流れ星
金結晶は剥がれ落ち、《アブソリュート》は砕けた。エイトは一瞬だけ《ブレイクドロウ》となりジェット噴射を行ってから、《アーマードロウ》へと戻る。重装で防ぎつつ、慣性を活かし距離を詰めることにしたのだ。
宇宙は何もないが、幸い二人でいる為退屈はしない。何もかも初めて見るから、というのも大きいだろう。
そうこうしている内に、地球はある程度大きくなってきた。エイトは冷静に状況を俯瞰する。地上へと落ちるまで外装が維持出来るかどうかは、正直微妙なところだ。
「でもほんと、凄いよね」
ゼロがそう呟く。
「宇宙のことか? 百聞は一見にしかずとはよく言ったものだが、その通りだな」
「違う。そっちはまあまあ凄いぐらい。あたしが言いたいのはあたし達のこと」
ああ、とエイトは返答しながら続きを促す。
「プラトーの実験体だったあたし達が。ナンバー08と08用備品だったあたし達が。今ここにいて、地球って近くで見るとあんま綺麗じゃないなって思ってんの」
凄いでしょ? とゼロは言う。
「そうだな。随分遠くに来た」
「遠くに来すぎてるよほんと」
《ディメンシャード》を撃破する為に、長距離をかっ飛ばしたことを言っているのだろう。それは申し訳ないと思う一方、他に方法がなかったとも思う。
「別に責めてないよ。あんたは間違えた選択は、あんまりしない方だし。必要だったからやった。それだけ」
「理解してくれて助かる」
ゼロは馬鹿ではない、というよりも賢い。こちらの意図も何もかも、最終的には分かってくれることの方が多い。それはそれとして文句は言う、というのが彼女のスタイルだ。
《アーマードロウ》の重装が剥がれ落ちる。いよいよ限界が近いのだ。外装が全て崩壊すれば、宇宙の黒は死の色に変わる。
その時が来たら、もう何も言えないだろう。そう考え、エイトは口を開く。
「ゼロ、俺は」
「いいよ。あげるって言ったのあたしだし。二人で一緒に苦しみながら死のう?」
ゼロはくすくす笑う。
「酸素がなくて苦しんで死ぬかな。太陽が見えてるし、いっそ熱くて死ぬのかな。そう言えば、体中の水分が沸騰して死ぬとかも言われてたっけ。どれがあってるんだろう」
エイトは答えない。《アーマードロウ》の重装は今も、ゆっくりと確実に壊れていく。
「どれも苦しそうだ」
「ね」
苦しいだろうが怖くはない。そういう生き方をしてきた。
《アーマードロウ》は地球に目を向ける。
青く広がる景色の中で、一条の光を見た。
エイトは口元を緩める。
「来たか」
一条の光、それは一騎のレリクスだ。黒と黄色の外装をしたレリクスが、シェイプシールドをさながらサーフボードのように乗りこなしながら近付いてきている。
「ふう。嫌な死に方をせずに済みそうだね」
ゼロはやれやれと言いたげな声色だ。
狗月光の《ライト》レリクスだ。なるほどとエイトは頷く。《アブソリュート》クラスでなければ、宇宙へ到達するのは難しい。何より、中の人間が保たない。だが《ライト》レリクスであれば、光が直接外装を纏っている訳ではない。デバイスに取り込まれた時と同じように、レリクスの形をしたデバイスに取り込まれているからだ。
《ライト》レリクスが手を振る。こちらも軽く手を振りながら、エイトは呟く。
「二人で一緒に、苦しみながら生きていけそうだ」
「あのさ。苦しまないようにしてくんない?」
エイトは短く笑う。《アーマードロウ》は限界を迎えたが、問題はない。
光が、《ライト》がこちらを補足する。《ライト》は形を変え、即席のシールドとなって崩れていく《アーマードロウ》を包み込む。
後のことは任せたと、そうエイトは緑達に頼んでいた。緑と光は、それにちゃんと応えてくれた。
『二人とも、このまま一気に落ちるよ! 目視範囲になったら緑姉がなんとかしてくれる』
「頼む。しかし倒れたフリが上手いな」
飛び立つ前のことだ。緑と光は地に伏せ、動いていなかった。
『どうせ足がないから立てないし、ギリギリまで身体を休めようって言ってました』
「はあ? なにそれ、でも、まあ……緑らしいか」
ゼロですら納得な辺り、さすがといった所だろうか。
「ああ。緑は強かだからな」
三人は地球へと落下していく。
『でも凄いよ! 地球ってほんとに青かったんだ!』
光が興奮した様子で言う。
「はあ。お子ちゃまみたいなこと言ってさ」
自分のことをびっくりするぐらいに棚上げしたゼロへ、エイトは何も言わない。
三人は地球へと帰っていく。
シールドが一際強く発光し、輝く。真昼の空に、一条の流れ星が棚引いていた。




