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第二十一話 罠

 大老の部屋を出たぬえはしばらくカラルの街を見て回った。

ミミリナの居た薬屋、繁盛していた。

大老の仕切る冒険者ギルド、騒がしかった。

婆がいた魔法具専門店、客は少ないようだが儲かっているのだろう。

未だに使ったことのないカルの森前の門。これからも使わないだろう。

一通り見た後にぬえは最後にカラルに向けて手を合わせ頭を下げる。


「……世話になったんよ」

 

 そしてぬえは人知れず待ち続けた。

 オークションが開かれる夜を。




 外が喧騒で満ちる中、座敷童のいる部屋は静寂が支配し月明かりが唯一の光源。

 そこはブール商会が有する最大のオークション会場の一室。出品されるものが所狭しと置かれている。

 今回のオークションは他国の賓客が多数参加しているため、出品される品々は当然極上の一言に尽きる。

 その中でも別格の威風を持つのは今回のオークションの主役である始祖龍の素材、そして檻の中に閉じ込められている座敷童。

 厳重な警備が敷かれているササンの屋敷から初めて外に出れた座敷童だが、物置同然の部屋に置かれ退屈そうに月明かりを見ていた。

 ここに連れてこられたのはササンが座敷童を見世物とし、最終的には座敷童の様に妖怪を捕まえ不必要と判断すれば売り払おうと考えていたため。

 座敷童は一見子供に見えるが、服装は周囲の国の物とは違い、更に物理的に触れることは不可能。蒐集癖がある金持ちなら珍しさでいくらでも金を出す。

 そんなササンの目的を知っているにも拘らず座敷童が退屈そうにしているのは、これから起こる悲劇、座敷童からすれば喜劇を知っているため。

 結果はすでに知っている。だから座敷童は退屈だった。


「逃げ出しては、いないですね。安心しました」


 扉が開きササンが入ってきた。後ろには屈強な男たちが並んでいる。

 ササンは手早く屈強な男たちに指示を出し始祖龍の素材を運び出させる。

 それはつまりオークションも終わりに近いと言うこと。


「私をここから出しなさい」


「ええ。出れたらそのまま出て行っていいですよ」


 出れるはずがない、確信しているササンは余裕のある表情で笑う。

 事実座敷童はこの檻から絶対に出れない。元は霊体などの魔物を捕まえる檻らしく、非実体になれる座敷童でも出れない。天狗の様に力があれば容易に破壊できるが、座敷童にそんな力はない。

 

「そう。なら別のことを言うわ。私をここから出しなさい」


「同じことを言っていますよ。大丈夫ですか?」


「同じだけど別よ。最初のは要求。暇だから出しなさい。最後のは忠告。後悔する……ことは決まっているけど、世界を混乱させたくなければ出しなさい」


 さすがに二度も自分が憑きつつ潰れる家は見たくない、妖怪としての矜持のために忠告したがササンは戯言と思い流す。


「世界が混乱すれば売れる物も増えるので大歓迎ですね。それでは、これの競りが終わりましたらまた来ますので」


 そう言ってササンは屈強な男達と共に部屋を出て行った。

 これからまた退屈な時間が。


「お久なんよ。元気?」


 やってこなかった。

 いつの間にかぬえが部屋に入っていた。


「なに、覗き見? 良い趣味しているわね」


「除き何てしてないんよ。堂々と見ていたんよ。見えていたかは知らんのよ」


 そう言いながら近づいてぬえは懐から拳大の丸い石を取り出した。

 一般人には見えない瘴気が丸い石から出ているのを見て、座敷童は顔を歪める。


「それもしかして殺生石? 良く持っているわね、もしかしてたまもが起きないのって」


「そう殺生石。後半については秘密。そしてこれあげる」


 檻を透過して丸い石を座敷童の目の前に置く。

 瘴気を生み出す殺生石から距離を取ろうと座敷童は檻のギリギリまで退避して、そのまま檻の外に出てしまった。

 出れなかったはずの檻からあっさり抜け出したことに戸惑う座敷童だが、すぐにぬえに首根っこを掴まれ檻に戻される。


「勝手に出られたら困るんよ。座敷童にはここに残って人間にこの殺生石を壊させるように仕向けてもらいたいんよ」


「どういうことよ」


 聞かされたのはぬえが大老に提示した条件。思い出すのは天狗の話。見るのは目の前の殺生石。

 しばし考えた末に座敷童は聞く。


「もしかして、ぬえは救済措置反対派だったの? 賛成だと思っていたんだけど」


「当然反対なんよ。救済措置はぬっぺふほふのような心優しい妖怪の提案。でも無理なんよ。月一で古文書が解読され、その日の内に妖怪が活動すれば冒険者ギルドと妖怪に繋がりがあるとは誰でも思うんよ。それでも半年は持つと思ったんよ。

その間に何か考えればと。でも実際に二か月、しかも捕まったと来たんよ。このままじゃ妖怪の体裁が悪いんよ。

それを一気に塗り替えるために絶対に百鬼夜行は起こさないといけないんよ」


 言外に座敷童が悪いと言ってくるが、その時だけ座敷童は顔を逸らし聞こえていないふりをして済ます。

 いつもなら言及するぬえだが今はそこまで余裕はない。


「そんな訳で何とか殺生石を人間が壊すように仕向けるんよ。ちょっと強めの衝撃を与えれば壊れるし、大老にはどこは気にしていたんよ。でも、いつは想定していないはずなんよ。だから今頃きっと安心しているから取り上げられることもない筈なんよ。だから上手く仕掛けて欲しんよ」


「なによそれ。こっちにほとんど丸投げじゃない。それに今なら檻すり抜けられるし、そのまま逃げるわよ。殺生石だって外で酔っぱらいでも捕まえれば早いんじゃない」


 すでに出られることは分かっている。座敷童は殺生石を抱えて抜け出そうとしたが、ぬえに抑えられた。


「それをさせるために壊したんじゃないんよ。外は大老の手が回っている可能性がまだあるんよ。このオークション会場なら大老の手も回っている可能性は低いから良いんよ」


「分かったわよ。まあこの石を使って外に抜け出せそうにしているとか見せれば壊してくれるでしょう。というかやっぱりこの檻の特殊な効果を壊したのね」


 殺生石入れるときに力入れたら壊れたんよ、とぬえは笑いながら答えそのまま姿を薄くして、最後には消えて行った。

 その消えた直後、ササンと屈強な男たちが入ってきた。

 行動するなら今しかない。


「いやはや、予想以上に競りが盛り上がっていましてね。とりあえず出る準備だけは――何をしている!」


 わざと見せつけるように殺生石を檻に押し当て、座敷童は遅々として殺生石と共に透過し檻から脱出しようとしているように見せかける。

 しかしそれもすぐに終わる。必死に形相で駆け寄ってきたササンに押し戻されてしまったからだ。


「まさか逃げ出そうとするなんて。この石の所為か!」


 取り上げられた石をさも大事かの様に座敷童は手を伸ばす。

 後はとどめの一言。


「壊さないで」


 すがるように、か細い声を出す。必死に笑いをこらえながら。

 狙った通りササンは鬼の首を取ったかのように石を取り上げ、背後の屈強な男に渡す。

 この石の力で脱出できると勘違いさせた結果。


「壊せ」


 命じられた通り屈強な男は両手で石を包んで押し潰した。

 


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