って?」
おばあちゃんは口を噤んだ。険しい顔をしている。そして悲しい笑い顔をした。
「やすこを許してやってくれだべ。あの子は言えない性分の子だべ。だから、何があってもあやめちゃんの為だべ。それだけは本当だべ」
「かあさんが?信じらんないよ……」
「子に言われるには痛い言葉だべな……でも、相談しないやすこもあやめちゃんを信用してないだべな。」
「ささ、寝るべ。寝るべ……」
あやめを客間に通した。布団を敷いただけの広い和室である。
あやめが布団に入ると、おばあちゃんは居間のテレビを消して、入口の前に立った。
「あやめちゃんは寂しいだべか?」
布団から頭を上に向けて、おばあちゃんを見た。
あやめは言葉を発せなかった。
東京は辛い。両親も揃っているのに虚しい。群馬に来て誰かとご飯食べる事に安心をしたのも確かだ。
「あやめちゃん……、一緒に寝てもいいだべか?」
あやめが頷くと、おばあちゃんはあやめの布団に潜り込んだ。
「あやめちゃんは良い子だべ」
おばあちゃんはあやめを抱きしめると呟いた。
あやめは懐かしい白檀の臭いがするおばあちゃんの胸に蹲った。大切そうにおばあちゃんは彼女の頭を撫でた。
「必ず分かるだべ。それまで待ってやってくれだべ」
おばあちゃんは呟く。
「あやめちゃんが小さかった頃、良く抱っこしてる時に眠ってたべな……、環境が変わって泣くあやめちゃんが可愛くて……」
あやめはうつらうつらし始めた。
「庭に出て駅の方が電灯を灯して、だんだん夜景にかわってたべな」
あやめは覚えてないと言葉に出せなかった。
「日光江戸村の山上にある甲冑を着た馬に跨った等身大人形をえらく気に入って、なかなか離れなかっただべな……」
あやめは息を吐きながら眠りに付いた。
おばあちゃんは黙って抱きしめながら寝顔を見た。
赤ちゃんの時と変わらない寝顔。額を撫でると、昔を懐かしんだ。
あやめの寝息が聞こえると、おばあちゃんはあやめの頭を枕に戻し、布団を肩まで掛けてから、ゆっくりと布団を出た。
頭を数回撫でると寝顔を幾度と見た。飽きる事がない。だが、孫の睡眠を邪魔したくなかった。立ち上がると数回振り返った。
「おやすみなさい。あやめちゃん」
おばあちゃんは襖をパタンと閉めた。




