第二十二話 始動
視点変更が多くなってしまいました。
混乱されるようでしたら申し訳ありません。
「いったああぁぁ!」
マヨイガにある一室から悲鳴が轟く。
あまりの声量の高さに驚く妖怪たちだが、すぐに何が起こったのか理解し行動を開始した。
「たまもが起きた、つまり合図じゃな。貧乏神の準備は出来ておるな、いっぽんだたら、方向は分かっておるな」
「おでに任ぜい」
忙しなく動き整列次第妖怪の先頭にはがしゃどくろ、そしていっぽんだたらと少し離れたところに貧相な姿をした老人、貧乏神がボーっとしていた。
がしゃどくろは妖怪たちが近づかないように両腕を伸ばし、その間にいっぽんだたらが入り貧乏神を担ぐ。
その様はまるでカタパルト、いっぽんだたら走り出し砲丸投げの様に貧乏神を天高く投げ飛ばした。
「高すぎじゃ」
「ぬえがなんどがする」
それもそうか、とがしゃどくも納得して腕を上げすぐにもう一つの準備に入る。
「貧乏神を送り終えたぞ。整列が終わり次第大街カラルへ向かい、百鬼夜行を開始するぞ。……ワシも初参加何じゃが先頭で良いんじゃろか」
妖怪の整列が終わるまでもう少し時間が掛かった。
殺生石を座敷童に託して姿を消したぬえはすでにカラル上空で待機していた。
上空で長時間待機するのが嫌だったために、即座にかつ確実に殺生石を破壊してくれるタイミングで渡した。今か今かとカルの森を眺めている。
すぐにカルの森から高速で貧相な老人、貧乏神が飛んできた。
カラルの上をそのまま通り過ぎていく速度で飛来する貧乏神をぬえは見事に掴む。
「久しぶりなんよビンさん、元気してた?」
「へぇ、おかげでさまで……」
貧乏神を抱えて向かう先はササンのいるオークション会場、ではなくブール商会本店。
その店の屋根に貧乏神を降ろす。
「確か人よりも家の方がやりやすいんよね? あ、離れるまで待ってほしいんよ」
ぬえは今まで見せたことのない速さでその場から逃げだし、しばらくして貧乏神がその力を解放させた。
恐ろしい妖怪とは。
いっぽんだたらの様に力の強い妖怪だろうか、妖艶な姿で国を傾けたたまもだろうか、なんだか良く分からないを体現するぬえだろうか。
妖怪の中ではすでにその答えは出ていた。
祟り神と知られるミシャグジ様が、近くに置くのは勘弁してくれと泣きを入れ、呪いに関してはすでに神を凌駕している平将門公が、生前に憑りつかれなくて良かったと安堵したとされる妖怪。
その被害を抑えるために常に力を抑えつつ、マヨイガの最奥の一室に住まう妖怪。
貧乏神。
力を抑えず渡米した所為で大暴落が起き、座敷童の仕置に為にリーマンショックを起こした妖怪である。
「ケラケラケラケラ」
オークション会場の出品置き場、そこで殺生石が砕けたのを確認した座敷童は堪えきれず笑い出した。
愚かな人間。せっかく回避させようとしたのに、被害を最小限に抑えようとしたのに、ようやく忘れられそうだったのに。
様々な感情が入り混じり逆に感情を感じさせない笑い声。それが一層目の前のササン達を怖がらせた。
「何か楽しいことがありましたか? いきなり笑われて。その石が余程重要な物だったようですが」
「ケラケラケラケラ」
あまりの出来事に動揺しそうになるも何とか落ち着き表情を取り繕う。
あの石が大切なもので、砕けるのを見て精神を壊してしまったか。
最初に浮かんだのは見世物として利用できるか、売り物にした際位どれだけの価格で売れるだろうか。利益は出るだろうか。
しかしすぐにそんな余裕も消えてなくなる。
「ササン会長、大変です。支払いが、贋金です……」
「何っ!」
ササンを探していたのだろう店員が、肩を切らして報告する。それにササンの仮面も剥がれ店員の胸ぐらを掴む。
今回のオークションは客が世界的にも有名な金持ちばかりを集めたこともあり、警備には通常以上に注意を払い、店員全員に賓客との接客を叩きこませた所為でそちらの注意が手薄になっていた。
