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第二十三話 百鬼夜行……そして

 城壁の上に浮かぶ火の玉も残りが少なくなってきた頃、妖怪たちは大街カラルの前に集合していた。

 異様な姿を持ち妖怪達が目と鼻の先にいるのに誰も気づかない。誰もが徐々に減る火の玉に目を奪われ、闇に溶け込む妖怪に気づけない。


「おっ、居ったんよ。間に合ったみたいで良かったんよ」


 そこに仕込みを全て終えたぬえが戻って来た。まるで一仕事終えてきたかのように額を拭う。


「ぬえが戻って来たんじゃよ。これで参加妖怪は全員集まったんじゃよ。……貧乏神はどうするんじゃ?」


「ビンさんは一応最後まで力を注いでもらうんよ。だから百鬼夜行の最後に回収するんよ。百鬼夜行はこっちでビンさんの分体を出すんで問題ないんよ。あ、一応しおり作ったんよ。読む?」


 今更渡されても、とがしゃどくろはぬえからその身の丈に合わない小さなしおりを貰い、読めば今回のルート、人通りの多い場所、絶好のアピールポイントなど本当に今更渡すものなのかとがしゃどくろは嘆く。

 

「そうじゃ、ぬえ。わしは百鬼夜行初参加なんじゃが、先頭で良いのかのう? いっぽんだたらのような、経験者の方が良いんじゃないか?」


「そんなの気にしなくて良いんよ。百鬼夜行はただのどんちゃん騒ぎ。今回の目的は妖怪の存在を一気に広める為なんよ。今ならカラルの住人以外も集まっているんよ。ここで妖怪の名を広めれば、次の行動が一気に楽になるんよ」


 精々派手に楽しむんよ、と言い残しぬえは列の後ろへと下がって行った。

 城壁の上に浮かぶ火の玉も残り僅か、悩んでも答えを見つけられるほどの時間もなく、ぬえの答えもそれほど参考にならなかった。

 だから精々。


「派手に行くかのう」


 全ての火の玉が消えると同時にがしゃどくろは城門を殴り飛ばした。




 百鬼夜行開幕。

 殴り飛ばされ壊れた門から次々と、異形の姿をした妖怪が大街カラルへと列をなして大挙した。

 彼らの目的はただ一つ、自らの存在を知らせること。

 座敷童の報復など方便、ブール商会など実際はどうでも良い。

 ただ落とし所が欲しかっただけ、百鬼夜行をするにも建前が必要だった。何の理由もなく、百鬼夜行を行えばただの暴走に過ぎず、それでは魔物と大差がない。

 だから報復と言う知性のある行動を選んだ。魔物とは違うのだと。

 しかし百鬼夜行を起こしてしまえばもはや理由は不要。

 最後に誰かが何とかしてくれる。そんな適当な考えで妖怪は足を進める。

 どんちゃん騒ぎが好きだから、お祭り騒ぎが大好きだから。

 各々の妖怪がその力を振るって見せる。

 自らの存在を誇示するように。




 最初に妖怪を見つけたのは城門担当の警備兵だった。

 突如現れた火の玉、大老から発せられた戒厳令、外出禁止令。それの対応にほとんどの兵員が取られ、正門上の城壁の警備は彼しかいなかった。更に火の玉の調査まで命じられ散々な時だった。

 全ての火の玉が消え、調査失敗による始末書について考えた時、轟音、それと共に正門潜る巨大な骸骨兵(スケルトン)、一本足の毛むくじゃら、周囲を凍らせて歩く女。

 見たことのない魔物の群れ。カルの森の魔物ではない、となればその億、カロ山脈の魔物。絶体絶命、それでも彼は警備兵として首に付けた警笛を鳴らそうとして。


「クエエェェ!」


「ぎゃあああ!」


 突然目の前に現れた黒い鳥のような、人のような何かに脅かされ、そのまま意識を飛ばされてしまった。




「あ、集まれ! 決して奴らを通すな」


 不幸な者は他にもいた。戒厳令、外出禁止令のために外を見回っていた警備兵達だ。

 彼らの不幸は手に抵抗できると思える武器を持っていたこと。そして複数人いたこと。

 武器があれば戦える、仲間が居れば戦える。そう、思ってしまった。

 しかし妖怪を止められるほどの実力はなく、死なない程度にがしゃどくろに薙ぎ払わえれて終わってしまった。

 百鬼夜行は続いていく。住宅地に入っても。

 

