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ブランクアームズ -BloodRhizome-  作者: 秋久 麻衣
-冬の先に行こう-
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二人の使命


 突き出した足は騎槍を蹴り上げ、回転する得物を左手が掴む。

 エイトの《アブソリュート》レリクスは、《ディメンシャード》レリクスを難なく撃破した。

 《ディメンシャード》は炸裂し、破片となって《アブソリュート》の直上を舞っている。

 しかし、白衣の男に焦った様子はない。

「君の宣言通り、十七体目は終わったようだが。十八体目はそれ以上の個体となるだろう」

 むしろ、その目には好奇の色が滲む。

「しかし、君達は本当に強い。二十体の大台も夢ではない」

 そうだろうとエイトは頷く。こちらがいくら強くなろうとも、この地球上において《ディメンシャード》は不死身だ。次元干渉網によって何度でも復活する。たとえ破片を全て砕いても、次元干渉網による疑似的なバックアップによって、《ディメンシャード》は蘇る。

「悪いが、十八体で打ち止めにする予定だ。二十も長引かせるつもりはない」

 ほう、と白衣の男は声を出す。

「出来るのか?」

 嘲りや侮りではない。純粋な興味から、白衣の男はそう聞いている。

 だからこそ、エイトも素直に答える。《アブソリュート》は右足で、地面をこつこつと指し示す。

「出来る。だがここでは無理だろう」

「やはり、次元干渉網の薄い箇所を?」

「まあ、そんなところ、だ!」

 答えながら、《アブソリュート》は黄金の騎槍を直上に投げる。破片が集約しレリクスとなる瞬間を見据えた投擲だ。

 騎槍は直撃する瞬間に炸裂し、飛び出した金結晶が不完全な《ディメンシャード》を拘束した。

 金結晶の檻に固められた《ディメンシャード》が落ちていく。

「……なにを」

 するつもりだと、白衣の男は問いたいのだろう。天才相手に説明する必要はないと、《アブソリュート》は全身に力を込める。

 可能か不可能か。理性的な問いは、全身を支える金結晶の輝きが消してしまった。

 《アブソリュート》の中でエイトは微笑む。

「ゼロ。一緒に地球を見に行こう」

「地球を……? まさか!」

 金結晶の檻に捕らわれ、落下してきた《ディメンシャード》を、空へ押しやるように《アブソリュート》は跳躍し確保、そのまま飛翔を開始した。

 白金の重装、それを支える金結晶が変化し、幾つものノズルを形成する。ノズル達はレリクトのジェット噴射を放ち、《アブソリュート》と《ディメンシャード》を瞬く間に打ち上げていく。

 離陸の衝撃は、レリクスだけでなく地上にも伝わる。白衣の男は荒れ狂う暴風の中でも目を見開き、二騎の姿を目で追う。

「次元干渉網を、無効化する為に! 君達は!」

 白衣の男は楽しげに叫ぶ。

 二騎の姿はすぐに小さくなっていく。

 空を越え、雲を越え、その姿はついに消えてしまった。







 地上で見る程、容易なものではない。想像以上の衝撃に晒されながらもエイトは、《アブソリュート》は《ディメンシャード》を押さえ込みながら上昇し続けた。

 《ディメンシャード》は全身に金結晶を受け、拘束されている。さしずめ黄金の檻といった様相だ。《アブソリュート》はその檻を抱え、ひたすら上昇していくのみ。

 青い空がぼやけるように消えていく。否、その青は背中に広がっている。空を越え、雲を越え、二騎を取り巻く色彩は青から黒へと移ろいでいった。

 地上からおよそ十キロメートルは離れただろうか。《ディメンシャード》が暴れ出す。黄金の檻で拘束されていたが、完全に復活したのだろう。つまり、性能は《アブソリュート》と同等……長く抑え込むことは出来ない。

