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第二十話 回避方法

 オークションも近づき冒険者ギルドも慌ただしい中、ほとんどの仕事を倅であり副ギルドマスターであるカバルに任せている大老は静かに、ゆっくりとした時間を過ごしていると。


 ガタッ、バタン!


 何もない筈の天井から何かが降ってきた。

 真っ黒な塊、と思ったら手が生え、足が生え、頭が生え、大老の老後を脅かしている顔が出てきた。


「……ぬえか、珍しい。いつもはこんな派手に現れんだろう」


「し、失敗したんよ。ここ最近寝ないでやることが多いんよ。それは良いとしてこれを渡しておくんよ」


 そう言ってぬえが懐から取り出したのは紙の束。

 それを大老は手に取り、一枚ずつめくり次第に顔色を変える。


「ま、待て! これは何だ! そ、それよりも最後のこれは!」


 紙の束は妖怪の伝承だった。詳細を読めない大老でも同じような物を何度か目に通しているので何となくは分かった。

 だがそれ以上に大老の顔色を変える原因になったのは。


「何で大街カラルの地図が入っておる!」


 それは上空から映したのではと思いたくなるほど詳細な地図。しかも何かが通る跡を示すかのように赤い線が引かれている。

 うろたえる大老に倒れているぬえは一度大きく息を吐き、立ち上がると今までとは違う雰囲気をまとう。


「大老、人間には人間のルールがあるように、妖怪には妖怪のルールがあるんよ。破ったら罰があるんよ。でも妖怪の罰は人間の罰より厳しんよ。

 かつて酒呑童子って鬼がいたんよ。あれは妖怪として長く人間に関わりすぎたんよ。人間と関わるのは短い間だけ、妖怪を認めさせるのは良いんよ、けど身近な存在にされたら困るんよ。妖怪と人間にはある程度の距離が必要なんよ。だから罰として酒呑童子に与した鬼は全員地獄行きなったんよ?

 ある山に天狗いたんよ。天狗は集まって大きな組織を築いたんよ。その組織の長は大天狗を名乗ったんよ。それは良いんよ、けど何を勘違いしたのか天狗どもは他の妖怪を支配しようとしたんよ。妖怪に冠は似合わんのよ。だから潰して、大天狗を除いた天狗は地獄行きにし、大天狗は天狗と名を戻し今もこっちにいるんよ。

 昔白面金毛九尾の狐のたまもって奴がいたんよ。あれは人間に化け、人間として人間に関わっていたから許されたんよ。けどその後正体がばれて、妖怪の姿のまま人間に関わり続けたんよ。逃げられたのに力を過信していたんよ。だから裏で手を回し弓に細工を、戦術を教え人間に退治させ、置き土産も僧に化けて砕いたんよ。その所為でたまもは未だに完全復活が出来ない状況。

 そして今はある商会の会長は妖怪を利用しようと考え付いたんよ。枕返しなら暗殺者に、座敷童なら捕らえて逃げられないようにすれば繁栄し続けるんよ。良い考えなんよ、でも妖怪が人間に関わり続けてはいけないように、逆も同じなんよ。では罰はどうするべきなんよ。そう、地獄に落とすんよ」


 化物ように、口元が張り裂けそうな笑みを浮かべる。見る者が恐れるように、手を出してはいけない存在を教え込む様に。

 まさかと大老は思う。それと同時にあの男ならと納得してしまった。


「そ、そのルールを人間は知らんのだ。それを押し付けるのは横暴ではないか」


「例えばそこは神聖で決して入ってはいけない場所に野良猫が忍び込んで暴れたとするんよ。当然猫は人間のルールなんて知らんのよ、では人間のとる行動は知らないから許して逃がす? 殺すんよ、人間のルールを猫に押し付けて。知らないで済むわけがないんよ」


 大老からすればササンなど邪魔な存在にすぎない。倅であるカバルのことを考えれば居ない方が助かる存在だ。

 とはいえ見捨てるわけにも行かない。大老として、ギルドマスターとして、何よりササンの身に何かがあればカラルの物流に大きな影響が出る。


「とても納得は出来ん。それにこの地図は何だ。まるで何かの進路でも示すかのようだが、門から入っているくせにブール商会に至ると途切れている。ササンを地獄に落とすための計画表か何かか」


「違うんよ、それは百鬼夜行で通る場所なんよ。百鬼夜行。妖怪が列を組んで練り歩くんよ。だから練り歩く妖怪の伝承を用意したんよ。ああ、通り道に立たないで欲しいんよ。邪魔すると殺しちゃうんよ」


 一体何を言っているのか、大老には一瞬ぬえの言葉が理解出来なかった。

 ややあってぬえの言葉を理解すると血の気が引きすぎて立っていられず、椅子に倒れこむ様に座る。


「な、何でそんなことを。ササンが目的ではないのか」


「違うんよ。その程度どうでも良いんよ。これは報復であると同時に理解してもらうためなんよ。妖怪は決して益を与えるだけではない、害を与えるだけではない、身近な存在じゃない。妖怪は恐ろしい存在であり、軽々しく手を出していい存在ではないと言うことを」


 そして手を出した愚か者の末路を教えるために。


「けど大老にはお世話になってるんよ。こうして妖怪を広めることに協力してくれたんよ。だから百鬼夜行を回避する方法を考えて用意したんよ」


「ササンは、ササンを見逃す方法はないのか」


 答えは無言。ぬえは人のよさそうな笑みのまま何も言わない。

 その時点で大老はササンを救うことを諦めた。


「その方法とは何だ」


「この丸い石。実は殺生石の欠片を加工した石なんよ。知らん? 別に構わないんよ。

妖怪は実は大昔に封印されていた。それが経年劣化により封印が弱まり、月に一体ほど妖怪が逃げ出すようになったんよ。これを後付設定とし、その封印の要となっているのがこの丸い石。この丸い石が壊されると封印が解け百鬼夜行解禁、という設定で行くんよ」


「所々良く分からんが、とりあえずその石さえ壊れなければ良いんだな」


 満面の笑みで頷くぬえに大老はどこか訝しみつつも安堵した。

 ぬえが手に持つ石は拳大ほど。壊そうとしない限り早々壊れる物ではない。

 それを受け取ろうと手を伸ばす大老だが、ぬえはその手を見て首を傾げる。


「何をしている。それを冒険者ギルドが守るから渡せ」


「ああ! 勘違いしてるんよ。これはこの街のどっかに置いておくんよ。見つけ出して保護するのがそっちの勝利条件なんよ。ちなみに期限はオークションが終わるまで壊れていなければ保護しなくてもそっちの勝ちなんよ。大分有利な条件にしたつもりなんよ」


「妖怪は、それを壊すために動くのか」


「妖怪は動かないんよ。これを置いたら休むんよ。だから頑張って保護してね」


 そう言ってぬえは現れた時とは考えられないほど綺麗に消えて行った。

 それから少し頭を冷やし、大老は動き出そうとしたとき、嵌められたことに気づいた。


「どうやって探せと言うんだ……」


 拳大の丸い石、そんな石がカラルにどれだけあろうか。見本でもない限り拳大も丸いもそれぞれ人の感覚により違う。しかも石となればそこらに落ちている。

 壊されにくいとだろう、ただ見つけるのは困難を極める。

 

 悩み悩んだ末に大老は倅のカバルに妖怪について話すと同時に協力を願うことを決め、部屋を出た。


 しかし大老は気づいていない。ぬえが本当に残した罠の存在に。


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