「ママー、きれー!」


「し! 静かに! 窓も開けないで!」


 外が騒がしければ誰だって外を見る。それが異形の怪物であれば通り過ぎて欲しいと怯えながら震えるだろう。好奇心が強ければ恐る恐る覗いているだろう。

 しかしそれで良い。恐れて覚えていくれればいい、気になり見てくれればいい。

 記憶に留めてくれれば妖怪たちはそれでいい。


「くく、綺麗とな」


「ケケケ、あの子供見る目が――」


 褒めてくれるならなお良い。貶す阿呆には容赦はしない。


「がしゃどくろ、この氷どっかに挟んでくれ」


「何じゃ、って家鳴りではないか。この間氷が溶けたのにまたか。しゃあないのう」


 がしゃどくろは雪女から氷漬けの家鳴りを受け取り肋骨の辺りに挟んでおく。

 そして指の関節の間に挟んでおいたしおりを盗み見て。


「次は左じゃな」


 冒険者ギルド方面へと足を進めた。




 大街カラル全体に響き渡る轟音。

 その時からミミリナは嫌な予感はしていた。本当はもう少し嫌な予感はしていた。

 仕事の関係上、冒険者ギルドと商業商会方面両方に伝手のあるミミリナ。そこから伝わって来た情報に、ブール商会が何か珍しいものを仕入れたこと、そして今日は言った情報に大老が何やら焦っているとの事。

 大老が焦るなんてことは滅多にない。しかし大老が焦りそうなことをミミリナは知っている。そしてブール商会に動きがあるのも知っていた。

 そしてこの轟音。ミミリナは何となく事態を理解できた。

 ブール商会が妖怪に何かをしたのだと。そして大老はそれの対処に失敗、もしくは交渉に失敗したのだと。

 しばらくして何か巨大なものが歩くような地鳴りがし、外を見ればあの時大老と共に見た巨大な骸骨兵(スケルトン)を筆頭に見たこともない妖怪が列をなし、その中にはあの尾が分かれた猫又の姿もあった。

 大街カラルに、妖怪に何が起きたのかは分からなかったが、何かが起きたことは理解できた。

 全てを納得したミミリナはポーションを割られないように専用の箱に入れ、寝床に逃げ込む。

 妖怪の件は全て大老に渡した。自分には一切の関係はない。

 ミミリナは現実から夢の世界に逃げ出した。




「何が、何が起こっているというのです!」


 オークション会場は騒然としていた。

 城壁の上に火の玉が現れたことはそれほど問題にはならなかった。客はオークションに熱中しており、外の様子など知る由もなかった。

 贋金騒動についてもオークションをゆっくりと進めつつ、疑わしい者を探していけば見つかるはずだった。

 座敷童が逃げ出したことも締めの見世物がなくなっただけで、始祖龍の素材でいくらでも誤魔化すことは出来た。

 しかし、何か硬く重いものを壊すような轟音。これにはいくらオークションに熱中している客でも気づき、驚き、恐怖してブール商会に現状の説明を求めた。

 現在調査中と乗り切るも何かが起こっていることは明白。何せ先程から外の様子を見に行かせたものが誰一人帰ってきていないのだ。

 客も返答がいつまでも変わらないブール商会に苛立ちを覚えつつあった。世界中から集めた金持ちが相手だ、その発言力や人脈は絶大であり、ササンとしても貧尺を買うようなことはしたくない。

 何とか手を打たなくては、という時に一人調査に向かわせていた者が帰って来た。


「ササン会長! 大変です! 化け物が、化け物が侵入しました!」


 必死の形相で訴えてくる部下だが、ササンの頭は逆に落ち着きを取り戻した。

 敵の正体が分かれば対処も分かる。目の前の部下は長年ササンと共にこのカラルの働いてきた部下だ。その部下が必死の形相で化け物と叫ぶのであれば、となれば見慣れたカルの森の魔物ではなくカロ山脈の魔物。それなら騒ぎになるのも納得できた。

 それなら安心して対処もできる。


 裏にいたササンはオークション壇上へ上がり、客の前で胸を張って事態を説明する。


「皆様、ただいま情報が入りましたのでお知らせいたします。現在カラルに魔物が侵入しております。しかしご安心ください、ここには冒険者ギルドから派遣された護衛、そして皆様も優秀な護衛をお持ちのご様子。しばらくすれば魔物討滅の情報が入って来ましょう、その時はこのブール商会が買い上げてオークションの締めとして出品したいと思いますのでもうしばらくお待ちください」