 金結晶にヒビが入る。のっぺりとした頭部が狂ったように動き、こちらを睨んでいる。

「静かにしてくれ」

 《アブソリュート》は無造作に右フックを叩き込み、《ディメンシャード》を黙らせる。そして再度全身に力を込め、更に上昇、否直進する。

 それは最早加速や推進というよりも、一種の転移に近い。成層圏、中間圏をすっ飛ばし、オーロラの舞う熱圏に突入する。

 一息に地上百キロメートル地点を越えつつ、《アブソリュート》は最後の加速、いや転移を行う。

 地上からどれぐらい離れただろうか。《アブソリュート》は《ディメンシャード》を放り投げながら、ちらと後ろを見る。

 そこには、途方もない程に巨大な惑星が、地球があった。宇宙の黒が広がる中、《アブソリュート》の全身を支える金結晶が輝く。

「……次元干渉網とやらが地球を覆うなら、そこから出て行けばいい。唯ならそれぐらいのことはするだろう」

 《アブソリュート》は正面に向き直る。黄金の檻は砕け、宇宙の黒を彩る煌めきとなった。そこに捕らえられていた《ディメンシャード》は、四肢を大きく広げる。

 《ディメンシャード》の両腕両足からレリクトが放出され、それらは四つの刃となった。

「四刀流、それだけではないな。レリクトの分布を調整し、エネルギー総量に差異を生み出している。武器兼、推進器という訳だ」

 《ディメンシャード》の四肢はレリクトブレードとなった。あれは武器だけでなく、この宇宙を飛び回る為の推進器としても使われるだろう。

「宇宙に溺れた人形を斬るだけ、とはいかないか」

 《アブソリュート》は左腕を振り抜く。金結晶が煌めき、黄金の騎槍が形成される。

 それだけではない。全身の金結晶が瞬時に変化し、ノズルやスリットを再形成していく。背中や足、肩に腕……打ち上げに適した物から戦闘に適した物へと、全身の金結晶を切り替えたのだ。

 《アブソリュート》は騎槍を構える。

「さあ来い、《ディメンシャード》。俺達の命は、少々重いぞ」

 《ディメンシャード》がかき消える。一瞬にして近接間合いに滑り込んだ《ディメンシャード》が、回転しながら四肢のブレードを振り回す。

 見切る見切れない以前に、そもそもその動きを目で追っていた《アブソリュート》は騎槍を一度振り回してその独楽コマを弾く。

「遅いし軽い。宇宙では」

 《アブソリュート》が動き出す。全身に形成されたノズルやスリットから、レリクトのジェット噴射が適宜吹き出している。

 騎槍を構えたまま、《アブソリュート》は宇宙を滑る。《ディメンシャード》はブレードを振って迎撃するも、肩から吹き出したレリクトによってスライドし回避、カウンター気味に騎槍で薙ぎ払う。

「こう戦う。行くぞ」

 《ディメンシャード》は吹き飛ばされながらも、素早く体勢を整える。《アブソリュート》は騎槍を構え直し、再び突撃する。

 剣戟が色を帯び、宇宙の黒が滲む。二騎は宇宙を駆け、互いの得物をぶつけ合う。《アブソリュート》の騎槍が《ディメンシャード》の胴を突き、腕を払う。《ディメンシャード》のブレードが重装を啄み、裂傷を刻む。

「ふん!」

 《アブソリュート》の騎槍が突き出される。腕を伸ばすと同時に体躯を捻り、ノズルやスリットからジェット噴射を短時間放出する。単純な刺突に見えて、その一撃は致命の域に達しているだろう。

 《ディメンシャード》は四肢のブレードを正面に向けそれを受ける。構わず突き出された騎槍の穂先は、煌々と輝くレリクトブレードを真正面から打ち砕いた。

 その勢いに押され、《ディメンシャード》が後退する。度重なる剣戟によって、銀色の外装はくすみ始めていた。全身に通ったエネルギーラインは逆に、忙しなく七色に発光し続けている。

