エピローグ
「なかなかハードな道のりだったわね・・・・」
「でもやってやれない事はない、ってね。ほら、見えたよ、リーリア。」
ぐったりと木の幹に寄りかかっていた私はキルシュに呼びかけられて顔を上げた。私達の眼下に見えているのは人が寄りつかない川の枯れた岩場。そこは私にとって何処よりも懐かしい場所だった。
「・・・・あぁ、そうね。」
胸の内に熱いものがこみ上げてくる。思わず涙が零れそうになって、それを乱暴に手の甲で拭った。いやね、歳取ると涙腺が緩くなっちゃって。まだ泣くには早いわ。
今私達がいるのは北北西のジュゴン山脈。以前キルシュが『ドラゴンの鱗』の依頼を果たした時に通ったルートの近くだ。けれどそこには私の通れない洞窟がある。今となっては誰も解くことのできない結界が張られた洞窟が。だからこそ此処に来る事は諦めていたのだけれど、そんな私にキルシュがこう言ったのだ。
――なら、洞窟を通らなければいいんじゃないの?
目から鱗とはこの事だ。アースドラゴンの生息地に行くにはかつての住民たちが通った道しかないと思っていた。だから洞窟を通れない私では辿り着けないと。けれど冒険者の仕事の中には未開の地の開拓、というものがある。
道が無ければ作ればいい。そうキルシュが私に教えてくれた。
「行こうか。」
「うん。」
差し伸べられたキルシュの手を取る。洞窟を通らず岩場を登って、私達は山を越えようとしている。そしてその先にはかつての友が待っていてくれるだろう。
(会いに行くよ。今度こそ。)
大丈夫。親友の為の大きなクルミパンの用意はバッチリ。それに今度は一人じゃない。
うっそうとした木々を抜けて後は岩場を下るだけ。きっとのんびり昼寝しているであろう親友の下まであと少し。
END