 この程度のハプニング、ササンにとって慣れたもので、むしろ上手く利用して好感を得ることも忘れない。

 ただ一つ誤算があるとすれば。


「あ、やべ小指が当たってしもた」


 その日に侵入したのが魔物ではなかったということ。




 先頭を進むがしゃどくろの指がオークション会場の壁に触れ、一部の壁を壊してしまった。

 その崩れた一部から見えたのは立派な服装をした人間。驚いた様子で壁から離れようと中では混乱が起きていた。


「いーけねんだ。壊ずな言われでんのに」


 いっぽんだだらから言われた通り、ぬえからは人は殺さない程度に、建物は最後の以外は壊さないように言われている。

 困ったと思うが起きてしまったことは仕方がない、中で死んだ人もいないようだし見なかった振りで進もうとしたが。


「あれを、あれを倒せ!」


 建物の中からぞろぞろと武装した人間が出てきて進路を塞ぐ。

 面倒だと思い手で薙ぎ払おうとするが。


「前衛は盾を構えて攻撃に備えろ、後衛は光魔法を中心に攻撃開始!」


 先程まで相手にしていた警備兵より実力は数段上で、連携も取れている。人数も多い。戦闘のがしゃどくろだけで苦戦は必須。

 どうしたものかと思うも相手はその間も容赦ない攻撃が襲い掛かってくる。

 ……眩しい。

 チカチカと光る攻撃ばかり飛んできて、手で遮れば。


「効いているぞ! このまま押し切れ! 敵はまだ後ろにうようよいる! つまり狩り放題だ、全力で行くぞ!」


 別に効いてはいないが、相手の勢いは更に増す。

 そもそも骸骨兵(スケルトン)に光魔法が効くのはこちらの理であり、別の世界の理から生まれたがしゃどくろにすればただ眩しいだけ。

 しかしそのおかげで相手の位置が分からず、どう攻撃すべきかも判断できない。

 それならば。


「いっぽんだたら、任せて良いかのう?」


 先頭専門の妖怪に任せれば良い。

 がしゃどくろはその巨大さと異様さで人間を驚かす妖怪であり、戦闘はどちらかと言えば不得手。それに妖怪の中では若い部類に入りそれほど力を蓄えているわけでもない。

 それならば物理的に人間に被害を与えるのに特化した妖怪に任せれば良い。


「まかぜろ」


 いっぽんだたらが前に出れば更に後ろから戦闘に特化した牛鬼など妖怪たちもやらせろ、とばかりに前に来た。


「あー、殺さん程度にな?」




 結果は妖怪の圧勝。

 いっぽんだたらがその腕力で前衛を薙ぎ払えばその間から後続の妖怪たちが後衛に襲い掛かり、指揮をしていた偉そうな奴も牛鬼が突進して突き飛ばした。

 残ったのは崩れた壁からこちらを怯えた目で見てくる人間たち。

 しかしそちらに手を出す理由はない。

 目指すのはブール商会本店。


 しばらく百鬼夜行と楽しんでいればついに見つけた終着点、ブール商会本店。

 先頭のがしゃどくろはしおりを見て最終目標後の行動を確認する。


「えーと、貧乏神を回収しつつ、ブール商会本店を破壊。そのまま消える……? わしは隠密行動や姿消すことは一応できるけど、いっぽんだたらは出来る?」


「出来ね」


 更にいっぽんだたらの後ろに控える戦闘が得意な妖怪たちも頷き、出来ないの一言。その後ろにいる驚かし専門の妖怪たちは簡単とばかりに頷いているのだが。


「あー、あれじゃ。姿を消せん奴は城壁を飛び越えろ。では後ろに姿を消せる奴が集まれば良い。そうすれば百鬼夜行の終わりはいきなり消えたように見えるじゃろ」


 いきなりしおり渡されてやれと言われて出来ないのは当然で、もはや面倒とばかりにがしゃどくろは投げやりにことを進めていく。後でどうなろうとも知らんと。

 残る問題は一つのみ。


「……あの中に貧乏神がおるんじゃよな? 誰か回収してきてくれんか? あの建物を壊すのは簡単なんじゃが、うっかり貧乏神ごと潰して恨まれたら……。ワシ無理じゃよ、力量差的に抵抗出来んぞ」


