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ブランクアームズ -BloodRhizome-  作者: 秋久 麻衣
-冬の先に行こう-
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想いを打つ


 そうなるように願ったのは事実だ。だが、信じられない光景が目の前に広がっていた。

 《ブレスデイズ》レリクスの鋭い蹴りが放たれ、すんでの所で防いだ《ブラッド》レリクスが傾ぐ。

「唯、貴方この期に及んで手加減? 呆れるわ」

 《ブレスデイズ》がかき消える。否、極限まで身を屈めつつ、相手の後ろに回り込んだのだ。

「ふッ!」

 息を吐く音と同時に、凶器と同義の肘が《ブラッド》の背中を撃ち抜く。体勢を崩していた《ブラッド》に防ぐ術はない。前のめりに倒れ転がり、しかしすぐに立ち上がった。

「後腐れなく本気で来なさいよ。私のこと甘く見てる?」

 リンの言葉は容赦がない。数分前まで凄く優しいことを言っていたのに。

 氷怨の唯は、《ブラッド》は短く唸り、右の拳を構える。

「言われなくても本気だ、なのになんで!」

 ああ、とリンは呟く。

「貴方、殺意とかそういう強めの感情は感知出来るのに、それ以外がてんでダメなのね。私、貴方に対して殺意とかそういうのはないし」

 そう言いながら、《ブレスデイズ》は一歩二歩と踏み込む。何気ない動作だというのに、一瞬で距離を詰めてみせた。

 当然それだけではない。接近の勢いそのままに、身を屈めて足払いを仕掛ける。

「ッ! そう何度も!」

 《ブラッド》は軽く飛び退きそれを避け、逆に踏み締めるようにして反撃する。

 しかし《ブレスデイズ》は両手の力と全身のバネを活かし跳躍、踏みつけを回避すると同時に空中で回転、右膝で《ブラッド》の頭部を打ち据える。

 終わりではない。空中膝蹴りの衝撃で更に回転、鋭い踵が《ブラッド》の胴を薙ぐ。

 結果として。《ブレスデイズ》は姿勢を整えてから着地し、《ブラッド》は地面を転がった。

「……あり得ない」

 立ち上がりながら氷怨の唯は、《ブラッド》は言う。

「《ブランク》より多少マシ程度の出力で。どうしてこうもしてやられる?」

 それは問い、というよりも。自問自答に近い言葉だ。しかし、リンはそれを問いと受け取ったのか口を開く。

「まず、基礎出力イコール攻撃力ではないわ。殴る時にレリクトを集約すれば、ダメージぐらいは稼げる。あとはそれを重ねるだけ」

 同じ身体を使っているのに、こうも戦い方に違いが出るのかと、《ブレスデイズ》の内側で唯は舌を巻く。

 さて、とリンが、《ブレスデイズ》が腰に手を当てる。

「ウォーミングアップはこれでいいわ。どうぞ」

 まさかの発言に、二人の唯は数秒間押し黙る。

 その沈黙を逡巡と受け取ったのか、リンは続ける。

「えっと、そのまま《ブラッド》でやるつもりじゃないわよね?」

 リンの問いに、氷怨の唯は短く笑う。自分だからこそ分かる。あの笑いは、呆れ半分怒り半分といったところだ。

「……君はそういう奴だったな」

「そうだけど?」

 氷怨の唯の言葉ににべもなく返すリン……《ブラッド》は身体を仰け反らせ、全身に黒氷の鎧を纏う。

『......《bloodriver(ブラッドリバー)Relics(レリクス)

 《ブラッド》レリクスは、瞬時に《ブラッドリバー》レリクスとなる。氷の左腕が顕現し、出力が跳ね上がっていく。

「遠慮なく、押し切る!」

「どうぞ」

 リンの返事に、気負った様子はない。《ブラッドリバー》は宣言通り、地面を蹴り付けてこちらへ飛び込む。

 《ブラッドリバー》は、性能だけを見れば《ブランデッド》と同等、或いはそれ以上だ。故に、まともに打ち合えば《ブレスデイズ》では耐えきれない。

 リンは息を吸う。《ブラッドリバー》の飛びかかりを、《ブレスデイズ》は大きく飛び退いて避ける。《ブラッドリバー》の着地点には氷が広がり、その氷すら砕きながら《ブラッドリバー》は猛進する。

 愚直な突進はそれ故に速い。《ブレスデイズ》に追いついた《ブラッドリバー》は氷の左腕と右義手を駆使し、素早い連撃を放つ。

 《ブレスデイズ》は離れようとするも早々にそれを諦め、攻撃を捌くことに専念する。右腕の殴打は両腕を駆使して弾き、氷の左腕は体捌きで躱す。

「避けるか、なら!」

 《ブラッドリバー》は氷の左腕、その拳を地面に打ち付ける。炸裂したレリクトが氷そのものとなり、《ブレスデイズ》を捕縛すべく広がっていく。

 対して、《ブレスデイズ》はひたすら後ろに下がっていく。軽やかなステップで、拡大する氷を避けていく。

 逃がすまいと勢力を更に増大させた氷に対し、《ブレスデイズ》は後方に大きく跳躍した。

「はッ!」

 氷怨の唯の声が響く。拡大した氷すらもブラフに使い、《ブラッドリバー》は突撃……《ブレスデイズ》の着地に合わせ、右足を突き出す。騎槍の刺突を思わせる鋭い蹴りは、《ブレスデイズ》に当たりはした。