 対して、《アブソリュート》に目立った損傷はない。当然、重装に傷は付いている。だが、そのどれも致命傷には程遠い。

 《ディメンシャード》は四肢を縮こませる。そのまま震えたかと思うと四肢を広げて無数の破片となった。

「仕切り直しか。いや」

 破片は増殖する。レリクス一騎よりも遙かに多い。増殖した破片は集約し、一振りの切っ先へと変わる。

「巨大な剣。強引に突破する気か」

 破片達は長剣へとその姿を変えた。もっとも、それを剣と呼んでいいのかは疑問だ。月を易々と斬り裂けそうな程巨大であり、地球に突き立ったが最後、地球の方が台座に見えてしまうのではないか……そう考えてしまう程に、その姿は巨大だった。

 《アブソリュート》はちらと後ろを見る。背後に広がるのは地球だ。劣勢を悟り、盤面をひっくり返す為に地球へと戻ろうとしている。そんな所だろう。

「まるで神話の光景だな」

 スケールが違い過ぎる。故にエイトはそう呟くも、その声に焦燥はない。

「世界を貫く巨大な剣、それに対抗するのは」

 《アブソリュート》は弾倉を一つ取り出し、それを左義手型アームドレイターに叩き込む。ボルトハンドルを八回連続でスライドし、レリクトに火を入れる。

 許容外のレリクトを受け、アームドレイターがヒビ割れる。だが、金結晶が即座にその傷を継ぐ。亀裂はアームドレイターだけには留まらない。《ディメンシャード》の猛攻を耐え抜いた重装が、音を立ててヒビ割れていく。それらも全て金結晶が煌めき、金継ぎが崩壊を防ぐ。

 《アブソリュート》は左腕を正面にかざす。最低限の金継ぎだけを残し、金結晶が放出され前方に集約していく。

 金結晶は広がり、重なり合い、一つの武器へと形成される。それは巨大な砲門だ。

「そう、レールガンだ」

 金結晶の砲門……レールガンは、上下に分割された砲門を生成した。その空洞へ、レリクトが集約していく。

 《アブソリュート》は左腕をかざし、レリクトを注ぎ込み続ける。

 巨大な剣と化した《ディメンシャード》が、その切っ先をぴたりとこちらに向けた。

 砲門と切っ先が睨み合う。先に動いたのは剣の方だ。

 七色の光を伴いながら、巨大な剣と化した《ディメンシャード》が猛進する。刺されば地球は台座になる、と考えていたが。それは些か違うと頭の中で訂正する。あれが刺されば、地球は台座どころか木っ端微塵だろう。

 質量と出力、どちらも規格外な巨大な剣を前に、《アブソリュート》は待機を選んだ。少しでも多く、レリクトを砲身に注ぎ込む。

 金結晶のレールガンが、抱え込んだレリクトを濃縮し続ける。

 巨大な剣が迫る。あまりの圧迫感に、さすがのエイトも息を呑む。が、同時に確信した。

「ああ、これは」

 《アブソリュート》は左の拳を握り締める。

「俺達が勝つな」

 巨大な剣の切っ先が砲門に触れるか触れないかというタイミングで、金結晶のレールガンはその光を解き放った。

 極大の黄金、光の帯が巨大な剣の切っ先とぶつかり、その勢いを押し留める。

 尚も黄金の勢いは止まらない。否、よりその出力を増し、巨大な剣を押し戻していく。

 それは最早、レールガンというよりもビームキャノンだ。

 巨大な剣と化した《ディメンシャード》はたまらず軌道を変えようとしたのだろう。その動きがぶれるも、大きく逃げる事は出来ない。

 巨大な剣には、金結晶が固まりつつあった。ビームの照射は尚も止まらず、ついにバランスを崩したそれは錐揉みしながら後方に吹き飛んでいく。まるで玩具のパーツが、水流で弄ばれているかのようだ。

 だが、とエイトは相手の強さに頷く。押し留め押し返した。だが、《ディメンシャード》は耐えた。この一撃で倒れはしなかったのだ。

 それでもエイトは微かに笑みを浮かべる。これはビームキャノンではなく、正しくレールガンなのだ。

 《アブソリュート》は左腕を引く。金結晶のレールガンが変形し、黄金の光を放射したまま《アブソリュート》を砲門に招く。上下のバレルが大きく口を開けるように広がり、砲門自体が弾丸に合わせて拡張されていく。