 この程度、店舗としてはかなり大きい部類に入るのかもしれないが、妖怪からすればいとも容易く壊せる程度。ただ中に恐ろしい存在が居るのであれば別。

 あれは神ですら敬遠した存在。恨むを買うまではしたくない。

 そこでそこそこの隠密性があり、うっかり恨みを買っても大丈夫な妖怪として、これからの妖怪関係に亀裂を生むような押し付け合いの果てに抜擢されたのが。


「仕方あるまい」


 天狗だった。物凄く不本意そうに受けると両手を合わせる。そして周囲の力を吸収し。


「お! もう来たんよ。ビンさん、お迎え来たんよ」


 ひょっこりと建物からぬえが顔を出した。少し遅れて貧相な爺顔の貧乏神も顔を出して手を振る。

 そこにいた妖怪たちは愕然とした。先程の擦り付け合いは、そして不本意ながらやる気になった天狗も意味を無くし、力が一瞬で霧散した。

 妖怪たちはすぐに先程の擦り付けないはなかったことにし、ぎくしゃくだった関係を即座に修復。そして最大の被害者である天狗の肩を叩いて慰めると。


「「「ぬえ! いるならいるって言え!」」」


 全ての責任をぬえに擦り付けることにした。

 

「いるんよ?」


「「「そういう話じゃない!」」」


 全ての責任を押し付けられたぬえはそんな妖怪の様子に、やれやれと何故か余裕の表情を見せ周囲を煽りつつ、がしゃどくろに手を差し伸べてもらい、その手に乗って貧乏神と共にブール商会本店から脱出。


「しかしぬえよ。百鬼夜行に参加しておらんのか?」


「参加しとったんよ? 分体が」


 手に乗るぬえはがしゃどくろの問に応えるように百鬼夜行の群れに指を向けると、中から頭は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は。まさに伝承に伝わる(ぬえ)が姿を現す。更にその後ろには(くだん)など他の妖怪も並ぶ。


「あれらなんよ。もう終わりだし回収するんよ?」


 (ぬえ)(くだん)などぬえの分体はそのまま光となり、ぬえに吸収されていく。


「ちょっと待て、ぬえは伝承を抱えておるんじゃ? 分体をいくつ出したんじゃ」


 尋常ではない数の光がぬえに吸収され、がしゃどくろは驚きと恐れが入り混じった声で聞くと、ぬえは笑ってその手から降りる。


「数えてないんよ。俺の分の伝承もあれば、こっちに来ていない妖怪の分体も出したから分からないんよ。それより急いだ方が良いんよ? どうやらカラルの戦える人全員集まってこっちに来てるんよ?」


 後ろを振り向けばそんな姿はなく妖怪だけ、しかし騒いでいた所為で気づかなかったが、まだ遠いが並々ならぬ足音が迫っていた。

 別に人が何人来ようと負けることはない。しかし今回の目的は妖怪を認識させること。勝ち負けに拘る理由などなく、下手に戦闘し死者を出す方が面倒。

 残すのは被害でも怪我人でもなく、不気味さ。正体不明と言う恐怖を残せば、後は大老に預けた伝承が効果を発揮し、次第に妖怪の知名度も上がっていく。

 

「では手早く壊すとしよう。ん? ぬえよ、どこへ行く?」

 

 先頭がブール商会本店の破壊をしようとする中、ぬえは一人百鬼夜行の最後尾へと歩いて行こうとしていた。


「まだ出してない分体が居るんよ。一応姿だけでも見せておかないと可哀想なんよ。それに地獄で働いててもいつかはこっちに来るかもしれないんよ、鬼は」


 本当に姿を見せるだけなのか、鬼ならば少しはやり合うつもりなのではないかと思うが追及はしない。もし追いつかれれば姿を消せない戦闘特化の妖怪たちの城壁を飛び超える姿を見られることになり恐怖も半減。しかしぬえなら姿は消せるしやられる可能性も皆無。

 ぬえが足止めしている間に終わらせれば最高の結果になるのは確実。


「分かった。ではこちらも始めるとするかのう。各々が好き勝手にやるが良い」


 その瞬間、様々な妖術が飛び交った。いっぽんだたらは自慢の腕で、雪女は吹雪を、天狗は風を巻き起こしブール商会本店は瞬く間に崩壊した。

 その地面が割れ、吹雪、竜巻が起きるのを見てがしゃどくろは自らとの力量差を感じ、恐ろしいと思うも、その妖怪たちですら手に乗る貧乏神を恐れているのを思い出し、妖怪の深さに改めて知った。