 快音が響く。《ブレスデイズ》は両腕で、細身の長剣を握っていた。それを用いて、着地しながら蹴りを防いだ……否、受け流したのだ。

「バレルフェイザー、ブランチソード。貴方も氷を使ってるし」

 《ブレスデイズ》は長剣を振り抜き、《ブラッドリバー》は足を振り払う。剣と足は互いに弾き合い、二騎はそれぞれ後方に下がる。

「じゃあ行くわよ」

 そう言うとリンは、《ブレスデイズ》はブランチソードを直上に投げる。投げられたブランチソードは、しかし空中で動きを止め、その切っ先を《ブラッドリバー》へと向ける。

 《ブレスデイズ》が踏み込むのと同時に、ブランチソードは射出された。

「く……!」

 《ブラッドリバー》は《ブレスデイズ》の殴打を受けながら、飛来したブランチソードを蹴ってはたき落とす。

 その動作をリンが、《ブレスデイズ》が見逃す筈もない。

「ふッ!」

 脛を蹴り抜き体勢を崩し、かと思えば左フックで横っ面を叩く。飛び上がって顔面に膝を打ち込み、着地しながら右の肘で胴を撃ち抜く。

 流れるような連撃が命中する度、《ブラッドリバー》は呻き、黒い氷をまき散らす。

「この、ぐらいでッ!」

 氷怨の唯は吼え、氷の左腕を振るおうと構える。レリクトが集約している以上、強力な範囲攻撃が来るだろう。

 唯の直感では飛び退いて仕切り直しだが。

 リンは迷わず攻勢を選んだ。

「俺が!」

 氷の左腕が振り抜かれようとする。その数瞬前に、どこからともなく飛来した細身の長剣、ブランチソードが氷の左腕に突き立てられる。

 ダメージにもならない、ただの刺突だ。だが、一瞬とはいえ氷怨の唯は硬直してしまった。知覚外の一撃、肘付近に命中したことによる可動制限、それらの要因が重なり、致命的な一秒を晒したのだ。

 その一秒の間に、《ブレスデイズ》は胴を蹴り上がり、その勢いを引き継いだ膝を顔面にぶち込む。

 苦し紛れに振るわれた氷の左腕が、周囲に絶対零度の槍衾やりぶすまを形成するも。《ブレスデイズ》は既に空中にいる。

 そして、空中にあるものは落下する。《ブレスデイズ》は回転しながら降下、回し蹴りの要領で頭部を刈り取る。

「がッ!」

 氷の槍衾を、自身の背で薙ぎ倒しながら。《ブラッドリバー》はたたらを踏んで後退していく。

 《ブレスデイズ》は止まらない。着地と同時に疾走、最速最短の跳び蹴りで、未だよろめくしかない《ブラッドリバー》の顔面を足蹴にする。

「な……!」

 蹴った勢いそのままに後方へ跳ねた《ブレスデイズ》が、空中に着地する。正確には、そこに設置しておいたブランチソードに着地したのだ。

 そして、間を置かずにブランチソードを蹴り抜き、再び《ブラッドリバー》へと飛び込む。

「はッ!」

 二発目の最速最短の跳び蹴りが、《ブラッドリバー》の顔面を撃ち抜く。

 弧を描くように《ブレスデイズ》は空中を舞い、地面に着地する。

 同時に、《ブラッドリバー》が背中から派手に倒れ込んだ。

 あれだけ響いていた戦闘の音がぱたと止む。静寂が広がる中、二騎は動かない。

「……さすがだな。でも」

 倒れ、仰向けのまま、それでも氷怨の唯は空に手を伸ばす。

「俺の冬は越えられない」

 その手の先に、レリクトが集約する。手の平サイズの氷嵐を、《ブラッドリバー》は空へ放る。

 くびきを解かれた氷嵐は、勢力を瞬く間に増しながら落ちていく。そこには、倒れたままの《ブラッドリバー》がいる。

 氷嵐が《ブラッドリバー》に触れた瞬間、それは炸裂し冬を撒き散らす。

winter(ウィンター)is(イズ)......inside(インサイド)

 吹き荒ぶ氷嵐を前に、《ブレスデイズ》すらも唸り、両腕をクロスさせ圧を凌ぐ。

 のそりと、《ブラッドリバー》が起き上がる。黒氷の鎧が、重装のそれへと変化していく。

『......《bleedwinter(ブリードウィンター)Relics(レリクス)

 《ブラッドリバー》レリクスは《ブリードウィンター》レリクスとなり、重装に刻まれたスリットから冷気を放出する。

「リン、君に……勝ち目はない」

 氷怨の唯は、《ブリードウィンター》はそう宣言する。

 生きとし生けるもの全てを死に誘う、絶対の冬が目の前に広がりつつあった。

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