それにあまり予想もしていなかった。金持ちがわざわざ贋金というリスキーな手段に出るとは考えいなかった。
更に被害額を聞けば眩暈がするほどであり、一人二人の金額をはるかに超え、組織ぐるみであることが容易に想像できた。
「どういうことだ座敷童! 憑いていれば繁栄を、離れれば衰退を与えるのではないのか。それともすでに離れたことになっているのか!」
「ケラケラ、違うよ。私の力は未だにササン、ブール商会に注がれている」
今なら穴を掘れば金が見つかる程度の幸運がササンに、ブール商会に注がれている。しかしそうはならず、逆に衰退への途を進むのはそれを上回る負の力が流れ込んできてるため。
座敷童からすれば二度目の体験。地球にいた頃に小さな株式会社の株を買ってから憑りつき、大きくなったら株を全て売り払った後に出て行き資金を増やしていた頃。
最後には力の悪用と判断され、貧乏神が起こしたリーマンショックの所為で、持ち株が全て紙くずとなり資産を無くす羽目になった事件以来。
その後ぬえにより呪いをかけられ力に制限を掛けられたが、もう一度貧乏神の負の力に塗り潰されるとは思っても見なかった。
最初は慌てて感じている余裕が無かった座敷童だが、来ると分かっていた今はただ貧乏神のその力の強さに驚き笑うのみ。
「くそっ! ならば何故!」
「ササン会長! 大変です!」
「ええい、分かっている! 今すぐ贋金を使って購入した客を判明させろ! それと――」
「違います! 違うのです、ササン会長! 異常事態が発生しお客様が混乱しております!」
まだ何かあったのか! ササンは突き刺さるような鋭さで睨むが、店員は混乱しているのか気づかない。
「城壁の上に火の玉が出現しました!」
火の玉!? 今までの流れとは全く別のものに戸惑い座敷童のいる檻を見てみれば。
そこには誰もいない檻があるだけだった。
「止められなかった、始まってしまったか」
冒険者ギルド、ギルドマスターの執務室。大老は窓の外を眺め何かが起こったことに知り、己の失敗を悟った。
あと少しでオークションは終わるはずだった、それがもう少しで殺生石が破壊されてしまった? 違う、この時間帯に壊れるようにぬえは仕向け、自分は気づけなかった。
窓の外は日が沈み夜の帳が下りたはずだったのに、大街カラルを覆う城壁の上に出現した火の玉の所為で非常に明るくなっている。
そしてカウントダウンのようにカルの森方面の門から順に火の玉が消えていく。
「ギルドマスター! 外に異様な光景が! もしや探させていた丸い石と関係が……」
「カバル、非常事態だ。戒厳令、外出禁止令を出せ。これから何が起ころうと決して外には出ないように徹底させよ」
慌てて入ってきたカバルに、大老はまるで予知していたかのように冷静に指示を出す。
すぐに指示を出されると思っていなかったカバルも、何とか頭を落ち着かせ行動に移るため、部屋を後にする。
一人残された大老は消えていく火の玉を眺める。
「ぬえよ、手を抜いては、くれんのだろうな」
百鬼夜行まで、あと少し。
神と妖怪について
いずれ本編でも書かせていただきますが、今回貧乏神が出てきて混乱する方がおられるかもしれないので書かせていただきます。
本作では神と妖怪の違いはたった一つ、信仰されているかどうかです。過去に信仰されていた場合でも現在信仰されていない場合は妖怪の分類となります。
ですので天狗やだいだらぼっちなど昔は信仰されていたが今は信仰されていない、この場合は妖怪に入ります。
名前に神が入っている貧乏神、ヒダル神などは信仰されていないので妖怪の扱いになります。
逆に言えば信仰されれば妖怪は神になります。
余談ですが幽霊は幽霊であり妖怪ではありません。地縛霊は妖怪ではなく幽霊であり、妖怪は成仏する存在ではないと思います。