 ブール商会本店を完全に壊し、やることを終えた妖怪たちは姿を消せない妖怪を先に外へ出させ、それからゆっくりと残った妖怪たちはブール商会本店跡地を踏み、姿を消していく。そしてぬえも戻り、その後ろからは戦意に満ちた人が走ってきていた。

 狙ったかのような最高のタイミング。

 次々と妖怪はブール商会本店跡地を踏んでは消えて行き、最後尾のぬえも人に捕まる寸前に姿を消してするりと抜けた。

 その直後、ぬえを追って来ていた人の一人が魔法を使い周囲を探すが、当然引っ掛かる妖怪はいない。魔法で探す方法では妖怪の姿消し方は理が違うので捉えられるわけもなく、見つからずに呆然とする魔法使いを尻目に揚々とカラルから出て行った。


 カラルから出て行った妖怪が向かう先はマヨイガへの入り口のあるカルの森、ではなくその反対にある何もないただの平原。

 カルの森方面の城門を破壊したことでカルの森近辺を捜索されている可能性もあったが、それよりも重大な理由があり一度誰の眼にも付かない場所に集まる必要がある。

 と、ぬえに聞かされて集まっていた。


「で、ぬえよ。何の用か? 下らぬようであれば凍らす」


「下らなくなんかないんよ? 重要なことなんよ。今回は全員分のしおりを作ったんよ。どうぞなんよ」


 雪女の言葉に恐れた様子もなく、ぬえはどこに持っていたのかと思うほどのしおりを配り始める。内容は非常に簡単、妖怪の住処と活動範囲の拡大。


「これは確かに重要。しかし今までしてこなかったことを今になって何故するのか? 説明するのだろうな?」


「説明も何も書いていあるんよ。一応口頭で説明してやるけど後で読むんよ? 

 まず住処から話すんよ。これは単純に世界地図がなく、適した環境を探すのに時間を食っていただけなんよ。木霊おおまかな場所を確認して移動に優れた妖怪がその辺を視察していたから仕方ないんよ。おかげでほとんどの環境は見つけられたなんよ、だから今後はその環境に好む妖怪を俺が引き連れて移住させるんよ。とりあえずは近場の雪山なんよ。雪女を筆頭に移住するから集まっていた欲しいんよ。

 次は活動範囲の拡大についてなんよ。こっちは今回の一件のおかげと言えるんよ。ブール商会本店に着く前にオークション会場を横切ったはずなんよ……だよね? そこには世界中の金持ちが参加していたはずなんよ、彼らは今頃大騒ぎ。カラルへ説明を求め、自国に起こったことを説明して、大老は抱えている伝承を全て公開して解読のため他国の学者でも入れると思うんよ。そうなれば妖怪の存在は世界的に知られ、魔物と判断される可能性が減るんよ。あ、そうだ。活動拡大する妖怪は当分戦闘特化にするんよ。だって座敷童みたいにあっさり捕まられても困るんよ。舐められては行かんのよ」


 しおりにはこの内容に加え、おおまかながら地図も書き加えてある。これから活動する妖怪も移住する妖怪も手放せない一品。

 妖怪たちもしおりを読み進め、読み終わる辺りでぬえから質問がないか聞かれるが、疑問などはなく細かな質問だけあったがすぐに終わり。


「じゃ、移動を開始するんよ」


 その一言にその場にいた妖怪は言葉を失った。


「ぬ、ぬえよ。 今すぐか?」


「当然なんよ。カルの森は警戒が厳しいはずだから戦闘特化はどっちにしろ戻れないんよ。それに移住組だって本当にその環境で大丈夫なのか分からないんよ? 予定も詰まってるんよ」


 そう言われれば否定できるわけでもなく、いっぽんだたらや牛鬼を筆頭とした戦闘特化の妖怪はそれぞれの伝承に従いつつカラルから離れた所へ、ぬえは雪女など雪山に移住する組を率いて、そして残りの妖怪は警戒の網をすり抜けてマヨイガに戻ることに。


 妖怪たちはようやく世界へと歩を進めた。


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