 金結晶のレールガン、最後のパーツであり弾丸である《アブソリュート》が、左義手を引いた姿勢のまま真正面を見据える。

 それは最早、レールガンというよりもカタパルトの方が正しいのかも知れない。だが、エイトからすればやはりこれはレールガンだった。

 なぜなら、《アブソリュート》という弾丸が目標を撃ち抜くからだ。

「世界を砕く剣は」

 《アブソリュート》が黄金に包まれる。

「俺自身で撃ち抜く!」

 金結晶のレールガンが弾丸を射出する。黄金の光の中、それこそ転移に近い速度で《アブソリュート》は宇宙の黒を一文字に引き裂く。

 巨大な剣と化した《ディメンシャード》は、まとわりついた金結晶を振り払いながら切っ先を向ける。

「ふん!」

 押し出された切っ先と、《アブソリュート》の左腕が、解き放たれた掌底がぶつかり合う。

 質量で負け、出力は同等……ならば拮抗するのかと言えば、違う。

 拮抗など起きず、《アブソリュート》はそのままの勢いで巨大な剣を打ち砕く。

「おおおおッ!」

 剣は砕け、破片となって剣に集約しようとする。そのまま砕き続け、剣身全てを破壊された瞬間、巨大な剣は瓦解し人の形に、《ディメンシャード》へと戻った。

 しかし、抵抗などさせない。掌底はそのまま《ディメンシャード》の胴へと突き刺さり、黄金の光は尚も勢いを増して二騎を押しやる。

 揺さぶられ、《ディメンシャード》がひび割れていく。まずは四肢から砕け、破片となった瞬間に塵と化していく。

 次はのっぺらぼうの頭部が、がくがくと揺れ崩壊していく。損傷は破片に、破片は塵に。やがて胴体だけとなった《ディメンシャード》を前に、《アブソリュート》は左腕をもう一度引く。

「君の課題タスクは」

 《アブソリュート》が掌底を放つ。残った全てを、残った胴に叩き付けた。

「これで終わりだ!」

ABsolute(アブソリュート)......end(エンド)

 星が砕ける。そう錯覚するほどの衝撃が宇宙を揺さぶる。その一瞬の間だけ、空には二つの太陽が瞬いた。

 全ては炸裂し、宇宙の塵となっていく。破片の一つも残さず、《ディメンシャード》は完全に破壊された。

「……使命オーダー完了。あとは」

 《アブソリュート》は背後を振り返る。あんなにも大きかった地球が、今はあんなにも小さい。手の平で掴めてしまいそうだ。

「生きて帰る……だけだが」

「いや、遠すぎない? 何してんの?」

 エイトの呟きに、ゼロがしれっと返す。

 エイトは唸る。

「まずいな。君の炉心状態が解除されたということは」

「《アブソリュート》が保たないってこと。さっさと走れ!」

 怒気の混じった声を受け、瓦解寸前の《アブソリュート》が地球に向かって飛翔を開始する。

「こんな殺風景なとこで死んだらほんとに一生恨むから! あ、ていうかほんとに地球って青いんだね。あんなに中身は汚いのに」

「そのようだな」

 《アブソリュート》を破壊しないよう、細心の注意を払いながら帰路を進めていく。

 そんな中、エイトがぽつりと呟く。

「君は酷くうるさいが。君の声が聞こえる方が、俺にとっては良いようだ」

 状況はあまり良くない。だが、それでも幾分か落ち着いているし、気は楽だ。そう思っての言葉だったが。

「はあ? あたしのことうるさいって言った? 目が覚めたら宇宙遊泳死神付きプランに応募してたあたしが? あ! あれ見て! 土星ってほんとに輪っかあるんだ。なんかゴミゴミしてるけど」

「そのようだな」

 非難と興味が行ったり来たりしているゼロの言葉を受け流しながら、《アブソリュート》は帰路を急いだ。

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